キネマ旬報 2018年3月下旬 映画業界決算特別号 No.1773 1,404円 Amazon |
キネ旬の話が続いてしまいましたね。
特にキネ旬を愛読しているわけじゃないんですが、「映画業界決算特別号」はこのところ毎年買っていまして。
各作品の興収だけでなく、映画会社・配給会社の業況とか、映画業界全体のトピックスなどが掲載されていて、映画界の1年がざっくり俯瞰できるこの特集、気に入っています。
遅ればながら、キネ旬をベースに、2017年の映画業界を興味の赴くまま、つまみ食い的にまとめてみました。
興行収入:大作・アニメ・ディズニー依存
映画の興収に関しては、いつも日本映画製作者連盟がネットで公表している数字を参考にしていますが、映連の数字は興収10億円以上のみなのに対して、キネ旬は3億円以上を掲載してくれているのが嬉しいところ。
こちらには50億円以上の作品のみを掲載します。
1位『美女と野獣』 124億円
2位『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』 73億円
3位『怪盗グルーのミニオン大脱走』 73億円
4位『名探偵コナン から紅の恋歌』 69億円
5位『パイレーツ・オブ・カリビアン』 67億円
6位『モアナと伝説の海』 51億円
7位『SING シング』 51億円
(オレンジはディズニー・緑はユニバーサル傘下のイルミネーション・エンタテインメント作品)
真の映画ファンは数字なんて気にしないものなんでしょうけれど、私はこういう数字眺めるのがわりと好きなんです。
今映画業界ではどんな映画に力を入れてるのかとか、どんな映画がウケているのか、とか、社会のひとつの断面が見えるようで。
興収面ではこのところ映画業界は好調で、2016年が歴代最高興収(2,355億円)、2017年は歴代2位の2,285億円だそうです。
ただ、業界ではそう楽観視はしていないよう。
興收全体のうち1/3強は、いわゆるヒット作の分岐点になっている興収10億円以上の作品が稼ぎだしたもの。10億円以上の作品は62作、公開作品数全体は1,187本ですから、約5%のヒット作への依存率が高いわけなんですよね。
特にディズニー映画の凄さは!上に挙げた50億円以上の作品7本の中でも3本がディズニー、しかもこの3本だけで全体の興収の10%を占めています。
それと、邦画は特にアニメ依存の傾向が強い。トップテンのうち6作がアニメです。
これは長年変わらない傾向。
ヒット作にはシリーズ化作品が多く、新しみがないのも悩みの種みたいですね。
手堅すぎ、新鮮さがないという議論の中で、ちょっと驚いたのが、「今の邦画メジャーで、監督主導で企画が通るのは山田洋次さんくらい」(映画ジャーナリスト 鈴木元氏)という話。
それほどまでに、映画会社主導なんですね。
ちなみに、キネ旬には日本だけでなく主要各国のヒット作ランキング(30位まで)も掲載されていて、これも結構面白いんです。
アメリカでは上位30位まで全部アメリカ映画!
イギリスでは日本では不調だった『ダンケルク』が3位に!さすがはおひざもと。
韓国では邦画で唯一『君の名は。』が17位に!
インドでは上位20位に入っている外国映画は15位の『ワイルドスピード ICE BREAK』だけ!
など、興味深い発見がいろいろとありました。
会社別の業況:東宝独り勝ち変わらず、東宝東和↑・フォックス↓
唯一ワーナーの『銀魂』を除いて、邦画の興収上位7位までを東宝が独占している状況。
前年の『君の名は。』のような歴史的ヒット作はなかったものの、「定番アニメ・テレビ局中心の製作委員会・自社企画」の三本柱で安定的に推移しているそうです。
東宝配給のヒット作の中で、『昼顔』『帝一の國』『ミックス。』『三度目の殺人』はフジテレビが中心になった製作委員会が製作したもの。
フジテレビはしばらく不振が続いていましたが、映画製作では手堅く成功をおさめてるんですね。
現在公開中の『いぬやしき』もヒット確実の予感です。
上に挙げた今年の興収上位作品の中にイルミネーション・エンタテインメント(ユニバーサル・スタジオ傘下)の作品が2作も入っていますが、これだけでもうユニバーサルを押さえている東宝東和の絶好調は予想できます。
2017年は対前比240%の大幅増収だそうで。
映画配給って、ほんとに当たりハズレが見えにくいビジネスですね。
後で書くようにディズニーに買収されることが決まった20世紀フォックスの日本法人は、興収面でも厳しい結果に。
前年は『オデッセイ』『インディペンデンスデイ リサージェンス』『デッドプール』と20億円を超える作品が3本ありましたが、17年は1本もなし。『エイリアン・コヴェナント』などの不調が目立ちました。
余談ですが『エイリアン』シリーズ、『プロメテウス』から始まった前日譚は打ち切りなんですか?
私は結構嫌いじゃなかったんですけど・・・残念です。
個人的に好きな映画が多い(株)ファントム・フィルムや有限会社ビターズ・エンドは年間興収非公表。
ファントムの『お嬢さん』0.7億円・『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』が0,6億円・・・この辺はもっと観られてもいいと思うんですが、そもそも上映館が少ないですよね。
アカデミー賞作品賞の『ムーンライト』もファントムで、3.5億円どまり。
「ユニバース」ものの明暗
去年眼を惹いた話題のひとつが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の2匹目を狙ったユニバースもの。
DCの『ワンダー・ウーマン』『ジャスティス・リーグ』や、ワーナーの『キングコング:髑髏島の巨神』は成功したものの、ユニバーサルのトム・クルーズ主演『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』は不調で、予定されていた「ダーク・ユニバース」シリーズの続編はお蔵入りの可能性大。
昔は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で吸血鬼を演じたトム・クルーズですが、今回はホラーの雰囲気に馴染んでなかった気がしましたね。
ただ、ユニバーサルは怪盗グルー・シリーズ(今やミニオンズ・シリーズとも言う)が好調なので、何の問題もないのかもしれません。
宣伝戦略を宣伝するソニー・ピクチャーズ
去年「宣伝がうますぎる!」と思ったのが、「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」という触れ込みで、完全に『ラ・ラ・ランド』の話題性にのっかった『ベイビー・ドライバー』。
シンプルなストーリーなんですが、すごく評判は良かったですよね。
ソニー・ピクチャーズとしては『ブレードランナー2049』が12億円に終わるなど興収ベースでは期待したほどの大躍進ではなかったみたいですが、ソニーの宣伝戦略の話題は複数の場所で目にしたような・・・宣伝力を印象づけられた1年だった気がします。
今回のキネ旬にも、ソニーの宣伝戦略に関する社長インタビューが掲載されています。
ディズニーのフォックス買収決定
2017年、ハリウッドのセクハラ問題も大騒動になりましたが、フォックスの買収も業界の大きな事件の一つです。
単にディズニーが映画界のガリバー化していくというだけでは終わらない問題が。
今年のアカデミー賞を競った『スリー・ビルボード』や『シェイプ・オブ・ウォーター』、今年5月公開の『犬ケ島』(ウェス・アンダーソン監督)など、オリジナリティあふれる良作を世に出してきたフォックス・サーチライトも、マス・セールス指向のディズニー傘下に入るとなると、どうなっていくのか・・・
すでにテレビ部門のヒットメーカーで今回の買収の目玉でもあったライアン・マーフィはNETFLIXに移籍したとか。
今後FOX色はディズニー色に塗り替えられてしまうんでしょうか?
配信会社への反発
今旬の配信サービスの問題も、当然のごとく話題に。
映画のみならずテレビ局も、今やNETFLIXやAmazonビデオなどの配信サービスを大きな脅威ととらえています。
日本一の客席数(スクリーン1の946席)だったTOHOシネマズ日劇が閉館になったのも、直接的に配信サービスの成長に絡む話ではないものの、大スクリーンで映画を観ることにこだわる人が減っていることと無関係ではないでしょう。
このところNEFLIXやAmazonは、映画祭での映画の高値買い付けや、オリジナル映画を毎年のようにアカデミー賞に送り込んでいることでも話題になっていますが、映画界では配信会社の影響力が大きくなることに反発の声も上がっています。
最近ではクリストファー・ノーランが、劇場公開と同時に配信を開始するというNETFLIXのやり方を「劇場を閉鎖させる影響力を持つ」と批判したほか、スティーブン・スピルバーグも「配信サービス会社のオリジナル映画は、オスカーにはふさわしくない」と発言したと報道されています。
日本では、そもそも公開と同時に配信開始する作品は、映連で「映画」とは認めていないとのこと。
ただ、どこに線を引こうと、面白ければ観客はどんどん配信に流れていきそうだし、この流れを止めることはできない気がします。
映画は映画館で観るのが一番。それはもちろん当然のことです。
でも一方で、映画館のみの上映では、都市部と地方の格差を作ってしまうのも事実。
配信なら、全国均一に、しかも安く、同じ映画を観ることができる。そういう配信サービスのメリットもたしかにあるんです。
配信サービスを否定するのもいいんですが、何故配信が支持されているかも考えてほしい。
映画会社と配信サービス会社とのバトル、どういう展開になっていくんでしょうか?
実は最近の映画界で一番活気を感じる話題かもしれません。今後とも注目していきたいですね。