『エイリアン:コヴェナント』 アンドロイドのデヴィッドが愛の代わりに手に入れたもの、それは・・・ | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

 

初代『エイリアン』まで、あと20年。『エイリアン』前日譚第二弾

あれこれハプニングがあり、このところひさしぶりに深夜まで仕事。

おかげで今日は爆睡してしまって、朝起きたら燃えるゴミ回収車はすでにゴーン・・・頭もゴミ箱もスッキリしない週末です。

今週来週が決戦なので、なかなか映画が観られないのもストレスですね笑い泣き

 

とりあえずレンタル・リリースを待っていた『エイリアン:コヴェナント』、借りました。

言わずと知れたエイリアン・シリーズの新三部作第二弾! 劇場で観ただけではスッキリせず、もう一度見たかったやつです。

 

あまり評判が芳しくない作品ですが、腐女子の(というより私か)評判だけは高いんじゃないかなグラサン

この映画のマイケル・ファスベンダーはあまりにも萌える!というピンポイント評価。

リドリー・スコットが彼をいたくお気に入りらしいという噂にもドキドキさせられましたが、『光をくれた人』で共演したアリシア・ヴィキャンデルとあっさり結婚しちゃいましたね・・・惜しい人をなくしました(←)

 

以下、前作の「プロメテウス」からの内容をネタバレしていますので、ご注意ください。

 

新エイリアン三部作は、アンドロイドも製造する総合メーカー・ウェイランド社の社長(ガイ・ピアース)が、人類の起源を探すために宇宙探索船を派遣する(2093年)ところからスタートします。

 

考古学者のショウ博士(ノオミ・ラパス 宇宙探索隊の1人)が、太古の洞窟画から人類の起源に何らかの関連があると睨んだ星・LV223に到着した探査隊のメンバーたちは、そこで巨人(「エンジニア」)の遺骸を発見。巨人のDNAが人類のものと一致していることを確認して、目的に近付けたことに歓喜します。

ところが、実はLV223はエイリアンの卵の保管庫のような星で、巨人=エンジニアが居住するのは別の星であることがわかり・・・すべては、後の祭り。

人間の到来を待ち構えていたかのように卵から飛び出してくるエイリアンに、探査隊のメンバーは次々と殺され、死闘の末に生き残ったショウ博士とアンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)だけがLV223を脱出して、エンジニアの棲む惑星に向かう--というのが『プロメテウス』までのお話です。

 

今作の設定年代は2104年。

地球から入植地の惑星へ向かっていた宇宙船が、或る惑星から人類の可能性が高い生命体の発する信号を受信して、急遽その惑星に着陸することに。

その惑星というのが実は『プロメテウス』でショウ博士とデヴィッドが向かったエンジニアの星なんですが、何故か居住していたエンジニアたちは死滅しており、そこにいたのはデヴィッドとエイリアンだけ。

またしても宇宙船のメンバーたちは次々にエイリアンの犠牲に・・・惨事は繰り返されます。

何故この星にエイリアンが? ショウ博士は?  デヴィッドはそこで何をしていたのか?がストーリーの軸になってきます。

 

(一体何が起きているのかこの画像だけでは分かりにくいんですが、構図が絶妙。この後、禍々しくも悪魔的な美しさが炸裂するシーンが続きます。)

人類の新な脅威、それは美しきアンドロイドの野望

見知らぬ星でエイリアンに遭遇する恐怖を理屈抜きで味わうのが当初の『エイリアン』。

『エイリアン』がレイプの恐怖というコアな怖さで攻めた作品であることは以前にも書きました

 

しかし、リドリー・スコットとしてはそんなB級ホラー的『エイリアン』には不満だった?のか、「人類を作った創造主が、何故人類を滅ぼすためのエイリアンを造ったのか」という人類創造にまで遡った命題をかかげてきた。これは『コヴェナント』のパンフで彼自らが語っています。そんな経緯で始まった『エイリアン』前日譚。

でも、何度新シリーズを観直しても浮かんでくる疑問・・・

エイリアン・シリーズにそんな重いテーマ求められてるの?

 

ん~どうでしょう?滝汗

種の起源に関してはダーウィンの進化論で十分納得してる私には、創造主を探して宇宙探索?100兆円? そこに全然ロマンを感じないんですよね。

人類が偶然の産物であるはずがないなんて発想自体、人間の驕りにしか思えなかったりして・・・そこは、世界の創造者であり絶対の存在である神を信じるキリスト教徒やイスラム教徒の発想とは根本が違うのかもしれませんが。

 

ただ、どちらにしろこのエイリアン・シリーズらしからぬテーマにリドスコがどんな答えを下すのか?はちょっと興味があるし、見届けたいところ。

そして、『コヴェナント』では、アンドロイドのデヴィッドの人間への屈折した感情が、その答えに絡んでくることが分かって来ました。

 

人間に使役される存在として蔑まれてきたアンドロイドが、人間に悪意を抱き始める。

このモチーフが『2001年宇宙の旅』の人工知能・HALが抱いた人間への殺意のオマージュだということはさんざん指摘されていますが、コンピュータという人間に絶対服従のはずの存在に、慇懃そのものの態度で裏切られる怖さ、これ結構すごい眼のつけどころだと思うんですよね。

それこそ、エイリアン・シリーズの目玉であるレイプ恐怖の向こうを張れる種類の恐怖。

リドリー・スコットは「新しい恐怖の質」を探し求めた結果、そこに目をつけたということなんでしょう。

 

ただ、『2001年~』のHALの怖さ・裏切りの意外性は「彼」の姿が見た目は箱にすぎないことで一層増幅されていた・・・でも、デヴィッドの場合には一見人間となんら変わらない姿。

コンピュータには絶対の信頼を置いても、それが人の姿になった途端、その姿が端正であればあるほど、慇懃であればあるほど、見るからにあやしく思えてしまうのは何故なんでしょう。

『プロメテウス』では従順なアンドロイドだったデヴィッドなのに、『コヴェナント』で彼が人間の敵としての本性をあらわにした時、多分誰も意外とは思わなかったのでは・・・・むしろ「やっと始まったか」だったんじゃないでしょうか。

意外性が生み出す怖さという点では、やっぱりHALには勝てない気がします。

 

今シリーズから登場した新種のエイリアン・ネオモーフも、正直ゼノモーフほどの禍々しさがなくて、目玉としてはいまひとつ。

ヒロインのダニエルズ役キャサリン・ウォーターストーンにしても、素顔はとても可愛いのに、シガニー・ウィーバー以来の伝統おばさんショートヘアが致命的に似合わない!

それ以前に、この作品のヒロインって、彼女よりもむしろマイケル・ファスベンダーでは・・・なんとなく、そう思ってる人も少なくない気がするんですが、どうでしょう?

 

中性的な美しさは未来的(かつ腐女子好みでもある?)

それにしても、もしかしてこれは腐女子への目くばせなのか?と思ってしまうくらい、『プロメテウス』『コヴェナント』のデヴィッドは思わせぶりな行動をとるんですねえ・・・

なんだろう?リドスコのマイケル・ファスベンダー愛の反映?(や、勿論単に「ご贔屓」なだけだとは思うんですけどねw)

 

この2作にはいくつもお気に入りのシーンがあるんですが、最高に好きで何度も観てしまったのが『プロメテウス』序盤の、デヴィッドが1人『アラビアのロレンス』を観ながらロレンスのヘアスタイルや口調を真似るシーン。

その一見従順な行動の奥に何かたくらみが隠されているようで、妙にゾクゾクしてくるんです。

のみならず、このシーンのデヴィッドの抑制の効いた佇まいがとても美しい!

 

『コヴェナント』のパンフレットでマイケル・ファスベンダーは、実際の役作りにも『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥールやデヴィッド・ボウイ、飛び込みのオリンピック選手グレゴリー・ローガニスを参考にしたと語っています。

アンドロイドだから中性的ということだけじゃなく、この作品には中性的かつそれゆえにミステリアスな美しさを愛でる空気がある気が。

中性的であることがもてはやされるのは現代の傾向、未来的なイメージとしても中性的容姿が好まれます。

特に中性的な雰囲気を持つ男性は、表面には見えない力を秘めていそうで、格別にミステリアス! そのテの美しさが、この作品のデヴィッドにはたっぷり詰めこまれている気がするんです。

 

 

『コヴェナント』の腐女子的白眉は、プロメテウス号出航以前、この世に生み出されたばかりのデヴィッドが、白い部屋で彼の創造主ウェイランド氏と初めて対話するシーン。

シネマスコープサイズにこれ以上なく映えるシーンです。

白い部屋の巨大な一枚ガラスの窓の外には、大自然のパノラマ。

山々と湖、その姿を磨き上げた床に映し込んだ部屋の光景は、フロイト式のメタファーで言えば女性器、いわば母なる風景とでもいうんでしょうか。

端正なデヴィッドは、まるでその美しい光景から生まれ出たかのよう。白いボディスーツ姿のデヴィッドと、彼が前にしたグランドピアノの黒・計算し尽くされた曲線が、白い部屋に映えます。

(ピアノとデヴィッドという組み合わせがまたなんとも官能的でもあり・・・)

 

(このシーンも吸い込まれるような美しさなのに、本来のスクリーン・サイズでないと美しさが削がれてしまうのが残念)

 

彼が「デヴィッド」と名乗ること、そして彼に高圧的な態度で支配者であることを誇示したウェイランド氏がデヴィッドにワーグナーの『ヴァルハラ城への神々の入場』のピアノ演奏をリクエストすることは、この物語の大きな伏線。

この三部作、ワーグナーの楽劇『ラインの黄金』のストーリーが織り込まれている気がします。

『コヴェナント』のラストシーン、あれはまさに「神の入場」でしたね。

 

デヴィッドと見た目は全く同型の後継種アンドロイド・ウォルターに、デヴィッドが唐突にキス・・・かと思えばいきなりウォルターを突き飛ばし、

「おまえには失望した!」

と言い放つシーンも、まさにBL! この屈折した関係・・・凄い既視感でした。

いまだにキスの意図は分からないながらも、マイケル・ファスベンダーがマイケル・ファスベンダーにキスする事態には心鷲掴み! 

これ『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンの鏡にキスにも匹敵するんじゃないですかね。

 

1977年生まれのマイケル・ファスベンダーには、アンドロイドにあるまじき皺もしっかり刻まれているんですが、そんなマイナス要素を差し引いても彼にこだわったのは理由があるんでしょう。

マイケルの出演作いくつか観ましたが、やっぱりこの作品の彼が最高にセクシーだと思います。

 

デヴィッドがついに生殖という力を手にし、「神」になったラスト。

性を知らないはずのアンドロイド・デヴィッドが、男性器型のゼノモーフに成長するエイリアンを手なずけて得た生殖力・・・って、文字通り彼にないあのパーツを手に入れたというギャグなのかなという気もするんですが、違いますかね。ちがいますよね。