フランス映画「クリスマス・ストーリー」(Un conte de Noël) | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

 

◆しっとり系クリスマス映画◆

2008年のフランス映画。監督・脚本はアルノー・デプレシャン。

実は「クリスマス映画が嫌いな人のためのクリスマス映画」というテーマで何作か挙げる企画を考えていたんですが、候補作を観た中で一作もこれぞというものに出会えずあんぐりうさぎ敢えなくボツに。

皆さんのオススメのちょっとレアな(「ちょっとアレな」も可!カナヘイきらきら)クリスマス映画がありましたら、教えていただけたらと思います。

 

ということで、変わり種というわけではないんですが、クリスマス映画としては知名度の低いこの作品を単体で記事にすることにしました。

ただ、クリスマスには歯切れパリパリ展開サクサク、そして最後は涙ウルウルの映画を観たい!という人には全然オススメできませんショックなうさぎ

だって、フランス映画ですもの。

カトリーヌ・ドヌーヴやメルヴィル・プポーのファンの方はとっくに観賞済みとして、未見の方の中でも、

「ジングルベルって何?」

くらいのテンションでクリスマスを迎える方にのみオススメできる映画ですとびだすうさぎ1

タイトルに「クリスマス」+ファミリーものと、典型的なクリスマスものの要素を押さえてるのに、フランス人はこう来るかという・・・

もっとも、キャスティングは豪華で味のある顔ぶれが揃っている上、単純じゃないだけに深読み可能なストーリー。

大人のクリスマスにはアリな選択肢だと思います。

 

◆その年のクリスマス、家族に愛されない男が帰ってきた◆

 

クリスマスの数日間、巣立った子供たちが両親の家に集まり、ひと波乱・・・という物語。

二男一女とその配偶者・子供も加わって登場人物多数ですから、下の人間関係(主要登場人物のみ)を確認しながら観ることをオススメします。

 

父親:アベル(ジャン=ポール・ルシヨン)

母親:ジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)

長男:ジョセフ(6歳で死亡)

長女:エリザベート(アンヌ・コンシニ)

次男:アンリ(マチュー・アマルリック)

三男:イヴァン(メルヴィル・プポー)

長女の息子:ポール

次男の恋人:フォニア(エマニュエル・ドゥヴォス)

三男の嫁:シルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)

子供たちのいとこ:シモン(ローラン・カペリュート)

 

(次男のアンリ(マチュー・アマルリック)と母ジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ))

 

物語の中心は、家族の鼻つまみ者の次男・アンリ。

幼い頃からなぜか母親に疎まれ、さらに5年前、或る事情から姉エリザベートによって一家を「追放」されたアンリ。

以降家族に会うことも許されず・・・

しかし、今回は母親がガンを発病し、早急に骨髄移植が必要という状況下で、母親に適合する骨髄を持つ彼も久しぶりに実家に戻ってきます。それも、恋人を伴って。

なんだかんだ言いつつも、アンリとの再会を喜ぶ両親。

しかし、長女エリザベートはアンリを許さないし、彼が母親に骨髄を提供することさえ阻もうとします。

 

何故そこまで、実の弟を憎むのか?

そこが納得できるかどうかは観た上で判断していただくとして、この母親・長女と次男の間の亀裂は、その根本を辿っていくと、どうやら数十年前の長男の死につながっている・・・家族の心の傷は、思いのほか家族の歴史の深いところに根差しているようです。

 

家族それぞれが、ある時は絆を感じつつも、ある側面では修復できない過去に囚われ、一枚岩ではない面を晒す―――家族だからいつか癒えることがあるのか、それとも、家族だからこそ、傷は深いのか。

家族の心の距離が微妙に遠ざかっては近づき、揺れ動いていくさまが、華やいだクリスマスの飾りつけや教会で執り行われる荘厳なミサ・清らかな聖歌に彩られながら、群像劇のスタイルで映し出されていきます。

うん、こういう雰囲気、好き。

◆実は似た者家族?◆

(ガンを宣告されても煙草スパスパの母)

 

ちょっと普通の家庭とは違うこの家族独特の雰囲気も、私は好きですね。

音楽好きという共通項のあるこの一家は、みんな多かれ少なかれ芸術家肌で、鼻つまみ者のアンリならずとも、皆少し変わっています。

 

中でも母親のジュノンは個性的で、普通の母親像とは随分ズレがある。

息子であるアンリの恋人に

「彼はベッドではどうなの?」

とサラッと訊いたり、

「(三男の嫁の)シルヴィアは嫌い、息子を取ったから。でも(アンリの恋人の)フォニアは好き。アンリは気に入らない息子だから」

なんてぶっ飛び発言をしたり。

4人の子供を産み、3人を育て上げながらも、母親というよりは奔放で魅力的な女性であり続けるジュノン。

ドヌーヴのさすがの貫禄も手伝って、これがなんとも説得力がある人物像なんです。

その母ジュノンと、アンリの恋人フォニアがどこか似た者同士なのがまた、母と息子の切れない絆を感じさせます。

 

母に愛されず、母を憎んでいたアンリが、その母に骨髄提供することで、長年の2人の確執にも終止符が打たれ、大団円で終わるのかと思いきや、あらぬところであらぬ波風が立ち始めたり・・・家族の問題は尽きることがありません。

家族の物語に終わりなどない・・・と言わんばかりに、いくつかの問題は解決しないまま、エンディングへ。

 

しかし、ことによると、私にとって問題に見えることも、普通とは少しズレたこの一家にとっては、まるで問題じゃないのかもしれません。

彼らは大団円なんて好まない。

そんなありきたりな家族像とは違う、彼らなりの愛し方で、家族を取り戻す方法を見つけたクリスマスだったのかも・・・共感できるかどうかは別として、家族のありかたはいろいろですから。

 

◆マチュー・アマルリックの個性が生かされた愛すべきろくでなし・アンリ◆

 

(三男のイヴァン(メルヴィル・プポー)と妻のシルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)。この夫婦にもまさかの波乱。)

 

当初はメルヴィル・プポーに惹かれて観た作品ですが、観終わってみるとアンリ役のマチュー・アマルリックの印象が強くて、ちょっとメルヴィルは霞んでしまった感じさえ。

あの超イケメンを霞ませるんですから、それだけでも凄いなと。

 

マチュー・アルマリックは二枚目俳優でもある一方、「グランド・ブダペスト・ホテル」ではあの大きな眼を生かしてコミカルな執事役に、と思えば007シリーズ「慰めの報酬」では本格的な悪役に・・・と、幅広い役柄をこなす名優。

このアンリ役も御多聞に漏れずハマリ役ですね。

カトリーヌ・ドヌーヴ主演とは言え、実質は彼が主演と言ってもいいくらい存在感抜群です。

 

アル中気味で警察沙汰を起こしたこともある反面、抜群のユーモアセンスや才気を感じさせる一面も持つアンリの多面的な人物像は、マチューの演技力との相乗効果でとても魅力的。見飽きることがありません。

どうしようもない男なのにコケティッシュな美女(ただしかなりの変人w)がフラフラッとついて来る・・・というのも頷けます。

この作品、マチューの演技だけでも観る価値は十分にある気がしますね。

 

 

 

(画像はIMDbに掲載されているものです。)