映画「pk(ピーケイ)」(pk) 笑いは地球を救う。きっと救う。 | シネマの万華鏡

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映画記事は基本的にネタバレしていますので閲覧の際はご注意ください。

(宇宙から来たPK(アーミル・カーン)と、エッジなネタを探していてPKに出会うテレビ局員のジャグー(アヌシュカ・シャルマ))

 

◆神様だらけのインドで神様を探す宇宙人・pk◆

 

現在上映中のインド映画(2014年リリース)。

監督は「きっと、うまくいく」のラージクマール・ヒラニ。

 

地球偵察のためインドに降り立った宇宙人(のちに地球人にpk(酔っ払い)と呼ばれるようになる。以下pk。演:アーミル・カーン)は、宇宙船を呼ぶためのリモコンを地球人に奪われてしまいます。

このままでは自分の星に戻れなくなると焦ったpkは必死でリモコンを探し出そうとしますが、誰に聞いても答えは「神様に聞いてみろ」。

神様に会えればリモコンを取り戻せると考えたpkは神様を探しますが、寺院に行っても神様とは直接話せず、神の代弁者の宗教家がいるだけ。

賽銭を払っても願いは叶わず・・・宗教のさまざまな矛盾に直面して、宗教のあり方に疑問を感じ始めるpk。

一方、pkと偶然知り合いになったテレビ局員のジャグー(アヌシュカ・シャルマ)は、彼の全く先入観のない素朴な疑問を宗教家にぶつけさせることで、面白い番組が作れると思いつき―――

 

◆インドは進化している◆

 

実は学生時代インド経済史のゼミに入っていたのと、その関係でインドを旅行したということもあって、インドには少し思い入れがあった時期がありました。

今でこそIT大国の名をほしいままにするインドですが、当時は筋金入りの発展途上国(※1)。

植民地支配の爪痕・宗教対立・多民族多言語・カースト制度・人口爆発・脆弱なインフラ・・・もう発展の障害があまりに多すぎて、そう易々とは変われない国―――それが当時インドに対して多くの人が持っていたイメージだった気がします。

ところがその後、地道に続けていた理数系重視の英才教育が実り、世界的なIT化の波に乗って華麗にテイク・オフ!!

旧英領ということで英語力がベースにあることも経済成長のアクセルに。

停滞の根源の一つとされていた過去の植民地支配にさえ、プラスに転換できる要素があったとは・・・いやぁ、分からないもんです。

 

それにしても、ひさしぶりにインド文化に触れて、様変わりぶりにビックリ!

これが今のインドなんですね。

私にとっては、停滞している日本を尻目に着実に進化を遂げていくインドの勢いみたいなものを強く感じさせる映画でした。

 

◆宗教対立に翻弄され続ける国で、宗教に斬り込んだ凄い映画◆

 

しかしまあ、こんなディープで熱い映画、観たことない!!

SFコメディという形式ながら、描かれているのは限りなく現実のインドが直面している根深い問題

宗教対立によって国を分断し、今も宗教対立に根差す紛争が絶えないインドで、宗教の本質にここまで直球で斬り込むとは・・・

 

公式サイトのアーミル・カーンのインタビューでは柔らかい言葉で表現されていますが、pkにヒンドゥー教の導師と信者たちを前に「神の代弁者=宗教家の言葉を鵜呑みにしてはいけない」と(いう意味のことを)言わせること自体、宗教の一番痛いところを突いてますよね?

だって、教祖の言葉を無条件に信じるのが宗教ですから。

みんなが、自分自身で物事の善悪や是非を判断するようになったとしたら―――

これ、もの凄く踏み込んだ映画だと思います。

 

公式サイトによると、一部のヒンズー教団体から上映差し止め運動が起きたとか・・・それは完全に想定の範囲内ですよね。何も起きないはずがない。

映画の中で、テレビ番組で宗教問題を扱ったプロデューサーが信徒に攻撃されたというエピソードが笑い話として出てきますが、笑い事じゃなく命の危険を伴いかねない作品。

監督の身が真剣に心配になってしまいます。

 

一方で、この映画が本国でも大ヒットしたことも事実のようで。

距離を置いて宗教を眺めるという本作のテーマを受け容れる土壌が、社会の一部にはすでに形成されているということなんでしょう。

映画に出てくるラジャスタン州の街の光景を見て、地方はまだ昔と変わらないのかなと思った部分もある反面、ソフト面での変化は随分進んでいるんですね。

 

◆「笑い」は地球を救う。きっと救う。◆

 

ただ何といっても、こんなシリアスな問題提起を、笑いに包んで見せるという発想が凄い!

今年公開されたドイツ映画「帰ってきたヒトラー」も、同じくシリアスなテーマをコメディで見せた作品でしたが、今年は「笑い」の持つ可能性について考えさせられる映画の公開が何故か続きますね。

人種も文化も宗教も超えて通じ合える「笑い」という要素こそ、ひょっとして世界を救えるのかも・・・今後、こういうアプローチの映画が増えてきそうな気配を感じます。

 

しかも、これはほんとに笑える!

私、正直インド映画をナメてました・・・反省。

異文化の笑いってピンと来ないことが多々あるんですけれど、この映画の笑いはユニバーサル・スタンダード!

「踊る車」なんて、日本でも夜の公園の周りなんかに絶対ありますよねグラサン

 

私の中にあったインド映画のイメージは、「歌って踊ってけむに巻かれる」

エキゾチシズムだけはたっぷりだけど異文化すぎてついていけないような作品を、ガラガラの岩波ホールで観る・・・という、相当昔のインド映画のイメージしかなかっただけに、この映画のコメディとしての普遍性には驚かされました。

歌って踊る伝統的な形式も守りながら、中身は進化してるんですね・・・それともこの監督が特異なんでしょうか? 

もっとインド映画を観なきゃいけません。

 

(ガンジーの顔が印刷された紙はいろんなものと交換できることに気づいたpkは、ガンジーの顔を集め始める。)

 

コメディというオブラートに包んで、パキスタンへのラブ・コールをさりげなく入れてるところも憎い。

あのパキスタン大使館の人々のナゾの結束と、温かさ! 笑顔!

駅のホームでの爆破事件のシーンでは、インドでは宗教対立が原因でしばしば起きるテロ―――現実にはそこにパキスタン人が絡んでいることも―――の凄惨さを想起させつつも(※2)、あくまでもパキスタン人を善意の人々に描き、良い関係でありたいという夢、そうなれるはずだという希望が描かれています

そういう部分にこの監督の人間としての温かさ、人の心を動かす力を感じます。

現実の願いが込められているからこそ、この映画は深く心を抉るんだと思います。

あ、ちなみにこの映画に登場するパキスタン人は超イケメン↓でもありますよ(笑)

 

(イケメンパキスタン人役のスシャント・シン・ラージプート。これは別の映画の画像です。)

 

う~ん、こういう映画が作れるインドって凄い。

日本でももっと多くの人に観てほしい映画です。

「踊る車」があるから小学生はムリだけど、高校生には観てほしい。

大学生は必修にすべきでしょう(`・ω・´) キリッ

できれば国会でも上映してほしいですね。世界を考える有意義な2時間半だと思います。

 

 

 

※1 今は当時の「発展途上国」は「開発途上国」という言い方になるんでしょうか。ちなみに「発展途上国(developing country)」という経済用語は’80年代にできたもので、それ以前は「後進国(underdeveloped country)」でした。

※2 この映画の中での爆破事件は、ヒンズー教の導師が自分の保身のために仕掛けたもの。

 

 

(画像はIMDbに掲載されているものです。)