これを読む前にパート01、02、03、04をお読み下さい。
その日の夜。
戦闘が一段落したが俺たちのいた周辺の武装は殆どがやられてしまった。
上官の話では薬、食料はもちろんの事、武器弾薬も殆どが無くなり俺たち残存兵はここから出ることとなった。
毎日毎日アメリカ兵はこの洞窟付近に進軍しようとしていた。補給も無いままここまで持ったのは奇跡だったと思う。しかし、ここで俺や他の兵士は大切なものをどんどんなくして行った。
中佐の決断で俺たちは大久保中尉の指揮下へとなった。大久保中尉は西中佐の近い部下だったし俺たち逃げてきた兵に対してもいい上官だった。
「諸君、最善を尽くせ。そして、正しいと思う道を行ってくれ。それが己の正義なんだ。いいな。」
俺達が出る少し前、中佐がそう言った。
「はい!」
「はい!」「はい!」はいっ」「はい」
大久保中尉が言ったのに続き俺たちも続いて返事をした。
「隊長にお供できて、光栄でした。」
中尉がいい、皆が中佐に敬礼を送った。
その後、中尉が引き継ぐ事となった俺含む連隊の残存兵はライフルを手に、穴から出た。でてからしばらくして、俺達のいた穴から銃声が聞こえたが皆、振り返る事は無く、ただ前進を続けた。
銃声が意味するのは…中佐の死だった。
進み始めてどれ位が経った頃だろうか俺たちは一つの穴に入った。ここで休憩をとるのだそうだ。俺は何時もこんな時大抵は恐怖を少しでも抑えるために伊波と話していた。しかしその男はもう死んだ。写真を見せ合ったり家族の自慢をしたりして睡眠をとるまでのほんの少しの時間がそうだった。だが、俺には既にそんなことのできる男は居ず、ただ、孤独と恐怖の中で眠った。
「なぁ新一郎、おまえ、ここが好きか?」
親父がそんなことを言った。いつもは畑をただ耕し、家族で居る時も厳しかったあの親父がそんな事を訊く。何でだろうと思ったが親父が戦場に行くのを思い出して10歳の頭で理解した。
「僕はここが好き。父ちゃんや母ちゃんが居るここが好きだ。兄ちゃんが居ないのがさびしいけど。」
「そうか。お前はここが好きか。俺もここが好きだ。だからお前がこれからは守るんだぞ。いいな?」
「うん。分かった。」
そういうと親父はにっこりとした。
「い・・・ろ。おい・・っば!おきろ!」
「はっ」
なんだか懐かしい夢を見た。今から十年以上前の記憶。死んだ親父との最後の思い出。
「行くぞ。」
名前は知らんが俺と途中で一緒になったやつだった。
「あっああ…。」
まだ頭がさえないがうなずく。俺が言うとそいつは何処かへ行ってしまった。
まだ夜のうちにでる。外では雷が鳴り、雨が降っていた。しばらく行った時の事だ。
「中尉殿!」
誰かがそういった。呼ばれた中尉はそちらに行った。俺たちも中尉の方に行った。そこにあったのは息絶えた日本兵だった。一人は誰か分からんがもう一人は誰か知った顔だった。同じ擂鉢山から逃げてきた憲兵団だったとか言うエリートだった。俺が寝ている間に数名降伏していた様なのだ。その男と何時も一緒に話していた一人が亡骸に近づいて行く。
「…捕虜がどうなるか、肝に銘じておけ。」
それを見ながら悔しそうな声色で中尉が言った。
「うっうっっ…。」
近づいていった兵を一緒に見ていた俺たち兵士は何もかけられる言葉は無く、ただ、亡骸に黙祷をしていた。
しばらく黙祷をした後、俺たちはまた歩き出す。さっきも言ったとおりかけられる言葉は無い。見ているのも辛いのだ。
ダダダダダンパンッパンッダダダダダダダダダパンッパンッダダダダダ―
北に歩いて気づいた時には夜が明けていた。俺たちは今、他の基地。いや、最後の防衛線とも言える栗林閣下の指揮する基地へときていた。
知ってか知らずかは知らないがここにはアメリカ軍が大量にいた。
「この戦線を突破できなければ、北部にたどり着いて向こうの味方に合流できない。
いいか、まず、あの洞窟に向かって一気に前進する。弾を無駄にするな!!」
そう言うのと同時に皆がライフルの安全装置を外し一人一人岩の陰から出る。
一歩出ればそこではアメリカ軍の機関銃が火を噴き、日本軍のライフルから鉛が吐き出されていた。
「いけっいけっ!!」
その合図と共に一人また一人と出て行く。それに続いて俺も陰から出た。後ろの方から付いて行っていた為銃声しか聞こえていなかったが前に進むにつれどんどんあらわになって行く敵兵力。凄まじかった。
「弾は撃つなっ」
そう言われたが撃つ為に止まるのも命を捨てるのと同じだと思った。アメリカは機関銃を俺たちにも撃ち始めた。その中を突っ切るのだ。もちろん弾に当たって死んだ者も走る中何人も見た。だがそんな事を気にしている余裕も無かった。
「はっはっはっはっはっ―」
しばらく走って味方基地に入る。
しばらくと言ってもその間の時間は今までで一番長かった気がした。
「閣下、西中佐の連隊、擂鉢山の生き残りです。」
味方と合流して休む間もほとんど無く俺たち生き残りは栗林中将のもとへと連れて行かれた。
栗林中将と思われる初老の男性が立ち上がり、全員をゆっくりと見た。
「…指揮官はおらんのか。」
誰も何も言わなかった。いや。それこそが答えだったのかもしれない。閣下はそれを分かったようで
「よくぞ生き残ってくれた。」
そう言ってくれた。
「藤田、水。」
副官の藤田中尉に閣下が言うが藤田中尉は何も言わない。
「藤田」
しばらくの間また沈黙が来る。
「…すみません閣下。もう残りは…。」
予想していた中では最も高い予想で最も来て欲しくなかった返答だった。閣下もそう思ったのだろうか。苦渋の顔で俺たちのほうへ向くと本当にすまないと言った後、十分な休息を取る様にと言ってくれた。
本国から子供達の歌が聞こえてきた。幻聴ではなく軍の計らいか無線での歌だった。なぜだか子供の声は落ち着いた。