数多く繰り返す動作たち。何度も何度も同じ事を繰り返す。何千回も何万回もただただ繰り返す。全ての動作を繰り返しながら人は今日も生きていく。人間の歴史は繰り返しの歴史と言っても過言ではないほど、人はただ繰り返し生きていく。
そんなシステマティックな繰り返し行為の中で、「クリティカル」な一回を見出すことがある。会心の一撃とでも言うべきか、何度となく繰り返す一連の行動の中でも、もう二度とないのではないかと思うほどに会心の一回があるそうだ。二度とないかと思うほどに完璧が集結した行動があるらしいのだ。
何千、何万回とパンチを繰り出すボクサー。練習にしろ試合にしろ、想像を絶するほどのパンチを繰り出す。そんな数多いパンチの中でたった三回だけ完璧なクリティカルと呼ばれるパンチが出るらしいのだ。腕の振りぬき、腰の回転、力の伝達、全てが完璧なパンチが三回だけ。数多いパンチの中で三回だけ出せる完璧なパンチ、それこそがクリティカルではないだろうか。
僕の知り合いに、お菓子工場で働く友人がいる。その友人は、工場のラインで働いている。クリスマスシーズン前などになると、お菓子を詰め込んだ赤い長靴が売られるのだが、彼はそれにお菓子を詰め込む仕事をしている。
ラインから流れてくる赤い長靴、そのつま先の部分にベビースターラーメンを詰め込むのが彼の仕事らしい。何千、何万回も彼はベビースターラーメンを長靴に詰め込んできたららしいのだが、その中でも数回だけ「完璧なベビースターラーメンの詰め込み」があるらしいのだ。
入れ方、入れた後の形状、素早さ、全てにおいて最高級の品質のベビースターラーメンの詰め込み。それが出来たときは脳髄に稲妻が走ったような気分になるらしい。最高に素敵な瞬間だと彼は言っていた。
そういえば僕も、高島屋で包装のバイトをしていた時に、二度とないのではないかと思うほど会心の出来で包装ができたことがあった。あれはなんというか最高の気分だった。
ボクサーにおけるパンチや、お菓子工場の彼のベビースター、高島屋での包装なんていう特別な繰り返し行為以外でも、クリティカルというのは存在する。それが繰り返し何度も行う行為ならば、他の回に比べて格違いと思えるほど上手く達成できることがあるのだ。日常生活におけるクリティカルとでも言うべきか。
ペットボトルの蓋を開ける時、タバコの箱の包み紙を開ける時、最高に上手に開けることがある。二度とないのではないかというほどに最高の開け方。脳髄に電気が走ったかのように感じる。
なんでもない繰り返しの日常生活の中、こうやって何でもないことにクリティカルを見出し、「ふふふ・・・今のは最高だったな」と一人でほくそ笑みながら生活する。そうすることで退屈な日常も少しは潤いがあるものになるのではないだろうか。
先日、一人で新聞を読みながらコタツに入っていた時の事。冬の朝の寒さを感じながら、コタツの温もりに感謝して新聞を読んでいると急に腹痛が襲ってきた。
あらら・・・ちょっとウンコしたいかな
緊急事態レベルとしてはP2レベル。下から二番目のレベルなのでさほど心配することはない。この程度の便意なら逆に便意を楽しむことが出来る。
焦ることではない、大丈夫大丈夫。と新聞を読みふけっていると、次にオナラをしたい欲求に駆られた。
便意をもよおしている時、オナラをしたくなるというのはありがたい。概ねオナラさえしてしまえば便意が軽度なものに変わるからだ。死ぬほどの緊急事態の腹痛でもオナラをすれば軽くなる。これを専門家は「オナラによって腹痛を散らす」というのだけど、今回のケースでもオナラで散らせると期待した。
よし、今回もオナラで散らしちゃうぞ、これで本番の排便までは少し余裕ができてコタツから出なくて済む、と決意し、全神経をアナルに集中させてオナラの排出に努めました。その瞬間
ブオオオオオオオオオオォォォォォォ
もうね、像の雄叫びかと思うほどのオナラが。火山地帯の地鳴りかと思うほどのオナラが。オナラの勢いで体がちょっと浮くんじゃねえ?というほどのオナラが。ちょっと部屋が振動してた。
いやね、ハッキリ言って会心のオナラですよ。音、勢い共に最高級のオナラ。あまりに最高のオナラに気をよくしてコタツの中の臭いを嗅いでみたら死ぬほどの悪臭。大量破壊兵器かと思うほどの臭い。もうね、臭いも最高級。
間違いなく確信したね。これはクリティカルなオナラだと。人は人生において何千、何万回オナラをするのか知らないけど、間違いなくこのオナラはそう何度も出せるものではない。最高の一撃、会心の一撃、クリティカル。
などと自らの会心のオナラに感動していると、尻に圧倒的な違和感が。不安になってズボンとパンツを脱いでみると、パンツにこびりつくほのかな茶色い物体。
いやね、最高のオナラはいいんだけど、ちょっと実が飛び出てた。
やはり人生においてそう何度も出せるものではない最高級の勢いですから、その噴射に伴ってちょっと実が出ちゃったみたい。
退屈な日常生活の中で何度も何度も繰り返す行為。そんな中にクリティカルを見出して楽しむのはいいのだけど・・・・オナラのクリティカルだけはいただけないよな。
などと風呂場でパンツを洗いながら泣きました。