大学時代、僕らはバカだった。
比較的真面目で、大人しい人間が集まる学科に在籍していた僕だったが、やはりその中でも異端児のような人間は存在する。明らかに学科の雰囲気にそぐわない荒くれ者が集っていた。それが僕たちの仲間グループだった。
本当に真面目で勉強ばかりしているような人間が集う学科の中で、僕らのグループは馬鹿なことばかりして遊んでいた。早い話が落ちこぼれ。学科の問題児。学科のゴミ。そう呼ばれても不思議ではないほど僕らは浮いていた。
合コンに明け暮れたり、学内をバイク7人乗りして走ったり、それを見つけた警備員とカーチェイスをしたり、学内のオブジェに衝突して破壊したり。大学生にもなってそういうことしてるんだから頭の程度が知れる。
そんな僕らの馬鹿げた行動は、青春を謳歌していると勘違いしてのものなのかもしれない。今しかない青春だから、熱くバカに。という理念の下に、毎日を馬鹿のように過ごしていたのかもしれない。それはもはや、成人式で暴れる新成人とほとんど変わりないほど思慮の浅いことなのだと今になって思う。
そんな馬鹿な行動が目に余る僕らのグループ。当然のことながら学科担当の指導教官に呼び出されて怒られることになる。指導室みたいな場所に呼び出され、一列に並べられて説教、説教。狂おしいほどに説教。大学生にもなって怒られてるんだから、ものすごく情けない。
「お前らは腐ったミカンだ」
という有名すぎるセリフまで頂戴してしまった。腐ったミカンが箱の中に一つでもあると、そのうち連鎖的に他の正常なミカンまで腐りはじめてしまうという意味。つまりは、馬鹿すぎる僕らが、他の真面目な学生に悪影響を及ぼしているというご指摘だった。
全く持ってごもっともだ。僕だって、自分が真面目にやっているのに、その集団内の誰かが不真面目で、なおかつ不真面目なりに無事に進級していく様を見ると、真面目にやるのが馬鹿らしくなってくる。会社でもそうで、不真面目な社員と自分が同じ給料で同じ評価だったりしたらやる気がなくなる。自分だってそれにつられてドンドンと不真面目になっていきそうだ。
そういった意味では、僕らは間違いなく腐ったミカンだった。周りに悪影響しか及ぼさないネガティブな存在。ゴミ以下の存在だった。
月日が流れ、腐ったミカンたちも大学を卒業し、散り散りになって社会へと飛び出していった。あれほど不真面目だった腐ったミカンたちも、社会の波にもまれ、少しづつ責任感や真面目さがでてきたようだ。たまに腐ったミカン仲間から送られてくる近況報告メールからもそれが伺える。
僕らはいつまでも青春時代のように腐ったミカンではいられない。いつかは成長し、正常なミカン、あるいはミカンの腐敗を防ぐ薬品にならねばならないのだ。
「お歳暮を贈ろうと思うのだけど」
腐ったミカン仲間から手紙が届く。
あれだけ馬鹿をした仲間が、「お歳暮」とか盆暮れの届け物をしてくれるなんて、少しこそばゆい感じだ。一番そういうことをしそうにないアイツが「お歳暮」だなんて、社会的儀礼である「お歳暮」を送ってくれるなんて、少し信じがたい気分だ。
「お前の好きなもの送っておいたから」
そう言ってくれた彼は、もはや腐ったミカンではなかった。正常なミカンだった。社会的な常識を兼ね備えた立派な大人。会社に入り、様々な責任や常識や落ち着きを植えつけられた彼は、立派なミカンになっていた。僕も負けてられないなって思った。
数日が経過し、彼からのお歳暮が我がアパートに届く。
宣言どおり、僕の大好物であるミカンがダンボール1箱届いた。僕が学生時代からミカンを好んでいたことを彼は知っていた。さらに彼は、今はミカンの産地で仕事をしている。特産地ならではの美味しい美味しいミカンを送ってくれたのだろう。その気遣いが嬉しい。
正常なミカンとなった彼が、僕の大好物であるミカンをダンボールいっぱいに送ってくれる。馬鹿やってた仲間が、そうやって大人の儀礼のようなことをしてくれるのが、少し照れくさいやら嬉しいやら。
彼から届いたミカンのダンボールを見て、僕らはいつまでも腐ったミカンじゃいられないんだなって思った。僕も負けないように成長しなきゃってね。
「どれどれ、どんな美味しいミカンを送ってくれたのかな」
喜びでウキウキと弾む心を抑えつつ、ガムテープを剥がしてミカンの箱を開ける。待ちきれなくて、ダンボールとか破りながら箱を開ける。大好物のミカンが、特産地直送のミカンが。大人になった友人が送ってくれたミカンが。
全部、腐ってた。
あり得ない。あり得ない。箱いっぱいのミカンがどす黒く変色し、異様な匂いを放っている。普通ならフレッシュでフルーティーなスメルが、箱を開けた瞬間に僕を包み込むはずなのに、箱を開けた瞬簡にムアッとムルアカみたいな臭いが僕を襲った。
送った時点で腐ってったのか、腐り果てていたのか分からない。
もしかしたら一個だけ腐ったミカンが混じってて、輸送途中で全部を腐らせてしまったのかもしれない。不在が続いてなかなかミカンを受け取れなかった僕が悪いのかもしれない。
あるいは、最初から嫌がらせ目的で腐ったミカンをヤツが送りつけたのかもしれない。それだったらヤツは全然成長していない。こんなイタズラや嫌がらせをするなんて。文字通り腐ったミカンのまんまじゃないか。
とにかく、ダンボールにぎっしり詰め込まれた腐ったミカンを見て、なんだか無性にやるせないというか、悲しい気分になった。どうすんだよこれ。