言えない言葉(Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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※私が書いてるのではありませんので悪しからず(^^)/

「イッキ!イッキ!イッキ!」

安っぽい居酒屋、安っぽいグレープフルーツサワーのグラスを傾けながら、これまた安っぽい掛け声に耳を傾ける。何でこんな場所に来てしまったのだろうか。この定番とも言える居酒屋での掛け声を聞くと心底鬱になる。テンションだだ下がりだ。

今日は職場の飲み会という名の、別名「この場にいない上司や同僚の悪口を言う会」という儀式がここ居酒屋で厳かに執り行われることになっており、半ば強制的に参加と相成った。

僕は酒があまり飲めないし、なによりそういった悪口的なことを言うのも聞くのも嫌いなので、できればあまり参加したくないのだけど、断ると次の日からデスクを隠されたり、「カリビアンドットコム」とか訳の分からない不名誉なあだ名で呼ばれたりと陰湿な社会人イジメに遭うことは明白なので、嫌々参加していた。

そうすると聞こえてくるのが件の掛け声だ。テーブル向こうの団体は大学生の集団だろうか。微妙にブスな女子と、スロットばっかりやっていそうな男が程よく混ざり合っている。もしかしたら合コンかもしれない。で、序盤戦からあまりに盛り上がってない彼らの様子に僕は興味津々、同僚達の会話に興味なかったので尚のこと彼らに夢中だった。

男性陣はなんとか盛り上げようと、必死に声を張り上げて面白エピソードなどを話してるのだけど、いかんせん女性へのウケが悪い。そりゃあ、彼らに対して好意的に見ている僕ですら笑えないのだから、その対面に鎮座する女性陣はなおのこと笑えない。

ある難病の少年がいてね、手術を受けるのを嫌がったんだ。そこに大ファンだった野球選手が来てね、○○選手が今夜の試合でホームラン打ったら手術受けるって言ったんだって。選手も少年と約束してナイターを迎えたんだけど、何とその日は大雨、ナイターが中止になったんだって?笑えね?

とか言ってるんですよ。どう、考え、ても、笑え、ない。僕が裁判官だったらこれだけで懲役モンですよ。何が難病の少年だ。何が手術だ。7回くらい死んで来い。

おそらく、彼らの生涯において今ほど笑いに飢えたことはないだろう。今なら笑いのためにチンポすら出しかねない勢いだ。しかし、それをやっちゃあおしまいだ。

で、あまりにつまらなかったのか、女性陣の一人、正確には洗わずに1年くらい放置した季節外れのTシャツみたいな顔した女がカバンからファッション雑誌を取り出して読み始めた。飲み会で雑誌ですよ、雑誌。男性陣が、そりゃあ「アネハって絶対ヅラだよな」みたいな微妙すぎる今更すぎるネタを喋ってるとはいえね、一生懸命ですよ。そんな懸命な人を目の前にしてファッション雑誌。エビちゃんだか車エビだか知りませんけど、自分だけモデルの世界に高飛びですよ。

これにはもう、許されざるよといった気概で女の胸倉を掴んでですね、それこそちぎっては投げちぎっては投げ、グレープフルーツを絞るヤツで顔面を圧搾してやりたい気分だったのですが、あいにく、どう考えても僕は赤の他人なのでやめておきました。

さて、今や葬儀会場より静かに成り果てた大学生達の飲み会、危機感を募らせた男性陣は、その中でも最もコミカルな顔をしており、一目でお笑い担当の三枚目キャラであろうことが分かる彼に、お酒を手渡しました。

「おい、ワタル、イッキやれよ!」

そう言われたワタルは、またかよーとかなんとか言いつつも、満更でもない様子。キッとグラスを構えると、おもむろに立ち上がって何か講釈を垂れ始めた。

それと同時に、周りの男性が祭囃子のように掛け声を出し始める。

「イッキ!イッキ!イッキ!」

ワタルは苦い顔をしつつも、グーッとグラスの酒を一気に飲み干そうとする。最初こそはいいペースで飲んでいたが、そのうち苦悶の表情に変わり、それと反比例するかのように男性達の掛け声がヒートアップしてきた。

イッキとは、決して褒められたものではないのだけど、盛り上がらない飲み会の最終手段として用いられることが多い。体を張って笑いをプロデュースする最終手段ともいえるだろう。もう、彼らは、もうそんなところまで追い詰められていたのだ。

一気にヒートアップする男性陣のボルテージ。ワタルも苦しそうになりながらもそれでも盛り上がるなら、この飲み会が楽しいものになるならばと一気飲みを続ける。その一生懸命さは確実に評価に値する。

しかしながら、女性陣は不動明王の如く微動だにしない。あんなに男達が一生懸命イッキイッキとやってるのに、クリトリスみたいな顔しやがってからにおすまし気分でファッション雑誌を読んでやがる。祭りのように騒ぐ男性陣と、仏像のように動かない女性陣、この対比が実にシュール。

もう、この光景を涙なしでは見ていられないのだけど、さらに悲劇は止まらない。追い詰められた小動物みたいになっちゃった男性陣は、いまさらイッキのムーブメントを止めるわけにはいかない。次々とグラスを回して順番にイッキ飲みをはじめた。

「イッキ!イッキ!イッキ!」

そのたびに件の掛け声が響き渡り、ワッと男性陣だけが盛り上がるのだけど、やはり女性陣はビクともしない。その場にいた他の客全てが「もうやめりゃいいのに」と思ったのは間違いないのだけど、僕だけ別のことを考えていた。

「言えない言葉ってあるよな、言えない言葉」

既にピエロといっても過言ではないほどに道化と化していた男性陣の「イッキ!イッキ!イッキ!」という掛け声に反応して、僕は「イッキ」というファミコンのカセットのことを思い出していた。

当時、小学生だった僕達にとって、ファミコンとは現在のプレステ2やNintendoDSなんて目じゃないくらい神のツールだったし、神聖な、それこそ何物ににも変え難い孤高のポテンシャルがあった。

もちろん、ファミコン本体もけっこうな高値だったのだけど、それと同時に遊ぶためのカセットもまた高価だった。100円あれば駄菓子屋で豪遊できた時代に5000円前後もするのだから、その高級さは計り知れない。

貧乏だった我が家は、そんな高価なカセットを買えるはずもなく、友達に借りるのがメインだったのだけど、そんな中で借りたのが「イッキ」と呼ばれるカセットだった。

これは百姓一揆をモチーフにしたアクションゲームで、当時としては画期的なものだった。鎌を投げて敵を殺す、城に忍び込む、凄いブスが追いかけてくる、などなど難易度も高く、とにかく面白いゲームだった。

そのカセットを借りてプレイしていた僕なのだけど、あろうことか、僕はそのカセットを紛失してしまった。とにかく、僕ら一人一人の人命よりも一つのカセットの価値のほうが重い時代だ。焦って家中を探すのだけど、やはり「イッキ」は見つからなかった。

「僕はね、どうしてもイッキを失くしたって言えなかったんだよ」

酒の勢いも手伝ってか、何の脈略もなく同僚達にそう話し出す僕。そしてまたグイッとグレープフルーツサワーを飲み干した。

「それでもなあ、友達は「イッキ」を返してくださいて家にまで来るんだよ、毎日毎日。あれが辛くてさあ」

本当に当時は、イッキによって精神的に追い詰められていた。手ごろなロープがあれば首を括っていたかもしれない。当時は中古ゲーム屋なんて存在しなかったので、新品を買って返す以外にイッキの呪縛から解き放たれる方法はなかった。しかし、そんな金はどう考えてもなかった。

「どうしてもイッキを失くしたって言えなかった。死んで自分の保険金でイッキを返そうとか子供ながらに考えたりしてね」

多分もう僕は酔っ払っていたのだろうけど、しまいには怒り出してしまい。向こうの方で未だシュールに「イッキ!イッキ!」と騒いでいる学生達を指差し、

「あいつら、あの掛け声がどれだけ僕を傷つけるのか分かっていない。あいつらが盛り上げようとイッキイッキ!騒ぐたびに、僕のトラウマは掘り起こされるんだ。それがどれだけ人を傷つけるのか、ああいうやつらは想像力が足りない。想像力が足りないから人の痛みも分からず、平気で人を傷つけるんだ。あいつらにイッキを失くしたって言えなかった僕の痛みが分かるか?」

などと、どう好意的に解釈しても見当違いでしかない怒りを燃やし、今にも学生達に向かって軟骨の唐揚げを投げつけかねない雰囲気だった。

たぶん、あの当時、「イッキを失くした」って友人に告げ、どんなに罵倒されようとも、唾を吐きかけられようとも、謝罪すればこんなことになっていなかったのだと思う。けれども、当時の僕は逃げた。イッキを闇に葬り、ただ逃げる道を選ぶしかなった。それが今でもイッキというトラウマの火がくすぶってる原因になってるのだと思う。

言いたくても言えない言葉。言えなかった言葉。それは誰にだってあると思う。中にはそれを未だに悔いていて、あの頃に戻りたいって思ってる人もいるかもしれない。

きっと、「言いたくても言えない言葉」の「言いたくても」の部分は、言わなきゃいけない言葉なんだ。言う必要のある言葉なんだ。それを通り過ぎて有耶無耶にしてしまっても何も解決しない。そういった言葉を少しでも減らしていく、それが大切なんじゃなかろうか。

イッキイッキ!と掛け声が響く居酒屋、ブスが追いかけてきて鎌を投げる百姓のゲームにまつわるトラウマを話されて引き気味な同僚の目の前で言えない言葉を言葉にする大切さを説きながら、またグレープフルーツサワーを飲み干すのだった。

日は変わって、数日後、かねてから右腕に違和感を覚えていた僕は、ふっと自分の右腕の肘あたりを何の気なしに眺めてみた。

どうも、9月の頭くらいに、「オナニー世界記録に挑戦する!24時間で36回オナニーするぞ!」とやったのは記憶に新しいことと思うけど、そのチャレンジ直後から右腕に違和感を覚えていた。

なんか右腕がおかしいな、なんか肘のあたりが痛いんだよな、と思いつつも、そりゃあ24時間でオナニー30回もしたんだから筋肉痛にもなるだろう、と対して気にも留めていなかった。

これは皆さん不思議に思うかもしれないけど、実は、自分の肘ってのはあまり目に触れる機会がない。上手いこと死角になる位置にあるもんだから、余程のことがない限り自分の肘はあまり見ない。しかしながら、あまりに痛いものだから、ふっと腕を裏返して、かなり無理な体勢になりつつも自分で自分の肘を見てみた。

そこには、異様なまでに膨れ上がったとんでもない肘が。

いやね、ここに胎児がはいってんじゃないの?って言われても何の違和感もないような、そこまでいかなくても何らかの異常が起こってるであろう異様な肘が鎮座しておるんですよ。

具体的に説明しますと、ちょうど肘の曲がる部分が10センチ大に腫れ上がっており、真っすぐ伸ばしている状態なのに曲げてるようにボコッとなっている。ナメック星人みたいに、ここからもう一本腕が生えてきそうな勢いなんですよ。

おそらく、オナニーのし過ぎで肘に何らかの異常が起きたオナニーエルボーなんでしょうけど、とにかくその腫れっぷりが異常でしてね、ちょっと怖くなってきたので近場の整形外科に行ってみたんですよ。

僕みたいなバカは、整形外科って言うと目を二重にするとか鼻を高くするとか見当違いも甚だしいことを感じるのですが、とにかく、こういった異常の時は整形外科に行くしかないとの助言を頂きまして、調べもせずに適当にその辺の病院に行ったんです。で、この病院がすごかった。なんていうか、もっと調べてから行けばよかったって思うほどにこの病院が凄かった。

まずですね、結構綺麗な病院だったので、意気揚々と門をくぐったんですけど、中に入ると誰もいないんですよ。もうね、待合室とかに人がいないとかそんなレベルのお話じゃないですからね。受付にも人がいない。無人、とにかく無人。

「こんにちはー、すいませんー、あのー!腕が腫れちゃってー」

とか受付で大声を出して呼びかけるんですけど、誰も出てこない。というか、人がいる気配がしない。全くどうなってんだと憤るんですけど、ほら、やっぱ病院って何かと忙しいじゃないですか。忙しくてちょっと皆が席を外したりしてるんだろうなって理解して待つことにしたんです。

で、待合室に座って「女性自身」とか読んでいたんですけど、それでも一向に人が帰ってこない。相変わらず無人。そのうちウンコがしたくなってきたので待合室横のトイレで20分くらいウンコしたんですけど、帰ってきてもまだ無人。また「女性自身」を読んで骨肉の嫁姑戦争みたいなのを読んでいたところ、1時間が経過しました。

もう、この病院はダメだ、人がいないなんてありえない。別の病院に行こうと思ったその瞬間。

「あら、患者さん?」

奥からスネ夫のママみたいな顔したオバハンナースがやっとこさ出てくるじゃないですか。あら、患者さん?じゃねーよ。

で、なんとか1時間も待ったんですけどみたいな小話を挟みつつ、右腕の肘が突如として腫れてきたことを説明、それを受けてスネ夫のママは「レントゲン撮りましょう」みたいなこと言ってた。

でまあ、肘部分のレントゲンを撮影し、なんか医師の診察があるとかでいよいよ診察室へ。ここまで長かった。もう1時間半も経ってるじゃないか、とヘロヘロになりながら診察室に入ります。

で、なんか診察には医師が待ってるとかスネママが言っていたんですけど、入ってみると医師がいないんですよ。なんか、肌着を着た、酔っ払いのオッサンみたいな、立ち飲み屋でくだ巻いてそうなオッサンはいるんですけど、医師の姿がどこにもいない。

ほらね、よくいるじゃないですか。どこも悪くないのに病院に来て、なかなか帰ろうとしない老人とかいるじゃないですか。この肌着のオッサンもその類の老人なんだろうな、まったく、けしからんヤツだ!とかちょっとムッとしながら老人を見ていたら

「今日はどうしましたかな?」

とか、そのオッサンが椅子に座って言うじゃないですか。肌着が、今にも死にそうなアル中みたいなのが言うじゃないですか。ありえないありえない。

僕の中で医師ってのは、やっぱパリッとしていて、白衣なんか着ちゃったりして、おまけに僕がどんなに面白いこと言ってもクスリとも笑わないみたいなイメージなんですけど、目の前の酔っ払いは肌着ですからね、乳首とか透けてますからね。

で、僕が一生懸命、右肘が腫れて、ちょっと痛いみたいなことを説明するんですけど、全く会話が成り立たない。どうやら自分で話しながらその内容に自分で腹を立てる体質の人のようで、いつのまにか日本の医療制度に対する怒りをぶちまけられる始末。

「あのね、日本の医師会は腐ってるよ!農協が認めないと百姓じゃないってのと同じで、そんなバカな話はない。日本の医師会は腐ってる!腐ってるんだよお!」

みたいな、僕には良く分かりませんけど、とにかく憤ってる様子。そんなこと僕に言われても困るんですけど、一通り医師会に対する怒りをぶちまけ終わった後、やっとこさ症状の説明に入ってくださいました。

「これはまあ、ゼリー状の粘調液が肘に溜まったんでしょうな。レントゲン見る限り骨とかでもなさそうですし、注射器で中身を抜いておきましょう」

目の前の酔っ払いがやっとこさ医師っぽい側面を見せるんですけど、注射器で中身を抜くとかとんでもないことを言ってやがります。

まあ、いくら肌着でも、いくらヘベレケでも、いくらヤバい感じの人でも、今や僕はこの人に頼るしかないですからね。大人しく診察台みたいな場所に移動するんですけど、そこでまた異変が。

なんか、ウドンみたいにごんぶとな注射器を持って登場ですよ。この野太い黒人のアレみたいな注射器を、腫れてる部分に刺して中身を抜き出そうって魂胆みたいなんですけど、問題はそれを持ってる医師の手がプルプル震えてるとかそんなもんじゃない。いきなりそれをぶっさすのかって部分ですよ。

あのね、あんなストローみたいな注射針を、腫れて痛い場所にぶっさされたら、死ぬほどの痛みであろうことは分かりますよ。たぶん、痛さで気絶するんじゃなかろうかってほどですよ。そんな場所に麻酔もなしで刺すとか本気でありえない。でも、医師は今にもぶっさしそうな勢いなんですよ。

言おうかな、言った方がいいのかな。でも、言えないよな。明らかに言った方がいいんですけど、やはり専門家に対して意見するってできないじゃないですか。僕だってエロビデオの専門家ですけど、借りる時にレジの若造に「こんあの抜けないの借りるんですか?」とかヘラヘラ言われたらぶん殴りますよ。それと同じで、いくらおかしくても専門家である医師に対してなかなか言えるもんじゃない。

「麻酔はしないんですか?」この一言だけなのに、言いたくても言えない言葉。ここは大人しく、甘んじて麻酔なしの医療行為を受けようじゃないか、と思いつつ冒頭で述べたイッキのことを思い出したのです。

あの時、言いたくても言えなかった「イッキを失くした」、コレを言わなかったら僕は後悔してるんじゃないか。もうあんな思いをするのは沢山だって決意したばかりじゃないか。そう、言いにくくて言えない言葉を言葉にして紡ぎだす必要があるんだ。

「あの先生、麻酔はしないんですか?」

勇気を出してそう言葉にすると、先生はどう好意的に解釈しても「忘れてた」みたいな顔しやがりまして、局所麻酔の準備をスネママナースに命令してました。やっぱり言ってよかった。麻酔無しで死ぬとこだった。

で、いよいよ、麻酔を打ってもらいまして、本番の物凄い注射器が再登場してきたんですけど、ブスリ!と指した場所がどう考えても麻酔が効き及んでいない場所。信じられないほど痛いんですよ。腕がちぎれるかってほどに痛いんですよ。

「痛い痛い!先生!そこ麻酔効いてません!場所違います!いてええええええええええええええええ」

とか、我慢できずに叫ぶんですけど、医師は

「ははははは、大人なんだから我慢しなさい」

とか訳の分からないこと言うんです。

もう気が狂うほどの激痛に気を失いそうだったんですけど、注射器を見ると中にはオレンジ色の液体がこんもりと。だいたい30mLぐらい入ってました。なんでも、中に溜まる液体は黄色いらしいんですけど、血が混じってオレンジ色になるとか。だいたいボコッと腫れた体積の半分ぐらいが吸い出されてました。

僕はもう、イッキの二の舞だけは嫌ですので、言いたいことをズケズケ言うんですけど

「いやー、先生、どう考えても麻酔の場所と吸い出す場所が違いますよ」

とか、ハッキリと、アメリカ人ビジネスマンのように冷徹に言い放ちましたところ、先生は何かを誤魔化すように遮って喋りだしまして

「こういうね、関節のところが腫れるってのは女子に多いんだよ。原因不明なんだけど、もっと手の甲とか肩とかが腫れるんだけど、肘が腫れるってのは見たことないなあ」

とか言うんですよ。で、さらに

「僕はね、大学にいた時代と開業した時代を合わせて40年ほど整形外科医やってるけどね、肘でこの症状が出たのは始めて見たよ」

とか言うじゃないですか。

「そんなに珍しいんですか?」

「私は見たことないし、話に聞いたこともない。肘にできるなんてね、何か肘に負担をかける変わったことをやったかね?」

とか、とんでもないことを聞いてきやがるんですよ。

そりゃね、肘に負担かけることやりましたよ。間違いなくやりましたよ。オナニー24時間に36回チャレンジをしてから肘に違和感を覚えたんですから、間違いなくその辺が何らかの原因ですよ。でもね、医師に向かって「オナニーいっぱいして」とか言えないじゃないですか。

言えない、言えるはずがない。そりゃあ、医療行為に関することですから、隠し事せずに何でも伝えた方がいいんでしょうけど、いくらなんでもパブリックな場所で「オナニー」は言えないっすよ。しかも、連続で30回ほどしてとか言えるはずもない。

でもね、僕はもうイッキの二の舞だけは嫌だったんですよ。確かに言えないんですけど、それを隠して重大な症状悪化とか引き起こしたら嫌じゃないですか。とにかく、言いたくても言えない言葉を飲み込んで後に後悔するのが嫌だった。決意した僕は、ギュッと唇を噛み締め、淡々と話し始めました。

「実は、先日、24時間内に何回オナニーできるかってやったんですよ。世界記録を狙って36回にチャレンジしましたが、世界の壁は厚かったです、30回でダウンしました、その時から肘が痛かったです」

その瞬間、診察室内の時間が止まりましたよ。小刻みに震えていた先生も、後ろのほうで包帯とか準備していたスネママナースも動きが止まりました。

どれだけの沈黙が続いたでしょうか、先ほど注射針が刺さった場所から血が吹き出てるんですけど、とにかく静寂だけが僕らの周りを包みました。そして、その沈黙を破るかのように先生が一言。

「もうちょっと抜いておこうか」

オナニーの話の後に「抜く」とか言われると少しドキッとするのですが、どうも、さっき半分くらいしか抜かなかった中身をもうちょっと抜こうとか言ってるんです。それがオナニーなんかでこうなったのかこのバカチン!という懲罰的な意味合いだったのか、それとも今晩もオナニーするだろうからまた腫れたら大変だ、全部抜いておこうかという配慮なのかは分かりません。とにかく、言いたくても言えない言葉を口にしたらとんでもないことになった。

で、また先ほどのように

「先生!そこ麻酔効いてない場所です!痛い!痛い!死ぬ死ぬ!」

という僕の悲鳴が響き渡ったのでした。

言えない言葉を言わずにいて後悔する事もある、けれども、実際に言葉にしてみて、後悔する事もあるんだなあ、と妙に納得したのでした。

ちなみに、数回に渡ってこんな痛い行為をされるとかありえない、ホント、どうせ痛いならイッキにやってくれよ!イッキに!と思いつつ、なんか何度抜いても腫れがるようなら、手術して根本から取るとかそんな類のそら恐ろしい説明をされたのですが、

「手術になった場合、誰がやるんですか?」

とズケズケと失礼な質問したところ

「もちろん私がするが」

みたいなことを言われました。冗談じゃない、アンタ、半分ボケてるやん。しかも、白衣じゃなくて肌着だし。それどころか麻酔忘れるような人じゃないか、そんな人の手術なんて不安で受けたくない!松井選手が今日のナイターでホームラン打ったら、僕、手術受ける!とか思ったのでした。全然笑えない。