郵便受けの怪(Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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そこにはボロボロの郵便受けがあったのです。

僕が小学生だった頃、友達の松沢君の下駄箱に大量のバッタが入れられるという事件がありました。まあ、確実にイジメというか嫌がらせの類なのでしょうが、こういった事件が後を絶えないのですから、なんともやるせない気持ちになるものです。

松沢君は僕が言うのも何ですが、すごいバカでどうしようもなくて、たびたび授業の流れなんかを止めるものですから、よく思っている人も少なく、確かにクラスの連中に嫌われていました。

人間には与えられたスペースというものがあります。学校の机や下駄箱、ロッカー、本来ならば公共の物であるわけで決してその人の物ではないのですが、割り振られている間はその人の物として機能する。それどころか、その人の身代わりといって良いレベルまで価値が向上してしまうのです。

そういった、公共の物なんだけど、その人の代わりといっても過言ではない物、に対してイジメの標的が向けられます。これはもう、アンバランスさの隙間を突いたなんとも卑劣な攻撃手段でないかと思います。

例えば、松沢君のことが嫌いだとして松沢君本人を殴れるでしょうか。そこまでバイオレンスに行動するのならば逆に潔いと思ってしまいそうですが、多くの人はそんな行動に出ません。ならば、松沢君に嫌がらせしようと、彼のパンツでも脱がして目の前で燃やすでしょうか。それもしません。

多くの人は直接的な行動に出ません。犯人がばれないよう、自分の敵意がばれないよう、息を潜めて間接的な嫌がらせに出ます。そこで槍玉に挙げられるのが本来なら公共物であるパーソナルスペースです。

イジメの描写で、教室の机に心ない落書きがされているなんてのはかなりスタンダードで、もう季語の如く当たり前の描写としてまかり通っていますが正にその通り、イジメが発展していく過程で、机やロッカー、下駄箱なんか名代として槍玉に挙げられることはごくごく普通のことなのです。

その日も、僕と松沢君は再放送ドラマであるスチュワーデス物語の話に華を咲かせながら下駄箱へと赴くと、松沢君の動きが止まった。恐らくだけれども、彼は何かの禍々しさを感じていたのかもしれない。グッと息を呑んであまりにチープな下駄箱の蓋を開ける。

蓋を開けた瞬間、彼の下駄箱からは深い緑色のバッタが大量に、ワーっと飛び出した。中には茶色い羽を出して飛んでるのもいた。とにもかくにも、大量のバッタが、それこそ松沢君の姿が見えなくなるほどに飛び交っていた。

以前より、松沢君の机の上にゴミが置かれていたり、彼の椅子が教室の隅に追いやられていたりと、彼の所有物に対する攻撃に「なんか様子が変ね?」と不穏な空気を感じ取っていた僕、まさか、バッタなんてすごい嫌がらせをしてくるなんて・・・。

きっと松沢君は傷ついているだろう。そりゃあ僕だって下駄箱がバッタの王国みたいになっていたら嫌過ぎる。誰がこんな卑怯なことを、誰がこんな松沢君を傷つけることをやったんだ。許さない、僕は許さないよ!と悔しさに涙しそうになっていると

「すげー、おい、あの一番デカイの捕まえろ!」

と松沢君、バッタに大興奮。一番デカイしょうゆバッタを捕まえようと奮闘してました。

「やべー、俺の下駄箱が大自然だよ!足の臭いに誘われてきたのかな?」

と大喜びし、どっちがバッタなんだか分かんない勢いで飛び跳ねてバッタを追いかける松沢君はどう好意的に解釈してもバカで、それ以外の何者でもなくどうしようもなかった。一緒にバッタを捕まえるしかなかった。

松沢君の例は大いなる例外として扱うべきだけれども、やはり公共の中にあるパーソナルスペースへの攻撃というのは陰湿で残忍で許せない。下手したらダイレクトに殴られるより心が痛んでしまうんじゃないだろうか思うのです。

さて、僕は幸運にもそういった陰湿な攻撃を受けることなく、もしかしたら受けていたのかもしれませんが、あいにく自分では気付かないままこの歳まで過ごしてきたのですが、先日、ついにショッキングな事件に見舞われてしまったのです。

あれは、仕事で疲れて深夜に帰宅した時のことでした。僕はあまりにも疲れると帰り道に車を停車して寝てしまい力尽きてしまうという習性を持っていますので、確かその日は途中で4時間くらい寝てしまい、深夜3時くらいに帰宅した時のことでした。

駐車場に車を停め、さあて、家に帰ったら本格的に寝るぞ!と意気込んでアパートの階段を上がろうとしたその時でした。

ウチのアパートは、入り口のところが集合郵便受けみたいな状態になっており、ザラッと威風堂々と言わんばかりに各部屋の郵便受けが並んでいるのですが、それがどうも様子がおかしい。

いつもだったらパカッと蓋を開けて中に潜んでいる家賃の督促やら水道電気電話ネットの脅迫状、そんなものに心底怯えて膝をガクガク震わせるのですが、どうにもこうにも様子がおかしい。蓋を開けようにも開けられない。

なんかですね、そこにはボロボロの郵便受けがあったのです。

もう、これでもかてくらいに蓋がひしゃげてましてね、ボコボコに各部が曲がってるんですよ。朝には綺麗に銀色に輝く郵便受けを確認していましたから、間違いなく誰かが鉄の拳でガンガン殴りつけてやがるんですよ。

もう、蓋がひしゃげて中に食い込んでますから、とにかく開けるとかそういったレベルのお話ではなくて、無理にこじ開けて中の郵便物を見ようとしたのですけど皆目無理。一体なんでこんな・・・と深夜の郵便受け前で愕然とするしかありませんでした。

幼き少年の頃のあの日、松沢君がされていたみたいな嫌がらせが僕の郵便受けに。一体何が。一体誰が。一体なぜ。ここまでされるほどに僕は悪いことをしたのだろうか。涙が溢れてきて止まりませんでした。たかだか郵便受けが壊されただけじゃない、僕の心が壊されてしまったようだった。

とにかく、このままでは郵便を受け取ることができませんので、なんとか直そうとするんですけど、蓋がベコベコになっていて、内部に食い込んでいる状態。おまけに留め金みたいな部分が内壁にひっかかっていて微動だにしないんですよ。

考えてみてください。深夜三時ですよ、三時。もう、起きてるのなんて昼夜が逆転した引きこもりくらいしかいませんよ。そんな時間に涙ながらにヒックヒックいいながら郵便受けの蓋を直す僕。これを悲劇と言わずに何を悲劇というのか。

結局、ひしゃげて食い込んでいた蓋を掃除用のホウキを使ってテコの原理でさらに曲げて引き出すことに成功。それから手の力で湾曲部分を直し、なんとかベコベコになりながらも元通りにし、郵便受けとしての体裁を取り戻すことに成功しました。案の定、中には家賃の督促とか入っていましたが、それどころではありません。

一体誰が、僕は誰かに恨まれてるんだろうか、なんて陰湿な、と呟きつつ部屋に入り、乙女のようにそっと枕を涙で濡らしながら眠りについたのでした。

次の日。あまりに陰湿な攻撃を受けた僕は、とても仕事に精を出す気などなく、覇気がないままボヤーっと過ごして終業時間。ボンヤリと車を運転しながらアパートへと帰りました。すると、

そこにはまたベコベコに破壊された郵便受けが。

もちろん、昨日と同じく僕の部屋の郵便受けだけが破壊されています。昨日の時点ならまだしも「愉快犯の犯行だろう、たまたま僕のとこが被害にあっただけ」と自分を慰めることができたのですが、二日連続自分のところだけとなると、間違いなく僕をターゲットにしています。

これはもう戦争だ・・・!

またもや涙ながらに郵便受けを直しつつ、ついに決意します。絶対に犯人を捕まえてやる。この手で犯人を捕まえてやる。そして、郵便受けの敵をとってやるんだ。

早速、有給休暇を申請して会社を休んだ僕。朝っぱらから犯人を突き止めるべく張り込みを開始します。といっても、郵便受けの前で仁王立ちってわけにはいきませんので、アパートの近くにあるビルの屋上に待機。ここから我がアパートの郵便受けがよく見えますので、ここで犯人が現れるのを待ちます。

ついでに、ちょうど僕の家に、職場のリクリエーション備品だった双眼鏡がありましたから、その双眼鏡でガン見で張り込みをしていました。

4時間くらい経ったでしょうか、ジーッと双眼鏡を構えて見えないものを見ようとした感じで見張っていたのですが、ホント、これっぽっちも覗く気なんてなくて、僕はあくまでも犯人を挙げるために張り込んでいたのですが、たまたま見てしまった部屋の窓の若奥様と双眼鏡越しに目が合ってしまい、通報されかねない勢いだったので撤退しました。

しょうがないので、どうせ3日連続で現れるわけねえよ、とゲーセン行ったりエロ本を立ち読みしたりして有給休暇を満喫、郵便受けのことなんて忘れて「いやー、いい休暇だった」と満足してアパートに帰ると、そこにはまたも見事にボロボロの郵便受けが。しかも、日を追うごとに破壊度が上がってきてやがる。

もう破壊と修復を繰り返していて見るも無残な郵便受けになっちゃってるんですけど、とにかく誰が犯人か知りませんがヤツは本気だと判断。こういった卑劣な犯行を許してはいけないと、こちらも本気で戦うことを決意しました。

とりあえず、もう一日有給休暇を申請。よく考えたら遠くのビルから見張っていても埒が明かず、とても犯人をキャプチャードできるわけないので近場から見張ることを決意します。

ウチの郵便受けってのがアパート入り口の仕切り板みたいな場所に設置されてるんですけど、その隣がゴミ捨て場になってるんですよね。とりあえずそこに隠れて郵便受けを見張りつつ、破壊神が来たらゴミ捨て場から飛び出して徹底的にやり込める、あまりバイオレンスなことは嫌いですが、暴力も辞さない、犯人も郵便受けのようにボコボコにしてやる!と決意して、早朝からゴミの中に隠れて息を潜めました。

なんか、積み上げられたゴミ袋の中に隠れていたのですが、死ぬほど臭いわ変な汁が出てくるわで大変な騒ぎ。住民がゴミを出しにきて、ボコボコとゴミを投げつけられたりして心が折れそうになったのですが、僕だって本気です。本気で犯人を捕まえるために必死で我慢しました。

どうせね、こんな陰険なことするヤツなんてヒョロいモヤシっこに決まってます。メガネかけて絶対にブリーフはいてる。そいつを捕まえてボコボコにしてやる!汁から腐ったタマネギみたいな匂いがしてきました。

しばらく、といっても4時間くらいでしょうか、そろそろ有給まで使って何やってんだ僕は、と思い始めてきましたが、じっと息を潜めて待っていると、郵便受けに微妙な変化が。もともと僕の部屋の郵便受けだけ蓋の力が弱かったってのもあるんでしょうが、連日の破壊によってヘロヘロになった蓋が勝手に開いていくんですよ。

他の住人が自分の郵便受けを開けて閉める、その振動が伝わってでしょうか、微妙に蓋が開いていく。最終的には風に煽られてガバッとフルオープン状態ですよ。なんてこった、ウチの郵便受けはいつもこんなストリップ嬢みたいなおっぴろげ状態なのか。これじゃあ中の督促状とか丸見えじゃないか、恥ずかしい、とか思ってると、住人が登場ですよ。

まあ、もうお昼も過ぎてましたし、平日のこんな時間に部屋から出てくる住人なんてマトモじゃないんでしょうけど、見ると206号室に住んでる住人さん。その住人さんが階段を下りてきて颯爽とご出勤、どこに行くか知りませんけど軽い足取りで出てきたのです。

で、階段を下りて角を曲がる、そこが丁度郵便受けゾーンになってるんですけど、そこで事件は起きました。

な、な、なんと、あまりに切れ味鋭く角を曲がった住人さん、鋭すぎて先ほどフルオープンになっていた僕の部屋の郵便受けの蓋にガンッ!と顔をぶつけてやがるんですよ。たぶん、ウチの郵便受けの位置が一番右上だったのが良くなかったのでしょうけど、とにかく、モロに、首から上がなくなったんじゃないかて勢いでぶつけてやがるんですよ。

さあ、ここからが大変ですよ。

「またかよおおおおお!」

とか突如、阿修羅マン怒りの面に豹変して、開いていた蓋を、自分が頭をぶつけた蓋をバンと閉める、で、そこに亀田次男みたいなパンチですよ。何度も何度も、これはクリリンの分!って感じでパンチパンチ、みるみると蓋がひしゃげていって、連日連夜の状態に。

謎はすべて解けた!

つまり、蓋の力が弱まっていた郵便受けの蓋が開いてしまった、で、それくらいの時間に出かける206号室の彼が、死角となる位置で蓋に頭をぶつける。最初は偶然の産物だったのでしょうが、僕が蓋を直したことによってさらに力が弱まった蓋が開きやすくなってしまった。そして、連日の悲劇が繰り返されたのです。ってか、コイツは3日連続で同じ場所で頭をぶつけてるのか。

とにかく、ついに念願の犯人を突き止めたので、さあ、どうしてくれよう、と颯爽とゴミ袋の中から飛び出し、彼に掴みかかってちぎっては投げちぎっては投げ、これは郵便受けの分!とハードパンチをかまして顔面をベコベコにしてあげたかったのですが、やめておきました。暴力は暴力しか生まない、報復は報復を、テロはテロを生むだけ、そんな悲しいこと、二度と起こしてはならない、殴っている彼の心だって痛いんだ、なんて素晴らしい理念があったわけではなく、単純に彼がすげえ強そうなんだもん。ケミストリーの右側みたいなアウトローなんだもん。ご覧の通り、大抵の物事を拳で解決するような男ですよ。勝てそうにないのでやめておきました。

ビクビクしつつ、まるで嵐が通り過ぎるのを待つかのようにゴミの中で身を潜め、彼が去った後に、また泣きながら郵便受けを直して今度は勝手に開かないようにガムテープで止めておきました。

なんにせよ、こういった自分のパーソナルスペースを攻撃されるってのはあまり気分が良いものじゃない。それは直接殴られる以上にダメージが大きいし、たとえ犯人を見つけたとしてもどうすることもできないほど心が傷ついてしまう。

きっと、あの日あの時、バッタにはしゃいでいた松沢君はバカなんかなかったんだ。彼はきっと、それがイジメだってことも嫌がらせだってことも分かっていた。けれども、心が傷つきすぎてどうすることもできなかったんだ。ただ、無邪気にはしゃいでおどけて見せることで傷ついた心を誤魔化したんじゃないだろうか。

こういう心に来る攻撃はやめてくれよなー、と思いつつ、次の日も有給休暇を申請し、朝から夕方までかけて近所の空き地でバッタやらコオロギやらを捕まえ、206号室の郵便受けに放り込んでおきました。