やべー、なんか自分ってば、むちゃくちゃカッコイイ。男前過ぎてやばいんじゃないか。顔が整いすぎてる。速水もこみち。やばいやばい、カッコイイ。かっこよすぎる。
とまあ、何をのっけからトチ狂ったことを言ってるかとお思いでしょうが、まあまあ落ち着いて聞いてください。その振り上げた拳を治めて聞いてください。
言うまでもなく、僕はこれっぽっちも容姿的な部分で勝負できる要素がなく、まあ、時代が時代だったら長屋に篭って一生を終え、たまに街に出ても町人や商人に石とかを投げつけられ、武士なんかは見た瞬間に切り捨て御免する、そんな問答無用のブサイクフェイスなわけですが、そこで立ち止まってしまっても何も始まらないのです。
愛情を注がれずに育った子供は非行に走りやすいとはよく言ったもので、誰からも愛されることなく育った子供は愛を知りません。愛を知らないから誰かを愛すこともない。それは同時に他者への興味がないこちに繋がるのです。結果、他者のことを何とも思わない冷酷な人間ができあがるのです。
自分の容姿も同じ事で、誰からも「カッコイイ」「イカス」などと言われなければ、それは愛を知らないことと同じですから、どんどんと酷い容姿がさらに酷くなっていくのです。世にひねくれなんとも卑屈な顔に変貌していく、それは愛を受けていないからです。ブサイクがブサイクを生み出していく負のスパイラル。
じゃあ、なんとかブサイクレベルを現状で留めようと、「カッコイイ」「イカス」「抱いて」などの語句を浴びせかけられなければならいのですが、世の中ってのはそうそう甘いものではありません。そこに存在するのは圧倒的な強者と弱者、富める者と貧しき者の差異しかありえないのです。
つまり、誰も言ってくれないのだから仕方がない。自分で言うしかない、というわけで、たまに辛くて泣き出しそうになることがあるのですが、自分で自分を「カッコイイ」「もこみちみたい」「チンコも大きそう」などと、ちょっと欲を出してオーバーに言い、ナルシストなアロマに酔いしれているのです。
たしかに辛いです。どう考えても褒められる代物じゃないものを褒めちぎるわけですから、上司が子供を職場の野球大会に連れてきていて、その子供がどう見てもバカ、青い鼻水をボリショイサーカスみたいにブラブラさせて中空を見つめているのに「利発そうなお子様ですねー」などと心にもないことを言う時より辛い。
そういった場合は少しコツがありまして、確かに男としては褒められる顔面じゃないですが、これが女だったらどうか。いやいや、どう考えても女である方が歴史的惨劇になるのは目に見えてるのですが、どうせ女になんかなれっこないんですから何考えても自由。異性になることで自由度が飛躍的に増加する点を利用してナルシストに浸るのです。
僕が女だったら、クラスで一番カワイイとまではいかなくとも、こう、隠れたカワイイ娘みたいな位置にいるはず。普段はメガネであまり目立たないんだけど、メガネを取るとけっこうカワイイ。それに気付いているクラスのオタクな男の子がいて、心の中でヒッソリと僕のことを想ってくれている。
で、ある日、意を決してオタク山本君が告白してくれるのです。「スススス、好きです!」彼は顔を真っ赤にして視線を合わさないように俯いて告白してくれるのです。僕はちょっと意地悪してみたくなって「あら、麻子の方がカワイイし、私なんか」とかなんとか。まあ、麻子ってのがクラスで一番カワイイ子で季節ごとに彼氏が変わる様なヤリマン、まあ、胸とか強調してますから、その年頃の男の子はみんな麻子でオナニーしてますよ。その辺を引き合いに出して意地悪するんですけど、彼も麻子のアソコとか微妙に語呂の良い物を想像して致したことがあるから少し困り顔。
「麻子さんより、アナタの方がカワイイ!」と、このセリフを言わせるわけですよ。でも、僕はオタ山本君は全然タイプじゃなくて、「ごめんね、今はチアダンスに集中したいの」とか適当な理由をつけて断るんですけど、せっかく僕のことを好きでいてくれるオタは離しませんよ。
「シー、みんなには内緒だよ」とかフェラチオの一つでもしてやって、引き続き僕の虜にしておきます。最終的にはそうやって虜にした男達を使って麻子を陥れ、自分がクラスの女王に君臨するのですが、まあこれは別の話。とにかく、自分が女だったらそこそこカワイイはずだ、そう思うのがコツです。
とにかく、自分の容姿にダイレクトに愛を捧げないのならば、異性に置き換えるという荒業を駆使してでも愛を注ぐ、鏡を見ながらウットリとし、たまにはナルシストにならないとやってられないのです。
とにかくまあ、普段からたまに鏡を覗いたりして無理にでもウットリしているのですが、つい先日、保険証を探していたら古い書物が出てきましてね、それが「実践、黒魔術!」みたいなインチキどころの騒ぎじゃない書物で、これを購入した時の自分の気概が分からないのですが、それを読んで、鏡を使った呪いの方法を試していたんですけど、鏡が全部割れちゃいましてね、どうやっても鏡を見てナルシストになれなくなっちゃったんですよね。
おそらく、上司の名前を書いた紙を鏡に貼り付けてどうたらこうたらだったのですけど、力が入りすぎて鏡は割れるわ、上司はピンピンしてるわで大変な騒ぎだったのですが、ウチには洗面台もなければ風呂場にも鏡がありませんから、鏡を見ることができなくなった。朝起きて寝グセがバリバリ伝説でも気付かないってのは別にいいんですけど、ナルシストなアロマに酔いしれなくなったのはちょっと困るんですよね。
誰も愛してくれない可哀想な容姿を自分で愛でるしかないわけですから、とにかく困るんですけど、仕方ない、何か自分が写ってるものはないかと思案を巡らせてみたのです。
そしたらね、気付いたんですよ。僕はもっぱらの写真嫌いで、写真を撮られると魂が抜けると本気で信じている人ですから、僕のプロマイドなんてほとんど存在しないんですけど、免許証があるじゃないか、免許証なら僕の姿がしっかりと写ってるじゃないか、と気付いてしまったのです。
早速財布から免許証を取り出しまして、さあ、褒めてやるぞ!と意気込んで写真を見てみたら、前回の更新の時に寝坊して急いで更新に行ったんでしょうね、虚ろな目をした寝グセバリバリ伝説の男が写ってました。オマケに着ているシャツが今着てるのと一緒。もう何がどうなってんだか分かりません。
自分の中のナルシストを総動員してもコレを褒めることなどできず、どうしたもんかと途方に暮れていたら、もっと重要な事実に気がついてしまったのです。
「平成18年09月09日まで有効」
衝撃でしたよ、衝撃。まさか、平々凡々と暮らしている僕に有効期限切れの恐怖が迫ろうとは。そういや、前回の更新時も有効期限を過ぎてしまって非常に面倒な想いをしてしまったのを思い出しました。
とにかく、免許証を失効してしまってはナルシストどころの騒ぎではありませんので、なんとかインターネットなどを駆使して忘れていた免許更新の手順を確認。なんでも平日の1時くらいから免許センターでやってるらしいので、いざ更新へと赴くことに致しました。
どうにもこうにも、張り切りすぎてしまったみたいで、12時には免許センターに到着してしまったのですが、窓口で弁当食ってるババアに
「あの、免許の更新に来たんですけど・・・住所がですね・・・」
と、か細く告げると
「今、休憩中、受付、一時から、1番窓口」
と片言しか話せないフィリピーナみたいなにぶっきらぼうに言われました。
仕方ないので、病院の待合室みたいになってる椅子に腰掛けて、紀子様がって感じのニュースを見ていたのですが、ホント、老人が多いんですよね。
「いやあ、うっかり更新を忘れるところじゃった」
「私も、孫に言われて気付いたんですよ」
「ウチには更新のハガキがきとったけど、捨ててしもうたがな」
とか、更新を忘れるとかアルツハイマーじゃねえのって言いたくなるんですけどグッと我慢。とにかく、この人たちも免許更新に来てるんでしょうが、車の運転なんて必要ないんじゃねえの?といったレベルのご老人が集まっておりました。僕は良識派で知られてますので、車の運転より棺桶のサイズ測ってな!とは絶対に言いません。霊柩車は乗ってるだけでいいんだよ、運転品しなくても、とは絶対に言いません。
そんなこんなで、1時になり、先ほどのフィリピーナババアがまるで軍隊の号令のように
「1時になりました!更新の方は1番窓口まで!」
と大声を張り上げると、ワッと、いつの間にこんなに人が集まっていたんだろうというレベルで1番窓口に長蛇の列ができあがってました。
僕も急いで並んだのですが、タイミングが悪かったらしく、なんか暴走族仲間みたいなやつらが集団で更新にやってきていたらしく、その集団のど真ん中に並んでしまうという大失態。「カツジを殴った」みたいな話題で盛り上がる若者の中でポツンと一人佇んでいました。
やっとこさ、僕の順番が来て、今や有効期限が間近に迫っている免許証などを窓口に差し出すと
「あら、これ、住所変わってるわね」
そうなんです。僕は住所を変更してからまだ一度も免許更新をしていない。まだ古い住所のままで免許更新に乗り込んでしまったのです。
「これね、住所が違う場合、前の住所の場所に違反歴とか調べてもらわないといけないのよ。時間がかかるのよねー、こういう人は事前に申し出てもらわないと。言っておくけど、今日の更新に間に合うかどうかは保証しませんよ」
って、どの口が言いますかって感じなんですよ。僕はちゃんと1時間前に来て、窓口に申し出て、その際に「住所が」みたいなこともちゃんと言ってるのに、フィリピーナの如く冷たくあしらったのはアナタじゃないか。
とまあ、言いたい文句は山ほどありましたが、何故か懲罰的に窓口の横で立たされて皆の手続きを大人しく見守ってました。僕は良識派で知られてますので、窓口のババアに向かって「テメーがあと20歳若かったらレイプしてるとこだぞ」とは口が裂けても言いません。
随分と時間が経ち、全員の更新手続きが終了したところで、まるで放課後居残りさせられていた悪ガキが「山田、もう帰ってもいいぞ、もうするなよ」みたいに落陽の中、担任の先生に許してもらう時のようなニュアンスで更新手続きを取ってもらった僕。いよいよ、視力検査と免許用の写真撮影です。
視力検査で、僕の前に並んでいた、頭もお股も緩そうなヤリマンっぽい女子が
「これは?」
という検査官の言葉に対して
「Cです」
と自信満々に言ってましたが、気にしないことにしてそつなく視力検査をクリア。いよいよ写真撮影と相成ります。
ここはハッキリ言って重要なポイントです。何度も言うように家に鏡がない僕にとって免許証の写真はナルシストなアロマに酔いしれる重要なポイントです。ここでシッカリと、まあ男前とはいかなくても見れるレベルの写真を撮っておかねば話になりません。
なんとか自分の中の男前を総動員して臨んだのですが、撮影後にチラッと通路にあった鏡を見てみたら、寝グセがバリバリ伝説で、金正日みたいな髪型になっていたので腰が抜けるかと思いました。
さて、ここまではまだいいのですが、問題はこの後に控えている講習です。なんでも、講習受けないと免許証は渡せないぜという終戦直後の米軍みたいな横暴な制度らしいので、大人しく講習を受けなければならないようです。
おまけに、この講習会ってのは過去の違反歴と照らし合わせて、優良、一般、違反講習とランク分けされているようなのですが、過去にスピード違反と信号無視でキャプチャーされ、違反点数5、免停一歩手前の僕は文句なしに違反者講習まっしぐらのようでした。優良講習が、免許の出来上がりを待つ待ち時間みたいなものに対し、違反者講習は120分講習のフルコース。交通社会のクズどもが受ける講習ともいえます。
心の支えだった暴走族軍団が笑顔で優良講習の教室に入っていった時は我が目を疑ったのですが、この地獄とも思える120分講習を受けなければ免許は貰えない。グッと唇を噛み締めて違反者講習の教室に入りました。
そこはまあ、交通違反という禁を犯したクズどもの吹き溜まりですよ。入った瞬間にムッと負のオーラが満ち溢れ、交通違反とかそういったものも関係ない、もはや人間として何かが欠落しているとしか思えない連中が集っておりました。
だいたい、30人くらいいたでしょうか、その中の9割が机に突っ伏して居眠りしているというクズらしい側面を見せ付けていましたが、なんとか怯むことなく自分の席へと突き進みます。なんか12番とかいうプレートを渡されたので12番の席に座るんですけど、11番のヤツ、俗に言う隣の席のヤツが不穏な空気を醸し出しすぎていてたまらない。
彼は机に突っ伏して居眠りしてるんですけど、そのクズっぽいオーラがとにかくすごい。クズが集うこの教室の中にあって最も重力が高いであろう雰囲気がムンムンに伝わってきました。
とにかく、彼を刺激しないよう、彼を起こさないようにそっと隣に座り、机の上に置かれていた「交通事故の怖さ」みたいな冊子を熟読していました。そしたら、前の席の男女の声が聞こえてきやがるんですよ。
「終わったらさ、オムライス食べに行こう」
「えー、私がなんか作るよ」
「まじ?じゃあスーパーよって帰って俺んちくる?」
「うん!」
みたいな、明らかにセックス前提みたいな会話をしてやがるんですよ。前の席の男女が。
どうにもですね、理解しがたいのですが、この男女、カップルで免許の更新に来たみたいで、もうイチャイチャと、今にもハメ撮りしかねない勢いで絡み合ってるんですわ。
どうも、たまたまカップル同士の更新時期が一緒だったとかの偶然が重なり、それだったら一緒に更新しちゃおうよ、高志、うん、僕らラブラブだもんね、芳江、みたいな何とも反吐が出るやりとりがあったかどうか知りませんが、とにかく一緒に更新。おまけに雁首並べて違反者講習受けてるんだから世話ない。
どうせ、カップルで免許更新して、新しい免許眺めて「やだ、高志の免許、超男前」「芳江の免許だって・・・カワイイ」「もう、高志はカワイイ言い過ぎ」「だって本当なんだもん、かわいいよ」「そんなに言われたら慣れちゃうよ」「前の免許の写真もかわいかったんだけど、それに加えて色っぽくなったっていうか」「もうやだ、バカ」「マジだって!」「高志・・・」「芳江・・・」「うおー」「あああああああ」みたいなやり取りがあって、二段階右折みたいな体位でしたりなんかして、免許のツルツルな面とガサガサな面、どっちがいい?なんてマニアック免許プレイ。最後には新しい免許証を突っ込んだりするんでしょうが、とにかく興奮する!
とか悶々としていたら、ガラリとドアが開いて、どう見ても柔道強そうなオッサンが入ってきていよいよ違反者講習の開始です。
違反者講習自体は、特に滞りなく、まずは免許制度の説明、それに加えてなぜ僕らが違反者講習を受けているかの説明、まあ、いかにクズかってことを説明してくれた後に、交通事故の恐ろしさを伝えるビデオを見させられました。まあ、この辺の流れは別にどうでもよく、前の席のセックスシティカップルも神妙にビデオを見ていました。しかし、圧巻だったのが隣の席の11番ですよ。
講習開始前から居眠りをぶっこいていた11番。さすがに教官が入ってきていよいよ始まるって時は目を覚ましたのですが、その風貌は寿司屋の修行に来た若い衆みたいな感じ。便宜上、この風貌から彼のことをマサって呼びますけど、このマサがとにかく酷い。
ビデオが始まった瞬間に寝る。とにかく遠慮せずに寝る。
いやね、僕らは免許貰いに来てるって負い目があるわけですよ。向こう側は圧倒的に権力持ってますから、講習でふざけた態度だったから免許渡さないってのも普通に出来るんです。ですから、どんなワルだってそれこそ神妙な顔してですね借りてきた猫みたいに大人しくビデオ見てるんですよ。なのに、マサは爆睡。誰に遠慮することなく爆睡。さすが選り抜きのクズだ、期待を裏切らないぜ。
ビデオ自体は、飲酒運転で人をはね殺してしまったお父さんが家族ぐるみで不幸になってしまうという大切な内容だったのですが、娘役が異様にブスでビックリとかどうでも良くて、とにかくマサが爆睡。教官の人もジロリとこちらを見るので生きた心地がしない。ってかなんで僕がこんなにハラハラしてるんだ。
ビデオが終わると、教官の人がビデオテープを巻き戻しつつ、不機嫌そうに言います。
「11番の方、先ほどから突っ伏してますが、気分でも悪いのですか」
まあ、言わずと知れたマサのことなんですが、教室中のクズどもの視線が一斉にマサに注がれます。それでもマサは微動だにしない。
「大丈夫ですかねえ」
とか教官も分かってるくせに意地悪に言うものですから、なんか、僕が起こさないといけない雰囲気がムンムンに蔓延してくるんですよ。
で、僕も目立たないようにチョイチョイとマサを突いて起こしてあげるんですけど、マサはもう、全く悪びれる様子もなく、家で目覚めた時のように堂々と目覚めてました。そのうち「母ちゃんメシ」とか言い出しそうだった。
そこから、事故の増加率とかスライドを使って教官が授業してくれるんですけど、もう、次の瞬間にマサは眠りに落ちてましたからね。お前は眠り姫か。
「おや、11番の方、やっぱり具合が悪いですか?」
とか、またもや僕らの方に注目が注がれるものですから、またも嫌々僕がマサを起こすもう嫌だよ、こんなの。
そんなのが何回か続いて、もちろん僕も教官もですが、周りのみんなもウンザリといった機運が高まってきたその時。
ピロリロリーン
どこぞのバカが携帯電話を物凄い鳴らしてるじゃないですか。おいおい、どこのバカだよ、ただでさえマサのせいで雰囲気悪いのに、そういうのやめろよな。おまけに一向に鳴りやまねえし、早く止めろよ!とか怒ってると、思いっきりマサの枕元で携帯電話が鳴ってるじゃないですか。コイツは何者なんだ、怖い、大物過ぎてヤツが怖い。
耳元で携帯電話がけたたましく鳴っているにも関わらず微動だにしないマサ。
「あのー、携帯電話は遠慮してください」
みたいなことを教官が言って、またも僕がマサを起こさないといけない機運が高まってくるんですよ。
なんでね、僕がこんな名前も知らないヤツを何度も起こしてバツが悪い思いをしなきゃならないのか分からないんですけど、場の雰囲気がそう言ってるんだから仕方がない。とにかく、彼を起こします。
マサもやっとこさ起きて携帯電話をピッとかやり、教室内に静寂が戻るのですけど、一瞬の早業でまたもや寝ますからね。
もう教官も半ば諦め気味で、どうでもいいやって感じで講習を続けるんですけど、またもや
ピロリロリーン
おいおい、さっきのはマナーモードにしたとか電源を切ったとかじゃないのか。普通に着信を切っただけでまたかかってきてるんですよ。もちろん、いくら鳴っても起きませんよ。
もうどうしようもなくなって、何で僕がマサに困らされてるのか知りませんけど、起こしても埒があかないので、僕もダイレクトに彼の携帯の電源を切ってました。画面に「着信 アケミ」とか出てたけど知ったこっちゃない。ってか、かけてくんな、死ね、アケミ。とは良識派なので言いません。
とにかく、マサはほっといて講習を進めようという暗黙の了解が流れたのですが、ここで大いなる異変が。
「はい、ではこの場合、こちらの路地から出てきた車は違反になるでしょうか?12番の方」
とか、教官が事例を交えて質問してくるんですけど、圧倒的に僕を狙って当ててくるんですよ。
教官的に、11番の不真面目なマサが憎いんでしょうけど、ダイレクトに攻めることはしない、隣に座ってる僕を攻めて間接的にマサへの牽制としようって考えが見て取れるんですけど、名も知らないマサのために槍玉に挙げられた僕はたまったもんじゃありません。
「たぶん、違反じゃないと思います」
とか僕も立って答えるんですけど
「不正解ですね」
と冷たくあしらわれる。こういった攻めをされるだけで次第に僕とマサがグルで、居眠りしてるんだから答えられないんだよって空気が蔓延してくるから恐ろしい。前のカップルも「見てごらん、あれが交通社会の成れの果てだよ」みたいな目で見てくるから恐ろしい。
「運転中の携帯電話使用は違反となりますが、ここで質問。では、赤信号で停車中に携帯でメールを送った場合、違反になりますか。12番の方」
おお、この教官は鬼だ。この空気の中でなおも無関係な僕を辱めようというのか。全く手を抜かず妥協しない鬼や、アンタは鬼や。
僕ももう開き直っちゃいまして
「赤信号だけに、携帯電話の使用も赤信号!違反です!」
と訳の分からないことを答えたら
「不正解です。赤信号で停車中は運転中ではありませんから違反にはなりません」
とピシャリですよ。契約に遅刻した時のアメリカ人ビジネスマンみたいに冷たく言われた。もう死ね、マサ死ね、アケミも死ね。ついでに前のカップルも死ね。ついでに上司も死ね。
とまあ、こんな感じで、全く無関係のマサのために何度か辱められ、いよいよ最後の運転ナントカ自己診断。
何個か用意されている質問に「はい」「いいえ」で答えていって、自らの運転に対する傾向を自己診断するという、今日び女子学生でもやらないような占いっぽいやつです。
相変わらずマサは微動だにせず眠っていて、もうマサは神の領域に上り詰めたんだ、と呟きながら軽妙に設問に答えていきます。やっとこさ終わって、僕も大満足。色々あったけどあとは新しい免許貰って帰るだけだ!と笑顔で待っていましたところ
「では、12番の方、診断結果を教えてください」
と、最後まできて槍玉に挙げられてるじゃないですか。ここで逆らって免許もらえないとかマジ困るので、素直に
「「はい」が4個あったので判定Cでした」
とか答えると
「はい、判定Cの方は自分の運転技術を過信しすぎですね。自分なら大丈夫、自分ならスピードを出しても大丈夫、と過信するナルシストです。こういった人がよく事故を起こしますので、みなさん気をつけてください」
と、微妙に的を射たことを言われてしまいました。というか、マサが悪いのに無関係の僕を辱めすぎだろ。
とにかく、教官にすら「ナルシスト」というお墨付きを貰いましたので、さっそく自分で自分を褒めるべく、新免許証で酔いしれるぞーと思って手にした新免許証は、前回の免許証より酷く、岸壁の端っこのほうについた汚い海草みたいな顔してました。いくらなんでもこれじゃあ褒められない。
仕方ないので、帰りに100円ショップで鏡を買って帰ったのですが、すぐに「マサ」「教官」「前のカップル」「ついでに上司」の名前を書いた紙を貼ってしまったので、全面が紙になってしまい、ナルシストに酔いしれなくなったのでした。
それにしても今日の日記は良く書けた。