週末になると愛車を洗車する人とか、オートバックスみたいなカー用品店に行って愛車の周辺機器を購入する人とか、ダッシュボードの上にジュリアナ東京みたいなフサフサのヤツ置いてる人とか、全部キチガイだ。
そうやって愛車のドレスアップに余念がないのは結構なんですけど、なんていうか、ちょっとやりすぎというか、そこまでしなくてもよかろうというか、いっそのこと車に住んだらいいじゃない、って言いたくなるような人がいるじゃないですか。情熱的に車を愛してしまってる人がいるじゃないですか。ああいうの見るとね、ちょっとどうかなって思うことがあるんですよ。
この間、金に困ってプレイステーション2の本体を中古屋に売りに行ったんですけど、ガキに混じって決死の覚悟で売りに行ったのにオタク店員に足元みられちゃって9000円という信じられない低価格で買い取られてしまったんですけど、その時に近道をしようといつもは通らない裏道を通ったんですよね。
そしたらアンタ、裏通りの交差点のところにですね、「洗車ランド」とかいうトチ狂った、いまどきデパートの屋上の遊技場でもつけないような名称の広場がありましてね、満車に近い状態で車が停まってて、みんな狂ったように車を磨いてやがるんですよ。
車を磨かなければ明日世界が終わる、と政府から通達があったのかしら、と思うほどに一心不乱に磨いてましてね、その光景は一種異様というか摩訶不思議というか、たちの悪い集団催眠にでもかかってるんじゃねえかと思うほどでしたよ。
中でも休日のダンディーパパみたいな人が凄くて、ファミリー仕様の1BOXカーみたいなのだったのですけど、カーシャンプーだかカーワックスだか知りませんけどあらゆる薬品をズラーっと並べて駆使してましてね、自分のナニすらそんなに擦ったことないだろ、ってほどにクレイジーに磨いてたんですよ。あれは愛車を自分のムスコに見立てて磨いてたね。それくらいの擦りっぷりだった。
もう磨きすぎて塗装が剥げるんじゃないかって思うほどに磨いていらしたんですけど、それ以上に禿げてるのがパパの頭髪で、色々な意味でハラハラしながらその様子を見守っていたんです。
で、その横には終始退屈そうにしている息子と思しき少年が体育座りしていて、ものすごいつまらなさそうな、ものすごい感情を殺したような死んだ魚みたいな目つきで父親の洗車の様子を見ていました。
そりゃね、休みの日に親父に連れられて行く場所が「洗車ランド」だったら子供もグレますよ。絶対にグレますよ。ディズニーランドならまだしも、洗車ランドですからね。もう中学くらいになった少年が、このハゲ親父とか言いながら金属バットで車を破壊している絵図が鮮明に浮かんだもの。
もうね、親父さん、愛車をムスコに見立てて愛情込めてオナニーのごとく擦るのはいいんですけど、それ以前に本当の息子のほうに愛情込めて構ってあげたらどうですか、って言いたくなりましたからね。
とまあ、微妙に上手いんだか不味いんだか分からないことを言ったところで本題に入るのですが、僕には上記のように車に愛情を注ぐっていう行為が良く分からんってお話がしたかったのですよね。
車なんて走ればいいと思ってますし、洗う必要も着飾る必要もないって思ってますからね。歯は磨かないと虫歯になりますけど、車は磨かなくても虫車にはならないですからね。色々と着飾らなくても普通に走りますからね。
そんな事情もあってか、前に乗っていた車はそれはそれは酷い状況でしてね、車を綺麗にしておくって概念がないものですから、外観なんて洗ったことなくて泥だらけ、車内もゴミだらけでエロ本とか転がってましたからね。後部座席が全部ゴミで埋まってて強制2シーター、車内から腐臭がするなんてザラでした。
この死臭がする、後部座席に死体が転がっていても何ら驚かない絶望的な車が天に召されてから、新しい車を買ったぜ、カーナビもついてるぜって話を前にもしたと思うんですけど、とんと無頓着なもんだからどんな車を買うとか色とか完全に興味なし。カーディーラに行って一番手前に置いてあった車を「これください」って言って買ったからね。八百屋でトマト買うノリで買いましたからね。カーディーラーの人驚いてた。
まだ気が遠くなるくらいのローンが残ってるんですけど、とにかく豪放に車を購入。どうせこの車もすぐに汚くなってゴミの山と化すんだろなって思ったんですけど、ところがどっこい、そうはいかなかったんですよ。
車を買ってピカピカの新車が納車されて来たりなんかすると心境が変化するもので、ちょっとだけ「この車を大切にしてみよう」なんて気持ちが生まれてくるもので、ちょ、ちょっとだけ綺麗に着飾ってみたりしようかな、バカ!た、大切にする気なんて、な、ないんだからねっ!とツンデレ風に思う気持ちが芽生えてきたんです。
本当、この時の僕はどうかしてたのですが、週末ごとに洗車をしようとか、オートバックスに行って死臭が漂わないように良い匂いがするヤツ置こうかしら、あわよくばダッシュボードの上にフサフサのを置こうかしら、なんて間違いなく考えてしまったのです。
新車に乗ることによって、車を大切にする人や週末ごとに洗車に精を出す人の気持ちが少しだけ分かり、へへ、俺も大切にしようかなと思い始めたその瞬間ですよ。
綺麗にする洗車グッズや良い匂いのするヤツ、あわよくばフサフサまで購入しようとオートバックスに向けて車を走らせたその瞬間ですよ。
メリメリメリメリ
車を走らせつつ、洗車グッズはボンネットでハンバーグ焼いても大丈夫なヤツが良い、匂いのするヤツは清潔そうな23歳OLが本屋で文庫本を選んでる時に漂ってくる匂いみたいなのがいい、フサフサはやっぱやめようかしら、とか考えたその時ですよ。
運転席の右側、フロントガラスとドアの境目みたいな場所にそれを支える柱があるんですけど、そこからメリメリと異様な音がしてきやがるんです。前方を見ていた視線を何事かと少し右にやると
この部分が、
こうなってた。
柱を覆っていた樹脂みたいなのがベローンと剥げてきてですね、金属の地肌がモロ見えですよ。なんか隠してあったコードとか見えてるし、どう好意的に解釈してもとてもじゃないが未来型コンパクトカーの粋な収納空間とは思えない状態になってるんですよ。
押し込んだら直るかな、と思って運転しつつ押し込んでみたんですけど、すぐにベローンとなっちゃって、おまけに徐々に酷くなってきて視界を塞いでくる始末。
もうね、僕が力の加減を知らない乱暴者でこの樹脂を剥ぎ取ったとかなら自分が悪いって理解できるんですけど、何もしてないのにこの仕打ちは酷い。買ったばかりなのにこの仕打ちは酷い。
どうせ初期不良みたいなものでしょうから、どうなってんだーってディーラーに殴り込めば無料で修理してくれたんでしょうけど、なんかどうでもよくなっちゃいましてね、もう綺麗にする気も良い匂いにする気も着飾る気もナッシング。すっかりやる気を失って意気消沈してしまったんです。
俄然やる気になっていたのに冷や水を浴びせる理不尽な仕打ち。例えるならばオナニーしようと興奮し、いざやるぞって思ったら勝手に出てしまったような状態。昼飯食おうと光子さんに言ったら、お爺ちゃん、お昼はさっき食べたでしょと言われた状態。よくわからんどころか全然違うと思うけどけど、それくらい意気消沈する出来事ですよ、これは。
この出来事以来、すっかり車を綺麗にするって気持ちは消え失せ、相変わらず汚いゴミ車。買ってから1年も経ってない新車だよって言っても誰も信じてくれない状態になりました。そろそろ腐臭もしてきて危なっかしいのですが、とにかくそれでいいって思って過ごしてきたんです。
しかし先日のことでした。
仕事の関係で、結構なお偉いさんを市民会館まで送迎しないといけない用事ができてしまいましてね、自分の車で送迎するもんだから車を綺麗にしなきゃって焦ってしまったんですよ。さすがにゴミだらけの車で送迎は出来ないですから。
けれども、掃除を始めてみると思いの他面倒くさく、特に後部座席のゴミが大変なことになってるのですが、死ぬほど面倒くさいなって思っていたら天才的な閃きが稲妻のごとく僕の頭脳に落ちたんです。
「助手席だけでいいじゃん」
もう天才かと思った。車なんて運転席と助手席だけあればいいんですよ。送迎するお偉いさんを助手席に乗せて颯爽と送迎。後ろはゴミの山で全然構わないんですよ。人の車に乗って後ろをマジマジ見る人なんて変態しかいないですしね。うん、このまま助手席のゴミを後部座席に移動するだけでいいじゃないか。
おまけに前日に雨が降ったので車の外観は比較的綺麗。もう何もする必要ないじゃないか、と大喜びで颯爽と送迎に行きましたよ。
僕に与えられたミッションは駅から市民会館までの送迎だったのですが、もう颯爽とね、駅のロータリーに横付けして迎えに行きましたよ。そしたらアンタ、
「○○社の○○です。お迎えに上がりました」
「ありがとう。よろしく」
「どうもどうも」
なんかね、偉いのが二人いやがるんですよ。二人が静岡名物を手に満面の笑みで駅前に仁王立ち。おいおい、2匹いるとか聞いてないぞ。細胞分裂しやがったか。どっちもバーコードだし、と唖然ですよ。
偉い人が1人から2人に増えたくらいで何も問題ないじゃんって思う人はウンコです。偉い人が2人に増えたと言うことは、僕を入れて3人が車に乗らないといけないのです。当然僕は運転なので運転席。残りの人が助手席と後部座席に。そう、必ずどちらかがあのゴミが巣食う後部座席に陣取らないといけないのです。
「すいません、ちょっと散らかってまして」
家に人を招き入れる時など、日本人特有の謙遜の文化でそういう人がいるけど、たいていの場合はどこが散らかってるか分からないほど完璧に綺麗なものです。しかし僕の場合は、そう言って後部座席のドアを開けたんですけど、本当に散らかってますからね。ゴミだらけ。ドア開けたら爽健美茶の空きペットボトルが転がってきましたからね。
急いでゴミどもを逆サイドにプレスし、メキメキとか音を立てて何とか一人分の座席を確保。騙し騙し、というか全く騙せてませんけど、そのままお偉いさんを乗せて市民会館に向かいましたよ。
カーブのたびにゴミが崩れてきて後部座席は地獄絵図。
「はは、なかなか、あれ、ですな」
と引きつるお偉いさんに対して
「すいません、すいません」
としか言えませんでした。
とにかく、重力が2倍になったかのような重苦しい沈黙に耐えられなかったので早く市民会館に到着しないものかと車を走らせたのですが、
ガリ・・・ガリ・・・ガリ・・・
と沈黙に紛れて車の下部から変な音がしてくるんですよ。
「何か変な音がするぞ」
助手席のお偉いさんが焦って言います。ゴミの山に驚いて、運転席見あたら樹脂がベローンとなってて焦ってるのに、なおかつ異音がするもんだから大変不安な様子。
「何かしますね」
もう一人のお偉いさんがゴミの山から言います。膝の上にきのこの山の空き箱が転がってきてエライことになってる。
僕としては別にどうでもいいのですが、二人が合唱するものですから車を停めて見てみると、
車の前の部分から
ベローンと部品が出てました。
なにこの仕打ち。
もはや何の部品なのかも分からない。とにかく、何らかの部品が脱落してきてた。(半分繋がってましたが、あまりにうるさいので強引に外した後の画像です)
もう、運転席側の所の樹脂といい、この部品といい、何もしてないのにここまで壊れるとは何事だ。まだ買って1年も経ってないんだぞ、と嘆きつつ、
「冗談じゃない。こんな危ない車でいけるか」
とご立腹したお偉いさんはタクシーを拾って行ってしまいましたとさ。もちろん、その後事の顛末を知った上司に怒られた。鼻毛でてるくせに怒られた。
きっと、買ってすぐの樹脂ベローンは前の車を大切にしなかった天罰だったのだろう。そして今日の謎の部品脱落は新車をも大切にしなかった天罰だったのだろう。ごめん、僕は反省した。今度からは偉いさんを乗せても恥ずかしくないくらい綺麗にする。洗車ランドで洗車もする。オートバックスに行ってフサフサも買う。いい匂いもさせる。と決意したのでした。
まあ、三日と持たず、近所の中学生だろうけど停めてたら自転車で擦ったような傷つけられてて心が折れた。もう、車、汚くていいよ。綺麗にするヤツの気が知れない。
走っていたら、樹脂がペラペラ。脱落部分がまだ何か擦れてるらしくゴリゴリ。カーブ曲がると後ろのゴミがゴソゴソ。そんな車に乗りつつ、今日も僕は元気です。もう、変な音ばっかする。