パワーショベル(Numeri日記より) | ヌメラーのヌメラーによるヌメラーの為のNumeri日記

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※私が書いてるのではありませんので悪しからず(^^)/

いよいよパワーショベルがやってくる日がきた。

ウチの親父は工事業に携わっている零細自営業で、銀行の気分一つでいつ潰れてもおかしくない小さな小さな会社だった。今でこそ自宅以外の場所に会社建物があって、そこに重機やら資材が置いてあるのだけど、僕が少年だった時代はそんな余裕もなく、自宅の庭に資材やら何やらが置かれていた。

大きなパイプが置かれた庭。訳のわからない機械が置かれた庭。鉄骨が積み上げられた庭。それが僕と弟の遊び場だったし、それらを利用して新たな遊びを紡ぎだしたりしていた。中でもお気に入りだったのは子供なら入れるくらいの大きいパイプに弟を入れ、それをゴロゴロ転がしてヘロヘロになるまで許さない遊びだった。これをやると弟が死にそうに顔色悪くなるから面白かった。

まあ、そんなこんなで、資材と重機が置かれた庭は僕らの格好の遊び場だったのだけど、そうなると当然、子供があんな場所で遊ぶのは危ない、というPTA的な話になり、「庭では遊ばないこと」という通達が母より出されるのだった。

もちろん、そんな通達など守るわけもなく、ただ「そこに山があるからだ」という理由で危険な冬山登山をやめない登山家のように、僕らは「そこに庭があるからだ」と庭で遊ぶのをやめなかった。

ちょうどその日も、母の目を盗んで庭に出た僕ら兄弟。二人とも鼻水垂らしてどう見てもアホ兄弟なのだけど、早速僕らは置かれた資材で遊ぶことにした。

まず、いつものごとく最高で至高の遊戯であるところの「弟をパイプに詰め込んで遊ぶ」を楽しもうと、「おい、パイプを探せ!」と弟に命じたところ、彼はひどく憂鬱な顔をした。

しかし、探せど探せど、適切な太さのパイプが見当たらない。どうにもこうにも、親父が太いパイプを持っていってしまったようで、いつも使ってる弟が入る太さのパイプが見当たらないのだ。

俺達のパイプを仕事に持っていくとは何事だ。とひどく見当違いな憤りを感じつつ、何か代用になるものはないかと模索。すると、いつものヤツと比べて一回りくらい小さいであろうパイプが見つかった。

「よし、コレに入れ」

弟に命じると、彼は気弱な顔をさらに気弱にさせてパイプの中に入ろうとした。しかしながら、いつもより小さいためかなかなか入らない。

「お兄ちゃん、これ無理だ、引っかかって入れない」

弟の懇願も、修羅と化している僕は許さなかった。根性が足りないから入れないんだ、とかなんとか、某ヨットスクールの人よりムチャクチャを言いながら弟を押し込んだ。

「痛い痛い、これ痛い」

明らかに無理な体勢で、ガチャガチャのカプセルに入っているキン消しより無理のある体勢でパイプ内に収まった弟。痛い痛いと懇願するが、どうせいつものように三味線ひいているに決まってる。頑として聞き入れず、僕はいつものように弟入りのパイプを転がし始めた。

驚いたことに、いつもより小さいパイプは素晴らしい。コンパクトなためか、面白いように転がる。同じ距離を転がしても小さいパイプの方が回転数が多くなるためか、パイプ内の弟も「やばい!吐きそう!いつもの3倍回ってる」と、どこかの目出度い兄弟みたいなことを言っていた。

いよいよフィニッシュだ。

庭の端のほうには親父がゴミを燃やしたカスを積み上げた小さな山があったのだけど、その山の上から弟入りのパイプを転がすのが最高だった。

いつものように転がす。

うわああああああああ。

弟の情けない悲鳴が庭中にこだまし、どうせ大した高さのない山だったので少し転がって自然に止まるはずだった。いつもはそうなるはずだった。

しかし、いつもより小さいパイプを使ったためか、全く軌道が安定しなかった。いつもなら山頂から真っすぐ転がっていくはずなのに、小さいパイプは超高校級の名ピッチャーが放るカーブのように美しい軌道を描いて曲がっていった。そして、その先には鉄骨などの資材が置かれた場所が。

ぎゃ

積み上げられた鉄骨の角で、パイプから出ていた頭を強打した弟は、情けない悲鳴を上げた。見ると、噴水のようにピューピューと眉間から血を吹き出している。僕の記憶が確かなら、弟は僕と遊んでいて3回くらい眉間から血を噴出させている。

相変わらずすぐ血を出すやつだ、とか言ってる場合ではなく、早く手当てをしてあげねばならない。無理やりにでも血を止めてあげないと、悪事がバレて両親の手によって今度は僕が血を出すことになる。透明な心の血すら出すことになってしまう。

早々と証拠隠滅、いや、彼の手当てをしてあげようと、パイプから出そうとするのだが、何かが引っかかっていて全くパイプから出ない。肝心の弟も激痛のためか目が回ったためか動かない。物凄い引っ張るのだけどピクリとも動かない。

もうね、怖くなっちゃってね。どうしていいのか分からず、もう知るかって感じでそのままパイプ入りで流血している弟を放置して山下君の家に遊びにいっちゃってさ、何事もなかったように帰宅したら頭に包帯巻いた弟を交えて死ぬほど説教されたよ。

なんでも、親父が帰ってきたら弟が血の海の中で泣いていて、おまけにパイプ入り、いくら頑張ってもパイプから出ないからパイプカッターみたいなので切断して救出したらしい。

具体的に言うと晩御飯食えないとかそんなレベルでなくて、お腹空いたと言う事すら許されない勢いで説教されたというか、関係ない人が見たら、「彼、このあと自殺するの?」と言われてもおかしくないレベルで説教されたというか、とにかく酷かった。

それから、やはり子供の遊び場に資材や機材があるのは良くない、という話になり、庭には資材置き場みたいな小屋が建てられることになった。

その次の日くらいから、親父と社員さん総出で作業が始まる。それこそ庭に置かれていた資材などを使って、簡単ながら資材置き場が作られていく。そこはやはり曲がりなりにも工事業に携わっている親父と社員さん、トタン板で覆われているといっても屋根つきで扉も備えた立派な資材置き場が完成されていた。

「これは俺の城だ」

完成した時、親父が感無量といった様子でそう言ったのを今でも覚えている。きっと、自分で会社を立ち上げ、初めて会社として形のあるものができたのだろう。今まで、庭に放置していた資材を収めるための掘っ立て小屋といえども、彼の中では初めての城だったのだろう。それだけに感慨深い何かがあったようだ。きっと、この小屋が親父のとって会社そのものだったのだろう。

それ以来、資材置き小屋の扉は南京錠で堅く閉ざされ、僕ら子供ではどうしようもないことになってしまったので資材で遊ぶことはなくなった。ただただ、庭で木に登ったり穴を掘ったり、時には水を出して水路を作って遊ぶくらいのことしか出来なくなったのだ。

それからしばらくして、親父の商売が順調だったのかパワーショベルを買うという話が持ち上がった。資材置き場という城を建てるわ、パワーショベルを買うわ、親父の勢いは留まる所を知らない。

なんでも、親父の商売上、どうしてもパワーショベルは必要なのだけど、これまでは買う余裕もなく、同業の別会社からレンタルして使っていたらしい。当然、その会社が「今日は貸せない」と言ったらそれまでで、非常に融通が利かない。おまけにレンタル料も結構なものだったらしい。

そいつは良くない、今は我が社が羽ばたく時だ、そう思ったかどうかは知らないけど、親父は無理してパワーショベルを買った。ローンだかリースだか知らないけど、とにかく買った。もう、パワーショベルが届く日なんて、親父のヤツ朝から風呂はいったり、母ちゃんが死ぬほど厚化粧だったりで大変な騒ぎだった。

燦然と庭に置かれたキンピカのパワーショベル。親父はそれを眺めながらまた感無量と言った表情で、掘っ立て小屋を建てた時のように形ある会社の痕跡にひどく感動しているようだった。

それから数日して、最初こそは引っ張りだこといった様子で仕事に駆り出されたパワーショベルだったのだけど、いつしか庭に放置されるようになった。連日パワーショベルを使う状態ってのが異常なだけで、たぶん大喜びした親父が使いもしないのに現場に持ち込んでいたのだろうけど、それも落ち着いたのか、普通に置かれていた。

いつものように庭で遊んでいた僕らアホ兄弟は、当然のことながらパワーショベルに興味津々だった。資材が資材小屋に幽閉され、僕らの遊び道具でなくなってから久しい。やっとこさ、新しい遊び道具が来たものだ、と感無量な親父の気も知らず、パワーショベルに登ったりして遊び始めたのだ。

すると、途方もない事実に気が付く。

「おい、鍵がついてるぞ」

うちの親父はパッパラパーなので、車だろうが何だろうが鍵をつけたまま放置する癖がある。最初は大事にパワーショベルの鍵を保管していたのだが、飽きてきた今となっては鍵付きで放置、その事実に胸が躍った。

「動かしてみようぜ」

「お兄ちゃん、やめときなよ、また怒られるよ」

「うるさい。早く乗れ」

弟の制止も聞かず、僕はキーを目一杯に回した。

ブルウウウウウウン

車のそれとは違う、重機特有の鈍いエンジン音が庭中に響き渡り、絶妙な振動が僕ら兄弟を包んだ。もう僕の興奮はうなぎのぼり。

さて、これを動かさないと話が始まらない。手元にはなにやらレバーが4本ついている。親父が操作しているところを見て覚えていたのだけど、このレバーを前に倒したり引いたりして動かすみたいだ。とにかく適当にレバーを倒してみる。

すると、物凄い音と共にパワーショベルが前進した。他のレバーを弄ってみると、アームの部分が上下したり、アームの角度が変わったり、クルクル回転したり、と大変に楽しい。

「すっげえ、お兄ちゃんすげえよ」

「だろー、こいつはエキサイティングだぜ」

興奮したアホ兄弟はもう止まらなかった。

「おい、お前、あそこに乗れよ、すげえ楽しいぞ」

もっと弟を楽しませてやろうと思った僕は、ショベル部分に乗るように提案した。パワーショベルが土を掻き出す肝となる部分。アームの先についている袋みたいな場所に乗るように指示した。

「すごい!すごい!怖いけど楽しい」

アームの先に乗った弟はまるで遊園地に来たかのように興奮した。僕も調子に乗り、クルクルと回転させる。

「目が回る!目が回る!」

と彼の声が絶叫に近くなってくると大変楽しい。両親によって奪われたパイプ転がし遊びを思い出すような楽しさだった。

「よーし、次は上下に動かすぞ!」

と、おそらくこれだろう、というレバーを動かした瞬間だった。どう考えても予想してなかった方向にパワーショベルが歩みだすのだ。

「あれ、おかしい、なんだこれ」

おそらく、操作するレバーを間違えたのだろうけど、予想外の動きに大パニック。手当たり次第にレバーを操作する。それに伴い弟を乗せたアーム部分がコミカルに動き、振り回された弟はポーンとどっかに跳んでいった。

とんでもない勢いでビワの木があった茂みに飛んでいった弟は、生きてるか死んでるか知らないけど、とにかくパワーショベルを何とかしなければならない。この制御不能となった、暴走気味のエヴァみたいになったマシンを何とかせねばならない。

必死にレバーをガシガシっとやるのだけど、レバーが動かなくなったりしてウンともスンとも言わなくなったりして大パニック。勝手に進んでいくパワーショベルに泣きそうになった。

見ると、目の前には親父の城とも言える資材置き場小屋が。このままでは激突してしまう。最後の手段として、エンジンを止めようとキーを逆に回したのだけど、そういう設定なのかキーが微動だにしない。

「もうアカン」

と思った僕はパワーショベルから飛び降りて事なきを得たのですが、無人のパワーショベルはそのまま直進。メキメキグキグキバキバキと凄い音を出して資材小屋を破壊し、半分くらい食い込んだところで停止したのでした。焦げた臭いと共に。

親父の城ともいえる資材小屋を、親父の念願であったパワーショベルで破壊、そして弟は吹っ飛んだままどこいったのか知らない。変な油みたいな液体が小屋から流れてきてるし、異様に変な匂いがする。もうどうしていいか分かんなくなっちゃいましてね、もう知るかって感じでそのまま全てを放置して山下君の家に遊びにいっちゃったんですよ。

何事もなかったように家に帰ると、頭に包帯を巻いた弟がいて、説教とかそんなレベルのお話ではなく、殺されるといったステージのキッツイ仕打ちが待っていたのですが、まあ、ご愛嬌。外れた親父のパンチが安い板でできてた壁に穴を開けたという事実から状況を察してください。

ウチの親父は工事業に携わっている零細自営業で、銀行の気分一つでいつ潰れてもおかしくない小さな小さな会社だった。しかし、最初に会社を潰したのは間違いなく僕だった。物理的に潰したった。

あれから十と数年。今では本当の城とも言える立派な会社建物が家から離れた場所に立っている。一度はテンプラの不始末でボヤを出し(2004 6/1 Voyage参照)、会社建物を危機に晒した親父なのだけど、何もないところから会社を興し、ここまでにした努力は賞賛に値するし、尊敬できる。

それだけに、あの日、何もなかったあの当時、親父の城であった資材置き場を自民党の如くぶっ潰した自分の行為を恥じるし、申し訳ないと思っている。そのことを急に思い出して親父に謝ろうと電話をしたら、

「またボヤをだした。建物が焼け落ちた」

と言っておられました。焼け落ちたならそれはもうボヤじゃない。

あの日僕が潰さなくても、そのうち親父が潰していたんだろうと理解し、何でも今回の火事騒ぎでは会社で飯食っていた弟が巻き込まれたようですから、また頭に包帯を巻いた弟の姿を思い起こし、あの日の弟入りパイプのように空き缶をコロコロ転がすのでした。

ちなみに、火事を出した親父は全てを放り出して近くの飲み屋に逃げたらしい。