すごいのな、本当に切らないのな。
いやいや、突拍子もなく言われても、読んでる人にとっては「何が?」って感じなのでしょうけど、僕に言わせると、それくらい行間から読み取って欲しいってなもんですよ。いちいち説明するのが面倒というか、そこまで言わないと分かってくれないアナタたちに失望するというか、とにかく、一行書いたらその間にある30行を読み取るくらいのパワフルさを求めてるわけっすよ。
今日はいつになく高飛車なオープニングなんですけど、冒頭の「切らない」の話。何が切らないって、サポートセンターの電話ですよ。ああいったお客様商売な電話においてですね、先方より先に電話を切るってのは失礼にあたるらしく、どんなに頑張っても先に電話を切らないのな。パソコン会社のサポートセンターはそれくらい礼儀とかに徹底してやがるの。
随分前に、モバイル用途で使っていたノートPCの液晶が落下の衝撃で完膚なきまでに割れた時にですね、サポートセンターに電話したんですよ。もう目の前にはバキバキに画面が割れたパソコンがあるというのに何とか無料修理にしてもらおうと、「何もしてないのに画面が出ない」とか「よく見たら液晶がちょっと割れてる」とか電話してですね、何もしてないのにココまで割れるなんてサイキックな力無しでは考えられないんですけど、とにかく、僕には自分でも気づいていない超能力があって追い詰められるとそれが暴走。その日も「早く更新しろ、死ね!」みたいなメールを数百通受け取ってチカラが暴走。液晶が割れた、みたいな線であーだこーだとやり取りしてたわけなんですよ。
「本当に、落とされたりとかしてないんですね?」
「いや、その、あの、まあ・・・超能力・・・」
「落下ではない。朝起きたら割れていたと言うんですね」
「いや、もしかしたら、落としたかも」
「落としました?」
「・・・はい」
「実費での修理になりますね」
とまあ、小学生レベルの嘘などすぐに見破られるもので、完膚なきまでに論破されて涙を見たのですけど、その際にですね、以下のようなやり取りがあったのですよ。
「はい、わかりました。実費で修理します」
「はい、それではお待ちしております」
「それでは、失礼します」
「はい、失礼いたします」
「・・・」
「・・・」
「もしもし?」
「はい、もしもし」
「・・・」
「・・・」
「もしもし?」
「はい」
僕はサポートセンターのお姉ちゃんの甘ったるいボイスを最後まで聞きたくて相手が切るまで待っていたのですけど、向こうも頑として切らない。結果、良く分からない微妙な空気が流れ始め、なんとも気まずい状態に。なんかさ、「おまえ先に切れよ」「やだ、純平から先にきって!」「えー、花子が切れよ」「やだもん、もっとお話したいもおん」「俺も・・・」「えへへ、私も」「なあ、テレホンセックスしてみないか」「うっふん」みたいな、夜毎電話を交わす悩めるカップルみたいな雰囲気ですよ。
いよいよ、エロい話でもしてやろうかと思いましてね、それでも彼女は切らずにいられるのかとか試してみたかったのですけど、真剣に働くサポートセンターのお姉さんにそんなことしちゃいけないと思いまして、何とかすんでのところで踏み止まって電話を切ったんです。
こういうしっかりとした会社のサポートセンターとは、そこまで徹底してるものなのか、と至極感動した思い出があるわけなんですよ。それまで僕が電話かけたサポートセンターなんて架空請求業者とかいかがわしい債権回収業者ばかりですからね。「この主張は法的におかしいんじゃないか?」「うっせえ!死ね」ガチャ、みたいに電話を叩ききられることばかり。その丁寧な対応にいたく感動したのです。
そんな折、またもや先日、パソコンが、今度はデスクトップのパソコンが荼毘に付されてしまったんですよ。このお話は以前にしたと思うんですけど、普通に使っていたらマウスポインタの動きがどんどんスローになりましてね、そのままプッツウウンとか切れてお陀仏、天に召されて帰らぬ人となりました。
まあ、海外のジャーナルサイトなんかを気兼ねなく閲覧していたら訳のわからないウィルスだかスパイだかに感染したみたいで、ブラウザを開くと勝手にエロサイトやら商売サイトに繋がるという訳の分からない状態になってましたので、壊れてくれて清々したんですけど、さすがにスパイウェアみたいなのに感染して勝手に飛ばされた先がセキュリティソフトの通販サイトで「あなたのPC、大丈夫?」みたいなのが英文で書いてあると、このページに飛ばされてる時点で大丈夫じゃねえ、と答えるしかないんですけど、とにかく壊れてよかった。
でまあ、そこからは独り言のオンパレードですよ。どうも30歳間近になると途端に独り言が増えるみたいで、自分でも哀愁やら望郷の想いやら、そういった切ないものを感じずにはいられないんですけど、やはり気がつくと無意識下で独り言を言ってるんです。
「やはり、俺には隠された超能力が、サイキックパワーがあるに違いない。隠された・・・チカラ・・・?さっきも仕事の書類整理で極度のストレスを感じていた。きっと、そのストレスで普段は封印している力が暴走し、パソコンのハードディスクの回転を徐々に遅くして止めてしまったに違いない。チカラの暴走、恐ろしいものだ。以前ほど暴走しなくなってディスプレイが割れることはなかったけど、一台のPCを死に至らしめるとは恐ろしい。もしこのまま僕の手でチカラがコントロールできなくなったとしたら・・・暴走して上司の頭が破裂したとしたらどうしよう。きっと、どっかの軍事研究所に拉致されて暗殺兵器として研究されるに違いない。世界の要人の暗殺は僕のチカラによっ秘密裏に、それでいて確実に行われる。最初は特別な力がある自分の強さに優越感を感じていたのだけど、次第に「誰かが死ぬ」という事実が怖くなる。葛藤しつつ、軍隊幹部の命令のままに次々と暗殺していく僕。そこにテレパシーで話しかけてくる謎の超能力美女が、「はじめまして、同じチカラを持ってる人に始めた会ったよ」「だれだい?」「私はキャサリン、お願いだからチカラの悪用はやめて!もう誰も殺さないで!」「僕ももうやめたい。でもこの研究所から出られないんだ」「私に任せて」キャサリンのチカラなのか、軍隊の連中が次々と死んでいく。キャサリンこそチカラの悪用で人を殺してるじゃないかと思いつつ、なんとか軍事司令部から脱出。テレパシーでやりとりしつつキャサリンと落ち合うと、そこには金髪の美女が。「はじめまして、まさかこんなカッコイイ人だなんて、速水もこみち下と思ったわ」「君こそ、綺麗だ・・・」「私、なんだか胸がジンジンしちゃう」「どうしたんだい、顔が真っ赤だ」そこにテレパシーですよ(だ・い・す・き)「おいおい目の前にいるのにテレパシーで告白かい、キャサリン。「だって恥ずかしいんだもおん」こうして僕とキャサリンはサイキックパワーを駆使したおセックスに励み、「これが49番目の体位だ!」「そんな!空中でなんて!ジュテーーム」となったるわけだな」
という独り言を、ぶっ壊れて真っ暗な画面に向かってブツブツと言っておったわけなんですよ。どっちがぶっ壊れてるんだか分かったもんじゃない。その光景はまさに鉄格子が備えられた病院。時代が時代だったら小学生に「黄色い救急車が来る」と揶揄されるほどです。
でまあ、独り言を言いつつ、ふっと自分を客観視してみましたところ、こんなことをしている場合じゃない、ってのに気がつきましてね、つまるところ我に返ったわけなんですが、急いで保証書やらなんやを探したわけなんですよ。
そしたらアンタ、保証書には「購入日より1年間」という堂々たる表示があるじゃないですか。急いで購入日の記録とその日の日付を確認したところ、ものの見事に壊れる前日に保障期間が終わっていたことが判明。とりあえず、保証書片手にワナワナと震えるくらいしかないのですが、なんとかなるかもしれないと一縷の望みを胸に、該当メーカーのサポートセンターに電話したのです。
「はい、もしもし、○○○○○○センター、担当山中です」
「あのー、突然壊れて動かなくなったんですけど」
「故障修理ですね。確認のため、もう一度電源を入れてもらえますか」
「はい。あ、やっぱダメですね、うんともすんともいいません」
「でしたら、パソコン本体をこちらに送っていただいて修理という形になるのですが」
「おねがいします。あ、でも昨日で保証期間が終わってるんですよ」
「そうですか。では、有料修理になりますね。HDの交換などの際は事前に料金をお知らせして修理になります」
「でも、保証が切れたのは昨日なんです」
「はい、でも壊れたのはいつでしょうか」
「今日です」
「保証期間外ですね」
「ですよね」
「ですね」
「じゃあ、そちらにパソコンを送ります」
「はい、ではまた改めて修理費をお知らせいたします」
「おねがいします」
まったくどうにもならず、少しくらいオマケしてくれねーかなーと思っていたのですが、その夢が脆くも崩れ去りました。これが詐欺を生業にしている悪徳業者なら僕も食い下がらず徹底抗戦するのですが、きちんと人のために働いているサポートセンターの人に食い下がるなんて人として出来るはずもなく、修理費をどうやって捻出しようかと悩みながらそっとキーボードの上に携帯電話を置いたのでした。
ここでまた独り言が炸裂ですよ。
「いやーカワイイ声のお姉さんと話して少し落ち着いた。ターセルさまさまやわ。けれどもまあ、おそらく、さっきのサポートセンターのお姉さんとの会話も僕のサイキックパワーを狙っている国家の連中に盗聴されているだろう。そしてパソコンを受け取りに来た宅配業者を装って僕に接触を図る。あわよくばそのまま拉致しようという魂胆だ。しかし、サイキックパワーによって悪人の禍々しきオーラを読み取れる僕はすぐに異変に気がつき、テレポーテーションを駆使して逃げる。追っ手の連中はこのパソコンに入っている新エネルギーの発見に関する僕のデータも狙っている。「パソコンを渡したまえ!」「ふん、国家の犬になるくらいなら俺は反逆者でいい」どうやら新エネルギーと僕のチカラを恐れる石油メジャーの会長が組織の黒幕のようで、黒服を駆使して僕を追い詰める。そして、もう一人の、組織の手によって訓練され、徹底的に洗脳された超能力使いが現れ、ついに最終対決。「ふふふ、お兄さん、筋はいいけどチカラは僕の方が上だよ」「な、なんだってーー!俺のチカラが効かない、うわああああ」徹底的にピンチに立たされる僕。そこで頭の中に響くテレパシーで声が(ピンチのようね、助けてあげるわ)その声と共に敵の超能力者が急に苦しみ始め、頭が破裂してザクロみたいになって絶命。一体誰が・・・助けてくれたんだ・・・「私よ」「その声は・・・サポートセンターのお姉さん!一体どうして!」「初めて電話で声を聞いたとき、恋に落ちちゃった。まさか同じチカラの持ち主だったなんて、声だけじゃなくて顔も速水もこみちみたいでカッコイイのね」「君こそ、声も美しいが容姿も美しい」こうして僕とサポートセンターのお姉さんは、サイキックパワーを駆使したおセックスに励み、「これが50番目の体位だ!」「そんな!大車輪みたい!!ジュテーーム」となったるわけだな」
と独り言大炸裂。妄想世界の住人になって満足気にふっと携帯電話をみましたところ、なんと、携帯電話画面には「通話中」というにわかには信じがたい表示が。
どうもですね、電話を切ったと勘違いしたらしく、電話を閉じるでもなく開いたままでキーボードの上に置いたのがまずかったらしく、通話中のまま放置されるという結果に。
しかもですね、対応の良いサポートセンターの人は相手が切るまで切らないという確固たる不文律がありますから、電話を切らずに向こうも放置。結果、僕のスパイシーな独り言があますことなくお姉さんに伝わってしまうという大失態。まさか、こんな大失態になるとは。
落ち着いて上記の独り言の部分を、切れてない電話でお姉さんが聞いてると想像して読んでごらんなさい。それはそれは、横浜ベイブリッジを指差してレインボーブリッジだ!と豪語したときより恥ずかしい気持ちになれるから。
あまりの恥ずかしさにこのまま逃げ出して人里離れた山村に移り住み、そこで野生のイノシシでも食べて暮らしていこうかとも思ったのですが、なんとか取り繕わなければならんという意味不明な義務感にさいなまれ、ワナワナと震える手で携帯電話を取りましたよ。
「もしもし?」
「あ、はい、もしもし」
「聞いてました?」
「いえ、何も聞こえませんでしたよ」
と言ってる声が間違いなくプルプルしてて、間違いなく聞いてるんでしょうけど、なんとか取り繕うと、とにかく最低限、独り言であったことを否定しようと変なプライドが働いたらしく、
「いやー、自作の小説を朗読してまして」
とか訳のわからない言い訳をしてました。なんだその小説。
「では失礼いたします」
「はい」
今度はしっかりと通話が切れたことを確認。あまりの恥ずかしさに悶々とし、もうぶっ壊れてるしいいか、とパソコンを破壊したい衝動に駆られたのですが、なんとか、これも僕を辱める国家の陰謀に違いない、恐るべし国家!と延々と30分くらい独り言を言うことで落ち着きました。
礼儀作法の世界では、電話をかけてきたほうが先に切る、という約束があるようで、それに忠実に従って訳のわからないキチガイの独り言もジッと聞いてるとは、サポートセンターの人は偉いなあ、と思いつつ、あまりにも痒いのでボリボリかきつつパソコンを修理に出しました。どこが痒いのかは行間を30行くらい読み取ってください。