人間、本当に怒ると周りの音が聞こえなくなる。そこは静寂の世界だ。横でローリングストーンズが大演奏していたって何も聞こえないだろう。ただ怒りだけが体の中に宿り沸々と燃え滾る静寂の世界、それが怒りだ。
普段は温厚なことで知られるこのpatoさん、その穏やかさは群を抜いておりまして、例えば職場にブスがお土産を持ってくることとかあるじゃないですか、知人の結婚式に遠くに行ったとか、家族で温泉旅行に行ったとか自分探しの旅に行ったとか、そうするとね、どうやったらそんなチョイスが出来るんだって感じの土産のお菓子を買ってくるじゃないですか。饅頭とかそういった類の。
「よかったら食べてくださいねー」
みたいな感じでお茶飲むところに置かれるんですけど、まあ、不味そうですし誰も手をつけないじゃないですか。人間って残酷な生き物で、カワイイ職場のアイドルみたいな女の子が持ってくると岩みたいな煎餅でも一瞬でなくなるんですけど、ブスが持ってきたファニーなお菓子は誰も手をつけないんですよね。
そうなるとブスのお菓子があっという間に不良債権と化し、こう、禍々しいオーラを放ち始めるんですよ。誰も手をつけないし触れようともしない、時間が経てば経つほどその傾向は顕著になり、明らかに職場内の重力を何倍にもするダークマターになっていく、そうなるとブスもブスで辛いんですよ。たぶん自分と重なるんでしょうね。そのうちいたたまれなくなって、休憩中で皆がくつろいでる時間に
「どうぞ」
とか言って配りだすんですわ。ある意味テロに近いんですけど、その配り方が物凄くて、さすがブス、と唸るしかないんですけど、部長とか偉い人には3個、イケメンには4個、ちょっとブサイクな人には1個とか、明らかな差別階級が存在するわけ。饅頭のカースト制度が存在するわけ。わかりやすいブスだなーって思いながらその様子を眺めていたら、なんと僕だけスルーっていうね。統計学的に見ても0個という、どんな扱いだよって言うしかない仕打ちを受けてるわけ。
みなさんはまあ、そういう経験があまりなくて、せいぜい「二人一組ペアになって作業することー」とか先生に言われてペアを組む相手がいなくて途方に暮れる程度でしょうけど、僕なんかレベルが違いますから。
まあ、普通の人ならそういったブスによる饅頭差別に遭遇すると怒るでしょうし、積極的な人ならその場で抗議するかもしれません。そこまでしないまでも、多くの人は沸々と怒りを携え、自分が運営しているブログだかにブスの悪口を書くかもしれません。とにかく多くの人が怒ると思います。けれどもね、僕は1ミリも怒らない。
他にも栗拾いツアーに誘われないとか、珍しく飲み会に誘われちゃってウキウキで行ったら誰もいないとか、職場の大便器にとんでもないウンコが放置されていたのもいつの間にか僕のせいになってるとか、こう、なんていうか普通の人なら怒るだろう、気の弱い人なら自殺しちゃうんじゃないかっていう事象があっても僕はピクリとも怒らないんですよ。まあ、ウンコの犯人僕ですけど、それでも怒らないんですよ。
怒りは人間を愚かにします。アメリカ・インディアンのポピ族にはかのような格言が伝わっています。「怒りは自分に盛る毒だ」と。怒ったって何も良い事はない、自分を滅ぼすだけだ、どっしり構えていればいいことなんだ。そういうことなんです。
かくいう僕も、10代の頃は血気盛んな怒りっぽい若者でした。明らかに短期の部類に入る僕は何かにつけて怒っていました。けれどもね、それは愚かなことだと気付いたんです。弱い犬ほどよく吠え、何にでも噛み付くんです。攻撃することでしかアイデンティティーを保てない、そんな人間のなんとも悲しきことか、と悟ったのです。
あれは18歳の頃だったでしょうか、地元の本屋に「1+2=パラダイス」という90年代の漫画史を語る上で外すことのできない名作コミックスを買いに行った時でした。
明らかに短気だった僕はレジのオッサンがモタモタと処理をしているのに腹が立ったのです。お前な、多感な思春期の若者がエロいマンガを買いに来てるんだ、敏感に察して迅速に処理しやがれ、恥ずかしいじゃないか。一つのことに腹が立つとオッサンのハゲ頭とかそういうのにも腹が立ってきましてね、非常にイライラしながら本屋を出たのを覚えています。
店を出ると女の子に声をかけられました。一瞬、おいおい、こんな田舎町で逆ナンですか、みたいな思考がよぎりましたが見るとそこには思いっきりドヤンキーみたいな女の子が立ってました。金髪にバリバリの化粧、昼真っから紫色の特攻服みたいなの着て頭狂ってるとしか思えないいでたちでした。うわ、カツアゲされる、それが僕の率直な感想でした。
「久しぶりじゃん」
しかし、ヤンキー女は意外にも人懐っこい笑顔で話しかけてきます。よくよく見ると中学生の時の同級生でした。在学中もモロヤンキーで、シンナーに万引きに不純異性交遊にとてんこ盛りの女の子でしたが、まるでポケモンが進化する如く見事にヤンキー女になってました。
で、こういう不良少女ってのはある意味性の解放区みたいな存在じゃないですか。中学生くらいって性に対して興味津々ですけど、真面目な女の子とかってガードが堅そう、けれどもね、そういう不良少女はいけそうじゃないですか。そんなこんなで中学時代の僕は、そういう不良は怖いので遠くで見てるだけでしたけど、「金もってないならアタイの生殖器舐めな!」とかカツアゲされるのを夢見てドキドキしてたんです。
時を経て蘇る記憶。幾年かの時を経て今、目の前にあのいけない妄想をした不良少女がヤンキー女となって現れた。まあ、ドキドキしますわな。こう、あらぬ妄想も膨らみます。
「なにやってんだよー」
しかしながら、そんな色気とは無縁な感じでこうグリグリと肩の所にパンチしてくるヤンキー女。明らかにエロい展開など期待できない雰囲気、それどころか本当にカツアゲされそうだ。
「テメー、エロ本でも買ってたんじゃねえのかよー」
鋭い。ドイスル。まさかそこまでお見通しだったとは。なかなか侮れませんな。そう思うと同時に「エロ本を買った」→「買う金がある」→「金よこせよ」→「出さないなら彼氏(組所属)に頼んで殴ってやる」みたいな王道的カツアゲパターンが頭に浮かんでしまったんです。
「か、関係ないだろっ」
確かそんな感じで拒絶したと思います。買ったばかりの「1+2=パラダイス」の紙袋を抱えるように守り、その場を離れようとしました。
「おい、待てよ!ちょっと待てよ!」
しかししつこく追いすがるヤンキー女。そこで僕はそのしつこさと、カツアゲされてなるものかというキモチ、本屋の時点で若干イライラしていたのが相まって怒ってしまったんです。怒りが頂点に達してしまったのです。どんだけ短気やねん。
「カツアゲしようたってそうはいかないぞ!」
結構大声で叫んでました。まあ、キチガイですわな。それを受けてヤンキー女もビックリして目を丸くしていたんですけど、すぐに反論してきたんです。
「そんなんじゃないだろ!懐かしいから話しかけただけだし!」
その姿はヤンキーでも何でもなく、少女でした。しおらしい感じで少しかわいく、ヤンキーな出で立ちや中学時代の不良少女っぷりが嘘のようでした。なんかちょっと怒鳴って悪いことしたなって思ったんですけど、怒った手前、いきなり優しくするわけにはいきません。
「どうだか!俺の金を狙ってるんだろ!」
いやいや、莫大な遺産は持ってるけど身寄りのない老婆じゃないんですから人を疑うにも程があります。ホント、怒りって人を狂わせるよ。
ヤンキー女は僕のあまりの怒りに不安になったのか、「話をしたいだけだろー」みたいな感じで擦り寄ってくるんですけど、もう怒りで我を忘れちゃってる僕は取り合いません。しばらく押し問答が続き、ムキになったヤンキー女がとんでもないこと言い出しました。
「そんなに怒るなよー、なあー、機嫌直せよー、おっぱい触っていいからさー」
なんということでしょう。なんでオッパイとかそういうレベルのお話になってるのか分かりませんけど、まあ、言うなれば大チャンスじゃないですか。こう、なんていうか、中学時代の妄想が現実のものとなりつつあるじゃないですか。できることなら揉みたい、揉みしだきたい、そう思うのが世の常ですよ。
けれどもね、さっきまで怒っていた男が急にオッパイモミモミとか明らかに狂ってるというか、どんだけオッパイ好きなんだよって話じゃないですか。プンプンッ!モミモミ!とか情けないにも程があります。もう怒ってしまった手前、
「知るか!帰る!」
とその場を離れるしかなかったのです。間違いなく断言できますけど、僕のこの先の人生でヤンキー女のオッパイを揉めるチャンスなどありませんよ。気の強いヤンキーがオッパイを揉まれて甘い吐息を吐くなんてありません。言うなれば、怒ったことによって人生最大のチャンスを逃したのです。怒りさえしなければヤンキー女のオッパイを揉めていた。たぶん舐めたりもできたと思う。
怒りとは愚かな行為です。僕はこの事件を契機に怒ることを止めました。何があっても雄大な大自然の如く心を穏やかにし、栗拾いに誘われなくても、饅頭がもらえなくても、ウンコの疑いをかけられようとも怒ることなく平穏と日々を過ごしてきた。けれどもね、つい先日、怒り狂う事件が巻き起こったのです。
あれは、先日のことでした。季節は秋から冬へと移り変わり、朝夕などは肌寒さを感じるようになった頃、僕は女だらけの部署で机を並べて仕事をするというハーレムみたいな状態に陥ってました。
まあ、男も数人はいるものの、これだけ女性が、いやいやこれだけの人間がいる場所で働くというのはあまりない経験で、いつもは個室で働いているものですから女の良い匂いがするなーとか考えながら仕事していたんです。
けれどもね、そういう状況ってある意味過酷じゃないですか。こう、女性が大量にいる場所で仕事なんてしてると、こいつらが全員性の奴隷だったら誰から相手するか、月曜日はあの娘だな、火曜日はあいつ、金曜日は週末だからハッスルしてあの娘とあの娘、とか考えるじゃないですか。まあ、それって結構普通なことだと思います。でもね、そうしてるとどうもエロスな気持ちが爆発して仕事どころじゃないんですよ。
こう、なんていうんですかね、別に誰かのパンツが見えたとかそういうトリガーがあるわけじゃなくて、突如としてエロい気持ちが昂ぶってくるんです。野獣ですよ、野獣。もう、満月を見たら大猿に変身しそうなレベルで野獣です。
こうなるとお手上げで、もうどんなに仕事をしようと頑張ってみても手につかない。 Microsoft wordを開いてみても解説のイルカが淫靡に微笑み、たぶん哺乳類だからヤれるはず、と邪(よこしま)な考えが脳裏をよぎる。これではイカン、と Microsoft Excelを開くと、縦横無尽に規則的に並ぶセルたちが、乳房の色が濃い部分、いわゆる乳首の皮膚細胞をすごい拡大した時の絵図に見えて仕方がない。とてもじゃないが仕事をする精神状態じゃなかった。
なんか圧倒的なデジャヴを感じずにはいられないのですが、そうなってくると許されるならば職場でデロローンとオナニーでもかましたい気分なんですけど、さすがにそういうのってアレじゃないですか。職場でオナニーとか普段の個室なら楽勝ですけど、こんなに人がいる場所でやったら間違いなく逮捕とか起訴とか送検とかそんなレベルのお話です。そりゃTKも逮捕されるわ。
ここは我慢しなければならないとジッと耐え忍びました。でも、そうやって我慢してるにも関わらずムワーンと女性特有の甘い香りが漂ってきたりなんかしてもう限界。こりゃいよいよヤバいぞって時に天才的考えが閃いたのです。
「オナニーしないまでもエロい動画を見よう」
オナニーに至らないまでもエロい動画を見れば生贄を捧げられた野獣の如く大人しくなるはず。幸いにして今はインターネットで手軽にエロ動画を鑑賞できる、イヤホンも装備しているので喘ぎ声とかバッチリ、早速見てやろうと急いでユアナントカホストというエロ動画の天王山みたいなサイトにアクセスしました。
色々と吟味した結果、今日はAV女優が露天風呂に入っていたらいきなり混浴になって周りのカップルが絡みだす、みたいなドッキリ系のエロ動画を鑑賞しようと決断、さて、いっちゃいますかな、と風のやうにアクセスしました。
そしたらアンタ、動画にはアクセスできるんですけど、全然音が出ないじゃないですか。こう、画面ではカワイイ女優がいきなりの混浴に驚いているんですけど、全く音声が出ていない。イヤホンから何の音も聞こえてこない静寂の世界。
もうね、怒った。怒り狂った。ハッキリ言ってエロ動画とかエロビデオって視覚でも楽しめますけど、聴覚での楽しみのほうが多いじゃないですか。こう、綺麗な女優さんがヘロヘロになって喘いだりとか、そういうのが興奮するじゃないですか。なのに音が全く鳴らないとなると楽しみの半分以上が失われたことになります。
怒りのあまりノートパソコンを逆に折り畳んでやりたかったんですが、さすがに備品ですのでそういうことしたら弁償とかそういうレベルの大人の話し合いになりますのでグッと我慢。落ち着いて、怒りを鎮めて対策を練ります。
まず、この音が出ないという現象はユアナントカホストだけなのか、それともこのパソコンが壊れているのか、それとも人智を超えた特殊な力、いわゆる超常現象が起きていて「音が出ないのは霊のせいだ、スカリー」「疲れてるのよ、モルダー」なのか、そこから探らなければなりません。そこで、適当に音楽をかけてみようと落ち着いて大橋のぞみちゃんの「崖の上のポニョ」のCDをかけてみました。
しかし、全くの無音。パソコンの中でCDが回転する音と、隣の席のブスの鼻息しか聞こえてきませんでした。つまり、ユアナントカホストが悪いわけではない。パソコンがおかしいのか、霊の仕業なのかということです。
次に、落ち着いてパソコンの諸設定を確認します。この辺はパソコンに詳しく、高校生時代は天才ハッカーファルコンとして名を馳せていた僕には造作もないこと。ちょちょちょいと確認したところ、音量設定は最大でしたし、ミュート設定にもなっていませんでした。パソコンも悪くない。
いよいよ霊の仕業である可能性が高まってきたのですが、さすがにそれはないだろうと思い、やはりパソコンがまずいんだ、と思い、インターネットで色々と検索をしてみました。
「パソコン 音が出ない」
とかで検索するんですけど、何を血迷ったか
「パソコン 音が出ない 巨乳」
とかで検索してしまって何がしたいのかよくわからない状態になってました。
で、実際に皆さんも検索してみると分かると思いますけど、「パソコン 音が出ない」で検索してみると分かると思いますけど、そすするとパソコントラブル駆け込み寺みたいなページがいくつも表示されるんですよね。そこでは「音が出ません」という相談に対して色々とパソコンに詳しい専門の人がアドバイスしてくれるみたいなんです。
おお、これは渡りに船とばかりに思いっきりアクセスしてみるんですけど、そこでまた腹が立ったんですよ。いやね、
「パソコンの音が出ません、どうしたらいいですか?」
「パソコンの音量設定は適切でしょうか?ミュートになっていませんか?それを確認してください」
みたいな返答を平然としてやがるんですよ。どこのページを見てみても大体がそういった返答に終始してる、何考えていらっしゃられるんですか。
あのですね、あまり言いたかないですけど、そういうのって思いっきりバカにされてるじゃないですか。テレビの電源が入らない!という質問に電源ボタンは押しましたか?って返答してるようなもの。そんなのね、そういった音量設定とかミュートとか確認したけどダメだったから困って相談してるに決まってるじゃないですか。もっとこうパソコン相談室みたいなのを銘打ってるなら高度な解決法とかを明示して欲しいものです。
確かにまあそういった音量設定をしてないとかミュートにしているとかそういったケアレスミス的な失敗をしちゃう人が多いんでしょうけど、ぶっちゃけるとそういう人ってバカじゃないですか。部族じゃないですか。バカはパソコンでエロ動画みるのは10年早いですよ。そういう人は音の出ないパソコンで我慢してりゃいいんです。
とにかく、僕の場合は明らかに勝手が違う、もっとこう、Windowsのシステムがおかしくなってるとかそういったレベルの高度な傷害だと判断。仕方ないので2時間かけてWindowsをインストールしなおしました。僕ぐらいのハッカーになると分かるんですけど、こういったシステム的な障害ってヤツはWindows入れなおすと大抵直るんですよ。
で、やっとこさインストールしなおして、エロ動画見れるぜって思いっきりユアナントカホストにアクセスするんですけどまたもや音が出ない。もうどうしていいのか分からなくなっちゃいましてね。こりゃあ米軍の攻撃かもしれないって思ったんですけど、仕方無しにサポートダイヤルみたいな場所に電話しました。
電話をかけてみて分かったんですけど、ああいうところって全然繋がらないのな、なんか「お待ちください」みたいなアナウンスと音楽が延々と流れて繋がらない。多分、多くの素人が、それこそミュートになってたレベルで困り果てて電話してるんでしょうけど、そういう素人はパソコンでエロ動画とか10年早いっすよ。僕はもっとテクニカルな、それこそWindowsの根幹に関わりかねない問題なわけ、だって再インストールしても直らないんだぜ、ホント、庶民や素人は大人しくしてろよ、とイライラしながら待ちました。
「お待たせしました。担当、山岸でございます」
やっとこさ繋がり、電話の向こうには透き通った声の女性が出ます。もうイライラがマックスになってる僕は、本当に嫌なやつなんですけど
「すごい待ちました」
と皮肉たっぷり。もう色々な怒りで我を忘れそうなんですが、落ち着いて症状を説明します。こういった場合、正直な状況説明が解決への近道だったりしますので、何も隠すことなく起こったことを伝えます。
「あの、ユアナントカホストってエロい動画のところがあるじゃないですか」
「はい」
「あそこにアクセスして、露天風呂が突然混浴になって周りのカップルが絡みだすって言う動画を見ようとしたんです」
「はい」
「そしたらですね、音が出ないんですよ。全く音が出ないんです。盗撮風味な動画だから音なしなのかなって思ったけど、それっておかしいじゃないですか、ついでにCDかけても音が鳴らなくて、すごい困ってるんです」
「はい」
こっちが恥ずかしい想いをして見ようとした動画の詳細な名前まで言ってるのに全く動じず「はい」と言ってるお姉さんに腹が立ったんですけど、なんとか怒りを抑えてお姉さんの解決策を聞きます。
「それではまず、音量のチェック、それからミュートになってないか確認しましょう」
ここでまたブチギレですよ。あのな、こっちはその辺の雑魚とはレベルが違うんだよ。そんなのはとうに確認している。もっと技術的にハイテクニックな部分で音が出なくて困ってるんだよ。そういう高度な解決策が聞きたくて電話してるわけ。すっごい待って電話してるわけ。それが何を得意が押して「音量のチェック」だ。それだったらもうお前が露天風呂がいきなり混浴になって周りのカップルが絡みだして、自分も知らない男に責められ始めた感じで喘ぎ声出してくれた方が早いわ。
「いや、それは確認しました」
「いえ、もう一度確認しましょう」
もう怒りでお姉さんが何言ってるのかわからないんですけど、
「だから確認しましたって」
「もしものことがありますので、一緒に確認しましょう」
「もう何回もしました!僕をバカにしてるんですか!もういいです!」
とかブチギレて電話をたたっきってしまいました。いやはや、文章にしてみると本当に酷い。普段はこんなことないのに怒りって我を忘れさせるね。
とにかくプンスカと怒りながら、何回もエロ動画をクリック、それも一番女優さんが喘いでるであろうシーンを再生しまくりますが、それでも音はピクリとも鳴らない。さすがに不安になってもう一度音量設定やミュートになってないか確認、やはり音量は最大でミュートにもなってない。イヤホンが悪いのかと抜いてみるのですが、それでもスピーカーから音は聞こえなかった。
やはりそうなんだよな。僕は素人でも何でもないですから、そこらへんの主婦みたいにそんな根本的な部分でミスを犯してるわけがないんです。音が鳴らない!テヘッ!音量設定が小さくなってました!こんなバカな事があるはずないのです。
一体何が原因なのか、もう僕はこのパソコンでエロ動画をみることができないのか。画面を流れる無音の動画、静寂の世界を眺めながら、もう完敗、と机に突っ伏したその瞬間でした。
問題のパソコンはノートパソコンなんですけど、絶望に打ちひしがれて机に突っ伏したその瞬間。パソコンの側部にとんでもないものが。
音量設定のダイヤル
ギゃー、なんだこりゃ。なんでこんな場所に音量設定が。もしかしたらこのダイヤルを回したら音が出ちゃったりするんじゃ、はい、もちろん、元に戻したら音が出ました。テヘッ!音量設定が小さくなってました!
とにかく、焦ってダイヤルを戻したら。
「あああああああああああああああああああああ、ダメ!人が見てる!あああああああああああああああああああ!チャプチャプ(温泉のお湯の音)」
とか、動画再生しっぱなし、イヤホン外しっぱなし、音量最大、女が沢山いる静寂のオフィス、という考えうる限り最高に最悪な環境で音が出たのでした。死ぬかと思った。
怒りとは自分に盛る毒です。怒ったって何も良いことはない。怒るということは誰かに投げつけるために直火にかけた石を素手で握るようなものだ、なんて言葉があるくらい、それくらい愚かな行為なのだ。僕だって怒りさえしなければ、冷静に対処さえしていればヤンキー女のオッパイも揉めていただろうし、女性だらけの職場で大音量でエロ動画をロードショーしなくてすんだろう。本当に怒りとは愚かだ、もう怒らないようにしよう、32歳にしてまた新たに決断するのだった。
あの「露天風呂が突然混浴になって周りのカップルが絡みだすって言う動画再生事件」以来、僕だけ饅頭もらえないとかそういうレベルではなく、僕のデスクの上に綺麗な花が飾られるという状態に陥ってるのだけど、それでも僕は怒らない。だって怒るのは愚かな行為なのだから。
静かなオフィスに飾られた鮮やかな花、それこそが静寂の世界だった。