こんにちは、M&A会計士の澤村です。

 

のれん償却の是非シリーズ、本日はのれん償却期間をどうするか(後編)です。

 

さて、のれんの償却期間は何年がいいのでしょうか?

 

結論から言うと、私の考えはその投資の想定回収期間です。

 

M&Aは一種の投資ですし、投資である以上投資した分は将来回収でき、かつ投資額以上の利益を得ることを期待して投資します。回収期間とは、その投資額と同額の累計リターンを得られる期間のことです。

たとえば、その投資が10億円で、毎年1億円の利益を生むとすれば、10億円÷1億円=10年で回収となりますよね。この場合の投資は、10年分の利益の先買いともいえるわけですから、のれんが発生したとすれば10年で償却するのが合理的ではないかと考えています。

投資額10億円の内訳が時価純資産7億円、のれん3億円だとすれば、3億円÷10年=3000万円の償却という計算です。

 

投資回収期間をもっとなじみの表現でいえば、PERですね。利益の何倍の株価をつけたかという意味です。利益の10倍つけた(PER10倍)なら10年、5倍(PER5倍)なら5年という計算になります。

 

買収対象の会社によっては、非事業用資産が多額にあるとか、有利子負債が大きいとかのBS状況の違いがありますので、正確に言えば単純なPERといよりは、EV/当期利益で計算するのが良いかと思います。

 

直近の利益は小さいけれど、将来の大きな成長を見込んでいる場合、PERだとバカ高い数字になってしまいます。そういったケースはDCFで評価しているかと思いますので、その割引率で計算すればよいと思います。

詳細な説明は割愛しますが、DCFの割引率は、いわばPERの逆数ですので、割引率が5%なら20倍で20年、10%なら10倍で10年といった具合です。

 

ただ、正直、ちょっと迷っているのが、この投資回収期間の計算に、時価純資産込みの投資額での計算でいいのか?という点です。

投資回収という意味では当然時価純資産分も込みであるべきなのですが、中小企業M&Aの株価算定でよく用いられる時価純資産+営業権法の存在と計算方法を考えると、のれん部分だけで何年回収になるのかを計算するのもありなのではとも迷っています。

 

時価純資産+営業権法でいう営業権は、ほぼのれんと同意語です。

 

で、中小企業M&Aの現場では、こののれんを利益の数年分で計算するといった実務慣行が一般的になっています。

コストアプローチとマーケットアプローチの折衷法的な評価方法で、バリュエーション的にロジカルなのかといわれると微妙なのですが、非常にわかりやすいので多くの中小企業M&Aで使われています。

 

ベースになる利益は、会計的に正しい営業利益から、中小企業特有の事象(例えばオーナーが思いのままに設定できる役員報酬や節税保険など)を控除したものを用いられることが一般的ですが、一部仲介会社ではEBITDAを用いるところなどもあります。

 

で、これを何年分とするかは、ある意味交渉次第なのですが、営業利益ベースで3~5年程度が多いのです。税引後になおすと5~8年程度ですね。5年の利益を上乗せしたのなら、同じく5年で償却するという考えも費用収益対応の考えからくるとありだなと。

 

みなさんは、どう思われますでしょうか?

こんにちは、M&A会計士の澤村です。

のれん償却の是非シリーズ連投すいません。
今回は、償却期間をどうするか?(前編)です。アナハイムののれんはどうなるか?とM&Aの活性化につながるか?という点については、もう少々お待ちください。

私がのれん償却不要論に反対の理由のもう一つの大きな理由として、重要な企業会計原則の一つである費用収益対応の原則に反するというのもあります。

費用収益対応の原則とは、毎年の利益を計算するにあたっては、その年度に獲得した収益と、その収益獲得に要した費用は同じタイミングで認識しようという考え方です。どれだけ儲かったかを適切に計算するにあたって、非常に重要な原則です。
この原則から導かれる代表例が、設備などの減価償却です。例えば、10年使える設備に100億円投資したのなら、この100億円を10年にわたって費用認識しようという会計処理です。

のれんの償却もこれと同じ考え方から、効果の及ぶ期間に応じて償却が求められてきたわけですが、のれん償却不要とする会計処理は、この考えに真っ向から反する処理となります。

M&Aってある意味、対象会社が生み出す将来の利益を買っているんですよ。将来の利益を買うために投資コストをかけているのに、それが費用化されないっておかしくないですか?増益しました、成長しましたって言っても、それお金出して買った価値でしょ?コストかかっているんだから、増益したとしてもそれにみあって、費用認識すべきでしょ? という話です。

ここで一つ大きな論点として、のれんの償却年数の問題があります。将来の収益に対応させるというなら、何年がいいのか?という問題です。
日本の会計基準では、のれんの償却年数って20年以内の効果のおよぶ期間ってされていますが、多くのケースでは過去の慣行に引っ張られて5年としているケースが多いんですよね。

毎年10億円の利益を上げる会社に対して、100億円ののれんをつけたとしてして、償却年数が20年なら100億円÷20年=5億円/年で済むので、連結利益は10億-5億円=5億円となり、のれん負けはしません。しかし、これが5年だと100億円÷5年=20億円/年も発生し、連結利益は10億円―20億円=△10億円と大きくのれん負けするわけです。

のれんの償却年数の決め方って明確な基準があるわけじゃなくて、ある種監査法人との交渉的な側面もあるのですが、M&Aに積極的な企業は何年を採用しているのでしょうか?

まずは、積極的なM&A戦略でグループを拡大してきたイオングループ。開示資料を見ると、案件ごとに判断しているものの、このところの大型買収(ウェルシア、イオンモール、オリジン東秀など)では最長の20年を採用とのこと。個別に見たわけじゃないですが、さすがに20年もあれば、よほど金額が大きいケースを除き、のれん負けはしなさそうですね。

最近話題のM&A積極企業としてのSHIFTは主に10年、GENNDAは10年から12年となっています。

要は、M&A積極企業は、監査法人が5年というから5年としているわけじゃなくて、ちゃんと議論してこの年数に落ち着いたのだと思います。

では、いったい何年がいいのでしょうか?

こんにちは、M&A会計士の澤村です。

 

「アナハイムエレクトロニクス社ののれんは?」という検討してみると面白そうなお題をいただいたので、のれんの議論で非常に重要なPPAの例として、一年戦争後に一年戦争後にジオニック社を買収する話をベースに取り上げようかと思うのですが、話が飛んじゃうので、いったん前回の続きから

 

M&Aが買い手株主の価値に与える影響について、具体数字で説明したいと思います。

 

ファイナンス理論的に、株主に帰属する価値って、その会社が行っている事業そのものの価値(事業価値といいます)に、事業そのものには使っていない余剰資金やそれを運用している資産の価値(非事業用資産価値といいます)を合計した企業全体の価値から、企業へのお金の出し手である債権者に帰属する価値(有利子負債等)を引いた残りだと考えられています。

 

すなわち

 

株主価値=事業価値+非事業用資産価値-有利子負債等

 

という関係式があります。

 

X社がY社を買収した事例において、以下の状況だったとしましょう。

X社の株主価値=X社の事業価値1000億円+非事業用資産価値200億円-有利子負債等ゼロ=1200億円

Y社の株主価値=Y社の事業価値110億円-有利子負債等10億円=100億円

 

この状況で、X社がY社を現金100億円で買収したとすると、X社の株式価値はどうなるでしょうか?

買収でY社分の事業価値110億円を獲得できるものの、Y社の有利子負債等を10億円引き継ぐ上に現金100億円だけ持っていた非事業用資産価値がY社株主に渡されるわけですから、X社の株主価値は

 

X社の事業価値1000億円+Y社の事業価値110億円+X社の非事業用資産価値200億円-Y社の有利子負債等10億円-Y社株主に支払った現預金100億円=1200億円

 

と、実は買収前と変わらないんです。適正な価格で買収したとしてです。

 

なのに、のれんの償却無しで、M&Aで利益増えました!成長しました!株主の価値を向上させました!みたいに見せるのって、すっごい違和感なんです。

 

さらに、これがもし売り手であるY社の株主が160億円でしか売らないから160億円で買収したとしたら、どうなると思いますか?

 

X社の株主価値=X社の事業価値1000億円+Y社の事業価値110億円+X社の非事業用資産価値200億円-Y社の有利子負債等10億円-Y社株主に支払った現預金160億円=1140億円

 

と、当然ながら適正な価格より高く買ってしまった分、株主価値が毀損しちゃうわけです。

 

そうしたリスクを減らすために、のれん償却による歯止めって重要だと思うんです。