私たちは、とにかく多くの文字を使います。
ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット…
中でも、特に扱いの難しいのが漢字ではないでしょうか。
ご存知のように、漢字は古代中国に発生した文字です。
しかし、日本では一般に、「峠」「辻」などの、
いわゆる国字を含めて漢字と呼んでおり、読み方も実に複雑です。
日本語が習得し難い言語であると言われる所以は、
こういった文字の組み合わせが多岐にわたっているところにあります。
ところで、私は「峠」という漢字を見ると思い出すことがあります。
中学生のころ、国語の教科書で読んだ詩。
十数年が経った現在でも、鮮明に思い出される詩。
私が初めて「詩のこころ」に触れた詩。
峠
真壁 仁
峠は決定をしいるところだ
峠には訣別のためのあかるい憂愁がながれている
峠路をのぼりつめたものは
のしかかってくる天碧に身をさらし
やがてそれを背にする
風景はそこで綴じあっているが
ひとつをうしなうことなしに
別個の風景にはいってゆけない
大きな喪失にたえてのみ
あたらしい世界がひらける
峠にたつとき
すぎ来しみちはなつかしく
ひらけくるみちはたのしい
みちはこたえない
みちはかぎりなくさそうばかりだ
峠のうえの空はあこがれのようにあまい
たとえ行手がきまっていても
ひとはそこで
ひとつの世界にわかれねばならぬ
そのおもいをうずめるため
たびびとはゆっくり小便をしたり
摘みくさをしたり
たばこをくゆらしたりして
見えるかぎりの風景を眼におさめる
この詩を、卒業を間近に控えた教え子たちに贈ります。
by スグル