『仔猫』という落語があります。
田舎から出てきたおなべという名の女子衆が、
船場のとある問屋に奉公することになりました。
はじめのうちは「オモロイ顔したけったいな女やなぁ」と、
男衆は少し毛嫌いをしていたのですが、
人間というものは、うわべだけで判断するものではありません。
このおなべという女衆、それはそれは気持ちのよい働きもので、
ひとが見ているとか見てないとか、そんなことには全く関わりなく、
自分の方から用事を作っては、それを次々に片づけていき、
そのあと「片づけました」というしたり顔などひとつもしないのです。
みんな好感を持っておなべを見るようになりましたが、
同じころ、妙なうわさが流れるようになったのです。
おなべが夜な夜な塀を飛び越えて走り回り、
部屋で血染めの肉を食らっているというのです。
おなべの留守中、番頭が部屋を調べてみると、
衣装箱の中に、何の獣かわからない、赤や白、黒、まだら、
いろんな毛皮が血みどろになって入っているではありませんか。
恐る恐る番頭が問いただすと、おなべは話し出しました。
おなべの父は、山猟師だったのです。
親の因果が子に報いたのか、7つの時に飼い猫が、
足を噛まれて帰ったのを舐めてやったのが始まりで、
猫の生き血の味を覚え、それからというもの、
仔猫と見れば、捕って食うのが癖になったというのです。
日のあるうちは何とか辛抱できるけれども、
日が暮れて闇が迫れば心が乱れ、締まりを越えて町へ出て、
猫を捕らえて喉笛へ喰らいつくまで夢うつつ。
生暖かい猫の血が、喉元過ぎれば我が身に返り、
また益体もないことをしたと悔やんでも、あとの祭りというわけです。
今日限りやめます、手足を縛って寝ますから、
どうぞ、ここに置いてくださいと、おなべは必死で頼み込みます。
すると、かぶりつかれるかと思っていた番頭は、
猫を捕るだけの話じゃないかと、安心してこういいます。
「しかし、因果なもんやなぁ、昼間あんなに明るいあんたが…
「夜になって猫をなぁ…あんた、猫かぶってたんかいな」
怪談やいわゆる怖い話は、夏の風物詩のひとつとされます。
「身の毛がよだつ」とか「背筋が寒くなる」などというとおり、
怖い話を見聞きすると、いっとき暑さを忘れてしまいます。
目を覆いたくなったり、耳を塞ぎたくなったりしても、
「恐いもの見たさ」といって、案外ひとは怖い話が好きなものです。
by スグル