来る日も来る日も翻訳作業に追われていて、
ふと、ある詩を思い出しました。
山のあなた
カール・ブッセ
山のあなたの空遠く、
「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。
噫(ああ)、われひとゝ尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く、
「幸」住むと人のいふ。
上田敏「海潮音」
カール・ブッセは、ドイツの詩人で、
上記の詩は、明治38年に刊行された翻訳詩集の傑作、
上田敏の「海潮音」の冒頭で紹介されたものです。
文学の世界に限らず、芸術的分野においては、
原典・原作至上主義が台頭していますが、
翻訳家の手によって一層輝きを増す作品も少なくありません。
実際に、翻訳作業をしていると、
正直なところ、どう翻訳すればよいのか、
まったく見当もつかないことがよくあります。
ことば同士の問題ですから、
必ずしも相互に置き換えが可能というわけではないのです。
とにかく、ことばは難しい。
いまの私にとって翻訳は、語学に携わるものとして、
打ちのめされては自信を失うための作業となっています。
参りました。
by スグル