今週は、やはりこの話にしたいと思います。
我が家にあったのは『ドカベン』でなく『あぶさん』と『野球狂の詩』、そして『白球の詩』でした。さらに言えば『野球狂の詩』は、「史上初の」女子プロ野球選手・水原勇気が登場する以前の部分まででした。このラインナップを見ると、生前の父が高校野球にはさほど興味がなかったことと南海ファンであったこと、さらには女子が野球をするという感覚に違和感を覚えていたことがわかります(息子は、そうは育ちませんでしたけど)。自宅近くの西武球場に西武対南海を観に行った際、三塁側の南海側に座っていたにも関わらず私は石毛やテリー、スティーブを応援したものです(※西武球場は言うまでもなく今のメットライフドーム(3月からベルーナドーム)であり、当時は屋根がありませんでした。さらにホーム・ビジターが今とは逆でした)。ただ、緑の背表紙の『あぶさん』は、熱心に読みました。私が生まれる前からの連載であり、テレビ朝日で「野村スコープ」を繰り出すおじさんがかつては名選手で名監督であったことを知ったのも『あぶさん』でした(※野村克也氏がヤクルトの監督に就任するよりも前の話でした)。そして夢中になって読んだのは、主人公の「あぶさん」景浦安武のライバルであった東尾修の登場回でした。現実の東尾は西武の大ベテラン投手で、日本シリーズでも主戦投手としてカリスマ的な働きを見せていた頃でしたが、西武ライオンズになる前の太平洋クラブ時代の東尾が観られたり、景浦のバットのスイング音がずっと頭に残って苦しんでみたり、と…漫画で若き頃の東尾を知ったのです。フィクションであることを忘れて夢中になって読んだものです。他にも西本幸雄や山田久志、大沢親分、そして藤原満などのかつての南海の戦士たちといった、パ・リーグを象徴するような人々が実に魅力的に描かれていたのです。当時パ・リーグはプロ野球においてはまったく地味な存在であり、テレビ中継で西武戦のカードが組まれたと思ったら中継にも関わらずところどころ端折られたバージョンになっていたり1時間半で打ち切られたりしていたものですが、そのパ・リーグの魅力を教えてくれたのは、間違いなく『あぶさん』でした。
それらを世に出した漫画家・水島新司氏が先日亡くなったと聞いたのは仕事中でした。
残してくれた多くの作品を、また読み返したいと思います。