表題の『花ざかりの森』は1941年の作品です。三島が16歳の時に発表した作品でしたが、全くわけがわかりませんでした。これは私の実力不足という部分もあるのかもしれませんが、とにかく書かれていることがいろんなエピソードに散らかって飛び、時系列を追うことすら至難の業でした。そういった観念から遊離して味わうべき作品なのかもしれませんが、そこに横たわる16歳の三島の世界観を感じる実力が私にはありませんでした。しかし、やばい16歳です。今の16歳がこんな作品を書いたら、かなり驚きます。
とはいえ三島は自身が寄せた文庫版の解説でこの自作を酷評しています。この文庫本の表題になってしまったのは出版社がどうしてもというので仕方なくそうしたと書いています。
「読んでみてちんぷんかんぷん」という私の感想は、もしかしたら「裸の王様」的な感想なのかもしれません。それらしい解説(「立派な服をお召しですねー」的な解説)を人は加えてみるものの、実はよくわかっていない…と言ったら、怒られますよね。
己の文学的実力不足としておきます。
すごかったのは、『憂国』です。これには圧倒されました。時は1936年2月26日です。四谷の新婚軍人夫妻は事件の後、自害しますが自害に至るディテールが、ただただ凄まじいです。自害を決心した男のために湯を沸かし、酒を用意し、肴を用意し、そして後を追う前に「腐敗して見苦しいのは嫌」と思って家の鍵を開けたまま喉を掻き切る妻。新婚なのに…絶句しました。ただそれは表題の通り国を憂えたがゆえの自身の信念に基づいた行動だったのですから、その時代に生きる若き軍人の群像に対して慄くほかできませんでした。
安心して読めたのは『遠乗会』という小品でした。これは息子をたぶらかした女を一目見ようとしてその女が参加する乗馬の遠乗りに参加してしまうちょっとイタいお母さんの話なのですが、舞台が何と市川橋なのです。東京都と千葉県の境を流れる江戸川に架かる国道14号線の市川橋です。今では「ようこそ千葉へ」という看板が掲げられて車が行き交うあの市川橋です。大手町(だったかな?)あたりから馬乗りたちは東へ進み(目的地は習志野だったか船橋だったかどちらか)、市川橋で騎手が交代するのです。そして市川から馬に乗ることになっている母は件の女をこの市川橋で待ち構えるのですが、そこで出会ったのはかつて恋した将軍。あの市川橋で馬に乗るお金持ちたちが続々と現れるという、今ではまあ見ることができないであろう光景を楽しみました。この小品、終わり方もよかったです。
巣ごもりは続きます。このブログも本と映画ばかりになりそうです。
今日は、模様替えです。