三浦しをん『風が強く吹いている』 | 町田ロッテと野球散策

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いやぁ、野球って、本当にいいものですね。

 お正月は大概好転に恵まれる。たしかに、降られた記憶がない。因みに旧年十二月三十日の雨はわが社にとっては大打撃だった。不思議なものである。ただこの天気のお蔭で、布団を干す事ができた。

 今年初めての休日は、箱根駅伝を見た。布団干しや洗濯等の家事をこなしたのはコマーシャルの間である。案外コマーシャル多いのね、箱根駅伝。

 ただ日本のお正月の定番である箱根駅伝をまともにテレビで見たのは、今年が初めてかもしれない。これまでは仕事とマリンでの初売りがかぶっていたのである。さて、箱根。復路からの観戦となったが、急に箱根熱が沸いたのは、実は読書の影響である。



 三浦しをん『風が強く吹いている』。映画化もされた作品である。あいにく映画は見ていないのであるが、女流作家である三浦がひょんなきっかけで箱根を目指すことになった十人の男を描いた青春小説なのである。この作品を通して、「走り」、ひいてはスポーツの素晴らしさを改めて知ることができる。箱根を舞台とした作品・・・いや、箱根駅伝を舞台とした作品は画期的である(箱根を舞台とするなら、西村京太郎あたりがきっと書いているかも)。清々しい読後感もさることながら、読んでいるうちに読者も六郷橋を渡り、権太坂に苦しめられ、遊行寺(ゆぎょうじ)で息を切らせ、神奈中バスを横に平塚界隈を横切り、ロマンスカーとともに目指すは天下の険。速いことだけが、箱根での強さではない。駅伝は孤高の個人競技であるとともに、人を恃(たの)むことの重さをひしひしと感じて臨む団体競技なのである。繋ぐ襷(たすき)に込めた想いは、まさに人と人との尊い繋がりである。

 小説で読んだ「寛政大学」のあの走りを思い浮かべながら見た箱根の復路は、やはり圧倒的であった。六区の山下りは大会を終えていくらかはまともに練習できないほどの負担を足に強いるという。そしてものすごいスピード感。そして選手は小田原からの七区、平塚からの八区、戸塚からの九区へと襷を繋ぐ。二十のチームは、様々な状況で己の全力を出し切る。中央、城西の両大学は往路での棄権があったためのオープン参戦。いくら頑張っても記録が残らないという状況の中で八区の中央大走者はなんと区間賞の選手を上回るタイムでの懸命な走りを見せた。トップの日体大は平均的に強さを見せて先頭を独走するが、二位以降は激しい順位変動があり、懸命な競り合いがあり、ある者は前の背中を大きくしてついにはそれを後方へと振り切り、ある者は離される中にも息は上がり、息は苦しくなる。そして全てを出し切り、襷を繋ぐ。とにかく壮絶で、各シーンが心をうつ。素晴らしい戦いだった。

 日本のお正月には、箱根がある。聞けば、もう八十九回目の箱根だそうだ。年頭に、スポーツの素晴らしき世界を見せてもらった。二〇一三年、感覚を研ぎ澄ませてそれを体感しようではないか。勝敗を超越した、それを。



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