この記事の目的は、変体仮名(明治時代以降使われなくなったカナ)の読み解きという、超アナログ的な挑戦にあります。なお私の読み解きなので、多少の間違いはあるかもしれません。
藤原定家が鎌倉時代初期に編纂した「小倉百人一首」から、詠み人が有名な人の歌12首を、その筆書き図とともに掲載しました。書と現代語訳は「書道お手本百人一首」(金園社刊)より引用しました。なお百人一首はほぼ時代順に並んでいます。
1,
・天智天皇:大化の改新及び白村江の戦いを率いた、有名な天皇。第38代。
・秋の田の かりほの庵のとまをあらみ わがころもでは 露にぬれつ々
・秋の田の 仮庵の庵の苫を荒み 我衣手は 露にぬれつ々
・秋も深くなってくると、田のほとりに立っている仮小屋は、屋根を葺いた苫の目が荒く、粗雑にできているうえに朽ちたところもあって、田守をしているわたしの着物の袖は、ずっと夜露に濡れ通しなのです。
2,
・持統天皇:天智天皇の娘で、天智天皇の弟の天武天皇の后。天武天皇の没後に女帝として即位し、藤原宮を造営の上遷都した。
・春寸ぎて 夏来にけらし 白たへの 衣ほすてふ 天の香具山
・春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
・知らぬ間に、いつしか春も過ぎて夏がやってきたようです。見渡すと香具山に白い衣が干されています。
3,
・在原業平朝臣:在原業平、平安時代初期の歌人で、稀代のプレイボーイ。薬子の変のあおりを受けて臣籍降下。伊勢物語の作者で、伊勢神宮に仕える斎宮との密通事件も起こした。
・ちはやぶる 神代も聞かず たつた川 からくれなゐに 水くくるとは
・ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは
・いろいろと不思議なことの多かった神代にすら聞いたことがありません。龍田川を真っ赤な色に紅葉が散り染め、その下を川水がくぐって流れているということを。「ちはやぶる」は神に懸る枕詞だが、広瀬すず主演のかるた映画「ちはやふる」の題名にもなっている。
4,
・和泉式部:紫式部よりもやや先輩で、和泉式部日記の著者。父が式部丞であり、夫が和泉守であった。大河ドラマ「光る君へ」での登場は不明。
・あら佐らむ このよのほ可の おもひて尓 今ひとたひの あふことも可那
・あらざらむ この世のほかの 思い出に 今ひとたびの 逢うこともがな
・私は間もなくこの世から居なくなると思いますが、せめて現世を過ぎた思い出に、もう一度あなたにお会いしたいものです。
5,
・紫式部:源氏物語の著者で、大河ドラマ「光る君へ」の主人公。吉高由里子演。父が式部丞であることと、源氏物語の重役の「紫の上」よりの命名。
・めくりあひて み志や所連とも わかぬま尓 くもかくれ尓し 夜者の月可那
・めぐり逢いて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな。
・久しぶりに、幼馴染のあなたにめぐり逢ったというのに、それがあなたかどうかも分からない間に、まるで雲隠れした月のように、あなたはあわただしく、姿を隠してしまわれました。
6,
・清少納言:紫式部のライバル、「枕草子」の著者。大河ドラマの「光る君へ」では、ファーストサマーウイカの演。呼び名は父が清原で、女房名が少納言であったため。
・夜をこめて とりのそらね者 はかるとも よにあふさ可能 せき者ゆるさし
・夜をこめて 鳥の空音は はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ
・夜が明けないうちに、鳥の鳴き声をまねて、瞞そうとしても、昔話に聞く孟嘗君の函谷関ならともかく、あなたと私との間の逢坂の関は、決して通ることを許しはしないでしょう。
↓に続きます。