我が家の数ある畑の中にひとつだけ奇妙な畑がある。
奇妙な畑は真ん中に30センチ四方の正方形の石板があり農作業では邪魔になる。どかそうと試みたが重くて固着してるかのようで動かない、両親に聞くと昔からこの畑にあるそうだ。
奇怪な石板、石板というより重くて動かせないから下部は動かせず見ることが出来ないから立方体かもしれないが上部は正方形の石板である。
土が被れば石でも草が生えるのだが不思議なことに石板には畑の土が被ったっ事が無くゴツゴツした岩肌は土砂が積もったことがない
”おい”
「え?」
里芋の畝(うね)で茂った草をとっていると誰かに呼ばれた気がしてあたりを見回してみるが誰もいないし人の気配もなかった。わたしの背後には石板があるだけだった。
決して寂しい場所ということではなく民家は3件ほどだがあるし東側には新幹線の高架、近くにはバス通りがあって交通量は比較的多いし農道にはたまにだが犬を連れた散歩に人が通るので暗くなっても怖くはない。50メートル向こうには川を跨いで新幹線の高圧線が鉄塔を介して走っている、その高圧電線には数匹のカラスがとまり
こちらを見つめているようだ。
「今日は何してた?」
「いつも来るおねえさんと遊んでた」
母は痴呆症でわたしは帰宅すると毎回母親に様子を聴くようにしている。介護士と看護師が週2回来るのだが今日は看護師が来たようだ
昨年までは痴呆症がそれほど進んでおらず母も畑に出て作物を作っていた。
母がおかしくなったのは昨年9月にわたしが感染症になり38度の熱を出して失神し救急車で運ばれた時からだった。
生死の境を彷徨い生還したわたしは退院後に姉からわたしが倒れた時の母の様子を聴く機会があり母はその時泣いたのだろうかと思い聞いてみると驚いたことに母は笑っていたという。それを聞いてわたしは母の痴呆症が進行したのは叔父(母の兄)の死もショックだっただろうが自分のせいだと考えた。
「畑で何をしていた?」
「里芋の草取りだよ」
「おばあさんと一緒にかい」
「ばあちゃんは30年前にお墓の中だ」
「かあさんも畑に行こうよ」
「いやだ!畑には怪物がいる」
「そんなのいやしないから平気だ」
怪物とはカラスの事だと知っていたがわたしは気づかない振りをした。母がカラスの事を異様に恐れるのは毎夜夢でカラスの悪夢を見ているからでそれをわたしは知らなかった。
母は現在87歳だが60歳の頃、母はカラスからゴミ袋を落下してぶつけられた、当時は親しみをこめて意地悪されたと思っていたが
今から考えると昔から恨まれていたようだ。昔、母から聞いたことがある枝豆の野鳥除けに枝豆のマメに薬をつけ其のせいで一匹のカラスが死んだようだ。
そのカラスは珍しいカラスで羽に赤い斑点があったので突然変異のカラス程度にしか思っていなかった。だが長年に渡り恨みを持って
いたと思うとカラスの王族と思えてしまう。
母の痴呆症が悪化したのもカラスの怨念からかもしれない。
母がかご施設に泊まった日の晩、わたしは夢を見た。
トンビと同じ大きさの鳥が畑で農作業するわたしのもとへやってきて母親を助けたいのならわたしが助けてやろうと鳥はいう。その鳥は黒くカラスだったようだが話をすると女神に変身した。実際母は痴呆症が進みいつ命を失ってもおかしくない状態でわたしは覚悟をしていた。
女神や神は温情で動かず見返りを要求するものであるとわたしは知っていたが命の重さと引き換えに出来る対価など今のわたしには用意出来るとは思えない。
女神は言った新米でつくった酒を供えてたもれ
そこで夢から覚めた訳だがそんな夢のことは覚えておらず忙しない朝をいつものように迎えるだけだった。
朝起きたら血圧計で血圧を測り計測が終われば朝食のパンでサンドイッチを作り食べ終わると血圧の薬を飲む、それが終われば30lのごみ袋におむつを収集する。
午前10時薬屋の開店時間になり薬屋に足を運ぶ。
薬屋と言っても大きい店で食品は充実してる、刺身など生ものもあり他店とは一線を画す。
入店には自動のガラスドアが開くのだがそこで積み上げてある買い物かごを取り手の消毒をするが店内にはもう一枚ガラス製の自動ドアが待っている。感染の場合に2次感染を広げないための予防措置
だろうがここがスーパーと薬屋の違いだろう。
店内の売り場で先に目につくのは薬や衛生用品だ、本来薬屋だから当然と言えば当然かもしれない、多くの人が目指すのは食品売り場であろうからこの点が煩わしい。
歩いていると酒コーナーがあったのでワインがなくなったのを思い出しよく飲む安いチリ産のワインを手に取った。レジに行くには自然と日本酒が陳列してある棚の前を通るそこで新作”潮”という日本酒が気になった、いつもなら買うのを迷うのだが買い物かごの中にいつのまにか入れてしまっていた。
”どうして日本酒を買ってしまったんだろう”
考えてみてもわからない買い物ってすることがあると人から聞いたことがある。
笹川慶次は夢で見た女神の事などまったく思い出さなかったまして女神から日本酒の作り方を伝授されていたのも頭の欠片には残っていなかった。
元来、笹川家は古くからカラスを守護していた家だったが世俗の風潮により先祖代々伝わってきた習わしは軽んじられ嫁いできた母多恵にはカラスの事を伝えられていない。これが間違いのもとだった
いくら知らぬ事だったとしても知らないで済ませられないことはあるのだ。カラスの王族を殺めた罪は大きい。
母親の多恵は夜になり眠るのが怖かった、毎夜怪物に襲われる夢を見るからで息子の慶次も母が悪夢で魘されていると知っていたが夢
なのでどうすることも出来ない故に歯がゆさを感じていた。
今日は施設に母が泊まる日だ、2泊三日で宿泊して家にはいない、家にいないから家には父と慶次の二人だけで晩御飯を食べる。父親と慶次はあまり仲が良くなくご飯の最中に会話することはない。
慶次はさっさと先に食べ終わると使った食器を洗い風呂に入る。
風呂から慶次が出ると玄関の引き戸を叩く音が聞こえた。
そういえば今日は年も押し詰まった12月28日、すっかり忘れていたが今日はネットで注文したおせちが配達される日で支払いを代引きにした為支払う必要があるのだがすっかり忘れていた為現金は用意していなかった。
「こんばんは」
「夜分遅く申し訳ありません、カラスの宅配便ですがおせちをお届
けに参りました」
カラスの宅配便?初めて聞く名前で大手ヤマト運輸の庸車かなと慶次は思った。現金はないがこのまま帰らせる訳にもいかず玄関の鍵を解除し玄関を開けると視線の高さに映る人影がいないので周囲を見回したが誰もいなかったがなぜかカラスがいた。
普通なら玄関にカラスがいれば好奇心から気になるところであろうが風呂から出たばかりだったので早く寛ぎたいと思っていた慶次は
父親が座敷で寝ているせいもあり短時間で玄関を閉め鍵を閉めたかったそんな思いがあったので玄関の引き戸を閉めた。
「すみません、すみませんお届け物ですよ」
”がしゃ、がしゃ、がしゃ”
言葉と同時に宅配に来たものは玄関扉を何度も叩き自分の存在を誇示するかのように叩く力が増していく、木製の扉にガラスが嵌めこまれているため高い音で響く。
「おせちは只今サービス期間になっているため代金を頂くことはあ りません」
無料という甘い言葉に釣られ氷のように固まっていた慶次の心を溶かし始めた。部屋から玄関に戻ると再び鍵を開け玄関をあけるのだった。
「本当に無料でいいの」
「はい、次はきちんと頂きますが今回は試食ということを聞いてきました」
「ありがとうございました、またよろしくお願いします」
宅配便が立ち去って数分たった午後9時、再び宅配便がやってきた。
「遅くなってすみません、お節料理をお届けに」
「そんな馬鹿な、おせちならもう届いたよ」
「二重に注文されてませんか?もしくは詐欺に騙されたとか」
「届いたおせちを是非確認なさって戴けませんかうちは注文された匠料亭から配達を頼まれたヤマト運輸です」
先程配達されたおせちを再確認すると先刻は無料のおせちということでろくにおせちを作った店は未確認だったが開封しよく見てみたら”カラスのおせち”と印字された紙が入っていた。
おせちが二つあっても食べきれないのは承知のことだがネットで頼んだのは事実、代金は払わなければならない。
宅配業者は代金と引き換えらしくお金の準備ができたら再配達すると言い残し帰っていった。
来た時に誰かと会ったか尋ねてみたら誰とも会っていないし誰かが来た気配もなかっと言われたには不可思議と慶次は思った。
その晩慶次は夢を見た。
夢にカラスが現れ呪いを末代までかけていないとカラスは言う。
確かに母君は王族のカラスを殺めたが死んだカラスは5男であり親の言うことを聞かずに人の作った作物を食べ死に至った。呪いをかける必要はなく呪われたと考える笹川家の人の誤解を解く為差し入れた。
カラスが消えると女神が現れ慶次は神の子であると言い残し別れ際に墓石に酒を注げと言い残し消滅する、と慶次は夢から覚めた。
目覚めると墓に不自然にあった正方形の石はなんの神かは知らないが神の墓標に違いないと理解した。
”おれが神の子?馬鹿らしいそんな事あるものか大雨から野菜の被害を止められないし米はよその家と同様に豊作にならない、金はないし入ってもこないそんな神がいるものか”
独り言を言った。
おわり
この物語はフィクションであり実在する
人物団体には一切関係ありません