妄想小説日記 わしの作文 -18ページ目

妄想小説日記 わしの作文

わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

「木下の婆ちゃん入浴中に死んだそうよ」

「また入浴中かい、これで8人目でしょ」

「家の事故だからうちには関係ないよ」

 

老人を自宅まで迎えを済ませた女性職員は僅かな休憩時間の間に昨夜起きた入浴事故を訊き密談をした。

 

老人保養施設 黒猫の郷では老人の為の分譲と週1回の宿泊のために老人を預かっていた。しかしここ数年の間に8人も老人が死ぬ事故が入浴中に起きてしまった。それもすべて預かったひとが自宅で

入浴中に起きたのである。

施設の介護には何の問題もないし送迎車の運転も安全運転で問題ないから施設は家庭に問題があったと考えたのも当然だった。

 

10月7日、秋雨が降る中新たな老人を迎えた。

名前を宮城静子88歳の痴呆症が軽度の老婆であるが骨が太く筋力は強く職員たちは面倒が掛からない人が来たと期待した。

この施設は日帰りの老人は預かっておらず最低1日の宿泊からで宮城は2泊3日だった。

その宮城から意外な言葉を聞き職員たちは呆然と立ち尽くした。

 

「清音さんはどこ?」

「清音(きよね)さん、そんな名前の人いた?」

「いないわ、30年前ならいたけど」

「しっ」

 

介護士長の藤沢は手を横に振りこの話をしないように二人を黙らせた。入所日初日だから親しくなった人などいる筈がないのになぜか

清音のことを話した宮城に驚く藤沢だった。

30年前は清音は80代で宮城は50代、親子ほど年が離れているので二人に接点などないので別人の清音ではないかと3人は考えた

のだが宮城から相手の容姿をきくと30年前に施設で死んだ小川清音にそっくりで職員二人は驚愕して言葉は出なかった。

 

午後4時陽は傾き始め寒くなり5時には薄暗くなる。宮城静子にとって2泊目で親しい友人などまだいない、当然宮城の部屋を訪れる人間は職員だけに留まるわけだが足音を立てずに訪れる来客が現れた。

 

「静ちゃん、開けて」

「あら清音さん、さっきはどこに行ってたの」

「歯医者だよ」

 

嘘である、この清音は他の人間には見えず声も聞こえないから宮城静子が一人で話してるように隣室の老人は考えたが痴呆症だと考えたら普通のことだった。

宮城は就寝時間が早い為一晩中清音と話をしてるわけではなく深夜トイレに起きると清音は消えていたので自分の部屋に戻ったと考えていたが実はそうではなかった。宮城静子が眠りにつくと清音は静子の枕元に座り小声で耳元に囁いた。

”死ね 死ね 死ね 死ね死ね 死ね”

宮城静子は清音によって洗脳を受けてしまう

 

一度(ひとたび)脳に洗脳されると家族のもとに帰っても死ぬことについてひとり考え込んでしまう。人の邪魔など考えることは出来ず部屋の真ん中に座り込んで物思いに耽る。そのような状態の時に

自分の必然性を挙げてくれればよいが邪魔者扱いされ無用の存在と

言われてしまうと消えゆく自分に拍車がかかる。

 

ガスの火をつけてはいけない

 

風呂の水を入れてはいけない

 

水道の水を出してはいけない

 

炊飯器を触ってはいけない

 

お皿を片付けてはダメ

 

やることを否定されては生きている価値があるのだろうかと考えてしまう日々が続く。そんな中再び施設への宿泊が訪れた。

自分を理解してくれるただひとりの人間、清音に会える。清音に相談しよう。

 

「静ちゃん、あんたは死にたいんじゃないの」

 

夕方になり宮城静子の部屋へやってきた清音は静子の顔をみるなりそう問いかけた。

 

「死んでしまいたい、でも簡単に死ねないよ」

「死ぬなんて簡単さ、車や電車に飛び込めば死ねるしロープで首を吊ればいい、包丁で首を切れば死ぬことができる」

「もし何も準備しないで死ぬのであれば入浴中に溺水だね」

「死ぬなんて簡単でしょ」

「そうだね」

「でもあんたは痩せてる、だから家へ帰ったらたくさん食べる、食欲がなくてもたくさん食べる、最後の晩餐と思ってな」

「もし風呂が沸いてなかったら?」

「それはそれで好都合というものだね、低温で心臓麻痺で死ねる」

 

清音に言われたことを理解し家へ帰る時間がやってきた。

 

車の中で職員に話かけられても死を覚悟した宮城静子の耳に届くことはなく放心状態の静子だった。家の夕食は体重を増やすためにいつも食べる量の2倍をたべた。ここまでは計画通りに進んだが計画が頓挫することになってしまう。それは息子の存在で今日に限って息子は入浴を静子の後にしていたせいで静子が入浴後15分たった時息子は湯加減を見に風呂場へやってきたのだ。

 

浴槽に顔を沈める静子は息子に見つかり浴槽の水を抜かれてしまったのは計算外のことだった。静子は九死に一生を得て一命を拾った。

 

この物語はフィクションであり実在する個人、団体

には一切関係ありません