菅沼昭雄は女神と結婚したが菅沼に実感はなくそれも其の筈でまだ姿を見ていない夢の中ばかりだからだ。しかし夢の中とはいえ机の配置やテレビの台、サイドボードの置かれた場所やロッカーの数と箪笥など現実の菅沼の部屋と同じなのだから信じない訳には行かない。
女はサイドボードの上に乗り現れた、いつもの行動だがいつもと今日は違っていた。いつもは現れても自分を視認することはないのだが今日に限っては昭雄から自分を見つめられている気がした。菅沼と言えば会ってみたいと思っていたので会えたことに喜びを感じるも長い髪がこれ程似会う美人がいるのか美人というのを通り越してミロのビーナスみたな美神だと感じるのだった。
「すっごく美人なんですね、悪霊でも構いませんよ」
「悪霊ではないんだがこれでも一応神なんじゃ、どうして我が見えるなにか特別な力を持ったか」
「いいえ別に」
「となると、大変じゃ妾(わらわ)は汝の寿命を勘違いしていたようじゃ汝はあと数か月の余命、妾(わらわ)を見えるようになったのが証拠よ」
「そうですか、あと数か月の命ですか、でも女神なら命を延命など簡単に出来るのでは」
「それがのう、神にもそれぞれ役割があってわしは担当じゃない」
「仮に死んだとして神さまでしょ、死んでからも会えるのではないですか」
「人間と死んだ場合,魂は守護霊に連れられ天界へ行くのが決まりで
妾(わらわ)達神は天界へ住むことは許されないのだ」
「ではどうすれば」こう
「足の裏をみてみよ」
「土踏まずがなくなってます」
「足痕広平相と言ってな仏の足の裏なのじゃ」
「神様になるんですか」
菅沼昭雄は驚いた。
「妾(わらわ)と婚儀を済ませるとこうなるんじゃ」
「神階へ行くには32相すべてが揃わねばならんのじゃ」
「わかりましたけどあなたの名前はなんでしょうか」
「訊きたいか、では教えてあげよう。妾(わらわ)は古き神、天照大神じゃ」
ここで喉を潤すために飲み物は何がいいか聞いてみると日本酒を飲みたいという、ウィスキーはあるが日本酒はあまり飲まないので置いていない仕方なくコンビニに向かった。コンビニは坂を登るがこの坂は上ってからすぐに下る為事故が多い場所として有名だが事故が多いので心霊スポットとしても有名な場所でもある。菅沼はここを通る度
肩が重くなる、それは車を運転していても一緒だが反対方向へ坂を登らない道を選ぶと10キロ走らないとコンビニはない。彼女が待っているので近いコンビニを目指しあの不吉な坂を登るが今は夜9時で幽霊の目撃談が最も多い時間なのだ。コンビニに向かう一度目は無事何事もなく通過した日本酒とつまみを買ってビクつきながら坂を登る2度目の通過、何かが立っていると思いよく見ると髪が長くボサボサの女が手招きをするので直観的にやばい女だと感じると無視して逃げるように走った。
菅沼の家は代々農家なので木製の門柱に竹で作った塀、シャッターがついた木造の納屋、玄関はひさしの屋根がつくアルミ製の引き戸に昔ながらの大きな鈴がつく。インターフォンは現代風のカメラ付き
だが他にもう一台カメラがつき納屋を映している。玄関を開けるた昭雄を待っていたのは170センチある長身の天照大神だった。両親には見えないので家の中を自由に動き廻れるので和風のトイレだが便器はウォシュレット、風呂はヒノキの壁にホーローのシステムバスと大理石の床がであるが天照は早速使ったようでタオルを身体に巻いていた。
「彦舅(ひこじ)殿遅かったではないか」
昭雄が中に入ろうとすると天照には3体の悪霊が見えた。
「何者かえ、そやつらは」
「何、誰の事」
天照が手を翳して昭雄に向けると叫ぶ声がした。
「何今の声は」
「悪霊に取り憑かれおって、まだいるから消してやろうか」
残り2体の悪霊はまだ新米らしく主人格の悪霊が抹殺されたと理解しブルブルと身震いをしていた。
「悪霊でも特に悪い事をしていないのでしょう、ゆるして上げたら」
「甘いのう彦舅殿(ひこじどの)は今まで人に災いを掛けてきたのじゃなかろうか」
「彦舅殿(ひこじどの)が斯様に言うから天に送ってやるぞよ」
「ありがとうございます、貴方様はなんとおっしゃるので」
「天照じゃ」
「・・・」
天照といえば新参の神を指導する立場の大宮神なので悪霊達は驚きで言葉も出ない。
「ついでにここに居る霊も天界へ送ろうかのう」
「ちょっと待ってください、僕を護ってくれた守護霊達です、僕がこちらにいる間だけでも傍に置いてあげたいんです」
「妾(わらわ)は彦舅殿(ひこじどの)の女御じゃ、他の女翔がおるのは看過できぬ」
「わたしは昭雄くんと一緒に天界で修行する筈だったのに」
「其方、名前は。顔を見た限りでは妾の代役みたいじゃ」
「え?幸子です」
「あ、そう申すか」
「ここに仏の眷属、菩薩がおるな」
「妾(わらわ)のする事に反旗をあげるか」
「いえ滅相もございません」
菩薩とは岩の事である、岩はまだ駆け出しの菩薩であり神族の重鎮である天照とは格が違い逆らうことが出来なかった。菅沼昭雄の願い
である生きている間は共に暮らしたいことは天照から拒絶された。
「それはないよ」
「久子黙りなさい」
「別れに際し1日あげよう、温情と知れ」
「有りがたき幸せにございまする」
菅沼昭雄の遠い先祖で守護霊であり指導霊の菅沼朱鷺は苦渋の思いでそれだけしか言えなかった。新たに加わった口裂け女の伸銅彌生(しんどうやよい)を含める8人の霊は不本意だが耐えるしか道はなかったのだった。菅沼昭雄は無念だが逆らうことは出来なかった。
菅沼は退院し薬を呑み胸がでると噂を聞いたし頭に酢を掛けると女性の様になると聞いたがここまで顕著にしかも急に身体が女性の様に変わるとは思えない、何者かの意思に依って女性化したとしか思えなかった。そこで考えるのは神である天照大神の存在である。
「天照様、ひょっとして僕を女に変えませんでした」
「彦舅殿(ひこじどの)アマテラスと呼び捨てで呼んで欲しいものじゃ、だって仕方ないのじゃ妾(わらわ)は女翔(にょしょう)の滑らかな肌が好きで男のガサツな身体は吐き気がする。」
「いやいいんですけど胸はもっとあった方が格好いいと思うだけです」
「彦舅殿(ひこじどの)がそう言うなら今の乳が好みではあるがもう一つ上の体形に変えるか考えさせて欲しいものじゃ」
「胸が大きくなるんなら女装も一案ね」
「そりゃそうよな」
「わたしは関心出来ないわ」
「胸だけじゃなく尻も大きくなったから仕方ないのでは」
「胸はさらしを巻けば目立たない、胸だけ目立たなければ女装する必要はないわ」
「僕は身体を誤魔化すのは嫌だ、女装するほうがいい」
肩幅がある昭雄の身体ではニューハーフそのもので誰も胸が本物だとは思わない、骨格をいじる気は起きなかった天照だが昭雄の気持ちを考慮していなかったようだ。ニューハーフは世間で公認されるようになったが田舎にはまだまだ店がなく大都会まで行かなければ店は無いし値段が張る、例えば靴だ女性用の専門店で買えば1000円で
購入可能な靴がニューハーフの店だと2000円はする、確かに服などは安いものから高いものまであるが女性用の店だと安い服を選ぶことが出来る。
「そういうものなのか?だったら仕方ない骨をいじるしかないのう」
「足も小さくしたほうがいいよ」
「骨を変えると痛みを感じるがそれでもいいか彦舅殿(ひこじどの)」
「しかた有りません、お金には換えられない」
顔は小顔なので特にいじる必要はないが首は細く長くさせ肩幅はせまくそれに伴い腕も細くなった、胸は88のCカップになり尻は90、足は細くなり24センチの足方になった。肩幅に合わせてウエストは58センチにした。性器は変わらないので骨盤に変更はないがウエストが
細くなりクビレが出来た。偶然か任意かわからないが昭雄と天照はウェストが同じだった、昭雄はウエストのサイズが変わり履けるズボンがなくなったのでズボンを買わねばならない。AMAGONで一度は履いてみたかったスキニージーンズを2着デザイン違いで買った。Tシャツは持っているのだが女性用と男性用は微妙に違う為天照の着る服もあり2着色違いで2着づつ買った。
「今晩は何作ってくれるか彦舅殿(ひこじどの)?」
「カレーライスを作ろうと思ってます」
「なんじゃカレーとは?」
「香辛料をいろいろ入れた辛い料理ですが辛い食べ物は大丈夫ですね」
「甘い料理が好みだが彦舅殿(ひこじどの)が作ってくれた料理は我慢するぞ」
「日本酒をつけますんで我慢してください」
「わたしも食べて良い?」
「わたしも食べたい、匂いだけで満足するから」
「いいですけどそれだけで満足できますか」
「エアディナーって得意なんだよね」
昭雄はキッチンへ行ってカレーを作り始める為に鍋とステンレス製ボールを取りに行った。皮を捨てると三角コーナーが一杯になるのが嫌なので皮はボールに入れるのだ。新じゃがは皮が薄いのですぐ剥ける、牛タンをワインに漬けて臭みをとりジャガイモは適当な大きさに切ると煮えやすいように面取りをした。鍋に油を引いてジャガイモと牛タンを炒めてると胸がどうにも邪魔になる、どう考えてみても昨日よりも胸が大きくなっているCカップからDカップと変わったようでブラジャーがきついと感じTシャツを脱いでブラジャーのホックを外すと楽になった。牛タンが焼けたので水を適当に入れてみる。
「ちょっと何ブラジャーを外して料理してるの?」
「いや胸が膨らんだみたいで苦しいからさ」
「Dカップのブラ持ってきてあげるから待ってなよ
「悪いな」
「ほら屈んで、カップに胸を包んだらホックをする」
「何するんだ」
「それでカップの中に胸の肉を収まるように手でお乳をカップに隙間が出来ない様にする、まったくなんで男の癖にわたしより大きいかな」
久子はBカップだった。
「うわすげっ、胸の谷間に鉛筆が持てる、次は何を挟もうかな」
「カレーはどうした?」
「カレーを作っていたんだ」
人参、ピーマン、チンゲン菜、隠元豆を入れてしばらく煮込むジャガイモが煮えて来たらルーを投入しすぐ煮えるホウレンソウを入れ最後にバターを放り込むと出来上がり。バターの匂いが食欲を刺激するカレーを皿に盛りつけし9人のテーブルに置いた。
「これがカレーライスという物か食欲をそそる匂いじゃ」
「匂いだけで美味しいとわかるわね」
「焦げ茶色したルーが辛さを現しているね」
「見ているだけでお腹が膨らむのう」
「食べたい」
「どうぞみなさん食べてみてください」
守護霊達が帰る最後の日がやってきた。実際に食べた訳ではないが
匂いだけで昨晩は満足し日付が変わってもまだ余韻が残る。自力で天界に帰れる人もいるが多くが自力で帰れない。昭雄は今まで話せなかった話したかったことを一人一人に話した。午後になるとAMAGONから発注していた服が届き天照に渡すと喜んでくれた。
「彦舅殿(ひこじどの)がくれた人間界でいうペアルックとかいうものじゃ」
「ペアルックじゃないですが」
「来てもいいかのう」
「来てみて見せてください」
「結構きついのじゃな」
ストレッチ素材のスキニージーンズは履くのに時間が掛かる。昭雄も
尻がボリューム有るのでムチムチだが天照は尻が割れ例えるなら峡谷と里山の谷の違いかそのせいでクビレが昭雄より大きい。
「私の時代にはそんなジーンズはなかったわ」
「一度履いてみれば良かったわ」
「どうです、格好いいですか」
「なんか嫌らしい」
「下品じゃ」
「そろそろ用意はいいか、旅立ちの時じゃ」
天照は言った。
「さようなら2度と会えないと思うと哀しい」
「さようなら、会えないのね」
「さらばだ、わが孫よ」
「さようなら、みなさん」
「アディオス」
「さいなら」
「さようなら」
「またねと言えないのね」
「さようならあ」
半年後の8月10日心臓麻痺で昭雄は生涯を閉じた。誰も来ない畑だったので昭雄が心臓麻痺で倒れてから30分経過した頃隣の畑にやってきた人が救急車を呼んだのである。
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません
