[短編小説] 任侠浄霊師 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
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「兄貴、また若い奴が組を抜けましたぜ」

「おやじが抜けたい奴がいたら去るのを許可しろっていうから仕方ねぇ」

「暴対法でしのぎが入ってこねえのにどうするんでさ?」

 

幹部室で高級ソファに沈み込み幹部ふたりが相談してると部屋のドアが開き手首には24金のローレックスをした年配の男が入って来た

 

「オメエたち、閃いたぜ」

「何をでさ、おやじこの前も言われた通り立候補を立てましたけど落選したんですぜ」

「ありゃおれの考えが甘かった、今度は大丈夫だぜ詐欺にならねえし、形ないもので代金を貰うのだから告発される心配もねえ」

「そんな都合がいい商売なんてあるんですかい?」

「浄霊師やるんだ、霊能力者なんて本当にみえるかわかったもんじゃねぇ、呪われているなんて言ったって証拠はねぇだろ?逆にいえば浄霊した証拠なんてねえ」

「そりゃそうかもしれませんがあっしに霊能力なんてありませんぜ」

「・・・兄貴、じつはわし霊が見えるんでさ」

「きまりだな、三郎、いいな桐嶋。」

「おやじ、少し考えさせて貰えませんか」

「いいぜ、ゆっくり考えな」

 

武闘派としてならした関東友和会だが相手が人間だったから怖い者知らずで組を潰したこともあるが相手が霊だと話が違う、義理人情に熱いのが頭(若者かしら)の桐嶋源治という男で桐嶋はしのぎの為に年寄りを目標にした振り込み詐欺をするやくざが同業者としてゆるせなかった。だからといって今更普通の会社を立ち上げるのも馬鹿らしい、50過ぎて自分より若い顧客に頭を下げるなんてことは考えられないのだ。

収入がないので仕方なく初心に帰って縁日で屋台を引っ張る稼業していたが感染病の所為で地方のあらゆる祭りは中止となりさくらなどの花見もやらないので商売あがったり。桐嶋は組の大幹部の他に分家の親として子を持つ身、子分の生活を保障しなければならない。はっきり言えば桐嶋は大のお化け嫌いだが最早桐嶋に選ぶ道はなかった。

 

3月15日に富士樹海で組員の大集会、全体会議を行った。

暴対法でどこの会場も受け入れてくれず河原、海岸などで行うしかなかったが1000人と言う規模だと警察が乗り出す為に結局富士の樹海で行うしかなかった。勿論組員1000人で十人十色というように10人でも10人考え方が違う1000人もいれば心霊世界加入に反論もあった。桐嶋は個々で見の降り方を考えよと激を飛ばしたせいで組は分裂、または解散となり1000人50組あった友和組は100人5組と減少だが除霊師連合会として新たなスタートを切ることになる。幹部会では実績を積んだ霊能力者を雇い入れ任せる案もあったが桐嶋はエセ霊能者で金を巻き上げる手法は詐欺だと声を荒げ信用第一とし浄霊ができる人間だけで会を運営する旨、会議で述べた。

 

公告ビラを配り除霊師事務所の稼働がはじまったが客は誰も来ない。知名度がなければ実績もない、口コミもないし占いを兼業している訳でもないので客がくる訳がない。

 

「三郎、てめえ取り憑かれてこい」

「取り憑かれるなんて簡単に出来ねえですぜ」

「心霊スポットで一晩泊まればいいだろうが」

「仮に取り憑かれるとして兄貴が浄霊してくれますか」

「おれにそんな事できる訳ねぇ」

「三吉先生に頼めばいいだろうが」

「別料金だったらやりますけどサービスはやりませんよ」

「だいたいね浄霊なんて素人には無理なの、浄化とは現世にいる霊を霊界へ送る技で神様や仏さまと心が通いあってはじめて出来るの」

 

桐嶋は特別顧問として組に三吉玲子を招いた。三吉玲子とは霊能者の中でも弟子を持つ霊能者の家元。闇金融からの取り立てで桐嶋が骨を折ったことがあり知り会ったのである。三吉は話していないがはじめて桐嶋と会った日から桐嶋には常人にはない何かを感じていた。

先程、素人には無理だと言った三吉だが桐嶋だったらどうにかするかもしれないと考えている。

 

「三郎さん先程の桐嶋さんの提案はわたしも賛成よ、このままでは借金が増えるだけで収入は全くないと思うわ、心霊スポットへはわたしも同行するから」

「もし三郎さんに取り憑いた霊を払うことが出来たらわたしが推薦してもいいわ」

「あの高名な三吉玲子が推薦してくれたら怖いものはない、なあ三郎」

「兄貴それじゃおれは人身御供になれと」

 

三郎、上代三郎は18で組へ入り47歳となった今は次席若衆と呼ばれる正真正銘、幹部である。40歳を過ぎて鉄砲玉をやらされるとは思っていなかった。組同士の戦争での鉄砲玉と違い絶命の危険性は100パーセントではないが三郎は40過ぎでバラエティの危険なアクションをやらされるお笑い芸人の心境だった。

 

ドアがノックされた。

「三郎さん、いられますか」

「おう、入れ」

「HPのアクセス数は上がりませんがどうしましょうか」

「テメエで考えねえか、バカ野郎」

「す、すみません」

 

心霊スポット、霊章を受けた人間、動画サイトへの入稿などの情報収集、HPの管理、広報などが三郎の仕事だが客がこないので今のところ仕事が無くせいぜいHPのアクセス数くらいだった。女性事務員を採用したいところだが予算がなく採用できない現状では雑用も三郎の仕事でもありお茶やコーヒー、食事は内線を利用した。

 

4月に入ると北国では雪がようやく雨に変わり積雪は少しづつ減って行った。北国にある三船連山は雪が降り雪の林道を車が雪を掻きわけ進んでいく。

 

「姐さんこの道でいいっすよね」

「もう少ししたら車止めだから後は歩きになるね」

「雪中強行軍?八甲田山みたいに凍るのは勘弁ですぜ」

「ひょっとしたら凍死した軍人さんに会えるかもよ」

 

上代三郎と三吉玲子が選んだ心霊スポットは北国の三船連山にある

玉突き湖、アイヌ革命戦争が起きた場所で多くのアイヌ人が犠牲となった場所として有名な湖だ。日本全国ある心霊スポットの中から選んだ理由は昼間でさえ幽霊を見た人が多数いるからだ。本当に危ない場所には同行しないと断言していた三吉であるが三吉の言う危ない場所の定義は一般とずれがあるのを三郎は知らない。林道の車止めに停車して車から降りると足は膝まで雪の中へ潜る。

 

「姐さん、この深さでは歩くには無理だよ」

「大丈夫よここは河だったので雪深いの、溝を越えれば浅くなるわ」

 

三吉の言った通り膝下まであった雪は足の踝までの深さに変わり三郎は一旦長靴を脱ぎ長靴に詰まった雪を落とした。靴下が雪で濡れた所為で長靴の中から雪を出しても冷たい。冷凍庫から冷蔵庫へ移動した感覚だろうか。寒く感じている三郎に対し三吉が平然としているのは三吉は雪深い対策の為ゴアテックス製の靴下を履いていたからだ。三郎は三吉のおかしな行動、雪化粧の中だというのに携帯で撮影しているからで不思議に思い訊ねてみる.

 

「姐さん何を写しているんですか」

「写真を撮るとね顔認証が出るのよ」

「何馬鹿な事を言うんですか、人がいないのに出るなんて」

「見て御覧なさい、顔認証するでしょ」

 

三郎が言われた通り覗いてみると確かに顔認証の枠が出る。スマホは普通顔認証はひとつの筈だが三吉のスマホは最新型なのか顔認証がいくつも出る。顔認証が出現したと思うと消え別の場所にまた現れるというのをスマホは繰り返した。

 

「いつまで撮っている、行きますよ」

「それがね足が動かないの、足が上がらないのよ」

三郎は三吉玲子の背後に人影を見るが目の錯覚だと自分に言い聞かせた。

「嵌ったんですか、どれどれ失礼しますよ」

「なんだこりゃ、足を引っ張ても動かねえ」

この時三吉は木立ちの間、雪の大地から顔が浮き出るのをみた。

「わつ」

足を引っ張ってた三郎が突然押された様に後ろへ倒れ雪の大地に埋もれるので三吉に押されたと考えたが三吉は三郎がどうして倒れのかわからず不思議な顔で立っている。

「何するんだ姐さん」

「何もしてないよ」

「今押しただろう」

「どうやら気づくのが遅かったようね、囲まれたわ」

 

三郎には霧だと思ったものが人型のもやとなって現れた。暗い闇に霧は見えない筈なので見える訳がない、霧だと考えた三郎の勘違いで当初から霊体だと気づいていたら取り囲まれる事態にはならなかった。三吉玲子にも怖いものはある、霊に囲まれてもまだ余裕があるのは未だ使っていないカードが残っているからだ。単独の霊体には手翳しで対処するが複数いる時三吉は対処できない、そのような時は最後のカードを使うのが定石だった。

 

「天に棲わします不動明王様、愛し子をお救いください」

 

三吉が両手に念を込め合掌し唱えると彼方から錫杖の音が近づいてくる”シャリン、チャリン”とその音は次第に大きくなっていった。その間三郎の肉体にいくつもの霊体が入っては抜けて通り抜けていく、波長が合わないのか肉体に留まることが出来ないようだ。しかし霊が誰かに切断されたように1体づつ消えていくがその隙に三郎は何体かは肉体から出てこない、確率でいえば1/15くらいだろう。不動明王の姿は三吉玲子には見えるが霊能者を含め一般には姿を見せない。霊体が消えた場所を選びながら三郎に近づくと三郎は意識を失って倒れてしまう。悪霊共がすべて片付きやっと三郎を起こそうと揺さぶってみれば三郎は突然に素早く上半身を起こし瞼を開けると瞳は白く濁っていた。

”だめだこりゃ”

三吉は三郎の瞳の色をみて悪霊は一体ではなく複数入り込んでいると考え自分一人では浄化するのは不可能だ。

 

「この身体は俺のモノだ、邪魔はさせない」

三郎の声帯を使い話したところをみると三郎の指示伝達系統はすでに悪霊に支配されてると考えた方がいい、となれば方法はひとつ。

三吉玲子は持ってきたバッグに忍ばせた細いものを取り出し捲いてあった新聞紙を緩め解くとそれは携帯ライトの光に反射し光を放つ。

短刀、いわゆるドスと呼ばれる短刀だった。短刀の柄元に手の平で押え三吉は自分の身体を三郎にぶつけるように短刀を三郎の腹に突いた。三吉玲子が身体を離すと三郎の腹部には短刀が刺さり出血で着ていた服が赤く染まっていった。

 

「う、ん・・・いてて」

「気が付いた!桐嶋さん三郎さんの意識が戻ったわ」

 

腹部を刺された三郎は病院で手術を受け麻酔を打たれたせいで眠っていた。一命を救ったのは三吉のお陰かもしれない、奇跡的に臓物になにひとつ傷がつかなかったと三吉や桐嶋は医師から言われた。

 

「姐さんのおかげで助かったので?」

「違う桐嶋さんが浄霊したお陰でしょうね」

「兄貴が?」

「そう、わたしは打ち合わせ通り三郎さんに殺人未遂しただけよ」

「姐さんに刺されたお陰で切腹する武士の痛みがわかりましたぜ、いやぁ一度切腹ってやつをやってみたかったんだ、ありがとうごぜえます」

「刺されて感謝するのはあなただけでしょうね、三郎さん」

「がっはは」「あはは」

 

一命を失いかけた三郎、どんなにうまく刺しても出血多量で絶命となる危険があった。霊に取り憑かれ行動不能にする必要があったので軽症で済ませる訳には行かず三吉は本気で三郎に殺意を向けた。生まれながらに神通力を備えていた桐嶋と三吉の守護をしていた不動明王のおかげだろうか、三郎は助かった。三郎の命が助かった決定的な理由は桐嶋の浄霊かもしれない。

 

「今ドスを抜いてはいけない、刺さったまま浄化するの。桐嶋さんあなたなら出来る」

「浄霊なんてはじめてだ、玲子さん教えてくれ」

「片手の先に意識を集中するの、集中が完了したら手が光るわ」

「手が光ったら患部に当てるのよ」

「こうかい?」

「そこじゃない、手で頭を抑えるの、後頭部がいいわね」

 

三郎の肉体から黒い靄が現れだすと三吉に指示されたように桐嶋は両手の指先だけで合掌してみる、すると黒い靄(もや)だったものが白い霧となり蒸発したかのように消えていった。

 

おわり

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません