心霊ドキュメント動画を見て幽霊を見た事がない音大生の雫は友人の真希子を連れて動画に出ていた廃墟へ向かった。動画に映っていたのは家の近くにある廃墟であると確信があった、雫(しずく)はその廃墟へ行った事があり廃墟への道もよくわかったいた。動画で廃墟を投稿者が訪れたのは午前2時、お約束の丑三つ時である。
林道が始まる車止め近くの草むらに車を突っ込んで駐車し車から降りたのは腕時計を見ると午前1時30分を指していたときのことだった。廃墟までの所要時間は30分、前回ははじめてだったのでどのくらい時間が掛かるかわからなかったが今回は二度目なのできちんと計画し二人が離れ離れになった時の対策もふたりで相談し決めていたから雫の計画に不備はないように思えた。林道は登山道ではなく林道の先にあるトンネルは封鎖されその先に何があるのかわからない、その為林道が何の為に作られたかわからず不明なのが不気味さを煽る。林道は誰も通らないのを示唆するように大雨で路面が崩れたまま補修された形跡はないし倒木があってもそのままだ。何年か前には車が通っていたようでガードレールを突き破って崖に下へ車が落ちたのだろうと思われるように錆びたガードレースは過剰な力を受けて突き破ったように大きく曲がり欠けたままで放置されていた。
「真希子そこ欠けているから気をつけて」
「危ないからもう帰ろうよ」
山の林道は街灯がない深い闇に包まれ視界確保は持ってきた登山用のヘッドライトだけが頼りだが恐怖を増幅するかのように突然雨が降りだし本降りになる。視界が悪い夜の林道で視野を狭めるように雨が降る。握りこぶし大の石がゴロゴロする林道は歩きにくい、その上石が雨水で濡れ滑りやすいし登りの林道では上から雨水が流れてくるせいもあり簡単に足を取られる。
「きゃあ~、痛い」
「どうしたの?大丈夫」
「石に滑ったみたい」
人の性として滑った原因であるものを確認するという習性から真希子は足元をライトでてらしてみると薄汚れた黄色のものだった。
「なにこれ?テニスボールじゃないの」
「なになになに」
それは石の間に挟まる硬式テニスボールだった。人の足跡がない、人が通らなくてどれくらい経ったかわからない荒れた林道なのでテニスボールに二人は違和感を感じた。
「嘘でしょお、なんでテニスボールが・・・」
「あり得ないわ。」
「もういやわたし返る」
「真希子が言うなら帰ろうか」
前回来た時におかしなものは落ちていなかった、雨が降るせいで石が動いてるせいもあるだろうが物音が聞こえる。まるで上から誰かが降りてくる足音みたいに聞こえ雫も恐れた。雫は自分が誘った手前自分から引き返すとは言えず真希子が返ると言うのを待っていた、真希子が返ると言えば引き返すと決めた責任はなく真希子が言いだした事に従っただけと出来るからだ。時計を見ると午前2時、雫は背後から何かが迫ってくる気配を感じていたので真希子より一足早く林道を滑る様に駆け下りて行った。
元来勝負ごとに対し人に負けることが大嫌いな真希子は大の負けず嫌い、その性格が災いし荒れた林道ということを忘れ雫を追って夢中で走る。雨と山の闇の中視界もあまりよくない条件だと走る足元から注意が削がれ昼間ならそんな石で転ばないと思えても闇のなかだと簡単に転んでしまう。雫を追い抜いた瞬間に頭につけるヘッドランプは路面を照らさず杉の樹3メートル上を照らした。右足が地面から離れた時点で左足は路面を捉えなければいけないのだが左足の足の裏は空中を向いてしまう。
林道は起伏に富んでいて上りがあれば下りある、歩いてきた林道は登りが殆どの為に帰りは下りが殆どとなる。平らな道ならば転んでも1メートルくらい飛ぶだけで済んだかもしれないが下りで転ぶと道をゴロゴロ転がって落ちる、真希子は一瞬の事で脳を揺さぶられ何が自分の身に起こったのかわからない儘に坂を転がっていった。真希子が回転をやめたのはガードレールが千切れ曲がっていた場所の手前
もう少し勢いがあったら崖から落ちていただろう。雫も脳裏でそう考えたから回転が止まり安堵した。だが石の上で転がり落ちた真希子は頭から血を流し服は破れ身体は傷だらけで揺さぶっても起きることがない。
真希子が意識を取り戻したのはそれからい時間経った午前3時、痛いと言葉を発し眼を開けた。
「ここは危険よ、滑る瞬間わたしのライトが木の上を照らした一瞬、人の姿を映し出したのを私は見た」
「見間違いじゃないの?」
「わからない、見間違いかもしれないけど奴は笑っていた」
それ以上雫は真希子を問いただせないのは理由があるからだ。真希子が転げ落ちる前から背後から聞こえている足音が近づいているしテニスボールがなぜ落ちていたかも気になる。
”ねえわたしのボール知らない?”
その声は二人の脳内に響いた、耳元で誰かが囁くように聞こえた。
周囲をライトの明かりで照らしても誰もいない。でも確かに声は聞こえたので二人は顔を向き合い声は出さずに唇の動きだけで言葉を表現すると二人とも同じように唇を動かしたことでお互い同じ考えだったとわかった。
”わたしのテニスボールを返して”
「わたし知らない」
「雫もそうよね」
真希子の質問に対して雫は無言だった。
1地度目より2回目の言葉は音量が上がり威圧さえ感じる。二人は恐ろしさのあまり林道入り口を目指して走った。欠けて割れた石は鋭利な刃物のようでそんな石が転がる林道を転がった真希子の足は足の筋力を使うだけで皮膚は引っ張られ塞がった傷口も開きズボンを血で滲ませる。歩くだけでも痛い傷だが真希子は走った。
”返せ、ボールを返せ、かえせ~”
高い少女の声から低い男の声になって追いかけてくる。停めた車がどんどん近くなり二人は車にさえ乗れば助かると考えた様で表情から翳りが消えた。
車の運転席に座ると雫はズボンのポケットから運転に支障があると
考えたのか丸い球体を取り出し真希子に見せる。それは林道で見つけた硬式テニスボールだ。
「あんたなんで拾ってきたの?」
「だって何もないと今日の収穫がないじゃない、テニスボールはテニスボールでしかないよ」
「あった場所に戻してきなよ」
「いやよ、これはわたしのもの」
車のエンジンをかけ雫は方向転換するためにバックした。その時に一瞬だけルームミラーは後部座席に映る前髪を揃えた長髪の少女の姿を映し出したが一瞬だけなので雫は気づかない。幽霊を見たい女子大生雫が幽霊を見る時は雫の運命が終わりを告げる時かもしれない
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません
霊章が現れたとしても当方関知しませんので
ご了承ください。