前日の大雪のせいで朝のニュースでは人々が凍った路面で転ぶ
姿を映し出す。放送はじめたニュース番組には多数の苦情が相
次いで寄せられた。番組を見た視聴者から朝から心霊番組を放
送しないでくれと言うのだ。
「木下さん、朝からニュースで幽霊見ちゃいましたよ」
「朝から出る訳ないでしょ」
「ああそれなら僕、録画しましたよ」
20代の若者はビジネスバッグからタブレットを取り出し朝のニュ
ースを二人に見せた。なんの変哲もないニュース番組だった。
「どこに幽霊がいるのよ、通勤で転倒している人だけじゃない」
「右端を歩く女性ですよ、凍った路面なのに早歩きで去って行く
って変でしょ、みんな滑らないように慎重に歩いているのに」
「あ!」
「見たところビジネスパンプスを履いているのに滑らないのは変
だよね」
「そういえば碧ちゃん、この幽霊の服って木下さんの着ている服
に似てないかな」
「そう言われてみればそうだよね」
「い、いやね二人ともバーゲン品だから誰でも着てるわ」
木下は鼓動が早まり焦りを感じた。
午後の昼休み木下は夫の康彦に電話連絡をした。
「どうした弥美、欠陥でもあったかい」
「欠陥どころじゃないわよ順調過ぎて安心して早歩きしちゃった」
「良かったじゃん」
「朝のニュース見てないの?幽霊騒ぎの当事者よあたしは」
「だったら自分からテレビ局に行け宣伝になるだろ」
「いやよ、人から幽霊だって目で見られるのは」
折角の宣伝チャンスではあるが本人が拒否している
のであれば宣伝は諦めるしかない。康彦は雪に履ける
靴があればとの想いから靴業界に新風を吹かせる気持ち
で改良したパンプスを造った。
滑り止め対策としてスパイクピンを埋め込み軽量化の為チタ
ン製を使った、駅構内やビルの通路を保護するためにスパイ
クピンは可動式としロック機構も設けた。発案のヒントは康彦
が持っていた学生時代に使った陸上スパイクシューズであっ
た、当時のスパイクは金属製が主流だったのである。
仕事から帰宅すると夫が作業している1階の事務所兼作業場
へ弥美は行ってみる。
「うぉお」
作業していた靖彦のセンチ横を未確認物体が飛んで壁に突き
差さる、妻にあげたクロコダイルと白蛇の革で作ったパンプス。
「アブねぇな弥美、もう少しで刺さるとこだった」
「刺されば良かったのに・・・」
「おまえねえ・・・」
夫の康彦が防水性や寒くない様にと皮も選んで作ってくれたパン
プスで金で買える靴ではないと知っている弥美だったが寒い中帰
宅し呼びかけても返事をせず黙々と作業する靖彦に怒りを感じた
「これ返すわ」
「だいたいこの靴を作るのにいくら掛かったの?」
「材料費や加工費で7万くらいだよ」
「それじゃ市販化はコストがかかり過ぎて売れないよ」
「8万じゃ買う人いねえかな?」
「無理よシャネルみたいなブランドじゃなく無印じゃ」
靖彦は壁に刺さったパンプスを引き抜き哀しそうに見つめた。
翌朝、冷静になった考えると弥美はパンプスが捨てるのは勿体ない
気がした。
「ねえヤス、あの靴はどうしたの」
「おまえがいらないんじゃ持っていても仕方ないから捨てたよ」
「捨てちゃったの?バカじゃないの」
靖彦は不必要なものは処分する性格で必要ないと判断したら決断
は早い。弥美は康彦の性格を知っているから拾いに行こうとはしな
かった、靖彦は一旦捨てると決めると粉砕し粉々にして捨てるのだ。
しかし、靖彦は苦労して作ったパンプスを捨ててはいなかった。
きちんとパンプスにエアークッションを入れ絹のきめ細かい布地に
くるみ桐の箱に入れてベッド下に隠していた。
おわり
この物語はフィクションであり実在の人物
団体には一切関係ありません