臨死体験したと言って天国でお花畑を見た、三途の川へ言った
と人は言うが地獄へ行ったと語る人はいない。そもそも地獄とは
仏教に伝わる伝承なので無宗教ならば信仰出来なくても無理
はない。死ねば増税や就職難から解き放たれ楽になれる地獄
など存在しないから自殺したところで地獄に行く必要なく無の世
界で漂うだけなのだと思う若人が増えている。石川賢人もそん
な若者の一人で死刑を望み多くの人間を殺害した。石川には殺
害した人々の中に恨みを抱くものはいなくただ自分が死刑にな
りたい勝手な理由からの犯行だった。
”これで楽になることができる”
石川賢人は護送車の中でそう考えていた。だが護送車を運転す
る警官が自分が殺害した被害者の遺族だとは知らなかった。石
川を乗せた護送車は市街地を離れると山中の廃墟に連れて行
かれ拳銃で脳天を貫かれ死に至った。
石川が意識を取り戻すとそこには多くの人がいた。集団で何かを
しようと集まっているのではなく個々で揉めているように思えた。
「あんた、点滴の打ち方が痛くて仕方ないからなんとかしなさい」
「またですか?これで5回目です」
「終わったら今度は足の爪切ってよね」
どうやらクレーマー患者と看護師の女性のようだった。
「おまえちゃんと仕事しているのか?今月は成績が一番悪い、昼
飯食う暇があるなら注文とってこい。注文取るまで帰ってくるな」
「そんな・・・今日は妻が出産するんで」
「会社には関係ないことだ、いいから行って来い」
会社の上司に叱咤される部下といったところだろう。
石川が何もない虚空間を歩いていると通り過ぎた空間が湾曲して
色を変え景色を作っていった。現実世界と異なるところは会話して
いる一文一句すべてはっきり聞こえ次は教頭と担任教師の会話だ
「先程PTAのお母さまがいらして教育方法が悪いからと担任を変
えて欲しいと相談を受けた、心当たりはあるかね」
「授業中にスマホを取り上げ叩き潰したことでしょうか」
「そのスマホには学習計画するアプリが入れてあったそうだ、君の
する授業より効率が良かったそうだが壊されたせいで計画が台
無しだそうだ」
「女生徒の私物を取り上げられ慰謝料を請求されておるよ、今月
の給料は払えそうもないな」
「教育委員会に訴えますよ」
「私物を取り上げられたのは教育委員会委員長のお嬢さんだ」
ここは一体どこだ、なんなのか。
先程からみた光景は苦情を言われる光景ばかりで人生の辛さ
や苦悩ばかりを見せつけられている。地獄だというなら血の池
地獄や針山といったものは一切なく心に深く刻み込まれた人生
の傷ばかり見たと石川は感じた。
歩き続けるとそこは見覚えのある学校、石川がこの場所で初め
て見た景色でもあった。校舎から出てきた4人組のグループにも
石川は見覚えがある。
「こら石川、一体いつまでパンを買うのに時間が掛かっている」
「こいつパン持ってないじゃねぇか」
「上納金収めてもらおうぜ、取りあえずは焼き入れるか」
「ハンコ廃止されたから焼き印は出来ないぜ」
石川は人を殺した自身や度胸が備わり以前の虐められる弱い
自分とは変わったと自信があった。なぜか右手には持っていな
かった短刀を握り4人組に切りつけてみるがあっさりカワサレタ。
短刀を奪われ石川は手首を切り落とされた。
「ほう俺らに刃向かうようになったのか、進歩したじゃねえか」
「次は爪を1つづつ剥がしてみるか?」
「ごめんなさい、勘弁してください」
「女を二人浚ってきたら気が変わるかもしれないぜ」
「女なんてどこにいるんですか」
「馬鹿かおまえ、この校舎には一杯女子生徒がいるじゃねえか」
校舎の中をみると確かに女子生徒がスカートを翻して闊歩して
いるのが石川には見えた、ただどの女子生徒にも頭から伸びた
角が出ていた。
石川は地獄を信じていない、だがこの永遠に繰り返される苦難
苛め、罵倒が本人にとっての地獄なのだ。現世では辛いことが
あっても愚痴を話したり休憩したり家で睡眠もできるが此処では
気を抜く暇がなく24時間過酷な精神ダメージを与え続けられる。
仏は従来の針山、血の池、張り付けや火炎地獄から転生した者
達には何の進歩も見えず地獄のあり方を変えたのである。いわ
ば凡庸の誰でも苦痛を感じる地獄から個人が一番苦痛を感じる
地獄を永久化することにした。
あるものはブリーダーを目指し繁殖をしていたが面倒見る事に
疲れ放置し何百という犬を殺した者には犬たちに食い殺される
日々が続き、詐欺で多くの人達を死に追いやったものは被害者
のひとりひとりから納得されるまでこき使われる毎日を繰り返す。
金欲に心奪われ公然たる仕事と言い訳しやりたい放題してきた
モノどもも何れ裁きをうけるだろう。それが地獄なのだ。
おわり
この物語はフィクションであり実在の人物
団体には一切関係ありません
注)
創造人たる人物が話を作ると現実のものとなる噂があります
なんちゃって(笑