人が何人死のうが関係ない、大地震が起きようと火山が噴火しよ
うと無関心、北朝鮮がミサイルを打ち大都市が壊滅しようと憎しみ
は無く報復する気持ちさえ起こらない。自分が災害や攻撃に依っ
て死ぬかもしれないと考えているが別にそれでも構わないと考え
る。人は弱いからすぐ死ぬし誰でもいつかは死ぬ、生に執着する
あまり大事な事を忘れるのは愚かな事、ならば生を捨て潔く死を
選ぶ。だがそう考えても自殺するのは逃げであり負けである、自
殺したからといって誰も同情してはくれない、だったら歴史に刻む
死を選んだほうがいい。草臥れた平屋に住む男の日々思うことだ。
一人静かに眠りにつきたいと願っていたがそうは問屋が許さない
どんな夢をみるだろうかと希望に胸を膨らませていると家に来訪
者がやってきた。シルクハットを被り最近のコートというよりは外套
と呼ばれる昭和初期にあった厚地の黒いコートを羽織っていた。
「こんばんは」
「何か御用ですか?もう寝ようと思っていたところなんです」
「ご相談がありましてな」
「金を持ってないから帰ってくれ」
「お金はいりません、話を聞いて頂きたいだけ」
「あ、失礼自己紹介がまだでしたな、土星(つちぼし)と申します」
見た目50代位だろうか男から渡された名刺を見ると土星の他に
はサターンとしか書かれていなかった。土星の英語名はサターン
であるから会社名と思えた。50男は現在の連立政権について
どう思うか質問した。
「連立政権とは名ばかりで1党政権と思うが我々庶民にはどう
することも出来ないからね」
「だったら変えればいい、党自体消し去ればいい。党員すべて
抹殺すると言ったらどうしますかな」
「好きにすればいい、誰が死のうと知ったことじゃない」
「でも問題がありましてな、生者と契約しなければわたしにその
力を発揮できない、力になってくれますか」
この世にはいろいろな考えを持った人間がいる、自分を悪魔だと
考える妄想癖がいてもおかしくはない。自分の妄想の中で何人
殺そうが関心は持たなかった。実際人を殺そうとしても2,3人が
せいぜいで大量虐殺は不可能と信じた。たとえ紳士風の男が悪
魔だったとしても魔法陣も描いていない現状では悪魔と契約出
来る訳がないと確信がありまだ余裕をみせた。しかし・・・
「何簡単なこと、お互いの心臓を交換すれば良い」
「そんなことが出来る訳がない」
紳士男は腕を真っすぐに伸ばし人生に疲れた男、名前を中の縞
というが中の縞の胸に手を差し込むと中の縞は苦悶の表情を浮
かべ気を失い倒れてしまう。
翌日、大和の国は前代未聞の大事件が発生し特別報道番組が
作られるなどTV業界は慌ただしい動きを見せ朝6時早朝から各
テレビ局が報道番組を流している。感染病で多くの死者を出して
しまった国内最大派閥のI党などは国会議員の9割が死亡し事実
上の壊滅状態になってしまう。予防薬が生まれ感染病も落ち着
いて来たばかり、テロリストや殺人犯なら人は憎しみを犯人に向
ける事が出来るが突然心臓が破裂するなど過去歴史にそのよう
な症例はなく新たな病気として認定され人々は憎しみを向ける
相手がいないのだ。
突如として多くの国会議員を失い臨時内閣として立ち上げたのは
国民主権党、略して民権党であり代表は小沢氏だった。モールなどの大規模商業施設は従業員の集団死去で倒産あるいは休業に追
い込まれ小沢は穴埋めのため個人営業の小売店を誘致し魚屋、
肉屋、八百屋といった昭和時代にどこにでも見た小売業者の復活。
中の縞はテレビを見て唖然とした、夕べ中の縞が会った男が悪魔
サタンだと知っていれば会話しなかった。名刺にしっかりサターン
と書いてあったからもしかしたらそうじゃないかと思う心はあったか
もしれないが気づくことは出来なかった。年金暮らしの1日は人が
考えるよりも忙しい、それが独り住まいならば尚更忙しい。起床し
布団をたたみシーツを洗うのだが大抵洗い残した洗濯物があり
また洗濯する。それから布団を天日干し終わると洗顔そして朝
ご飯だが中の縞は結婚した事がなく既婚者がどのような朝食を
しているか判らない為に魚の塩焼き、焼きのりと生卵、納豆、を
用意しご飯を炊いて味噌汁を作る。インスタントの味噌汁で済ま
せればいいと思うだろうが中の縞は料理を下手に作れるからイ
ンスタントに頼るのは出来なかった。中の縞は一人住まいの為
調理する間に調理器具や調味料の片付けも済ませる。妻帯者
の男性は料理など簡単な作業だと思うだろうが結構忙しいのだ。
食事を済ませるとお茶を飲んだ後は部屋の掃除が待っているが
中の縞は掃除機と箒そして雑巾がけをするのが日課であった。
年金生活だからと毎日が暇と思うのは早計で毎日が休みでも
あるが毎日が仕事でもある。水道料金や電気代、灯油の支払い
と注文、そして各種支払い、風呂の掃除それらが終わると今度
は家の補修に庭の草むしりと庭木の剪定と持ち家を持つ以上責
任が発生する。毎日忙しいのかというとそうでもなく1日のうちに
2,3時間は自分の自由な時間を持てるものでそんな時間帯には
庭で野菜を育てている。
夜が訪れると以前とは異なる生活になる、サタンと契約して為に
サタンが家に遊びに現れるようになってしまった。サタンもいろい
ろ忙しいようで毎日来ることはないが来るときは酒を持って現れ
る、今回は神が飲まないスペインの白ワインを樽で持ってきた。
「サタンさんは契約したというが国会議員の殺害など頼んでない」
「いいかい、君は誤解している。頼まれたことを実行するのが我ら
ではないんだ。神は庶民という弱者を虐殺するが我らは裕福な
者達を抹殺する我ら悪魔こそ庶民が崇めなければならないの
だよ」
「もう要は済んだ筈、魔界へお帰りにならない?」
「アハハ、君は面白い事を言う。この家が私の実家となってしまっ
た、きみとわたしは一心同体となり君が死ねばわたしも死ぬし
君が呼べばわたしはすぐ現れその逆も然り」
「その逆とは何なのだ?」
「わたしが魔界や地獄で呼べばきみが来るってことなんだ」
「・・・それはいやだな」
「魔界は面白いぞ、固定観念で喰わず嫌いするのは止めたまえ」
「おっといかん、魔王会議に行かねばならん」
サタンはワイン樽の開け方を教えぬままに去って行った。サタンが
去りまた一人での寂しさを中の縞は感じ寝ようとしたところ誰も来
客がやってこない家で今度は老婆が現れた。
「お晩です、入ってもよろしいかのう」
「誰ですか、あんた」
「知り会いから伺いなんでも話を聞いてくれると言われ来たのです
がのう」
「知り会いって、誰です」
「シルクハットを被った白いひげの御仁ですじゃ」
”サタンだ”
「何があったのです」
「役所の奴らはわしが金がないのを知りながら暴利とも思える
税金を払え、払えなければ家を没収すると言われ悔しくて」
「わたしには呪う事も恨みを晴らす技も知りませんよ」
「あんたはわしが奴らを呪い殺す事を許し下されば良い」
「わたし個人的には許したいのですがこれで構いませんか」
「有り難い、感謝する」
「決して他言はしないで下さいよ、わたしのことは内密で」
サタンがわたしのことを言い降らしたのには怒りを覚えたが一人
くらいならいいかと思った、だがそれは甘い考えであった。なぜ
ならわたしの家の外ではワクチン注射に並んだ人の列如く外で
は人ならぬ霊達の列が続いていたからだ。おかげで1日10時間
とれていた睡眠が3時間しか取れなくなったにも関わらず眠くな
らないのはサタンの心臓のお陰だということにしよう。
おわり
この物語はフィクションであり実在の人物
団体には一切関係ありません