[短編小説]  恋去りし日 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

わたしは彼と同棲するようになってからというもの仕事へ働きに

行くだけの単調な毎日から家で彼と過ごす時間に生き甲斐を感

じ朝起きて朝食を作り会社へ帰宅してからが梶間弥栄27歳本

当の楽しい一日のはじまりだ。わたしの家は最近外壁を塗り直し

たばかりの新築に思えるアパートメント、仕事から帰宅すると彼

はすぐ迎えに現れる。そんな彼が嬉しくてわたしが部屋で料理を

作るようになったのは彼のおかげかもしれない。一人の独身生

活だった2年前は自宅と言えば会社へ行く為だけにあった宿泊

可能な銭湯といった施設で余暇にするインターネット注文で服や

有名店が作るお料理の品を頼むだけが楽しみというつまらない

人生を送っていた。

 

「ちょっと待っていて、電話が終わったらすぐお食事作るからね」

彼との晩御飯がわたしの疲れを癒してくれる、残業をしないよう

に頑張って仕事するのも早く彼に会いたいからだ。しかしそんな

時に限って母親が電話をしてくる。鬱陶しいたらありゃしない。

妹明子が結婚するからお金を融通させようとする母の電話だっ

た。わたしは大学進学でも親からの援助なく自分で稼いだお金

で入学しその時家を出た。大学時代にも親から仕送りはなくキ

ャバレーといった水商売、見知らぬ男に身体を開き学費を稼いだ

わたしにとって母親からの電話はわたしを不快にさせるのだった。

 

妹の明子はわたしより3つ下、憎いと思ったことはないどちらかと

いえば可愛い妹、だが明子から結婚どころか恋した相手がいると

聞いた事がなく大学に入ってから現在のOLに至るまで連絡さえ

とった事が一度もない。母に貸したお金は返して貰った事もない。

嫌なことがあっても食卓で座るわたしのスカートを枕に寝る彼の

寝顔がわたしの心を鎮火させ愛しく思わせる。わたしはお風呂か

ら出るとブラジャーはせず透過率が高いピンクのベビードールを

来てベッドに入る。

 

「い、いや ダメだよそんなに揉じゃ」

ベッドの中で彼はわたしの熟れた胸の膨らみをリズミカルに手で

押し、押したかと思うと今度は引く。まるで指圧の心は母心と叫ぶ

ような手の動きがわたしの心に火をつける。だからお風呂から出

ると夜だけのスキャンティと呼ばれる下着を穿き翌朝また履き替

る必要があった。

 

2年と数か月経った11月下旬昨年とは違い今年は季節外れかと

思うような寒気団が大陸から日本列島へ進み日本海側ではマイナ

ス30度の寒気が降りてきた。太平洋側では前線を伴う低気圧が

北上し太平洋画は広く雨を降らせている。冷たい雨の降る中、わ

たしは電気毛布だけを彼に掛けこれで寒くても不安はなく会社へ

向かった。わたしはコールセンターで勤務するOL、窓はない為

外の状況はわからなかった。今は新発売されたダイエットの為の

健康器具CMでよくある使用者からの驚きの声、そんなものをTV

で宣伝しているものだから見た視聴者から同様の短期間で痩せ

る成果を期待し購入する、しかしあのCMには視聴者に知らせて

いない裏事情があった。実際に痩せたのは事実だったが一般に

購入して器具だけで痩せるには無理があると思っていたら案の

定広告の様な短時間で痩せない為購入されたお客様の苦情や

感謝を電話応対が多忙を極めた。

感謝は稀にあるかないか程度で殆どが使ったら壊れた、組み立

てようと思ったらボルトが足りない、ボルトの穴にボルトが通らな

いと言った商品構造上の不備や欠品が電話苦情の8割を占めた。

昼時間は仕事をもつ人がようやく持てる空く時間であり私達電話

対応する従業員にとって多忙な時間帯でもある。当然昼食は交

代でとるものでわたしは1時近くになるというのにまだ食事を取る

ことは出来なかった。社内にある食堂といっても各自持ち込んだ

お弁当を食べるだけの食堂でお茶が出てくる機械が設置されて

いた簡素な食堂なのだ。食事から戻ってくる女性従業員が手振り

で外の状況を教えてくれるのが情報を得る数少ない方法だった。

食事が終わり戻ってきたのは中堅女性社員の麻里江だ。特に変

わった事がなければ他の女性と電話業務を交代するところだが

麻里江は空から何かが降る手振りを見せた。もちろん交代する

女性の吉江にだけ伝えようと思ったのではなく全員に教えたかっ

た。

 

「すき?」

「違うでしょ、すきは降ってこないわ」

「降るものよね、となれば雪?まさかね」

弥栄の言った冗談じみた雪であったのだが。麻里江の頷きによっ

て驚きからくる沈黙へと変わり言葉は出なくなった。

 

12時になると雨から雪へと変わり沁みこむ事がない屋根を白く変

えた。雨で濡れた路面に雪が落ちると白かった雪は結晶となり雪

を積もりやすくする。路面が完全に白くなると走っていた車はスリ

ップしグリップできないタイヤは空転する。スリップした車は前進も

バックもできない為に広い道幅の都内でも斜めに停止した車を避

ける為に渋滞が起こる。だが車道を走る車だけの話ではなく雪の

歩道を歩く歩行者にとっても不慣れな雪道は雪の歩き方を知らな

い都会人を簡単に転ばせた。弥栄はというと路線バスが運行休止

チェーンを持たないタクシーは営業所まで戻らなければならずそれ

まで回送するので弥栄は歩くしかなかった。接地面の大きなスニー

カーでさえ雪道では滑る、雪道では接地面の少ないほうが接地力

を無駄なく伝え利点でもあるがパンプスは不安定の上に成り立つ

履物ゆえに転倒の仕方次第ではヒールが破損してしまう。路線バ

スで30分、歩けば1時間だが雪の上では1時間以上掛かってしま

う。それでも弥栄は歩き続けた、歩き続け1時間雪の質が変わり

水分を多く含んだ雪へと変わり路面の雪は解け始めた。見覚えの

あるバス停を見つけもう少し歩けば自分の住むアパートだと思え

た。歩道の雪も溶けだし歩道に横たわる白とブルーの毛並みには

覚えがあった弥栄はその場で立ち止まり腰を落としてシャガミ込み

暗い中で凝視してみると両目から清らかな涙が零れていく。

 

「ハルキ、どうしてなの」

「なせこんな場所で眠っているの」

「もうちょっとで家に着いたのに待てなかった?」

雪は再び雨に変わり濡れた長い髪をかき上げると水滴が飛んだ。

着ていたコートで猫を包み大切に抱え歩き始めた弥栄の胸中は

後悔だけが溢れていた。雑誌広告に掲載されていた猫ちゃんの

為を考えたアパートという謳い文句に踊らされ猫専用のドアを装

備する玄関に憧れを持ち探していた弥栄にとって極楽とも思えた

が死んだ”彼”を想うと人間の身勝手な自己顕示欲とも思えた。

”ドアがなければ寒い雪の中を出ようと思わなかっただろう”

弥栄は今後悔で苦しんでいるが彼は2度と帰らない。

 

弥栄は高校卒業まで実家で過ごした。成績や素行の良い妹と比

較され続け両親が親身になって弥栄のことを考えていると感じた

ことは一度もない。学校から帰宅しても家に自分の居所は無く大

学を遠くに選んだのもそういう理由からだった。友人から一人住ま

いだったら猫を買えば寂しくないよと言われたことがあったが当時

住んでいたアパートはペット禁止だった為諦めた。転機は大学卒

業に現れた。大学4年の秋、会社面接に訪れたが面接終わって帰

途する電車の中で見たアパートの広告は弥栄の心を強く掴んだの

だろう、卒業式が近い日に飲食街で開かれた大学有志による慰労

会の帰りに弥栄はとある居酒屋の裏で佇む一匹の猫に出会う。弥

栄は雨に打たれ寒さで震えている猫が視界に入りビー玉のように

光るグレーの瞳から見つめられるとどうしても放って置くことが出来

なかった、そんな時に電車で見たアパートの広告が蘇った。

 

おわり

 

この物語はフィクションであり実在の人物

団体には一切関係ありません