彰人と華憐がイギリスでの新婚旅行中に自分達が推薦したランカ
シャーで呪術師と対決したことなど夢に思っていない彰人の両親
二人は静岡大井川にある自宅で二人のビーチで楽しむ姿を想像
すると昔新婚旅行で訪れたビーチを回想してしまう。
「あの時向こうで会ったおばあさんどうしたかしら」
「孫娘が言う事聞かなくて苦労してると言ってたな」
「また食べたいなベティおばあさんのクリームシチュー」
波島家では呑気な会話しているが東条厳太郎は二人が楽しんで
いることなど考えられる状態ではなかった。イギリスへ行くとは聞
いたがランカシャーだと知ったのは二人が飛び立った後妻から聞
いたことで衝撃を受けた。父から東条の家訓だと言われエルミア
を諦めざる得なかったが結果として日本に連れてきた彼女を捨て
た、その事に現在も厳太郎には負い目を感じている。そして自分
が原因で娘華憐を苦しめてきたと考えると自責の念が込み上げ
てくる。妻にエルミアの事を話せないのは娘の苦悩があったから
で浮気していたと誤解を受けようとエルミアの哀しみにくらべれば
比較することなど愚の骨頂と厳太郎は思っていた。ランカシャー
に行けば自分とエルミアの関係がバレてしまうのを厳太郎は恐れ
た。
呪う者が判明し彰人と華憐は心晴れやかに決められた日程を消
化していくが突如として華憐が体調を崩し病院へ搬送されてしまう
診察の結果毒による体調不良との判断、医師の説明では飲んで
から時間が長い為に神経毒が体内に広がったようで解毒は不可
能、打つ手はなく延命措置しか出来ないと言われる夜病室で妻に
付き添い病室で彰人が寝ているとエルミアが息子を連れ現れた。
明日の昼には華憐の母香那江と彰人の母静子が着き明後日は
父喜代張そして二日後義父の厳太郎、両親到着まで回復させた
い、だが彰人にはどうすればいいか判らず神だよりしか今の彰人
には出来る事がなく自分の無能さに嫌気が差していた。呪いや祟
りの類なら葵でなら対処できるだろうが薬には対応できないそうだ。
苦しそうにしている華憐をみてエルミアの息子がエルミアに頼んだ。
”ママ赤ちゃん死んじゃうの?助けてあげて”
その声は華憐には聞こえなかった。彰人に自分の余命を訊ねる
だけだった。
「彰人わたし死ぬの?赤ちゃんだけは助けたい」
「死ぬもんか死ぬなんて考えちゃダメだ」
エルミアは毒が何に含まれていたかを予想し考えると最初に飲ん
だあれしかない、そうルーシーが淹れてくれた紅茶である。となれ
ば対抗策はひとつだけ。
「うまくいくかはわかりませんがひとつだけ策があります」
「ルーシーに頼み解毒薬を作ってもらしか方法はありません、です
が時間が経過しているので効くかどうか」
「今現在解毒薬をルーシーさんに作って貰うしかないのであれ
ば頼んでみましょう」
「わたしがルーシーを説得してみます」
エルミアはあれ以来ルーシーの姿を見ておらずどこかへ姿を晦ま
している、だから彰人にルーシーを説得してみると宣言したのであ
るが全く何処にいるか見当がつかない。エルミアは両親の墓石や
ルーシーに縁ある墓石、日本と違い個人にひとつの墓石墓標であ
るから探すのは単純ではない。幼かった頃思い出のある場所にも
出向いたが痕跡さえ無い。その間時間は流れ病室の華憐は吐血
してしまう。時間が刻々と過ぎて時間が経過すればするほど華憐
の容態は悪くなっていった。悪化していく華憐の容態を心配そうに
彰人が見ていると声が幼い声がし誰かを呼ぶ、それが自分事だと
気づいたのには時間が掛からなかった。
”パパ、パパ”
”ルーシーおばちゃんはここにいる、この病院のどこかに”
まだ生まれぬ彰人の子供がそう伝えている、理解出来ない事だ
が今は信じるしか彰人に時間の猶予は残っていなかったのであ
る。華憐は点滴を受け昏睡状態に入り意識はなく眠り続けていた。
まさかとは思ったがルーシー探索に一途の奇跡を信じ彰人は病
院中、病室を駆け巡り最後の集中治療室へと辿りついた。ここに
居なければ先程聞いた声は嘘になる、ゆっくりとカーテンを開い
てみると寝ていたのは紛れもなくルーシーその人だった。喜び浸
るのも一時のこと、ルーシーは点滴され電子機器をつなげられモ
ニターで表示される心拍数は低いそして人工呼吸器を装着、胸に
治療された傷跡から自殺したと思えこのままでは解毒剤を作る以
前に鼓動は止まるだろう。現在ルーシーは生と死の境を彷徨う重
症患者だった。妻の命は救えないと諦めかけた彰人だがまたもや
声が聞こえる。
”パパには癒す力があるの、女の人の胸に左手で翳してみて”
”お願いパパ、あたしとママを助けて”
言われたように手翳しするとルーシーの青白かった皮膚の色は
赤く燃える様な皮膚となり胸の縫われた傷跡が消えていく。
「凄い、僕にこんな能力(ちから)があるとは」
「エルミナさん、すぐ来てください」
「お呼びですか彰人様」
「この部屋にいるのがルーシーさんですよ」
「どうやら自決したようです」
「なんて事を・・・では解毒薬はどうするのですか」
「命の危険は過ぎ去り今は寝ているだけです」
怪我が治り目覚めてからでは到底華憐の死期には間に合わな
い、かといってエルミナには解毒薬を作れず暗礁に乗り上げて
しまった。昔からルーシーは薬の調合を得意とし白魔女さえ叶わ
なかった程の熟練者であるから部下の魔女に薬を作れるとは思
えず万策尽きた思いであった。そこで彰人は提案した。
「ぼくに試したいことがあります」
「如何なる方法でしょうか」
「まぁ見ていてください」
病室に戻ると彰人は華憐のパジャマを脱がせ胸を露わにした。
「彰人様何をなさるおつもりですか」
「気が散るから黙っていてください」
彰人が華憐の盛り上がった白い胸に手を当てると黒く膨れ上が
った血管が細く赤みを出していった。首や額に浮き出た血管も落
ち着き静脈へと戻り皺を寄せていた眉間も滑らかな肌になりまる
で毒が消えたようだ。心拍数も平常の78となり山は越えた。華
憐の右目がゆっくり開くと悲鳴をあげた。
「キャッ、何してるの彰人」
「癒しの手さ、毒を取り除いていたんだ」
「いやらしい手?性欲を取り除いていたの、困るじゃない」
「おまえ寝すぎて頭が呆けているだろ、性欲じゃなく毒薬を消し
ただけだ」
毒で苦しんでいたのは華憐でも覚えていた、だからを彰人が直し
てくれたと知った時感謝の気持ちで一杯となり照れくさくて有難
うと言えず彰人を笑わそうとワザと呆けてみた。彰人が視線をず
らしたのを見計らって横を向き涙を流した可憐だった。彰人が視
線を変えたのは来客がみえたからである、妻の母香那江と母の
静子が病室へ入って来た。静子など礼服を持参してきた為元気
でいる華憐を見て口を手で押え泣くほど嬉しかったようだ。香那
江は到着まで生きていて欲しいと何度も願ったとみえ数珠を手
に持っていた。
「ママ何か食べ物持ってない?」
「何言ってるの?そんなに胸を広げて」
「彰人が脱がせたんだもん」
「オホホ・・そんなに華憐ちゃんの胸が好きなのかしらね」
「違うって母さん」「彰人のエッチ」
「華憐ちゃん唐揚げあるけど食べる?買ってきたの」
「さすがは静子ママ、食べたい物知っている」
「華憐そんなもの妊婦さんが食べていいの?」
「だって食べたいんだもん」
こちらは集中治療室のルーシー、心臓をナイフで抉ったので本人
は死んだと思っていたが現在いるのは病室でしかも胸に傷跡が
ない、驚いたのは本人だけでなく医師や看護師達にも前代未聞
のことで騒ぎだしたから胸を刺したのは事実だとルーシーは知っ
た。頭の後ろで腕を組んで考えても胸の痛みが消えたのは理解
できない、ふと思い出したのが初日紅茶に毒を混ぜたことだった
身体につけられた配線や点滴をむしり取るとベッドから起き上が
り集中治療室の外へ出ると廊下でエルミアの気配を感じた。ルー
シーとて幽霊をはっきり見える訳ではないので多分いるとしか判
らない。
「エルミアいるんでしょ?話があるの」
「紅茶に混ぜた毒のことでしょう」
「二人はどうなった?」
「彰人様は無事で奥方の華憐ちゃんは生死の境を彷徨った」
「あんたが自殺するからもうダメだと思っていたけど彰人様には
癒す法術が使えるみたいで今は可憐ちゃんは元気だよ」
「ひょっとしてわたしの身体も法術で直したのかい」
「そうらしいね」
「余計なお世話だよ、わたしのケジメだったのに」
「あんたねえあんたは知らないけどもし死んでいたら天粧女皇様
に滅ぼされていたそうよ。魔王ベルフィード様でも逆らえない御
方なのだそうで悪魔達も怯えているそうね」
「・・・」
ルーシーは二人を心配してペンションに戻るつもりだったがこの
病院に二人がいると訊き二人に対しどんな顔して会えるというの
か、旅立つと言うルーシーにエルミアは今までと同様にペンショ
ンを続けるべきだと説き伏せた。彰人と華憐が病院を出て行く日
それは新婚旅行の最終日でもあった。ルーシーに別れの挨拶を
する前に彰人は厳太郎にエルミアには既に憎悪という気持ちは
消え良い思い出をありがとうと伝えて欲しいと頼まれたと伝えると
厳太郎から胸のつかえが消え晴れ晴れとした表情に変わり帰国
した。ルーシーは彰人から責められると覚悟していたので会いた
くはなかった、出来るだけ会わないようにし避ける為に倉庫の中
で3メートルある長いハシゴに昇り仕舞っていた毒薬や呪術の機
材を処分するため降ろしていた時にチェーンブロックでつり下げ
ていた原動機付発電機が邪魔でハシゴを登れない為に彰人が
発電機を降ろしてから華憐がハシゴを昇って行き最上部で作業
をしていたルーシーは華憐から声を掛けられ対面するしかなか
った。
「ルーシーさんお元気になられ良かったです」
「滅相もない、ご主人に感謝の気持ちしかありません」
「子供が生まれたらまた来ていいですか?もちろんこいつも一緒に」
「是非またおいで下さいな、それまでに子供向けのデザートを考え
ておきましょう」
ルーシーは心を入れ替え大魔女は引退し若手に引き継いだ後、
白魔女として人の為に薬を作り後に病原菌抗体のワクチンを作
る。エルミアはルーシーの監視役としてペンション隣に墓を建て
て貰いルーシーの寿命が続く限りこの地に留まった。彰人と華
憐は日本に帰国して7か月経過した新年早々の1月3日華憐は
家族が見守る中女の子を出産した。病室のベッドで華憐は今ま
で彰人に言ってなかった夢を話し始めた。若い看護師の女性が
新生児室から二人の子供を連れ二人に見せると泣くので元気
だと安心し二人は微笑み合った。
「彰人には言ってなかったけどわたしがイギリスの病院で寝てい
た時にね河原で佇む幼い女の子、たぶん10才くらいかな。お
姉さんは死ぬわけがないと言われたの」
「それは夢じゃないんだ、おまえは霊界に行ったんだよ」
「そうなのかな、それでね絶対死なないから希望を持ってと言わ
れたの。だから頑張ったんだよ」
「そうだったんだ」
「だからね生まれてくる子が女の子のような気がして」
「おれもおまえが死にそうなとき女の子からアドバイスされた」
「もしあの時教えてもらわなかったらどうなっていたか・・・」
「会ったのは恵蓮だろ」
「きっとそうよ恵蓮(エレン)が助けにきてくれたんだよ」
「ありがと恵蓮」
「ありがとう恵蓮、早く大きくなって一緒にイギリスに行こう」
まだ生まれたばかりで笑えない筈だが口を開いたので二人から
は笑ってくれたように思えた。
おわり
この物語はフィクションであり実在の人物
団体には一切関係ありません
