母親に華憐と一緒のところを見られたせいで結婚を自白してしま
い実家へ行くことになった彰人は妻の華憐に相談するといつでも
良いと言われたが交通手段に困ってしまう。妻は妊娠3か月の為
あまり人ゴミの中を連れ歩くには不安があった。悩んでいると執事
でありメイド長の長倉が出産祝いの引き渡し立ち合いに現れ厳太
郎から車をプレゼントされた。電話連絡し彰人の実家波島家まで
長野のマンションから静岡の大井川まで来たのである。8人用の
食卓へ寿司や焼き肉、サラダにオードブルそして果物の盛り合わ
せなど置くとまるでパーティー会場に置いてある料理の数々。母
に頼まれ彰人も用意を手伝うが妊娠の華憐には手伝いをやめさ
せた。乾杯をした直後に母から結婚式は済んだのかと聞かれた。
「あんた達って式は挙げたの、東条家のことだから豪勢な式か」
「いや実は事情があって式は挙げてないんだ」
「それじゃ華憐ちゃんが可哀想だよ、お腹が大きくなる前に式を
挙げなさいな」
「いいか彰人よ入籍してから月日が経っても後から披露宴はやっ
てもいいんだぜ。」
「あたしは別に、でも彰人がやるって言うのなら頑張るわ」
「う~ん考えてみるよ、向うの両親とも相談しなくちゃいけないし」
「もし式を挙げるのなら絶対参加するからね、いいわね」
結婚式を挙げるとなったら東条家の意向は優先しなくてはいけな
い、次に話に出てくるのは新婚旅行のことだろう。新居は既に決ま
っているから新居の場所や家財道具といったものに今更彰人の
両親でも口を挟む隙はない。彰人の視線は食卓の片隅に置いて
ある黒く多角形にもみえる瓶で会話はするが視線はその瓶に釘づ
けだった。
「彰人、酒が好きだったよな。おまえの好きなシュタインベルガーを
探して買ってきたから飲めよ」
「それは出来ないな、愛する奧さんが妊娠してる。酒飲んで事故を
起こしたら義父に申し訳開きできないよ」
「そう云うだろうと思ってグラスについであるのはノンアルコールワ
インだから心配しなくていい、お土産にシュタインベルガーを持っ
ていけ」
「ありがとう父さん」
「シュタインベルガーで思い出したけど新婚旅行のイギリス、思い
出すよねおとうさん」
「ワイン飲みながらペンションでみる海岸は素晴らしい景色だった
よな」
「そうそう日本ではないベランダには胸の高さまであるウッドフェン
ス、身体を預けると潮風が気持ちよかった」
二人が話す風景を想像するとその風景をどこかで見た覚えがある
彰人はそれをどこかで確かに見たがそれをどこで見たのかどうし
ても思い出す事ができない。久しぶりに大トロの握りでも食べよう
かなと思ったら既に握りはなくなり乾瓢巻しか寿司は残っていない
今気づいたのだが鴨やチキンといった肉も殆ど華憐が食べてしま
ったようで彰人は華憐の食欲に驚いてしまう。父が餃子を食べよう
と箸を伸ばしたが華憐の方が早く空振りしてしまった。
「華憐おまえ少しは遠慮しないか」
「だっていくら食べてもお腹が一杯にならないんだもん」
「そんな馬鹿なことはないって」
「お腹の赤ちゃんがね、もっとよこせもっとよこせって言うの」
彰人は妊娠した女性の食欲を知らないし食生活も知ら無い
から妊婦とはこの華憐のように大食漢になるかもしれないと
思うがいくらなんでも寿司3人前にオードブル1皿その他で
は食べ過ぎに思えた。それだけではなかったのである。
「もう食べるなって?いいもんあそこの黒い瓶のワイン飲む
からね」
飲んでもちょっとしか飲まないだろうと彰人は考えたようだ。
「ああそうしろよ、飲んだら帰るからな」
ワイングラス一杯で120ml、彰人が一杯飲む間(彰人はノンアル
コール)妻の華憐は3杯飲んでしまった。およそ缶ビール1缶、ビ
ール大びんで6331ワイン1本でも700mlかそれ以下であろう。
一度だけ華憐に酒を飲ませたことがあったのだがジュースと勘違
いしていたのもあるが赤い顔になって酔いが回っていたのに飲み
続けたあの日の事をすっかり忘れていた。
「あら、これおいしいわね」
「もうよせ、何杯飲む気なんだ」
瓶を取り上げると妙に軽い気がしたので振ってみると音があまりし
なかった。試しに自分のワイングラスに注いでみると大さじ2杯と
いうところか。
「おまえ・・・これしか」
「酒を飲むもの見る物じゃない、ウィック、飲めば減るのが酒なの
だヒック」
「おまえは武天老師か?あ~おれのシュタインベルガーが・・・」
「ヒャァヒャヒャ、あたしの腹の中にあるぞ、腹音聞こえるか」
「泣くな彰人、仕方ないからマドンナ持っていけよ」
「ありがとう父さん」
またもワイン瓶に手を伸ばそうとした華憐だったが手を伸ばしな
がら畳の上に倒れ寝てしまった。長い髪の毛が頬に掛かりその
風貌は土手に生え揃うススキを思わせる。華憐の長く柔らかい
髪を彰人は指で掬うとススキの穂を分け入った子供の頃を思い
出す。口元についたトンカツソースを人差し指で擦ると華憐は頬
を指で掻き毟ったので本人はハエか蚊が纏わりついたと思った
のかもしれない。
「夢でもみてるのかしらね」
「ワインの樽でもつかんでいる夢かもな、はは」
「夢?」
両親の言葉でやっとビーチに近いペンションにいた記憶を思い出
した、日本の国内だとばかり思い日本の至るところにある有名な
海岸を文献やネットで調べてみたが似たような場所はなく諦めた
まさか海外それもイギリスだったとは思いもしなかったのである。
「母さん新婚旅行にイギリスへ行ったって言ったね、イギリスのど
こ?」
「もう昔の事だもん、覚えてないよ。ランドシャだったかな」
「ランカシャーじゃなかったかな」
「う~んそうだったかな」
「ランカシャーのビーチって聞いた事あるよ」
「そこへ旅行にいってみようかな」
「え、なに、新婚旅行にイギリスへ行く?やた」
「寝ている癖にちゃんと聞いてるよこの酔っぱらいは」
「綺麗な場所よランカシャーの海岸は、いい記念になるから」
「まさか彰人が行くことになるとはな、結婚出来るとは思って
無かったから感無量の想いだよ」
華憐が泥酔したことで夕方5時に実家を出る予定は変更せざる
得なかった、母の静子から妊婦なんだから少し寝かせた方が身
体のためと言われ6時、18時に実家を出発。山に囲まれた村
の夜は早く闇の中をベンツA45は駆け抜け自宅のマンションに
到着したのは夜10時になってしまった。暗い中を走るのは想像
以上に疲れドイツワインのマドンナを父から貰った時に着たくし
たら飲もうと考えていたのだが眠気には勝てず華憐を抱いてベ
ッドに降ろすと瞼が勝手に下がっていく。寝台できちんと寝るの
が彰人の心念だったので意識が飛びかかってる夢遊病者にな
りながらもベッドに倒れ込んだ。
満月が一際大きく輝いだ時、閉め切っていた筈のワイン色した
ベロア生地の厚いカーテンが風で煽られたように少し動いた。
サッシ窓は施錠されているから風でカーテンが揺らぐなど有り得
ないが風が吹きつけるように旗めき少しづつカーテンは開いて
いった。するとカーテンの影から立ち尽くす人姿が現れる。黄金
色する瞳が怪しく光を放ち何かを探すように目玉が動いている。
探し物が見つかったようで口元が吊り上がり微笑んだらまるで
浮き進むようにその人ならぬ者は彰人に近づいていった。
「妾は後白河葵、東条の娘に死を与えるもの」
「娘の身内であるならお前にも死の病を与えることになる」
彰人の額に青白き手を当て異形の女は蜃気楼の如く瞬時に消
えた。
「どうしたの彰人、ねえ大丈夫なの」
「キャッ凄い熱、どうしよう」
「どうしよう、どうしよう、どうすればいいの」
華憐が起きると隣に寝る彰人の様子がおかしい事に気づき彰
人の身体を両手で揺さぶってみたが荒く呼吸し額から汗を流し
苦しむ夫に何をすればいいか解らなかった。生涯守ると両親は
決意し義務教育は受けたものの以降何も勉強や指導を受けず
に娘は成人してしまった東条夫婦の失策。結婚するに当たり
花嫁修業もさせて貰えなかった華憐にしてみれば不幸とも言え
る。東条厳太郎はそういった事情を考慮してでの隣室に東条家
給仕を住まわせ配慮した。華憐が冷静に考える事ができれば
隣室に住む者達に救いを乞うところだが考えが及ばなかった。
華憐によってなんとか着替えだけはして貰いベッドでうなされて
いた彰人は夢を見ていた。彰人が神殿に入る為に白い石段を
登って行く、階段は一段一段低く作られ奥行きもある石段なの
で苦も無く神殿に昇れた。神殿の奥で誰かが正座しているのが
見える。彰人がその者に近づくとその者は深くお辞儀し長い髪
が揺れたので女性だと判断できた。
”あのような真似をし申訳ありませんでした、彰人様”
”あなた様をお迎えするには致し方なかったのです”
”誰だい君は”
”わたしは後白河葵、大和の魔女。貴方様の従者でございます”
”僕はしがない只の人間、君の様な美しい女性が仕えるなんて
とんでもないことですよ”
”滅相もございません、彰人様はタダの人間ではありませぬ”
”主のご希望は存じております、あの者にお会いになりたいと
のご希望、お任せくださいませ”
彰人が次に見た風景は大小の石が折り重なるゴロタ石と呼ばれ
る石ころで埋め尽くされた荒野、遠くからは川の流れる音が聞こ
え川の水が流れる音に呼ばれるかのように歩いていった。多く
の石がある河原は広大でそこに背を丸めて座る人が見える。更
に歩を進めていくと金髪の老婆がしゃがんで何かをしている。彰
人にはその老婆がエルミアローゼックのような気がしたのだろう
そのエルミアがここで生まれてくる我が子を呪縛しているのでは
ないかと思えてしまう。”エルミア”と声をかけると老婆は風貌を
変え40代と思える女性に姿を変えた。
”エルミアさんここで何をしていますか”
”わたくしには業がございますので天国にも地獄にも行けずこの
賽の河原で少しでも罪を償おうと子供達を供養してます”
”あなたがどういった理由で呪いをかけたのかわかりませんが死
の呪いを解いてくれませんか”
”わたしには死の呪いを掛ける程力はありません、あれはあの男
を脅すために言っただけなのです”
”わたしがあの男に呪いをかけたせいであの子が苦しみ嘆き哀し
んだのを見てわたしは罪深いことをしたと悔やんでおります”
”もう懺悔する必要はありませんよ、十分悔やんだのでしょう”
”それはどういうことでしょうか”
”わたしがあの子の呪いを解きました”
”もしあなたが望むのであれば極楽浄土へ昇る道に案内します”
”それは叶いません、わたしの犯した罪は消えないのです”
彰人はあの子には死の呪いが続いているとエルミアに聞かせる
と自分とは別の者が呪いをかけていると答えた。この場所から移
動することが可能ならば自分が呪いをかけた者に応じると言う。
”彰人様エルミアを現世へ移動させましょう、お任せください”
彰人の額には濡れたタオルが置かれ真っ赤だった顔の色も平
時と同じ色になっている。偶然部屋を訪れたメイドの一人梓山
詩織のお陰である。梓山が世話係に選ばれたのは万能は基よ
り華憐より2歳年上の27歳、華憐から姉の様に慕われ教えて
貰った事も多いのが理由である。
「お薬飲ませたほうがいいよね」
「今は駄目、お粥食べさせた後にね」
「何も食べていないところに刺激があるお薬飲んだら胃が驚い
てしまうわ」
「こういう場合はまずお水を飲ませるの」
「勉強になる、さすがは詩織さん」
「そう思ったらメモしなさい」
「は~い」
眩しい光を放っていた太陽が落ちようとしている夕刻6時になる
と彰人は眼を醒ました。カーテンが揺れカーテンが窓ガラスに当
たり心地よい音を奏でる。先程まで汗で濡れていた彰人の髪は
緩やかな風によって乾いている。妻の華憐が喜び詩織が笑顔を
見せていることに彰人は疑念を持った、彰人は運転で疲れて眠
っていただけに思えたからだ。
「彰人さんは今まで高熱で寝ていたばかりですよ」
「華憐が飲みすぎて二日酔いしての発熱ではなくて?」
「お嬢様は元気溌剌そのものでした」
「一人前の主婦は高熱で倒れた夫にオロオロしません」
「やめてよ、もう」
「もうどうしてあたしの胸ってこんなに膨らんでいるの?お尻だっ
て大きいからはみ出ちゃう」
「・・・あまりそんな事言わない方がいいですよ」
華憐の言葉で周囲から厳しい視線を送られているのに気づいた
自分でいかに体形がいいかと自慢している、周囲からはそう受け
取れもので一瞬にして女性達から敵視された。独身である詩織か
らも面白い発言ではなく嫌な気分であった。そこで詩織は華憐に
罠を掛けようと思いついた。
「これ試着してみましょう」
「いやよお尻が丸見えになるじゃない」
「あれ華憐ちゃん知らないの?イギリスではこのくらい普通なの
そんなワンピースだと彰人さんの妹に間違われるわ」
「大丈夫、大きなお尻の女性って男性から嫌われているの。 でも
彰人さんだけは好きらしいから惚れ直してくれるでしょ」
”大体胸を揉まれ過ぎ、彰人さんの上で腰ばっか振ってるから”
「そうなのかな?彰人が喜んでくれるなら着てみようかな」
「どうかな、変じゃない、なんか恥ずかしい」
無駄に脂肪がついてるだけかと詩織は考えていたが実際見て見
ると肉が垂れ下がったとは思えず豊かな肉だが重力に反し張りを
与えている、胸も同様で下乳さえ指を入る隙間さえ与えない程弛
みを与えていないのだから詩織から言葉がでない程に惚れ惚れ
するするプロポーション。
「ねえってば、」
「あ、いえ着心地はどう?」
「身体にピッタリで動きやすい」
「早く彰人とビーチで走りたいな」
詩織が内緒で写真を撮影しようとしたところ携帯から煙が発生し
撮影出来なかった。日本に於いては初の携帯炎上事故である。
公に隠し続けた娘の華憐に子供が出来たことで厳太郎は披露宴
を行う事を決めあらゆる段取りは会社取締役の厳太郎がした。
式には当然彰人の両親も呼ばれたが結婚祝いに何を贈ればい
いのか悩んだ。イギリスに新婚旅行を決めたことで父の厳太郎か
らあまりいい顔されなかったが香那江と波島両親から説得されイ
ギリスへの渡航は了承された。それから1週間後披露宴はホテル
の大広間を貸し切り行われたのであるがその広さは彰人の想像
を遥かに超えていた。下見では広すぎるだろうと思えた大広間だ
ったがいざ本番ともなると来場者の数に圧倒され緊張で恐ろしく
なったものだ。なにせ今まで広告や新聞、雑誌でしか見なかった
例えばフェラーリ製のベビーチェアなど自分とは無縁だと思ってい
た物が結婚祝い、出産祝いとして見知らぬ人から貰うので戸惑う
のだ。結婚式など座っていればそのうち終わる簡単なものさと考
えていたが300テーブルもあると疲れは相当のもので新郎新婦
のキャンドルサービスなどは300メートル歩けば済むといったも
のではなく10倍の3キロ歩かなければならないだろう。山登りは
往復で8キロくらいは歩くので彰人には問題ない距離だがウェデ
ィングドレスを着てピンヒールと言うパンプスを履いた華憐にとっ
てなれない靴で歩くのは苦痛だった。招待客は食べたいものを食
べられるが主役の二人は来賓が話す間は食べる暇がなく話をす
る来賓が多ければ多い程食べられる時間は遅くなる。威信をかけ
た東条社長はお色直しといった花嫁の着替えを10回にした所為
で華憐は重い12一重を着なければならなかったのもあり疲れは
彰人以上であった。
やっと終わった披露宴で身も心も疲れ果てたが自宅に帰ると祝い
金、祝いの贈答品は1000にも上る。当然父親である厳太郎が
企画したものだし料金も払ったので祝言はすべて父親が持って行
くものだと考えていたがお祝いだと言って持たされてしまった。貰
っただけで済む話ではなく金額と氏名を記載しておかなければな
らない。結婚祝いの品もお前たち二人に対する品だと言われ渡さ
れてみたが大小丁寧に梱包された箱が1000以上あり開梱して
片づけるには1日潰れるかもしれない。さらにゴミの片づけは到底
燃えるゴミ日だけでは処理できない量になる。
「どうする?これ」
「のんびり片づけるしかないんじゃない」
「知り会いにやろうか」
「わざわざ選んでくれた物でしょ、あげたら悪いよ」
「だっておまえ、これ金の延べ棒だぜ」
ブランド品のぺアカップだけで10セット、生活消耗品は有り難い
が限度を越えると在庫品と思えてしまう。洗剤粉石けんが200に
料理用油脂が50リッター、中には350Lのドイツ製4ドア冷蔵庫
もある。冷蔵庫といった電化製品の場合は破損防止で発泡スチ
ロールで固定されて段ボールから取り出すのも一苦労し重量の
為設置もまた一苦労。大手電気店チェーンの50万円商品券も
あるが長野市にオジマ電気はなく静岡県の掛川にしかない。
つづく
この物語はフィクションであり実在の人物
団体には一切関係ありません
