[短編小説][創作][ホラー] 呪神 岩神諒一後編 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

最愛の姪 倫子、娘のいない岩神がこよなく愛した我が子同然

だった高校生の倫子が自殺し仏壇に置かれた真新しい包装の

小箱を眺めると哀しみが襲い何もする気がなくなる岩神だった。

いくら死後何百年と経過しても人が哀しむ姿を見るのは悲しい

お岩も岩神の辛い気持ちを汲み取ると枯れた筈の涙が流れる

死者は涙を流さない、ある特定の理由がそこにはあるから大抵

霊は泣く姿を見せないのである。泣いてる様に見せている霊は

あるだろうが実際には涙を流していない。

 

岩神の背後で人のすすり泣く声、その声に気づいたのは岩上が

学校で見たものによって気が付いた事があるからだ。

「おや、岩さん泣いている?」

「・・・はい、うぇっく、ひっく」

「やばいって!泣いてはいけないっていつも口を酸っぱくしてる

 じゃないか」

仏壇のある部屋にTVはない、TVのある部屋は8畳の畳敷く居

間であり岩神は急いで地上波ニュースを見て見る。すると

”臨時ニュースをお伝えします、ただ今緊急警報が出され山陰

 地方に大雨警報が出されました。1時間に100ミリの降雨量

 が予想され決して田畑の様子を見に行くことは遠慮ください”

「・・・ほら!思った通りだよ」

「早く涙とめて」

「そんな事を急に申されましても・・・」

だがお岩を見ると岩神を見ておらず下に視線を飛ばしている、そ

の視線の先にあったものは雑誌。JUMPという文字だけ見えその

雑誌が漫画であると彼は考えた。

 

「岩さん何で泣いてるのかな」

「だって、30年も待った弓香がやっと伸介から求婚されましたの

 もう嬉しくって」

「漫画だろ、そもそもさ30年も待ったなら50代のおばさんじゃな

 いか。おばさんとおじさんのプロポーズなんて何が楽しい」

「岩神さま、あんたは何もわかってない。漫画には時の流れなん

 て存在しない20代なら永遠に20代の若き乙女なんですよ」

 

そういえば若き日に愛読していた750ライダーの主人公は長期

連載にも関わらず終了するまで高校生だったと思い返している

”おまえ何年留年したんだ”とは思ったがやっぱり好きな漫画だ

ったと今岩神は思っている。

「じゃぁ来週も楽しみだね」

「ううう、それが来週は休刊らしく、作者を呪ってしまおうか」

「そうなんだ、。泣き病んでくれたら今度最新刊のコミック買って

 あげるよ」

「いいのですか?では呪いをかけるのをやめます」

繰り返し読める事を想像以上に嬉しいようで心底感謝した。

 

お岩の機嫌が良くなったところで最近みなくなった牛乳瓶、手に

入れるとしたらどうするのかと岩神はお岩に訊ねてみた。すると

お岩はわざわざ入手せず偶々目に着いたものだろうと答えた。

「いじめた相手でしたら買うなんてとんでもない、出かけたつい

 で ではなく通学途中、道端で目に入った物ではないかと」

「そうだね、だったら交通事故や暴漢に襲われ命を落とした人

 へ献花目的とか?」

「お察し、流石でございます」

 

その日の夜、岩神とお岩は学校の倫子がいた2-Aの教室へ忍

び込む、牛乳瓶の持ち主と会う為である。もしかしたら持ち主で

ある死者がイジメていた相手を知っているかもしれないと考えた。

静まり返る暗い教室、岩神が呼びかけるも空瓶の主は現れず

横で業を煮やしたお岩が叫んだ。

「四谷のお岩に逆らうというのか、祟ってやるぞえ」

お岩の言霊は教室の椅子や机を揺るがし外では大雨が降りだし

たのか”ザアア~”と雨音が音を激しく立て降る。霊力でお岩に

勝てるものは片手で数えるくらいしかおらずそのお岩の激怒した

声で余計な霊も含め数十人は教室に現れてしまった。

「おまえか?わしの花瓶を持って行ったのは」

80才くらいの白髪頭の老婆は血走った赤い瞳で岩神を睨み手を

広げて迫りくる、黒ずんだ骨と皮ばかりの細い指。

「おやめなさい、身を弁えよ」

「何が悪いと言うのだ、お前如き小娘がお岩な訳がない」

「お岩だと?」

お岩が老婆を制すると老婆はまるで信用せずそれどころかお岩

と呼び捨てしたせいかお岩は理性が飛んでしまい顔を俯かせた。

片目が爛れた姿は江戸時代に作られた怪談のせいと信じられ

実在の人物は美しい女性と語り継がれているが顔を知る人はな

い。顔を俯かせ纏めた髪を崩すと長い髪は顔を隠し伸びきる。

教室内に風が吹き荒れお岩の長い髪が浮き上がると片側だけ

無理やり髪の毛を引き抜かれたように頭部から血が流れている。

血まみれの目尻、プラチナの瞳と赤い瞳孔が老婆を認識する。

白金の輝く瞳で見つめられた老婆の身体は凄まじい力で押さえ

つけられ立つ事ことを耐えられずに膝をついてしまう。

 

「小娘とは誰の事じゃ、おまえの様なひよこに言われとうないわ」

「我は呪神様に仕える四谷のお岩、口答えは許さん」

老婆は額をついて伏謝り身体を震わせ怯えている。

「皆に教えておくから心に刻むが良い、こちらにおられるのが呪

 神岩神様でおられる、奈落の最下層へ堕ちたくなければ従え」

 

岩神に対し反抗的だった悪霊も岩の一声でやっと聞く耳を持つ様

になった。反感を表に現せていた老婆も今は従順になっている。

そこで牛乳瓶が置かれていたのは女子高生徒の登校路途中であ

るが高校生にイジメられてる姿をみた記憶はなく目の前を素通り

する生徒ばかりだったという。ただ一人の女子生徒だけが定期的

に線香を上げてくれ老婆は線香をあげてくれる日が楽しみだった。

霊が数十人いるというのにひとりも倫子がイジメられている姿を見

たものがいないというのも妙な話しだ。

「そういえば下駄箱を教師が数人で雑巾がけするのを見ました」

「そうか、ありがとう」

苛めがあったのは事実、しかし証拠を隠滅をこころみた教師達。

もし生徒が掃除していたら手がかりになったかもしれないが教師で

は証拠にならない。これではまったく犯人探しに進展はない。

倫子の記憶を見る事ができれば決定的な証拠となるだろうがそれ

は無理なのだ、なぜなら倫子は創造神に連れられ神の棲む聖域

で神になるべく修行する。岩神と血縁関係にある倫子、彼女もまた

神の一族、宗教的には眷属である。

 

姪の倫子が電車に身を投げて自殺してから一月が経とうとしてい

る5月下旬、もうすぐ6月だというのにシベリアから寒気が入り込み

最低気温は12度、九州は梅雨入り宣言が発令し関東付近では南

からの暖気と寒気が衝突し積乱雲が発達。東シナ海で発生した熱

帯低気圧は勢力を増し台風へ進化、台風3号は天気予報のフィリ

ッピンで温帯低圧に変わるとする予測から進路を変え九州を目指

し20キロで進む。学校で霊たちと話したが何も得ることが出来ず

新たな方法で犯人を探ろうと考えていた岩神であったが風の唸る

音と時折轟音と共に光る雷と激しく降り続ける雨が気を散らす。

そんな時に夕べ見た夢を思い出し心が騒めいた。倫子が夢に現れ

「お母さんの事よろしくお願い、おじさん」と頼まれた。

そう言われればここ数日岩神は姉と話していないと考えている。

外では物干しざおが飛ばされたような音が響く。風は勢いを増して

風力で押し負かされた木々は悲鳴如き声を出しきしんだ。夜10時

激しく雨降る中、岩神の家に一人の訪問者が現れる。

「こ、こばんわ」

低く暗いとも思える声、だがどことなく聞き覚えがある声とも岩神に

は感じていた。夜にも関わらずしかも大雨降る中訪れた人、どんな

人だろうかと玄関を開けてみると訪問者は姉の絹代だった。

「どうしたの、こんな遅い時間に?」

岩神が姉に対し微笑んで訊ねてみたがやつれ細くなり目も窪んだ

姉は無表情で枯れ木のように立っている。

「ねえさん、どうしたんだ」

「こちらに恨みを晴らしてくれる岩神様がおられると聞きました」

生前なんども遊びに来てくれた姉、それがどうしたことかまるで初

めて来たかのような態度に岩神は何がなんだかわからない。

「ねえさんと呼ばれてもわたしに弟はございません」

「おれは弟の諒一じゃないか、冗談やめてくれよ」

 

蒼白い顔の姉絹代を見てお岩は絹代がどうして諒一をわからな

いのか理解してしまった。岩神に向かってNOとでもいうように手を

振っている。岩神がお岩の顔をみると今度は駄目と言う様に頭を

左右に振る。姉の絹代がもうダメということは既に生きていないと

お岩は身振りで岩神に教えようとしているのだ。岩神が姉が死ん

だと認めなくなかった、認めたくはなかったが絹代の首をみると赤

黒くロープで絞められた縄の跡がくっきり残っていた。ロープの痣

を視認すると岩神の頬を一筋の涙が流れ畳を濡らした。

 

「岩神様、娘はイジメられ自殺しました。娘が死んだというのに追

 い込んだクラスメイトはノウノウと学校に通っております。これで

 は娘倫子が浮かばれません」

正式に依頼されれば呪神として相手の素性は突き止められる事

が出来るだろう。しかしそれには姉が死んだと認めるしかない。

自分のことは記憶に残っていないが倫子のことはきちんと覚えて

いる哀しみと安心が交差した時、岩神の頭の中にイメージが浮か

んだ、大きく曲がりくねった木々ばかりの雑木林で姉の絹代がふ

らつきながらも首にロープをかけ土手から下へ飛び込む。白い

素足をばたつかせもがき苦しむがしばらくすると絶命し太い枝に

吊るされたテルテル坊主のように薄暗い森の中で揺れる姿。

 

涙をきり思考を切り替え姉に対し呪神岩神として接する。

「倫子さんの受けた仕打ちを晴らしたいというのですか、あなたは

 いずれ別のものによって地獄へ落とされてしまうでしょう。ですが

 あなたは報復する相手達の苦しむ姿を見ることは出来ない、そ

 れでもいいというのですか」

「はい、構いません。何卒よろしくお願いします」

岩神は姪倫子を死に追いやった者達を許せず地獄に落とそうと考

えていた。地獄には一般地獄、閻魔の娘専用の指定区そして呪神

だけが使える特別区がありそれぞれ独立した区域であり地獄を統

率している閻魔であっても立ち入れない。同じ地獄でありながら個

々は干渉してはならない掟が存在しており岩神は特別区の出入り

を許可できる権利を有している。故に一般地獄へ連れ去られる絹

代は特別区に入れないのだ。

絹代の申し出に快く承諾、岩神の姿をみて微笑んだ後絹代は姿を

消した。久しぶりに見た姉の笑顔はとても美しく思えた岩神である。

 

正式に申請されると岩神は呪神が持つ能力すべてを引き出す事

が可能となり思い描いた人物の記憶を回想できる。姉が死に及ん

だ経緯も視えるが今は倫子の経験したすべてを視るのが優先。

記憶をみると言っても自分に必要な一部分の記憶だけを取り出す

のは出来ず出生から命を終えた最後までを見なければならない。

 

イジメは高校入学からはじまったと思っていた岩神は記憶を見て

いて愕然となる、倫子は中学2年の時に父親が自身に火をかけ

投身自殺したがその頃から倫子は親友だった美和に距離を置か

れるようになりはじめ同時に嫌がらせを受けはじめた。苛めを受

けていた1年くらいだと思っていた岩神には辛い記憶であった。

倫子は中学2年から17歳の誕生日になる前日までいじめは数

年に及び続いていたのである。母絹代が良かれと思い勧めた女

子高校、中学でイジメをしていた生徒と同じ高校に行く嵌めにな

る。しかし倫子は知っていた、知っていて母の想いを叶えイジメ

から逃げず正面から闘うことを彼女は選んだ。イジメは富豪の娘

を筆頭とする議員の娘達数人ではじまったが高校入学と同時に

徐々にイジメは人数を増やしていきその中には親友だと思って

いた美和もいた。

 

ただ美和は倫子にとっては大事な親友、距離を置いたからと言っ

てもイジメのグループには逆らえず嫌々ながらイジメに参加して

いたと考えていた。しかしそれは倫子の甘い考え、倫子の希望だ

ったのかもしれない。

「美和さんの言った通りにやりましたけどあの子、堪えますね」

「思った以上にしつこいですね。だったらあれを壊してあげます」

「それは?」

「あの子の母親から貰った手作りのお財布、なんでも亡き父親が

 造った革の財布らしくあの子がとっても大事にしている物」

「それはやりすぎでは?」

「そのくらいしないとあの子の心は折れませんよ」

倫子から財布を差し出させ目の前で革の財布にハサミを入れて

いくイジメグループ、そこではじめて倫子は美和がイジメに加わっ

ていると理解し美和に裏切られたと確信した日だった。その日の

帰り、傷心の倫子は帰宅途中の駅で電車に飛び込んだのだった。

倫子の記憶を見た岩神は握った手の指に力を込めてしまう。

 

「相手がわかりその者達にどのような報いを受けさせますか」

「簡単に殺しはしない、あそこへ生きたまま連れて行く」

「永遠に自分の行った事に対する償いをさせてやろう」

「可哀想な子達、同情してしまいますわ」

死は一時の痛み、恐れ、哀しみに囚われるだけであるが岩神は

罪びとに楽な死は与えない。悪霊は死が終着点であると考える

為呪いをかけるが呪神はそうではない、死ななければ続くのだ。

 

「ここは一体?私達をこのような場所に連れてきて、おじさんタダ

 じゃ済まないわよ」

「絶対告訴してやる」

女子高生20数人が不満を岩神にぶつけるがまだ自分達の置か

れた状況を理解していないようだ。

「わたしは倫子の叔父だ、君達は罪を犯したここから帰る事は出

 来ない。逃げようと無駄な事をしても構わない、探してみるが良

 い」

枯れた巨木が林立し黒い砂漠が遥か彼方まで続く、足元には凝

固し茶色の岩。黒き色の山は灰色の吐息を出し真っ赤な涎を垂

れ流す。一人の少女が悲鳴を上げた、右目を鉄の櫛が刺さった。

クラスメートが駆け寄るが駆け寄った生徒の足を槍が足の甲を

貫く。美しい髪の毛を持つ少女、自慢の髪の毛らしいが突然発火

し髪の毛は一気に燃え広がった。逃走する少女数人だったが砂

漠の地面は割れ水を湛えた池に落ち、少女の皮膚を黒い虫が群

がり皮膚を食いちぎる。だがたった一人だけ難を逃れた少女がい

る、美和だ。恐怖し荒い息が平静さを取り戻した時、前には見上

げるような巨鬼が涎を垂らした。美和は服をはぎ取られると背後

から醜く硬いもので身体の中心を貫かれた。

 

「悦楽と恐怖は紙一重、お前たち交互にそれらを繰り返す、死ん

 だほうが増しと考えるだろうが死は訪れない」

そう言い残し岩神はその場から煙のように姿を消した。

 

倫子の恨みだけでこの地獄最下層に連れてきたのではない。

創造神からの令、それは新参神である家康、将門、道真を打ち

信仰する者どもに鉄槌を与えよ

その指示に従い議員の娘を連れてきた、云わばこれから始まる

惨事の前の序章ともいえた。

 

おわり

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません