わたしは狭い土手の上を歩いている。遥か下方に河が流れる
峡谷のような場所、これは以前夢でみた土手で忘れかけた記
憶の一部を引っ張りだしてようやく思い出した。
”そうか夢の中なんだ”
目的地があるわけでもなく淡々と狭い砂利道を歩いて行く。する
と急傾斜の土手に足を投げ出して座り込んでいる長い髪の女性
が目に入った。俯いているが泣いているのではない事だけはわ
かるものの人を待っているようにも思えない、悩んでいるように
視えた。
「どうかしたんですか」
「・・・やっときたね、やっと会えたというのにわたしがわからない
の薄情な男だったのね」
そんなことを初対面の女性から言われてもわたしの記憶の中に
は目の前で座る女性の顔は脳の記憶領域にはない。
「本当にわからないの?マヤだよ」
「あのマヤか」
「マヤは死んだ筈、本当は生きていたのか」
「・・・」
「今ねきみの祖父母と暮らしているの」
「あはは、何馬鹿なことを言ってるんだ。祖父母はとうの昔死んで
いるよ」
生前マヤは疑うことを知らない純粋無垢な女性だった。そんなマ
ヤだったからこそまた騙されているのかとマヤが心配になった。
「騙されてはいないよ、きみの祖父は勇三郎さんでしょ」
「・・・なぜ知っている」
「詳しくは説明できない、わけは聞かないで」
祖父は昭和40年代に死去、祖母は昭和の終わり60年代に同じ
く死去している。マヤが嘘をついているようには思えない。
「なんで同居しているかわからないけど教育といいながらイジメら
れているのか」
「それならまだいい、そうじゃなくてね真逆なの」
「というと可愛がられている?だったらいいじゃないか」
「わたしがね今日の晩御飯何が食べたいですかと聞くとね」
「おれが肉ジャガ作ってあげようとお祖母様がいうのね」
「甘えりゃいい、作って貰えばいいじゃないか」
「ダメだ、肉ジャガなんて。まだ小さいマヤちゃんには無理
なんて言われるの」
「居候でもいるのか」
「違うわよ曾祖母様よ」
「なんだって?ひいばぁちゃんとも一緒に暮らしてるのか」
「ううん、曾曾祖父母様もいるのよ」
わたしの家は古く位牌には江戸時代に生まれた祖父母の
位牌も残されているのだ。マヤが言ったように江戸時代に
生まれた曾祖母からしたらマヤが赤子のように思えたのは
当然である。そして3世代の姑がいればマヤが原因で諍い
も起こる。
「もう、うんざり。なんとかしてよ」
「そんな事いってもな~」
男が3人いれば仕事の主権を握ろうともめ事は耐えずその
都度マヤが仲裁に入る、まやは日々忙しい毎日だという。
「申訳ない、ありがとう、頑張れ」
「何よそれ、他にはないの」
「平穏な日々を過ごせるかと思っていたのに、安らかに過ごせ
るなんて現世の人間の偶像だったよ」
わたしはマヤの愚痴を聞いてあの世は甘いもんじゃないと理
解できた。いずれ向こう側に行くかと思うと嫌気がする。
「おれもっと頑張って生きるわ」
「冗談言わないで、早くこっちへ来てくれないと困るわ」
わたしは苦笑して誤魔化した。
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません