[短編小説][時代もの] 御台所の鬱 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

時は江戸時代、寛永16年の春のこと60才を迎えた花は夫で

ある武士の次郎座衛門と共に巣鴨の武家屋敷へ引越してきた

一人娘は剣客として名高い松兼伝十郎へ嫁がせ夫婦二人の

転居だった。名家ならば婿をとり家を継がせるのがこの時代で

は常識なのだが分家の身である次郎座衛門には家を継承する

必要はなく高田の馬場にある家で一生を閉じようと考えていた

ところが知人から誰か住んでくれないと家が駄目になると説得

され仕方なく受けたのが武家屋敷だったのである。

 

同時代、四谷には岩という良妻賢母が住んでいたが彼女の死

後100年経過してから作られたのが四谷怪談であるが当時の

花は存在を知ることはなかった。四谷怪談は妻の悲劇を描いた

作品であるが江戸時代には似たような悲劇は多数ありその中

でも江戸の町民を震えさせたのが柴田家一族、親族縁者すべて

が死んだというお多恵の祟りである。

現代では事故物件というものが公にされるようになったが実は

昔から事故物件はあり無論江戸時代の寛永16年にも存在し

のである。花は武家屋敷を直近で見た時心臓が押しつぶされる

ような圧迫感を感じた。黒い木製の塀、門柱はあるが表札は外

され以前どのような人物が住んでいたか聞かされてはいない。

ただ夫の話によると引越しの挨拶は不要だと言われていた。

武家屋敷のある地区には他にも数軒、武家屋敷があるが挨拶

は不要だと言われても花は納得することはできない。最も元来

貧乏な夫婦、武士だとて収入源は無きに等しくさらにこの年に

起きはじめた大飢饉により物価の上昇がはじまり生活を圧迫し

ていた。挨拶に行くにも何も持っていけないのだ。

 

翌年の17年北海道駒ヶ岳では噴火が起こりさらには津波が発生

そのせいで700人の死者がでるが江戸にいる花は知る事がなか

った。花は武家屋敷に住み始めてから半年が経過、引越ししてか

ら数日は屋敷内で誰かに見つめられているような気配や視線を

感じた事があったのだがある夜、夢で女性が現れ何かを告げた。

何かを言われたがどうしても思い出せない、だがその女性は眩し

い光に包まれていたので夢の中に仏さまが現れたと愉悦した。

以後、花には嫌な感覚はなくなり屋敷は自分に心を開いてくれた

と思えるようになっている。ところが次郎座衛門は悪夢に苛まれ

る日々が続き睡眠不足が数日続き顔色も蒼くなりはじめている。

当人は思い当たる節は見つからないが小皿に煙管から灰を落と

してから悪夢を見るようになっていたのだ。次郎座衛門は厳格な

武士の父を見て育ったせいか家事は女性がするものだと信じて

疑わない男性であり調理はおろか掃除も一切したことがなくその

せいで片づけない、汚しても綺麗にしない。

「お皿にたばこの灰をすてるのはやめてください」

「洗えば良いだろう」

屋敷の中に桶はあるものの桶に入っている水は野菜や魚を洗う

ためのもので食器や箸などを洗うには外にある井戸まで運んで

から洗う。かまどで使う薪さえも夫は何もせず花が薪を割る、夕食

を作るだけでも花には多くの作業をしなければならない。井戸場で

食器を洗いながら娘のことを考えている。

”あの子は苦労していないだろうか”

花は自分の娘には自分と同じような苦労をして欲しくはなかった。

しかし花は知らない、娘が嫁いりした剣客松兼は男ながら包丁を

握り家事が出来る男だったのだ。料理が作れるならば調理器具の

使い道も理解してるし後片付けの作業も理解でき花の心配は無用

だった。

 

この時代では食卓などというものはなく個々食事の膳が使われる

のだがそれは名家の武士の場合であり次郎座衛門のような貧乏

武士は板に足がついた粗末な台を使っている。味が薄いと言って

は台をひっくり返され燗がぬるいと言っては徳利を投げつける夫に

花は日々泣かされている。けれども一旦嫁に嫁いでしまうと実家

に戻る事は許されない、帰ってきても良いと言ってくれた母親も既

に他界してしまった。今更花には他にいくところはないのだ。

 

とここまで書いたところで後は想像してくださいww

いい加減な作者より。