わたくしは悪霊や怨念を祓うことで生計を立てるのを生業とする
霊能力者、今まで数々の霊章によって苦しむ人々を助けてきた
その功績と女優さえも霞んでみえるような容姿からテレビ出演
も数本ありおかげでわたくしへの依頼も多数頂いております。
依頼遂行率はほぼ100%、ほぼというのは最近受けた依頼が
失敗に終わったからで以前は完璧だったのでございます。
そうあの1件さえ受けなければ・・・
「もしもし桐生院美黎事務所でございます」
わたくしは人の口コミによって仕事を頂いており貸しアパートに
事務所を開き細々とやっておりました、生活するにはそれで十
分事たりる収支を得ていたのですがある時尊敬する先輩霊能
者からテレビ出演の話を持ちかけられ致し方なく受けたのです
現在あるビルの事務所はテレビ出演した以降開設したのでご
ざいます。社名には本名使っている?勿論そうですとも。
ちょっと、ほんの少しだけ脚色はしておりますけれどね、こんな
時代なので実名だす程わたくし、愚かではありません。
桐生美怜というのが本名、院をつければ僧侶っぽいから格好
いいでしょ、美黎のほうが霊能力者らしいじゃありませんか。
過去の汚点、いや最近ついた汚点なのですけれどそれという
のは呪いを説くことが出来なかったのが結果であり逃げ帰った
と言っても過言ではありません。
あれは湿度が高い7月の夜、部家にいても睡眠がとれないか
らまぁいいかなとその夜は仕事に従事しておりました。決して
夜のまくら営業ではございませんよ、除霊というれっきとした
仕事です。最も部屋に空調設備がない寝床に於いてわたくし
窓ガラスは開けっ放し、下着もすべて脱ぎベッドの上で全裸
しかもゴロゴロ転がっておりますからいつ襲われても不思議
じゃございませんわね、ですから枕営業と変わらぬ日常かも
しれません。
”コホン” 話は逸れてしまいました。
徹夜明けで事務所に帰宅したのは朝日が昇り事務所の窓か
ら陽の光が差し込む朝の事でした、数個のデスクが並ぶオフ
ィス、目隠し敷居の立つ応接セットどこを見てもいるのはわた
くしと助手の若い女の子の二人しかおりません。気配がない
寂しい事務所内で朝の8時に電話が鳴り響いておりました。
霊能事務所なんて営業時間があってないようなもの、建前
では9時から18時となっておりますが私たちの業務は時間
内で終わる事はございません。
「もしもしわたし今田と申しますが美黎さんはいらっしゃいま
すでしょうか」
「ピー、本日のぉ業務は終了いたすますた。 もうす訳ありま
せんがぁ営業時間内に掛け直し・・・てね」
美怜は録音テープを真似て掛け直しを要求した筈だった。
「美黎さんですよね、そんな事おっしゃらず話を聞いてください」
「・・・」ばれた?なぜと思う美黎の隣では噴き出しそうになる
助手の宮坂糊巳がいる。
「だって、先生の舌が回っていなかたから。ばれますよ」
「普通、営業時間内の説明も入れるっものです」
「うそ、言ってなかった、本当に」
「はい先生それに東北弁が混じってましたよ」
美黎は朝から頭が回らない、さらに加え昨晩は寝ていないの
で睡眠不足もあり舌が回っていなかった。
(天海祐希を想像して読んで貰えると筆者喜び)
「今やっとひと段落し先程戻ってきたばかりですので申訳ござい
ませんが連絡先教えて頂ければ当方から連絡さしあげますの
でそれで如何でしょうか」
美黎と助手の糊巳は早くシャワー浴びて眠りたいと思っていた。
「それでは、よろしくお願いします」
朝9時なると調査担当の若い男と経理の若い女子が出勤して来
る、メモ書きしておかなければと思っていたが睡魔には勝てない
書き残した相手の連絡先も走り書きした為、他の書類と混じって
いた。
美黎が目覚めたのは夜9時だった、明日は久しぶりの仕事が入っ
ていない休日なので社員を引き連れての飲み会を行った。運命
とは非情なもの、もし明日が休みではなかったら飲み会へ行かず
電話連絡したかもしれない。
翌朝目覚めた美黎は二日酔いで頭痛が酷く何も覚えていなかった
当然朝の電話応対した事など記憶には残っていなかったのである
数日後、事務所には怒りに震えた30代の女性が訪れていた。
「先日電話くれると約束したのにいくら待っても電話がこない、一
体どういうことですか」
「申訳ございません、サカキくんいつも言ってるわよね?約束は
守りなさいと」
「ですが先生ぼくは受けていません」
「・・・美黎さん、わたしと約束したのはあなたかと思いますが
お忘れですか今田です」
美黎が呆然としてるところに糊巳は近寄り上着の袖を引っ張る
と美黎に小さな声で耳打ちしてみた。
”先生先日の早朝電話が掛かってきたじゃないですか今田さん
とおっしゃってましたよ”
”そんな事あったかしら”
”ほら先生が留守番電話の真似して、東北弁が混じったんで
録音ではないと相手にばれた時ですよ”
”あ!そんな事もあったわね”
苦笑いで誤魔化すも美黎には相手に平伏するしかなかった。
通常ならば事情を聞き現地へ調査、それから依頼を受けるか
決めるのが定番のシナリオではあるが事務所に負い目がある
以上依頼は受けるしかなかった。
今田氏の家は築5年のマンション7階建ての3階にある。この
マンション以外に高層建築物は他にはビルと賃貸マンション
しかなく3階から見える景色はいい方だった。話を聞くと夫で
ある真司郎は毎夜魘され悪夢を見ているかの様、だが事象は
精神的だけではなく肉体的にも現れ真司郎の首にはまるで首
を締められたかのような手の痣を妻の美崎は見たとのこと。
夫が入浴中にだけ使っていたシャワーが突然熱湯に変わった
りもしたそうだ。事故物件であるならば妻にも霊章が起こるし
土地自体に因縁があるならば二人共に災いが起こる筈、だが
真司郎だけが呪われている。中古でこのマンションは買われた
そうで明るいブルーの壁、フローリングにも痛みはない水回り
もあらかた見て回った美黎であるが汚い場所はなくどこも綺麗
なものだった。だが気になる場所がなかった訳ではない。
「このキッチンですが今田さんが買われたのですか」
「いえ綺麗だったので前に住んでいた方のものをそのままに」
「とても5年経過したとは思えぬ美品ですわね」
「わたし最近の無機質とも思えるシステムキッチンは受け入れら
れないんです、この木目が美しいキッチンこういうのは今ない
んですよ」
今田氏の言う通り5年経過した割にはやけに綺麗なキッチンだ
ステンレスシンクの良さを醸し出すシンク、キャビネットは木製
だが扉を開けると内側は惜しげもなくステンレスが使われ使う
人のことをよく考えられて造りこんである。確かに廃棄するには
勿体ないものではある。
”もしかすると悪霊ではないかもしれない”
ふと美黎の頭に浮かんだ、これは厄介な依頼だと感じていた。
しかし確証がないので美黎は余計な事を言わずありきたりの
言葉を投げつけることにした。
「まだろくに調査をしていないので今は判断出来かねますので
もうすこしお時間を頂くことになります。それとひとつお聞きし
たいのですが私共に電話される前に相談された人はおりま
すか?」
「それは・・・」
「ああ別に他の霊能者に相談されたからといって責めるつもり
はありません、相談されるのは当然ですから」
「それがですね、調査にきてはくれたんですが原因がわからず
調査費用だけ請求されて結局何もしてくれませんでした」
「それはひどいですね、わたし共は解決できなかった場合は
調査費用を請求しないから安心してください」
「ただし必要経費だけは頂きます、除霊の場合モリ塩やお札
神式の場合ではお神酒の代金、それとは別に成功した場合
には報酬を頂きますがそれで構いませんか?」
「それで結構です、よろしくお願いします」
一般に除霊などは呪いの解除なので神式の必要経費を告げる
事は無いが今回に限り祟りかもしれないと思った美黎は言う事
にしたのである。
調査をしてみて美黎は自分の判断が正しかったと理解した。
事故物件ではない、マンションのある土地も遡って調べてみた
が因縁などというものはない、どちらかというとパワースポット
というくらいの良い土地だったのである。
その晩に美黎は夢を見た、美黎の主護神はとうり天、愛と美の
女神であるがその女神が現れ告げた。
「今回の件から手を引きなさい」
「神々は他の神に干渉することはならぬ、この世の理(ことわり)
なのです」
翌朝目覚めた美黎は今回の件に神が噛んでいると考えた。
神の祟りに対していかに霊能力者といえど無力なのだ。だが
神の怒りを少しでも和らげる事ならば出来る、まずは原因を探る
ことからはじめるしかないと美黎は思ったのだった。
「この部屋は神から祟られています」
「神様を無下に扱ったことなどありません、なぜですか」
美黎は神社などにいるとは限らず自然の素材などで造ったもの
簡単にいうと家具などに神が宿る場合もあると説明した。
「 由緒正しい歴史的な家具など部屋にはありません、何かの
間違いでは?」
「例えば木材、その出所は一般にわかりません世間で言われる
御神木が加工され流通した例もあるんですよ」
「あるじゃないですか?この部屋に何年経過しても美しい家具」
そういいながら美黎はキッチン台を右手の人差し指でさした。
事実、山梨県のとある神社には呪いの朴ノ木と呼ばれる御神木
があり枝を伐採しようとしただけで事故が起こり複数の人間が死
んでいるのだ。
「あのキッチンがそうだと言うのですか」
「あのキッチンを買われたのは前住人だそうでしたね、でしたら
その入手先もご存知ない筈ではないですか?」
「確かにそうですが神様がおられるキッチンとは思えませんよ
木目はすばらしいですがどこにでもありそうな地味なものですよ」
そう言ってみた今田美咲ではあるがもしこのキッチンに神が棲む
のであれば怒らせる原因に心当たりを思い出した。
「あ!そういえば」
「何かしたんですか、思い当たる事でも?」
「いえ夫が駄目だと言ってるのに毎回タバコの吸い殻を生ごみ入
れに捨てていたんですよ」
妻の美崎からタバコはキッチンで吸うようにしてと言われたので
夫の今田氏はキッチンで吸うしかなく、吸い終わると3角コーナー
に吸い殻を捨てていたのであった。
入院してる旦那さんの回復方法はひとつ、キッチンを大事に扱う
事しかないのだった。
「効果があるかはわかりませんがキッチンには毎日お神酒を捧げ
毎日1回は掃除してください、そして3礼3拍。ご主人が退院され
たのであればご主人に掃除して貰ってください。この際禁煙され
たほうがいいかもしれませんね」
「効果がない場合はどうすれば」
「わたしにはこれ以上どうすることもできません」
「廃棄すればよいのでは」
「すでに祟りは発動されてますのでもし廃棄したら悪化する可能性
もあります」
美黎はお神酒代として3千円請求し今田家を後にした。今田美崎は
数万円請求されると覚悟していたようであまりの少なさに感激した
ようだ。
その後、数週間経った頃美黎宛てに1通の手紙が届いた。
差出人は今田美崎、夫も無事退院し現在は元気に会社へ
仕事に行っている、タバコもやめることが出来て今は幸せ
であると歓びの手紙だった。しかし美黎は今回特に何も
出来ず完敗した想いであった。
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません