[短編小説][創作][長篇]  天狗病の少女 next8 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

長野県の山深くにある本殿まで訪れた祐一朗と由貴の二人は

大天狗の住まう本殿にて結ばれ由貴の男性化は止まり美しい

女性となった。天狗病は若き女性のみ発病し男性になる病、女

性に戻るには男性から精子を抽出して貰い子種を作る必要が

ある。由貴が女性に戻ったということは妊娠したのを指す。

祐一郎は卒業まで高校生活へ戻ることが許されたが由貴はこれ

からお腹が大きくなるので学校生活は続けられず休学から退学

することになる。また祐一郎とて卒業後にどうするか決めなけれ

ばならない、由貴と結ばれお山へ行くかそれとも由貴と決別する

のか。

 

十月十日後、由貴はお山の本殿にて可愛い女児を出産した。

祐一郎は高校3年生になり進路を決めかねていた。由貴とはあ

れ以来逢っておらず1年が経過しようとしていた。大天狗に結論

を出す3月まで半年を切っているが未だ答えは出ない。

「義孝は進路をどうするんだ」

「おれは車が好きだから自動車の整備工場を受ける」

「おまえもそうだろ、整備の腕あるんだから」

「いや、まだ車の免許も取ってないから」

祐一郎はバイトを従来通り続けていたがそれはバイクを買う為

ではなく由貴の為生まれてくる子供の為に貯金していたのだ。

祐一郎の学部は自動車科、高校に在籍中自動車整備士免許を

取得できるのだが整備士免許は国家資格、実技は免除されるも

のの学科試験は受験が必要となりすでに試験を受け合格の通

知も受けた。免状は卒業と同時に貰える。由貴と出会う事が無

かったら祐一郎は自動車免許を取り整備士になっていただろう

しかし自動車免許のない現在では整備工場への就職は諦めた

ただバイト先への通勤も考え250ccのオフロードバイクは購入

125の原付Ⅱ種も考えたが高速道路の走行を考え250に決定

した、すべては由貴のいる長野県へ行くために。

 

秋雨前線停滞で雨が続く昼下がり、祐一朗は教室で一人佇んで

いた。

「よう祐一郎、何黄昏ているんだ」

「おまえ最近いつも考え事してるみたいだけど何悩んでいるんだ

 進路が決まらないのか」

「それもあるけど、おまえに言っても仕方ないからな」

「なんだよそれ?おれはいつもおまえには何でも言ってきたよな」

「おまえもそうだとおれは考えていたがそれは違うのか」

「なんでも言っていいのか」

「ああどんなことでも聞いてやるよ」

祐一郎は制服のポケットから1枚の写真をだして見せた。それは

制服を着た女子高生が赤子を抱いている写真だった。

「それおまえの彼女なのか?可愛い女だな」

「一度おまえも見ている筈だ、由貴て言うんだけどな」

「嘘つけよ、こんな可愛い女なら忘れる訳ない」

「なんで赤ん坊抱いているんだよ、妹なのか」

「違う、そのこは俺の娘沙希だよ」

「な、なにぃ。」

祐一郎は以前バイト先へ向かう際に女子高生を助けたのを覚え

ているか義孝に訊ねてみた。

「ああ覚えているぜ、逃げたっけ」

「彼女はな、お嬢様高校の2年生だった」

「ああ、あの時の子か」

「おまえってかまきり男だとよ」

思わず祐一郎は噴き出した。

「かまきりってなんだよ」

男がかまきりで連想するのは嫌味で残虐な男だが女子高生から

見たかまきりは3角形の顔に鋭い眼光をする男と説説明した。

祐一郎は本題へもどり彼女と娘の為もとへ行き一緒に暮らすか

それとも現在の生活を続けるために彼女を捨てるか悩んでいる

と義孝に話した。

「そんなもん簡単じゃねぇかこっちへ呼んで一緒に暮らせばいい」

「事情があってそれが出来ない、2者選択しか道がないんだよ

 母を取るか彼女を取るかのな」

「だったら彼女をとれよ、婿養子になってもお袋さんには会える」

「おまえはわかってない、だから事情があるんだ。彼女を選択し

 たら2度と母には逢うのが出来ない。」

「相手の両親が結婚を許すとか反対するとかの問題じゃない」

「どんな事情だかわからないがそれでもおれは彼女を取るべき

 だと思うぞ」

「一人で育ててくれた母、その母を一人にしてもかよ」

「おまえんところはおふくろさん一人しかいないんだったな」

「おれにはそんなことは出来ない」

「祐一朗ならそう言うと思った、悪いおれにはわからん」

「おまえのいうとおりだった、聞いてもどうにもできない」

「ありがとう義孝、聞いてくれただけで少し気持ちが楽になった」

 

そして3月、卒業式を迎える数日前の事だった。季節外れの大

雨が数日続き各地で土砂崩れや河川氾濫が起こり家を無くし

た人々は避難所へ集った。だが自然の猛威はそれだけで収ま

らなく山は火を噴いた、噴火すると言われ続けた富士山では

なくお隣ともいえる丹沢山系からは赤々とした溶岩を噴き出し

低山と言われた山も隆起し2800メートルへと変貌を遂げた。

高速道路も大破し県外への交通網は遮断された。祐一郎から

は選択が消えこの場、避難所にいるしかなく携帯電話も通じ

ない状況、由貴に伝えたかったが出来ない事に涙した。

 

それから12年の歳月が流れて祐一郎は務めていたバイト

先である機械製品の生産工場へ正社員と登用され課長代理

の役職に就いている。この12年の間、由貴のことは忘れた

事はない、毎晩由貴と沙希が現れ公園で遊ぶ夢を見続けた。

由貴に会いたい、しかし高校卒業後2年経過した頃に由貴の

母から娘は結婚したとの連絡で祐一朗は衝撃を受け忘れよう

と誓ったのは昨日のことのようだ。祐一朗の母は地震のせい

で心臓病を発病し噴火から3年経過した暑い夜に息を引き取

った。結局祐一朗は母に由貴の事も沙希の事も話せなかった

暑い夏のお盆は過ぎ少しづつ気温が低下していった9月の

連休、久々に長野県の戸隠山へ登ることを思いついた。

 

戸隠神社そばの駐車場へ愛車のH2R(バイク)を停めてから積

んできた登山靴に履き替え、ザックを背負いバイクの鍵はザック

のウエストバンドにあるポケットへ入れると戸隠神社へ向け歩き

はじめる。神社で参拝し裏の登山道を少し歩くと懐かしい赤い鳥

居が見えた。鳥居をくぐり林立する松の大木は以前と変わりなく

祐一郎を出迎えてくれる。この道を昔、由貴と共に歩いたと思い

出しながら砂利道を進んでいくと松の木の太い枝に少女の姿を

見つけた。

「そんなところで何してるの?危ないから降りておいで」

「パパを探しているの」

少女は小学生くらい、父親と参拝に来てはぐれたのかと祐一朗は

考えた。

「おじさんと一緒に神社に行ってみよう、警察に連絡してあげるよ」

「ううん、警察に言っても無理よ」

「なんで?パパと一緒にきたんだよね」

「違うわ、ママがねもうじきここにパパが現れるからって」

「ママはどこにいるの」

「この山の山頂にいるわ」

この子の母親は頂上で遭難している、複雑な事情があって父親を

助けに呼んだのかと祐一朗は考えた。

「だったらおじさんと一緒に頂上へ行こうか」

「ダメだよ、パパが来たらわからないじゃない」

「メモを残しておけばいいよ」

祐一郎は背中のザックを降ろし紙とマジック、エマージェンシーキッ

トの中にあるテープを取り出し少女にメモ書きして貰う。ただ少女

が伝言として書いたメモの最後に書いた名前に驚いた。その名前

は”サキ”

しかしその名前は特別変わった名前ではない、どこにでもある名前

なのだ。

「ママと一緒に山へ登ったの」

「ちょっと違うかも・・・」

少女は言いにくそうに答えたのでそれ以上聞くことはやめにしたが

こんな可愛い娘ひとりを下山させ助けを呼ばせるなんて”なんとい

う母親なのだ”と考えると腹立たしいものがある。山間の廿楽折り

登山道で由貴に叱責されたことは祐一朗にとって忘れられない。

「もう少しした処に水場があるよね、喉渇いたでしょ」

「おじさん良く知ってるね、前にも来たことあるの?」

自分は昔へばった場所というのに少女は平気そうで足取り軽やか

に登っていく。祐一朗も以前来た時は違い水タンクから伸ばしたチ

ューブを口に入れているのでイチイチ水筒を出さなくても水は飲め

る、そのために腰を降ろす必要はない。

「この山って天狗が住んでいるんだよ」

少女が怖がる姿を見てみたいと思った軽口だった。

「なぜ、知っているの?おじさん誰?」

 

つづく

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません