[短編小説][のだめ2次] 空港ピアノでカンタービレ | 妄想小説日記 わしの作文

妄想小説日記 わしの作文

わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

「シンイチくん、これ知ってる?」

「ああ空港に置いてあるピアノだろ、誰でも弾けるんだよな」

「へえそんなピアノがあるのか」

パソコンでインターネットに繋ぎ動画を見ていた恵は構内で

ピアノを演奏する人々を不思議に思い訊ねてみた。

「雪さんって知っているでしょ、ピアニスト。」

「ああ雪さんか懐かしいな、あの人がどうしたんだ」

「彼女はユーチューブに動画アップしていた」

「それでねパリの駅にあるピアノを荒しまくっている」

「いろんな駅に行って弾いているだけだろ、ひどいなおまえ」

「だってこのベンチに座っている男性、弾く順番を待っている

 ように見えるんだけど雪さんは何曲も弾いているよ」

 

「でも楽しそうだね」

「まぁそうだろうな、自分を知らない人の前で演奏するんだ」

「・・・」

「のだめ!おまえはプロなんだ、やめろよ」

「プロの演奏家もいるよ、雪さんもそうだしシュトレーゼマンも」

「嘘いえ巨匠がこんなところで弾くもんか」

シュトレーゼマンは千秋にとって師匠であり尊敬する先輩指揮者

指揮者となる前の若かりし日はピアノの練習をしていたと聞いて

いたので演奏すること自体不思議ではない。

しかし・・・恵と同様自由奔放なところがあり内心不安があった。

だがシュトレーゼマンがピアノを演奏したら大きな話題となる、そ

のようなニュースは聞いたことがないしマネージャーであるエリー

ゼから聞いたことがない。

「ここ見てよ」

恵に言われシンイチが覗いてみた動画のページには当人を罵倒

するかのような動画タイトルがつけられていた。

”薄汚い老人の演奏が神業”

長い髪の毛は整髪せず洗いっぱなし、いや数週間洗ってないかの

ように寝癖がそのまま固まったかのようなヘアスタイル、所々ほつ

れしかも穴が開いたジャケット。浮浪者のようないで立ちの老人。

「このじいさん凄いな」

「もちょっと先にね、両手を上げる仕草を取るんだだけど」

恵に言われた通り動画を見続けていると老人は演奏終了後に

両手を天に向けるように大きく上げた。

「なんか見覚えがある気がする」

「当然だよ、シュトレーゼマンの癖じゃない」

”なるほど”とは思ったがこの仕草だけで師匠と限定するには無理

があるとシンイチは考えた。だが恵には動画の老人がシュトレー

ゼマン本人という確信があったのか動画を見つめ恵は不気味な

笑いをした。

「おまえ何を考えている?」

「いや、別に」

 

数週間後、二人はスペインのバルセロナにいた。

「まだ峰たちは来てないようだな」

「まだ約束の時間には早いしね」

そんな時、遠くからピアノの音、ショパンのピアノソナタである。

シンイチは気が付いてないが耳が良い恵はいち早く気付いた

「何か食べるか」

「ああ、そう」

恵の気のない返事にシンイチは不思議に思った、食事に貧欲

な恵があまり食べる事に感心がない。大学時代にもこういう事

がありその時も恵は他に気になる事があった、恵は何か思う

事があると一点集中し他の事は考えられなくなる。

「恵!何見ているんだ。おい、のだめ」

「あ、呼んだ?」

「何見ていると聞いているんだ」

「あそこにさあるのはピアノだよね、あれが空港ピアノかなと」

シンイチが隣に立つ恵の手をみると指が小刻みに動いていた。

”こいつ弾きたくてウズウズしているんだな”

「絶対ダメだからな、おまえは金貰って弾くピアニストだ、自覚

 しろ」

「エリーゼに許可は貰っていても?」

「また嘘か、エリーゼが許可くれる訳はない」

「本当だって、取引したんだ」

”ということはやっぱりあれは・・・”

「ははぁ、もしやシュトレーゼマンのネタで脅したろ?それは取引

 とは言わない、恐喝というんだ」

「人聞きの悪い、お金貰ってないもん」

「事務所がいいというなら弾いてこいよ」

「何を弾くつもりだ?決めているんだろ」

「えへへ、シューベルトのピアノソナタ16番イ短調」

「いいんじゃないか」

千秋もパリの音楽学院で講師をしているオクレール先生も恵

も演奏するシューベルトピアノソナタは好きなのだ。もっとも

学院を卒業し数年経過した今は好きだったと言う方が正しい。

千秋と恵がピアノに向かって歩くその後方100メートルでは

バイオリンケースを持つ男女が闊歩していた。

 

「なぁキヨラ、本当に俺なんかがマルレオケで演奏してもいいのか」

「指揮者の千秋くんがいいって言ってるんでしょ」

「大丈夫じゃないリハでは問題なかったよ、竜は緊張し過ぎ」

「のだめは今や時の人だからな、千秋もフランスじゃ有名人だし」

「そうね、久しぶりに会うのが楽しみ」

千秋と恵と合流しオランダアムステルダムでの講演に向かうべく

峰夫妻がやってきたスペインバルセロナ空港だった。

「なんかザワついてないか」

「うん何か空気が違う気がする」

その原因を探求するべく歩いていくとピアノを取り囲んでいる人々

が目に入った。空港ピアノの存在は知っているがうまい人が弾い

ていても数人が聞くだけでこれほど空気が変わることはない。

 

「この曲ってシューベルトの・・・聞き覚えあるよ」

「そりゃあるだろうよ」

「ちがうわよ、この弾き方に聞き覚えがある」

キヨラは以前日本のピアノコンクールを見に行き恵の演奏する

16番イ短調を会場で聞いたことがことがあるのだ。キヨラ自身

バイオリンを演奏する奏者なのだがピアノの音に聞きほれてし

まった。

「ねぇ、竜あのサングラスしている男の人って千秋くんじゃない」

「似てるな」

「だとしたら弾いているのは恵ちゃんじゃないかしら」

「まさか、仮にも1流のピアニストがこんな場所で弾くか」

「試してみれば」

峰はキヨラに言われどうやって試そうかと考えてみた。そこで

浮かんだのがネットで配信されたシュトレーゼマンとのコンチェ

ルト、その時の掛け声だった。

 

恵のピアノ演奏は聞く者の想像を描きたてる演奏である。

あるものはホームで愛娘の旅立ちを見届けた瞬間、またある

ものは干ばつで雨が降らずもう少しで育てた野菜が全滅という

時に天から降った恵みの雨で歓喜した時、あるものは子育てに

苦労しどこへ行っても阻害されるような態度を取られ肩身を狭く

していた満員電車の中で「大丈夫ですか」と優しく声を掛けられ

た時に感じた人の優しさ。

恵の演奏が終わると拍手喝采を受けながらも拍手する人の中に

は涙するものもいた。騒然とする人々の中で声を上げる者。

「NODA~ME」

その声を聞きバレたと感じたのか千秋は恵の手を取り駆け足で

逃げるようにその場から離れて行った。千秋は電話でエリーゼに

確認の電話をかけた時、エリーゼからきつく言われていた事があ

る。「絶対に撮られるな」である。

 

翌日日本ではこの時の演奏がテレビ放送された。

実は固定カメラが設置されていたことを恵も千秋も気づかなかった

のである。

が、切れ者のエリーゼはこの動画を入手し千秋と恵を叱咤したに

も関わらず動画を有料配信することになる。

 

 

おわり

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません