不動は信仰心を持つ農民の願いを叶えるために雨を降らせようと
した。いつもなら瞬く間に勢いよく降りだす雨が今日に限って反応
がない。
「あれ・・・なんでだ」
雨が降らず動揺する農民はそれでも不動を信じて願うのだがやは
り雨は降らない。
「お願いします、不動様。わたしらは不動様が頼りでございます」
電化製品がうまく作動しない時、自分の操作が悪いかと思い試行
錯誤する。あくまで故障したと思いたくない、人間の心理である。
まさに今の不動が同じ状態で指の印が悪いかと様々に試す、そ
して心は焦るが天空の雲は動かず嘲笑うかのように見えた。
「少々時間を所望する。待っておれ」
平伏する農民を確認した後、不動の姿は消滅した。
「どうされたのじゃろうか」
「面倒なんで逃げたのではないか、いい加減なお人だからの」
「この罰当たりが、滅多なことをいうものではないわ」
「だけんどよ」
農民たちが不動に疑心暗鬼を感じていた頃、不動は天にある雲を
いくつも通り抜け天上界に存在する雨工場を目指し飛翔していた。
モルタルの壁を持つ神殿、それが雨や雷を降らせる雨工場、滴の
舘と言われる構造物で雷神と風神が棲む住居でもある。
”風神はおるか”
不動は風神の住まいをまず訪れたが玄関で声を張り上げても返答
がなく苛立つ心は膨れ上がる。
「うるせえ、誰だおれの眠りを妨げる奴は」
寝言に近い声を出した雷神ではあるが寝返りするとまた瞼を閉じた
雷神は仕事が嫌いで口やかましい風神が少しでもいないとすぐ眠
る現世でいうところの怠け者。引き籠りは外で誰が騒ごうがいずれ
帰って行くだろうと玄関には現れないのだ。
雨工場滴の舘は年中無休24時間稼働し休むことなく生産を続ける
例え主の風神が留守だとしても臨時休業することはない、不動も工
場には誰かいると知っていた。ただあまり工場内に入った事は今ま
であまりなく職員には面識がなかった。工場は民営ではない、公営
いわゆる人間社会でうところの政府直営の工場みたいなもので設
備を動かしているのは役人である。
「雨を降らせて貰いたい」
「本日の予定は終了しておりますので明日改めてお願いします」
不動は初対面なので丁寧に頼んでみたがあっさり断られた。
「貴様、わたしが誰か知らぬのか」
「どこぞの魔王様ですかね、どなたでも規則は規則ですから」
不動のあまり品位の高くない容姿を眺めると見下す様に言った
役人に対し遺憾を覚える不動であった。
その後、役人の上司と思える官僚が現れ不動は事務所へ案内さ
れた。官僚は地図と各地降雨量の計画表を見せながら説明。
「私共はこの計画に基づいて指示通りに雨を降らせております
指示は仏から承っており落ち度など有り得ません」
「だとすれば貴様らは干ばつ飢餓、洪水などないと断言するのか」
「おっしゃる通り仏の法に誤りなどあろう筈がないのです」
「ほう、ではこれを見よ」
不動は地球で過去に訪れた災害、そして人々が苦しんでいる現況
を映像化して見せた。
「それが何か?法は法であり尊守することが我らの使命と存じます」
「仏法にも誤りはある、キサマ達は尊守する立場であろうが私は法
の誤りを正す立場にいるものだ」
「笑止、御大層な事をおっしゃるものです。」
不動は天空に聳えるような黒い鉾を顕現させ呟いた。
「私は役人の人事を選ぶ権利を持つ者だ、消えるが良い」
「・・・あなたは」
そして役人は霧と化し消滅した。
黒い鉾は不動の怒りを吸収して赤く輝き、放電して金色の糸を纏う
電子の糸は纏まると電子の河を造り、四方八方へと放出する。
雷撃となって工場の壁や風神の舘へ、直撃するとモルタルの壁は
粉砕し粉末となったモルタルは灰色の煙を高々とあげた。
「何事だ」
轟音に驚き舘から飛び出した雷神は見た、黒い鉾を片手に持ち赤
い瞳で怒涛の顔をした直立不動の姿。誰しもが畏怖する不動を雷
神は数百年ぶりに見た瞬間である。
「こ、これは不動様」
震える雷神に対し不動は淡々と話してみせた。
「わたしは今まで人事に関して口を挟んだ事は無い、だがこの者ら
はすべて総入れ替えが必要だと感じた。」
「お待ちください、今この者共にいなくなられては此処の運営に支
障を来すものと考えますので再考をお願いしたく存じます」
「わたしからもお願い致します不動様、不甲斐ない兄雷神にも心を
入れ替えるように伝えますのでどうかお鎮まり下さい」
轟音と雲をも揺さぶる振動に驚き急遽戻った風神も哀願した。
「一考してみるとしよう、ただし条件がある。雨を降らせよ」
「お心の儘に」
自分の住居があるお山へ戻ってみると歓喜した農民の姿を見た。
「これで良いか」
「十分でございます不動様、お力に感謝致します」
乾ききった樹木の葉は雨に打たれながらも水滴を跳ね返し恰も
気持ち良さそうに見える、山ガエルは穴から這い出して喉を鳴ら
し山の森には幸せを称えるようにして歌う合唱が聞こえるようだ。
農民の喜ぶ顔、大合唱するカエルの声、碧輝く葉の擦れあう音
それだけで不動の口は綻んでしまう。
農民たちの貢いでくれた芋の煮物に箸をつけながら涼やかな雨音
に癒される、それだけで不動の心は満たされる、これが不動の護る
理由である。
おわり
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません