[短編小説][SF][創作] 異文化科学の恩恵 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

山深い森がある、見渡すことが不可能な森の奥。いくつもの峰を

越え道なき道を進むと不自然な窪地が突然現れ四方を崖に囲ま

れている。窪地ではあるが底部は整地したように平ら。

そんな場所にポツンと1軒家が存在していた。

屋内では男女1組の人間が暮らし、今二人はコーヒーを飲みなが

ら居間でソファーに座り大画面液晶テレビを見ている。

 

「自然災害で住民すべて海に消えたなんて言っておりますわ」

「住人たちが星へ帰るんで海に沈めた事も知らないで勝手な」

「自分の目で見たものしか信じられない愚かな地球人の科学者、

 まさか消えた住人の一人がここで番組を見てるとは思ってもみ

 ないことでしょう」

「あなた、それは違いますわ。一人じゃなくて二人ですよ」

「そうでしたね」

 

放映中の番組はドキュメント番組でヨーロッパの著名な科学者

達が集まり消滅したとされる都市の遺跡を別々に調査していた。

”なぜ大文明は滅んだのか”というテーマで。

消滅した都市文明の住人は欧州人である、が科学者達同一の

見解だった。だが事実はそうではない、この二人のみそれを知る。

見た目こそ30代の夫婦ではあるがいや彼らの国の年齢では夫

は34才、妻は32才であり見た目通りの年齢ではないかと思われ

るだろうが実はそうではない。夫婦の会話にしてはやけに丁寧だ

と疑問に思ったのではあるまいか?

と書いたが先に”生き残りである”と書いてしまった以上、思ってな

いと言うかもしれないがとりあえず書いておくとしよう。

彼ら夫婦はアトル星から地球へやってきた異星人である。かの古

代文明を作り住んでいたのはすべてアトル星人だったのだ。

 

彼らの惑星(ほし)では地球が500年経過で1年となる、時間の流

れが地球とは凄まじく違うので文明が滅んだ12000年前には既

にこの夫婦は成人に至っていた。この12000年を地球で過ごした

夫婦はあらゆる災害を体験してきた。洪水、大地震、干ばつ、火山

噴火、二人の住む家はすべて撥ね退けてきたのである。

プラチナ(白金)の如く光輝く流線形の家、それは紛れもない宇宙

船(UFO)、科学者がいうところの未確認飛行物体というやつだ。

夫婦は古代にここへ移住し当初は木々が生い茂る森だったのだが

必要最低限の木々だけ切り、いや正確には消し飛ばし家を置くス

ペースを確保したが時刻の流れは木々を育て木々は枝を延ばして

現在は深い森となっている。人工衛星から撮影しても映らない程に

 

二人の食事は1日1回、地球人と同じ料理を食べることもあるが基

本はベジタリアンである。タラの芽、せり、自然薯(じねんじょ)、茸に

アケビ、ワラビなどの山菜そしてきゃべつやニンジンなどの野菜類を

主食とし冬の越冬に役立つ野菜を加工し保存食も定期的に作る。

山菜を採るため毎朝、山を歩くのが二人の日課でもあった。誰も入

らない深き森ではあるがごく稀に迷ったり遭難した人間と出会う事も

過去にはあったがここ数百年はそのような人間は見たことがない。

 

「今日は山菜が見つからないですね」

「タラの芽も時期が終わった様ですからアルトくんに山芋か茸でも

 探して頂きましょう」

「その間、わたくしは木の芽でも集めてみますわ」

「アルトくん、来てください」

 

夫のラパがそう声を張り上げると森の奥から獣が猛然と突進してき

た、アイスブルーの瞳を輝かせ逆立つ漆黒の毛並みと大柄な巨体。

ラパに飛びかかった獣は巨体の重量でラパを簡単に押し倒す。

だが倒されたラパに畏れはなくむしろ喜こび嗤っている、獣はラパ

の頬を長い舌で何度も何度も舐めまわしラパの顔は涎で輝いた。

尖がった耳に白と黒の毛、そしてブルーアイ、長い鼻の獣の正体

アルトくんとはシベリアンハスキーである。

 

「アルトくん、喜んでないで仕事をしてください」

妻のミルは二人の光景を微笑みながら言った。

 

地球人とは違いペットに対しても尊敬の念で二人は接する、これは

彼らの星では当然のことであり人間同士でもおなじことなのだ。

何年一緒に暮らしても変わらぬことはない、地球人からみれば冷め

た夫婦だと罵るだろうがお互いに相手を尊ぶことを忘れない、共に

生活する上でこれは大事なことなのだ。最も二人にとってアルトくん

はペットとは考えておらず仲間と思っていたのだが。

 

ハスキー犬の走る後を追う二人の夫婦、毎日山歩きをしてるせいか

山野を駆け巡るのも苦ではない。犬と同じように走ることは出来ない

のでたまに犬と離れてしまうこともしばしば、だがアルトくん(犬)は時

折うしろを振り返り走ってくる二人を待つ、おかげで二人がアルトくん

を見失うことはない。目標と定めると前足を交互に使い勢いよく掘る

アルトくん、ある程度掘ると掘った穴に長い鼻を突き刺し匂いを確認

すると再び掘っていく。山芋を2本掘ったところで二人はアルトくんの

異変を感じていた。掘り終わるとすぐさま全速力で走り始めたのに背

後を振り返り足を止めている、さらに夫婦に向かって何かを訴えるか

のように吠え始めたのだ。

 

アルトくんのもとへ駆け寄ってみるとそこには一人の人間が額から血

を流し倒れていた。40代くらいの男性で登山者風の服装をしている

二人が声をかけても男の身体は何も反応しないところを見ると失神し

てるようだ。その後二人はその男をアルトくんの背中に載せ自分達の

家まで連れて帰った。45キロ以上あるアルトくんにとってなんでもない

所業なのだ。

 

頭に包帯を巻いた男はベッドで意識を取り戻した。記憶では確か登山

中だった筈だがベッドで寝ている、天井を見れば見慣れぬ屋内建築に

戸惑いを隠せない。蛍光灯とかサークライン、シャンデリアなどの室内

照明などない、それなのに室内はやけに明るい。太陽光が入る窓もな

いのにと不思議に思う男だった。天井は日本の建築様式と比較すると

むやみに高いが目を凝らしてみれば天井に微小のLEDが無数にある

ようだが青と赤なら納得できる、だが黄色や緑のLEDなど聞いたことが

ない。

「なんだここは」

白を基本とした屋内に病院とも思えたが奇妙な形の収納庫に病院とは

思えない。研究施設だったらもっと機材がある、まるでここは収容所か

留置所のように部屋はがらんとしたものだった。

 

「気づかれましたか」

「山であなたが倒れていましたのでお連れして治療しました」

「あなたが助けてくれたんですか、医師なんですか」

 

とても日本人とは思えない金髪で長身の男性とプラチナブロンドの美女

流暢な日本語を話す男性に男は感謝の意を示すと同時に疑問をぶつ

けてみた。

 

「僕の名前は桂崎仁と申します、登山をするためこの山域へきました」

「助けて頂いて感謝してますが、ここは何処です?あなたは何者です」

「ここはわたしの家ですが何か変ですか、あとわたしは特別なものと

 いうわけじゃなく普通の異星人なのですが」

「私達が異星人と聞いた以上あなた、桂崎さんでしたっけもう帰る家は

 ございません。私達とここで暮らすこととなります。

「そんなまさか・・・異星人」

 

異星人とだと言われすぐ信用できる人はいない、が!屋内の奇妙な様

式そして前人未踏ともいえる山深い森の中に民家があるのも不自然だ

し電気も普通に通っている。だが宇宙人だとすれば納得もできる。

桂崎はプラチナブロンドの女性が言った言葉がとてもきになっていた。

”帰ることが出来ない、一緒に暮らす”

こんな若くてキレイな外国人女性と同じ屋根の下で衣食住を共にする

なんとも魅力的な提案ではあるがこれはここで監禁される事ではないか

桂崎にも仕事があり帰れなかったら事件になる、行方不明者と成り得る

 

「馬鹿な、嘘でしょう」

「いいえ嘘ではございません・・・冗談なのです」

 

二人揃って上品に微笑んでいる姿をみて桂崎は胸を撫で下ろした。こん

なにもリアルに真剣な、シリアスな顔で冗談を言う人も見たことがない。

自分の心臓は激しく心拍したそれなのにこの女性は何もなかったかの様

に話を返るからたまったものじゃないと考えることになる。

 

「あなた、お食事に致しましょう。」

「そうですか、桂崎さんも空腹でしょうからその方が良いですね」

「たいした御持て成しは出来ませんがどうぞこちらへ」

 

急な展開についていけない桂崎ではあったが食事の誘いを承諾するか

の様に彼の足はここの主人ラパの後を追いついていく。ダイニングのテ

ーブルにはいくつもの料理がすでに並べられていた。ごく普通の肉じゃ

がやポテトサラダ、フキの佃煮などで豪華さはないものの山奥で食べる

料理としては充分すぎるメニューである。空腹で山中を彷徨っていた男

にとっては天国の食事とも思えた。あまりの空腹で忘れていた桂崎だっ

たが彼にはいくつかの肉体的欠点がありそのひとつが虫歯である。

虫歯の穴に食物の欠片が入ると歯に痛みを感じ万人のように強く噛め

ない。肉じゃがを粗方(あらかた)食べた頃に彼は虫歯の事を思い出し

た、変だ今日は歯に痛みがない。そういえば先刻、治療したと言ってた

がまさか歯の治療までは出来ないだろうと思ったが一応聞くことにした

 

「あの歯の治療はしてませんよね」

「歯自体の治療はできませんけど遺伝子配列の変更はできますよ」

 

高校時代から物理は苦手だった桂崎はなんのことか全くわからない。

だが何かしてくれてその恩恵で今、歯が痛まないで済んでいると理解

できた。詳しくその遺伝子配列を聞きたい気もしたが頭の中でパニック

を起こしそうなので言葉は出ない。

 

「簡単にいえば狼から犬を作ったと言えば理解できるでしょうか」

 

ラパの言ったことに柏崎は驚いた、犬が進化して誕生したとは思ってい

なかったがまさか目の前の人が造ったとは信じがたい事。

 

「わが星では生物を作り変えることは日常茶飯事ですよ」

「わたくしは猫ちゃんを作りました」とミルは答えた。

「遺伝配列変更銃と原子配列変更銃がありますから攻撃も無力化が

 可能なのです」

 

ラパの言ったことは軍事国家にとって問題となる発言である。そもそも

核爆弾とは原子の融合と分裂で爆発を発生するものでその配列を変

更もしくは分解できる武器が存在する事態、核爆弾は無意味なのだ。

だが桂崎にはなんの事だかさっぱりわからない。

会話も一段落し桂崎が帰ろうとするとミルは微笑みながら言った。

 

「あなたの欠点はすべて克服できますから素晴らしき人生を送ってく

 ださいませ」

「あ、ありがとうございます」

 

何を言ってるんだと思った桂崎にはそれしか答えられなかった。

帰るといっても一人では帰れない桂崎、そしてこの家(宇宙船)の外観

を見られる訳にはいかないラパとミルはラパが送って行くことで解決す

る、さらに保険としてここの記憶を消す施しも考えていた。

 

数時間後、桂崎は自宅の部屋で寛ぎあまぞんTVをネットで見ていると

口の中に違和感を覚え吐き出してみるとそれは穴のあいた虫歯であっ

た。初見では差し歯かと思ったが穴が開き劣化した虫歯でさらに長い

根もついている。そして虫歯が抜けた穴は歯肉がムズムズする感覚を

覚えていた、それは小学生のころに感じたものと同じもの。

乳歯が抜けて永久歯が生える時感じるムズムズ感。驚きはこれだけで

はなかった。入浴して頭髪を洗った時いつもと違う指先の触れる感覚。

後頭部は髪の毛がまだ残っていた為、手触りが紙やすりのようだった

だが今は前頭部も同じ感触。以前前頭部はプラスチックのボールみた

いだったのだ。すぐ鏡で鏡をみた桂崎は感動した、そして理解した。

 

「そうか欠点が克服できるとはこういう事なのか」

 

彼らのいる場所こそ忘れたがその方向だと思うほうへ体の向きを変え

深いお辞儀をしたのである。その晩桂崎はおかしな夢をみた。

自分は操縦席に似た場所におり目の前には海藻が漂い魚が舞う、まる

で海中のようだ。その場所前方には高い崖になり上まで続いていた。

その崖めがけ光の束が発射されていった、すると崖には穴が開き向こ

う側は明るく見える。ということは貫通したのだろう。そこで夢から覚め

時刻は深夜3時だった。

 

Fin

 

この物語はフィクションであり実在の

人物団体には一切関係ありません