都内にあるアパートの1室で柳生は頭を抱えていた。
”金がない”
今この部屋には異次元の世界から連れて帰ってきた4人がいる。
しかも4人とも家は日本列島あっちこちで連れていくにも旅費が
必要、勿論食費もかかるし女性がいるので入浴も必要でその為
宿泊施設へ泊らなければならない。そういえばマヤは金があれば
自分たちの同行は必要ないと言った。どうするつもりなのか。
先のことよりまずは今晩の食事をどうにかしなければならない。
3ドアの冷蔵庫、冷蔵室には牛乳1パックと鶏肉100gだけで冷凍
室には長ネギを細かく切ったフリーズパックと釜揚げシラス1パック
野菜室に於いてはソースなどの調味料と使いかけのレタスしかな
い。定収入の貧乏なロンリーマン柳生なのでスカスカの冷蔵庫は
当たり前のこと、そもそもそんな部屋に4人も迎え入れた行為が早
計だったのである。
「晩飯どうしよう・・・」
柳生と同年代の男性、加藤達彦は柳生に対し連れてきて貰えただ
けで感謝してるようだが他の70代男性、木島翔太と40代女性の
相川恵、20代女性の秋元奈津美らの顔は不快感を露わにしてい
た。
「あ~あ、向こうにいれば良かったな」
奈津美が嘆くのも無理はなかった、あちらにいれば空腹に苛まれる
ことはなかったのである。だが柳生に同行したのは強制ではなく本
人の意思によるもので言ってはいけない事を言ってしまった。
悔しい気持ちを抑え込んで柳生に言葉は出ず、聞き流した。
「奈津美さん、それを言っちゃダメですよ。」
「なぜです、だって本当のことじゃないですか」
「皆さんは家へ、家族のもとへ帰りたいから柳生さんを頼ったんです
よね。」
「そうだけど、すぐ帰れると思ったから同行を決めただけですよ」
「柳生さんは頑張ってくれてるではないですか、信じられませんか」
「それじゃ伺いますが加藤さんは柳生さんを、いえ会ったばかりの人
をなぜ信じられますか」
「あの加藤さん」黙っていた相川が声を出した。
「奈津美さんが疑心暗鬼になるのも無理ないんじゃありませんか」
「あたしだってこちらへ来たのを半分は後悔してますよ」
相川恵の言葉で部屋は険悪な空気が漂い一触即発の状況となって
しまった。
柳生は我慢していたのだが柳生の内(うち)にいる不動明王は怒りで
今にも爆発しそうな状況だった、というのも不動明王は信仰心のない
顔立ちがいいだけで周囲から甘やかされ育った若い女は嫌いだった
嫌いというより嫌悪、憎悪さえ感じる程だったのだ。相川と奈津美が
異世界へ戻されるのも時間の問題であった、不動明王にとって二人
を飛ばすことなど造作もないこと。
”後悔するがいい”
不動明王が左手を二人に向けて翳(かざ)そうとした刹那(せつな)。
マヤが食材を一杯に詰め込んだレジ袋を両手に持って柳生の部屋
へ入ってきた。
「みなさん、お腹すいたでしょ。」
愛の女神の前では不動明王とて抗いがたき存在だった故、不動は
左手を引っ込めざる得なかった。神格から言えば将来、如来となる
マヤ(マーヤ)と不動明王は比べる無くもない。
柳生はマヤに近寄って耳元で囁くように聞いた。
”おい、金はどうしたんだよ”
いくら菩薩となったマヤといえども実体化したのは最近の事であり神
仏といえども人間界の流通貨幣を手に入れるなど出来はしない。
マヤには貯金があったが自分のお墓貯金であるからそこから金を引
き落とすなど有りえないと柳生は考えていたのだ。
マヤはポケットからカードを取り出し柳生によく見えるように見せた
そのカードは高収入者しか持てないゴールドカードだった。
”なんでゴールドカードなんて持ってるんだよ”
”えへへ、わたしの信者は金持ちが多いのだ”
”たしか神戸に神社があったよな、でも簡単に行けないだろ”
”わたしは門を開けることが出来るのさ”
門を開けるとは次元から次元へ空間を繋げる事である。
例えるならば東京に門(ゲート)を出現させ神戸にある門(ゲート)へ出
たと仮定しよう、所要時間は一瞬で可能なのだ。柳生が異世界から行
方不明者達を東京まで連れ帰った時、柳生もまた門(ゲート)を使った
のでマヤの言ったことをすぐ理解出来たのである。
アパートの狭いキッチンで野菜を刻むマヤ、レンジ台でフライパンを振
る柳生ひろし、二人は料理をしながら会話をしている。
「耕作くんの入院している病院で地縛霊となってる女性がいるんだけど
彼女のため力を貸して欲しいのだけど」
「それはいいけど俺は何すればいいんだよ」
「今はなんとも言えないなぁ」
「その為の会議を耕作くんとある医師を交えた私達二人を含む4者でし
たいの、いいかな」
「具体的な説明はその会議で話すつもり」
「う~ん、何だかわからないがまぁいいだろう」
マヤは病院で何度か逸美と会っていたのを柳生にはあえて言わなかっ
た、耕作の妻である翔子が悩みを持っていたのも柳生は知らない。
マヤはなぜ言わなかったのだろうか、翔子はこれからどうするのか
つづく
この物語はフィクションであり実在の
人物団体には一切関係ありません。