[短編小説]  砥石(といし) | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

「お~い久子、包丁砥げる?」

 

キッチンにいる妻の久子に夫の貞晴は尋ねてみた

料理が自慢の久子なら砥げるかもしれない。

試しに聞いてみたのである

 

「あい、わかったよ」

 

”ピンポーン”

インターフォンが鳴り誰かが尋ねてきた。

貞晴がドアを開けてみると妹の美智子が荷物を持って

現れた、貞晴に遅れて久子も玄関に来る。

 

「こんにちわ」

 

「おお美智子、いらっしゃい。まぁ入れよ」

貞晴が一緒に居間まで行こうとするのに対し出て行こうと

している久子。

 

「みっちゃん、少し出てくるからゆっくりしていってね」

「貞治、お座り。待て」

 

久子はそういいながら外へ出て行った

 

妹である美智子は「なんだろうこの命令口調は?」

と疑問に思いつつ兄の方を見てみると以外にも

兄 貞晴は返事をした。

 

「はい」

 

さらに兄は妻に待てと言われたので素直にも

椅子に座り両手をひざの上に揃えていた。まるで

犬の”待て”の様に

尊敬する兄が妻の従者みたいで信じられなかった。

 

「ちょっとにぃさん、おねぇさんに命令されて悔しくないの」

「まるで犬扱いだし・・・」

 

「もう慣れたよ、久子だって悪気はないんだから。」

「こうなったのすべて漫画のせいだし」

 

漫画とは江戸時代を背景とした時代劇まんが

その漫画に登場する大きな白い犬、名前が”定春”だった

定春という犬は強暴だが時より愛らしい仕草をする

そのアンバランスさが久子はとても気に入ったようだ。

漫画というよりはアニメなのだが毎週テレビでアニメを

二人してみてるうちに妻 久子は さだはると呼び捨て

にするようになったのである。そのアニメ番組が放映

する以前は”貞ちゃん”と妻は呼んでいたのだが

 

「それでおねぇさんはどこにいったの」

 

「さぁどこだろうなぁ、砥石でも買いにいったのかな」

 

「さぁ・・・って 買い物に頼んだのでしょ」

 

「いんや 包丁を砥いでと頼んだだけだよ」

 

「砥石って家にないの?」

 

「あるよキッチンに」

 

「なにそれ」

 

「いやぁ あれで久子、結構天然なんだよ、砥石を

 何か別のものと勘違いしたのかもしれない」

 

「あんなに美人でスタイルが良くそれで万能な女性

 が。わたし、おねぇさんの事憧れていたのに 」

 

「よく人から美人を嫁さんにしてお前は幸せ者だと

 言われるんだけど実際、天然でしかも見栄張りで

 早合点するから一緒に暮らしてると大変なんだよ」

 

「そっかぁ にぃさんも苦労してるんだね」

 

 

しばらくして久子は汗をかきながら家に戻ってきた。

重そうに持っているカゴ、カゴというより野菜コンテナ

と言ったほうが正しいかもしれない。中には石が

入っている

 

「ふぅ、重たかった!」

 

そこでなんで石なんか持ってきたのか夫の貞晴は

一応聞いてみることにした。

 

「なに それ」

 

「何って砥石を頼んだじゃない、と いし」

 

「1,2,3,4,5,6、、7,8,9  、10と」

 

「10個の石でと いし?」

 

「はぁ・・・」

 

ため息をつきながら頭を抱えてしまう貞晴は”またか”

という表情で久子を叱責する。

 

「だからぁ 何度も言ってるだろう、わからなかったら

 なんでわからないと言わないんだよ」

 

「だって・・・正しいと思っていたんだもん。 そんなに

 怒らなくてもいいじゃない」

 

「ぷっ、、あっははは」

 

美人でクールだと思っていた義姉の可愛いらしさに

妹の美智子は思わず噴出してしまった。

 

「いやぁ下手な漫才よりずっと面白いよにぃさん達」

「にぃさん 毎日 飽きないでしょ」

 

困った顔をする貞晴とは対照的に自慢げにする久子

 

「そうでしょう、飽きない暮らしが一番だよね」

 

「これ だもんなぁ、久子には勝てないよ」

 

結果として失敗だった事もそれをプラスに変えていく

どんな時も落ち込まない、それが久子の素晴らしさ

それ故 貞晴は久子を許せるのかもしれない。

 

「まぁいいか、それより久子。キッチンに長方形の

 石が置いてあるの知ってる?あれが砥石(といし)」

 

「おお~あれかぁ、そっかぁあれが砥石(といし)って

 言うのかぁ。メモメモ」

 

メモといいながら手にノートと筆記用具は持ってない

新しい事を知った時の久子の口癖だった。

(しかし貞晴はここで現物を照らし合わせていなかった

事に後々後悔することになる、なぜなら長方形の石は

砥石の他にもう一つあったからだ。黒い石の・・・)

 

「砥石はわかったから使い方も知ってるだろ」

 

「無論よ、お笑い見て熟知してるのさ」

 

久子の口から出た”お笑い”という言葉を聞いて嫌な

予感のする貞晴、そして妹の美智子は期待していた。

”今度は一体何をしてくれるのだろう”と

 

疑惑の目つきで貞晴と美智子は久子の後姿を追うように

見ていると久子は2Fに駆け上がり降りてきた時には

右手にハチマキを持っていた。白が基本の明るいキッチン

窓ガラスからは太陽の光が燦燦(さんさん)と差している

キッチンのクローゼット、両開きの扉を開けて棚から砥石

を取り出すと屈んで(かがんで)何かをしている妻 久子。

 

居間に戻ってきた久子は額に砥石を当てハチマキで

縛っていた。真剣な顔つきになり人差し指を額に当て

 

「シュパッ 赤穂の田舎侍に討たれる吉良こうづの介

 ではないわ シュパッ。」

 

「それって もしかして関西のお笑い芸人の真似か」

「なんでそうなる?砥石とどういう関係が」

 

「額を包丁で切られるのを守る為?」

 

笑いを堪えていた妹の美智子は我慢できす爆発した

 

「ぶっわっははは」

 

腹部を手で押さえ苦しそうに笑う美智子。

 

妻 久子が馬鹿な真似をしている間に貞晴はお茶を入れ

お盆には菓子と共に居間へ運んでいた。

居間のガラステーブルの上には3人分の湯のみが置かれて

いたので妻のすることはなかったので貞晴は久子を呼んだ

 

「久子、こっちにおいで。いやぁ新居祝いを貰ってさ」

 

「あらぁ ありがとうございます」

「みっちゃん こんな事しないでいいのに手ぶらで

 遊びに来てくれるだけでいいのよ」

 

「だっておねぇさんて物を貰うと本当に嬉しそうな顔

 するからあげる側も渡した甲斐があるんだもの」

 

終始 至福の表情で時折ちらりと紙包みを見ている

中身は何が入っているのだろうと開けて確認したい

ウズウズする気持ちが指に伝わり紙包みを持つ手が

微妙に揺れていた。

 

妹の美智子は貞晴にこっそり耳打ちをする

「おねぇさんてアル中なの?」

 

「まさか・・・あれはね中身を見たくて仕方ないんだよ」

「久子は心の中で葛藤しているんだ。あけてはいかん

 でも見たい!冷蔵ならすぐ冷蔵庫へ入れないとならぬ

 ここであけたら包装紙をビリビリ破くからダメ、ってね」

 

「ぷぷっ、おねぇさんて本当可愛いわ」

 

美智子は兄の結婚式ではじめて久子を見たときは

あまりにも綺麗な女性で会話の相手にしてくれない

こちらから話しかけるのはおこがましいくらいに思って

今までろくに会話したことがなかったのである。

その義姉がまさかこんなひょうきんな性格の持ち主

だったとはその時点で知る由もない。

見た目と中身の落差が大きく美智子は久子に親しみ

を感じた。そしてじれったい気持ちの久子を可愛そう

とも思ったのだ。

 

「おねぇさん、開封したいんだったら無理しないで

 開けていいのよ」

 

「久子我慢だ、妹とはいえお客様の前で頂いたものを

 開けるのは失礼だぞ。絶対ダメだからな」

 

「みっちゃん、大丈夫。わたし我慢できるわ」

「我慢するんだぁ サダー、頑張れ サダーー」

と久子は両手の拳を強く握り締めて言った。

 

「なんでおれに振る?おまえが頑張るんだよ久子」

 

「そうだぁサダーー、わたしも頑張るからおまえも

 ガンバレ」

 

二人の会話を聞いていると美智子は可笑しくて

たまらない、意外性のある久子の言葉に驚きも

あった、それも可笑しい。テレビは消えたままで

画面に何も映っていないそれなのに美智子に

飽きる、退屈などという言葉は出ない。それは

すべて兄と義姉のお笑い会話で飽きなかった

からだ。

 

美智子は兄 貞晴の手がふと視界に入る

手のひらにはいくつものバンドエイドが貼ってあった

バンドエイドから血の滲むものを見受けられそれが

最近作った傷だと理解できた。

 

「お兄さん、その手の傷は一体どうしたの?」

 

「ああ先日久子に包丁の研ぎ方を教えていた時にね」

 

「自分で切っちゃったの?」

 

「いやぁ久子に手ほどきしていたんだけど、こいつ

 猪突猛進でさ、止めてと言っても止まらずにグサッ」

 

兄と妹の会話に久子も加わってきた

 

「ほらイノシシは急に止まれないっていうじゃない」

 

「それは車だ・・・」と夫 貞晴は突っ込む

 

「おねぇさんって星座は何?」

 

「13月生まれのいのしし座だよ」

 

「え?そんな星座聞いたことがないよ」

「1年は12ヶ月じゃない、13月なんてない」

 

黙って聞いていた貞晴、いのしし座など聞いた事

がなかったが久子は業界人であった為、業界では

そのようにいうのかなっと思っていた。

業界では1時のことを25時と言うからだ

 

「やっぱりいのしし座なんてないのか?」

 

甲高い笑い声で嘲笑う(あざわらう)妻の久子

 

「なにお兄さん、今まで信じてきたんだ」

 

「星座なんて何があるかあまり知らないし」

 

「それはそうとおねぇさんに止まれと言うのが

 遅くて手を切っただけじゃないの」

 

普通の人ならば”やめて”と言われればすぐ止まる

包丁を研ぐスピードはそれほど速くは無い。

だがそれはあくまで普通の人の話で猪突猛進で

進む妻 久子、一旦はじまれば真っ直ぐしか見ない

余計なものなど視界に入らないのだ。

 

「そんな事はないよ美智子、おれは早めに言ったんだ。

 イノシシは怖いぞ」

 

「そうなんだ、覚えておくわ」

「でも包丁を研ぐだけでそんなに傷つくった訳では

 ないでしょ」

 

「・・・ 鋸の歯を砥いでと頼んだことがあって

 様子を見に行ったら砥石で包丁みたいに砥いでいた」

「で止めようとしたらこの有様さ」

 

「それはお兄さんが悪い、女にノコギリなんて砥げないよ」

 

「そうよねぇ、貞晴がみんな悪いのよ」

 

ノコギリの刃は交互に向きが違うため砥石ではなく

平やすりで一本、一本削らなければならないのである。

 

「しかしなぁ久子、・・・」

 

貞晴が発言し終える前に割ってはいる久子は

 

「これでも愛しい夫のために夜の営みも頑張ってるの

 いやぁ~いやでいやで仕方ないんだけど夫のために」

 

「ああ、わかる気がするわ。わたしもあまり好きじゃない

 の」

 

女同士の下ネタ、これは男もタジログほど際どい。

貞晴に言葉はでなかった、妹に言うのは恥ずかしい

とも思っていたから。そんな思いとは別に久子の

言う”嫌で嫌で仕方ない”に反感を持った。

 

”嘘つけ 久子”

 

「もういや」と言いながらも腰をグラインドする久子

貞晴の背中に手を回し離させない妻を思い出した。

しかし久子に反論するのは恥ずかしい貞晴

ただ無言のままにノーと首振る仕草をした。

 

「おねぇさんて旦那に尽くす妻、偉いわぁ」

 

「そうでっしゃろ、あてほど夫に尽くす女など

 おらしまへんで~」

 

「あはは、どうして関西弁なの」

「おねぇさんて関西出身だっけ!?」

 

「違いまんがな、生まれも育ちもちゃきちゃきの

 江戸っ子やで!久子はんに馴染んでわても

 こうなってしまったのや。」

 

兄の貞晴は答えた。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

この物語はフィクションであり実在の人物

団体には一切関係ありません