大晦日の迫る師走、都心では珍しく大雪となった。
普段では車の切れない道路も雪のせいか通る車も
めっきり少なくトラックやバスはチェーンの音をさせ
走り去っていく。積雪の歩道に時折店の従業員が
姿を現し雪かきをしているが嘲笑ってるかのように
降る雪は衰えることがない。
この大雪の中山羊はコーヒーチェーン店である喫茶店
にいた、窓際に座りガラス越しに外の風景を見つめる
大雪であるにも関わらずスーツに革靴で歩くビジネスマン
ハイヒールで転倒する若い女性
都会の街並みで女性の黄色い悲鳴が静寂を破る。
当人には苦痛でも傍観者にとって微笑ましいもので
山羊も微笑んでしまう
「まだ来ないなぁ」
「こんな日に行こうなんて気がしれない」
一人呟きながらコーヒーカップをテーブルに置いた
どうやら山羊はこの店で待ち合わせをしているようだ
電車が止まるかもしれないと帰宅を急ぐ人々に反し
のんびりしたものである。
のんびりしていた山羊にいらつくような店の従業員は
山羊に殺気を帯びた視線で見つめる。
店と隣接する店舗は次々とシャッターを下ろし店終い
していくからだ、営業時間内とはいえ客があまり
いない店内なので従業員は閉店したかったのだろう
閉店したい従業員と店長
山羊にイラつくのも当然かもしれない
山羊もそれはわかっていた、わかってはいたが約束
してしまった以上ここで待つしかないのだ
背後から刺すような視線を受け時間を気にせずには
いられず腕時計を度々(たびたび)見てしまう。
時刻は6時半を回っていた、約束の時間は6時
30分過ぎていたがここに着いたのは5時なので
すでに1時間半。コーヒーを何杯飲んだことだろう
山羊は相手の電話番号を知らなかったのでただ
待つしか出来ないでいた。
「あのう先ほどからお待ちしているようですが
相手方に電話連絡しては如何でしょうか?」
いつまでたっても出ていこうとしない山羊に業を煮やした
のか従業員である女性が声をかけてきた
「いやぁそうしたいのは山々なのですが番号を知らない
んですよ」
「待ち合わせするくらいなお相手でしたらお客様が電話
しなくてもお相手から電話してきたことがあるのでは」
「まぁそうなんですが・・・」
「ちょっと携帯をお見せ頂いて構いません?」
女性店員は山羊の携帯を手に取ると慣れた手つきで
携帯のボタンを操作し着信履歴を見てみた。
「もしかしてこの番号では?」
着信履歴に残っていた番号で携帯の090からはじまる
番号はただひとつだけしかなかった
「あ、そうかも。そんな機能があったんですか」
山羊は着信履歴なんていう機能があるとは知らない
でいたのだ。山羊は携帯が苦手だった
それゆえ携帯も3世代前の旧型で今時Eメールも
使えない骨董品みたいな携帯だったのだ。
「店員さんどうもありがとうございます。助かりました
ついでといってはなんだけど紙と筆記用具を貸して
頂けませんか?」
「え?いいですが何に使うのでしょうか」
「この番号をメモしてからボタンを押さないと」
「・・・・・・・・」
ここまで携帯を使えない人を見たことがない
そう思ったのだろうか女性は一瞬固まった
「お客様!ここをこうして発信しますかというのを押して」
すると電話は呼び出し音を奏でる
「おお~~~凄い」
”この人っていつの時代から来たんだろう”
そう店員が思ったのか思わなかったのかは
定かではない
電話の呼び出し音を5回ほど鳴らした時だろうか
やっと相手は電話に出てくれた
「もしもし武井ですがどちらさまですか」
「あの山羊ですが今どこですか」
「ヤギさんのミルク?今間にあってますよぉ
きゃっはは」
どうやら武井は酒を飲んで酔っ払ってる
ということは今日の約束をすっかり忘れていると
山羊には理解でき怒りが湧き上がってくる。
「あのう刑事の山羊ですが待ち合わせの約束
しましたよねぇ」
「ああミルクのヤギさんじゃなくてデカヤギさん
こんな大雪の日に待ち合わせなんてバッカじゃない
わらしは眠くなりました。じゃぁ~~ね」
携帯を掴む山羊の手、血管は青筋を立て脈打っていた
携帯を投げようとはしたがなんとか堪え冷静さを
取り戻そうとする男の背中は見るものを悲しみに誘う
とは男の考えで離れた場所に立っていた若い女性
店員は必死に笑いを堪えていたのであった。
つづく
この物語はフィクションであり
実在の人物団体には一切関係ありません