新郎新婦によるファイアーサービスで大きな恥をかき
傷心のまま伏せっているだろうと思われるかもしれない
がアラフォー世代になるわたしはそれほどヤワではない
結婚式が進んでいく中、わたしは昔のことを思い出し
ていた。うちの近所に引っ越してきた家の小さな女の子
回覧板をわたしが持っていくとおかぁさんの後ろで隠れる
ように立っていた、おかぁさんのスカートを小さな手で握り
しめて恥ずかしい気持ちと会ってみたい気持ちの狭間で
揺れ動く心。それが初対面で会った幸子とわたしだった
もうひとつの運命ではわたしが中学校へ通っていた頃
幸子は違う町へ引っ越していったのだが今の運命では
わたしが高校を卒業するまでうちの近所で暮らしていた
幸子、女の子のくせにキャッチボールをするのが好きで
やんちゃな少女だった。幸子には兄弟がその頃まだ
いなくてわたしのことを唯一の兄と思っていたようだし
わたしも妹が出来たと思ってよく面倒を見ていた。
「智さん、智さんてば。生きてますか!?」
「え?あ、はい」
「記念撮影するそうですから一旦屋外へ行きますよ」
一人妄想に励んでいると隣に座っていた弁天様に
起こされてしまった。出来の悪い生徒を引率する
女教師のようにわたしの手を握って引っ張っていく
弁天様、きっと弁天様は姉御肌の気質なんだろう
情けない、6つも年下の女性に面倒かける自分。
劣等感に苛まれても変わることが出来はしない
出遅れたわたしと弁天様それに作家の鳥巣先生
エレベーターはすでに満員御礼で来るまで待っていると
記念撮影に間に合わないと思った我々3人は階段で
下まで降りることにしたのだが・・・・
都会に暮らす弁天様と鳥巣先生は当たり前のように
階段をすばやく降りていくのだがわたしは・・・
”こわい”
上るのは平気なのだが階段を下りると思っただけで
恐怖心で足が動かなくなってしまう。
それというのも6歳のときだった、家の階段を踏み外し
下まで落ちたという、思い出したくもない過去が
トラウマとなって40に近いというのに未だ消えず。
「お世話になります」
見るに見かねてお二方は手を差し伸べてくれた。
そういえば幸子に何度も手を借りたことを思い出した
嫌な顔もせず、苦笑いはしていたけど肩を貸してくれた
だが結婚したのだから2度と彼女が助けてくれることは
ないだろうな、そう思いながら一段一段と階段を
しっかりと踏みしめながら降りていった。
記念撮影は人数が多いため遠くから撮影するショット
個別で何人かでグループ分けするショット
家族、親族で撮影するショットなどと撮影に時間はかかる
新郎の隣で微笑んでいる新婦幸子を見てわたしは幸せ
なんだなと改めて思えた。
撮影の最中、突風が吹き春一番の到来かと思えた瞬間
ピンクの吹雪とも思える桜の花びらが舞っていた。
桜の花びらは新郎と新婦は純白からピンクにお色直し
でもしたかの様にタキシードとドレスに積もって。
神様も今日の結婚式を祝ってくれたのかもしれない
さて通常結婚式ではお約束のブーケであるが
あまりに見苦しいのでここでは省くことにする。
再び大広間に戻り結婚式典はエンディングに向け進行
今日の式は友人、知人などのカラオケは省きメッセージ
もごく一部の人間しかスピーチをしていない。
報道管制を引いた為、自分の宣伝、利益アップを目的
とする招待客も来ていないので内容のある結婚式だ。
さて歌手である幸子なのでやはりトリは歌うのであろう
舞台にはマイクを持って現れた、新郎である友人も
マイクをもって出たからデュエットをするのかと思って
いたのだが。暗くなった場内で突然わたしはスポット
ライトに照らし出された、舞台の二人はわたしを手招き
で呼んでいる。
わたしは結婚式の打ち合わせにも出席したので
ラストにこのような趣向があるとは聞いておらず
驚きのあまり唖然としていた。
ただここまで素晴らしい内容だった今日の結婚式
わたしのせいでラストを台無しにはシタクナイ。
どういう結果になるのかわからないが舞台に上がる
決心、舞台に歩を進めてる中、ふと背後を見ると高く
上げられたプラカードには”アドリブ”と
わたしのこめかみ辺りの血管は”ぴくぴく”と脈をうち
どれだけ「ふざけるな」と言いたかったか。
わたしは気持ちをコブシに握りつぶし舞台へあがった。
つづく
この物語はフィクションであり実在の人物
団体には一切関係ありません