一番近い時代の仏は釈迦であり次世代は弥勒と伝わる
では釈迦如来以前の仏であった大日如来や薬師如来
阿弥陀如来は一体どうしたのだろうかと疑問に思われた
ことはないだろうか。
この物語は仏から再び転生し人間として生まれた男の話
である。男の名前は水洗(みあらい)阿鼻侘(あびた)
52歳でパート勤めをしながら休日は農業をこなす
世間で言うところの兼業農家である。
両親は数年前に両親とも他界し良縁に恵まれずたった一人
農家の一軒屋で暮らしていた。
仏であった時の記憶は水洗にはなく本人自身は
”自分は負け組、生きていても楽しいことはない”
毎日仕事しながらそんな考えを持ち仕事をしていた。
自分には特別な能力があるとも知らずに
冬が終わり桜の花が開花しはじめ春が訪れた日曜日
穏やかな日差しが木々の緑を照らしはじめる朝6時
水洗は早朝から庭で伸び始めた草をむしっていた。
草取り鎌でやれば早く処理できるかもしれないが男は
あえて使わず軍手をした手でひとつひとつ根っこから
草を抜きとっていく、毎日の日課だったので男に
とっては当然のこと、苦痛ではなかった。
「おはよぉ~おじさん」
声のした方向に振り向いてみると20代半ばの女の子が
笑顔で立っていた、近所に住む麻美であった。
「おはよ~麻美ちゃん」
水洗が挨拶を返すと麻美は手荷物を持って庭にやってきた
「これ先日長野の温泉に行った時のお土産なんだけど
よろしかったらどうぞ」
「いつも悪いねぇ、気を使わせてしまって」
「で、今回はどんな頼み事があるんだい?」
「・・・・・ばれてるし。」
「あっははは、毎度のことだよ」
麻美は霊能者の仕事をしているのだが水洗と同行する
と100%と言っていいほど景色を撮影すると奇怪なもの
が写真に写ってしまう。心霊写真が撮れるのだ
理由はそれだけではない。
水洗と一緒に行くと悪霊に取り憑かれてお持ち帰りと
なることが今まで全くといって良いほどないのであった。
「今回はね、最強スポットと言われる箱根の山道なの」
「知り合いのイタコさんからはかなりやばい場所だから
気をつけなさいと注意されたのよ」
「それは危険だ、俺やばいんじゃないの?」
「お願いおじさん、ステーキ奢るから一緒に行って」
「ステーキ、素敵な響きだ。ステーキ喰って素敵になるか」
「素敵になるなる。おじさんス・テ・キ」
貧乏なパート労働者である水洗は低収入のため
ステーキはおろか外食さえ滅多に出来ない
それにも増して若い女性と食事する機会もなかった。
これは水洗にとってダブルチャンスでもある
「まぁいいか」
「やったぁ~、じゃ早速行こうよ」
「え?今から行くのかい」
そして、やってきたのは箱根の芦ノ湖
花見で多くの人が歩いている、だが二人は皆と違う方向へ
杉並木の間をわけ入って古びた鳥居を潜ると獣道に出る
芦ノ湖近辺の雑踏とは違い静寂の山道を歩いて行くと
大きな杉の木が乱立するさびれた遊歩道に出た。
見るからに不気味な雰囲気をかもし出す遊歩道である。
”阿弥陀さま~お救いください”
”阿弥陀如来様~~~どうかお願いです”
どこからともなく声がしていたが二人には聞えることはない
そして麻美はカメラのシャッターを押した。
この物語はフィクションであり実在の
人物、団体には一切関係ありません