短編小説 介護のための見合い 第25編 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

母が手術をした日から2週間は過ぎただろうか。
雪で埋もれていた道路も今は普通に車が行き交い道路の
アスファルトは乾いて道端に寄せられた雪の山が大雪だった
ことを感じさせる。
自然とは偉大なもので少し前までは北風が吹き冬真っ只中
だったが気候は変わり穏やかな日差しは木々を照らし
梅の花の開花によって景色をピンクに染めていく。
すずめはあちこちで大運動会をはじめて歓喜の歌声を囀る。

仕事を終えて幸子と合流し家に帰ってきた秀一郎。
今日は母が病院から戻ってくる日だと聞かされていたので
幸子と共に帰ってきたのである。
「ただいまぁ~」
と玄関をあけて家に入ると”おかえり”と言われる筈が
家の中は静まりかえり人のいる気配がしない。

「シュウさん確かおかぁ様が帰ってくるのは今日だったよね」
「そのはずなんだけど、おかしいな」
父親の車は庭に停めてあるから父はいるはずなのだ。
顔を二人で見合わせていると家の奥から線香を焚く匂いが
二人の鼻につく。
病院の退院と線香の匂い、この状況で人が想像することは
ただひとつ。永遠の眠りについて帰宅する事である。

秀一郎と幸子は駆け足で仏壇がある床の間まで急いだ。
二人が見たものは・・・・・
父富美男は正座をして座っており頭はうな垂れて泣き続けて
いる、手に何かを抱えて。仏壇の線香は赤く灯り煙は
やわらかく空中に舞っていた。

「おかぁさん!!なんで・・・」
幸子は意外な事実に泣き崩れていく
「そんな、馬鹿な。」
秀一郎が信じられないのも無理はない、術後母が意識を
取り戻し病室で話したときは元気そうにしていたし担当
執刀医の悠里も笑顔で手術は成功したと言っていたのだ

「ああ~帰ってきたのか?」
父は二人の声に気がつき振り返った、そこではじめて父が
持っている物を二人は確認することができた
それは陶器の蓋がある壷で花柄の模様が美しい。
ただそれは骨壷だとすぐ理解できた

「駄目だった、」
涙目の父から出た言葉は幸子の涙を一層引き出した
しかし秀一郎はここで疑問に思うことがあり涙はない。
”おかしいなんで退院の日に火葬されているんだ?”
仏壇になければいけない筈である母の遺影も見当たらない
母じゃなかったら誰のだ?母はどこに?と謎は深まる。
そんな時だった。

「お父さん、お茶入りましたよ。」
台所からお茶を持って現れたのは母裕子、二人は驚いた。
「えええー」
「嘘!!」

「あら秀一郎おかえり、幸子さんも来てくれたんだ」
「ちょっと待っててね今二人の分も持ってくるから」
開いた口が塞がらないとはこのような状況に遭遇した時
の事だろうか、まさに二人の心境であった。
「何で鳩が鉄砲くらって豆くったような顔してるの?」
母の言葉に幸子は仏壇の線香を指差した

「おとうさん!だからやめておきなさいって言ったじゃない」
「いくら丁度いいからって奇妙な壷を拾ってきて」
母の怒るところはそこか?母の退院というタイミングで
仏壇に線香をあげることのほうが怒るべきところではないか
と秀一郎は考えていた。
そしてさっきの母が言った言葉に違和感も感じていた

”そうだ鳩が豆くって鉄砲くらったではないのか”
思い出すのに時間がかかり言い返すタイミングをはずした
ので今更いうのもおかしいので口を噤む。

「とうさんそれじゃ骨壷に入っているのは?」
「うちで長年連れ添ったクロちゃんの遺灰だよ」
「昨日まであんなに元気だったのになぁ、かわいそうに」
黒と白の日本猫クロ、秀一郎も母も可愛がっていた猫。
可愛がっていたのはわかるが普通そこまでするか!
世間の常識にとらわれないこれが桐生家なのだ。

母が元気にしているのを見た幸子は一時嬉しかったものの
義父に騙された気持ちで一杯になっていた。
「シュウさん御両親って結構ヘン!わたし一緒にやって
 いけるか不安になってきたわ」
「大丈夫 幸子ならうまくやっていける気がする」

なぜ秀一郎がそう思ったのか?
それは幸子が天然ボケというだけではない。
”いくら骨壷もっていたからって葬式あげてないのに火葬
 になっているなんてどう考えてもおかしいだろう~
 普通気づくぞ おい!
 幸子、君も十分ヘンだから”
秀一郎はそう思っていたのかいなかったのか。

つづく

この物語はフィクションであります