短編小説 介護のための見合い 第23編 | 妄想小説日記 わしの作文

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わたしの妄想日記内にある”カゲロウの恋”の紹介するために作った
ブログです

母、裕子の手術当日は来た!折りしも関東地方には
大雪警報が発表されラジオ、テレビでは注意を促す放送
をしていたのではあるが今まで雪など積もった事がない
地域では一体だれが大雪になると想像できるだろう。
”雪国じゃあるまいし、そんなに積もる訳がない!”
神奈川、千葉、東京、千葉、埼玉に住む人々は誰もが
そう考えていた。

会社勤めだと会社から休日と連絡がこない限り出勤しな
ければならない。
誰もが”たいして積もる筈がない”
そう考えていた。
詩織も光男も秀一郎も幸子も母の手術には間に合うと
普段道理の生活を送っていた。
だが、考えは甘く一晩中降り続いた雪はあたり一面を白く
変えてトイレの窓ガラスさえ雪で覆われていた。

「おいおい、嘘だろ!」
朝目覚めてトイレに行った秀一郎が見た景色は見慣れた
ものではなくまるで雪国にいるかのような木の枝さえも白く
雪が積もり屋根には30センチ以上の白い塊が見えた。
外に出てみると雪は吹雪いており雪が真横から飛んでくる。
玄関から出てみようとすると足は雪にすっぽり沈み込み雪が
膝まで積もっているのを知る。

車の置いてあるガレージまでいってみるとガラスは雪で覆われ
車の雪像を作ったようになっていた。さらに車の前は吹き溜まり
になっており雪の山が車の発進を妨げている。
一般的なセダンだったらとても動かせる状態ではないが秀一郎
の愛車はワゴンでありながらも車高を5インチアップさせた4WD
ジープにも劣らないオフロード走破力をもちタイヤも35インチで
ホイールは17インチだからデフもノーマルより高い位置だった。

会社に出勤するだけならばこれ幸いに有給を使っていただろう
だが今日は母裕子の手術が行われる日、どんな事をしても行かな
ければいけない大切な日だった。

「こりゃぁまいったな、家から出られないじゃないか」
起きてきた父富美雄は諦めがちな事を口走る。
「何言ってるんだ親父、俺らがかぁさんの手術に立ち会わないで
 どうするんだよ!」
「とにかく車が走らせられるようにするから親父は呼ぶまで出掛ける
 準備をしていてくれよ」
そう秀一郎は父親に言うと長靴をはき手にはスコップを持って車に向かう

リフトアップした車はトラック並みに運転席が高い、その車が発進
できないほど雪が積もっているのだ。
いざ雪かきをはじめようとしたがあまりにも多い雪に躊躇する秀一郎。
どんなに困難でも諦めてはいけない、母が病院で待ってるから。
”おれがやらないで誰がやる”
秀一郎はスコップに力を込め雪の山にスコップを差し入れた。

雪かきする間も雪は容赦なく降り続き弱まる気配を見せない
強く吹く北風と雪は体温を徐々に奪い体力は奪われていく
マイナスという外気温では耳は赤くなり痺れを感じる。
顔にたたきつける雪で顔は赤く雪は氷のように硬く、足先は
あまりの冷たさに痛みを生じてくる。
そんな状態でもゆっくりだが確実に雪は減っていった。

”負けるもんか!”
と秀一郎は強い心を持って無心に雪をかきあげていく。
車が発進できる状態になったのは雪かきをはじめてから
1時間ほど経過した時のことだった。
それでも車の通る道まで雪かきする事はできない
ガレージの前は雪が積もった状態のまま、クロカン4WDだから
可能であった。秀一郎は時間を惜しんだ!
病院に早く着きたい、そんな気持ちもない訳でもないがそれよりも
婚約者である幸子のことが心配だったからである。

車のエンジンをかけると水平対抗6気筒は一発でうなりを上げた
すぐにデフロスタを最強にしてフロントガラスを温める。
父親を呼んで車に乗り込ませると携帯で幸子に電話をした。

「もしもしおれだけど幸、雪は大丈夫?」
「シュウさん、ごめんお母様の手術にいけなくなっちゃた」
「どうしても外せない仕事ができちゃって本当にごめんね」
「仕事なら仕方ないさ、雪だから気をつけて」
「うんありがとう~」

その頃幸子は家から車で出かけ深い雪にはまり実動きとれなく
なっていた、秀一郎の車が4WDだと知ってはいた。
だが自分のゴルフも4WDなのに雪で身動きできなくったから
こんな雪では雪上車でもない限り走ることはできないと考え
助けにくることは無理と思った。
なにより秀一郎を心配させてはいけないと嘘をついてしまった
”お母様の手術だから絶対行かなくちゃ”との思いが
引き返す事も不可能な場所まで車を走らせてしまったのである。

大雪警報が発令された道路には轍さえない
秀一郎が車で走らせていても他に車を見ることはなくそれどころか
道路のあちこちで動かなくなった車が放置され雪を被っていた。
雪で電線が切れたのかどの信号も点灯することはない。

病院に向かって車を走らせながら秀一郎にはある疑問が浮かぶ。
停電でどこの家、ビルも点灯していない、コンビ二でさえ営業してない
それなのに幸子は急な仕事が入ったと言った!
”おかしい”
もしやどこかで身動きがとれなくなっているのは・・・・と嫌な予感がした
だがここで寄り道すると母の手術時間には間に合わなくなってしまう
幸子の状況がわからない今、彼女は凍死という最悪の結果も考え
られる。
心の中で葛藤する秀一郎であった。
まして同乗する父富美雄を病院まで乗せていかなければならない
そんな時である、秀一郎の携帯が突然鳴った。
”ピピピピピ”
出てみるとそれは弟光男からの電話であった。

「もしもし兄貴、お袋の手術に間に合いそうか?」
「ああ今車で病院に向かってるところだけど」
「光男おまえはいけそうなのか?」
「詩織が検察庁のランクル借りてきたから今向かってる」
その言葉を聞き一安心した秀一郎だった。

弟光男との通話は終了と同時に携帯の電話は鳴る。
「もしもしおにぃさん、幸子さんはこれるの?」
光男と同乗している義妹詩織からの電話であった。
「いやそれが・・・・どこかで身動きとれなくなっているようで」
「ええええ~、大変。」
「こっちからのほうが東京に近いから車を回しましょうか」

詩織の言葉は秀一郎にとって嬉しい言葉であった。
しかし幸子の住むマンションをよく知らない詩織と光男
さらには大雪で普段の景色は一変している。
そんな場所で弟夫婦に迷惑をかけることはできない。
決断に迷っている時間はあまりない秀一郎

「気持ちは嬉しいけど詩織ちゃん達は病院へ向かって」
「え!!それじゃ幸子さんは・・・・」
「時間がかかっても俺が行く、視界が悪いこの状況では
  おれじゃないと幸子はたぶん見つからないから」
「ところでそっちは今どこ走ってるの?」
「え~とねぇ、ちょっとまって」
「あ、信号に堺橋4丁目って書いてある」
「こっちからそこまで普段だと30分で行ける距離だよ」
”その距離なら合流できる”秀一郎は思った。

「詩織ちゃん、悪いけど今そこを目指しR11号線を走るから
 悪いけど合流して親父を乗せ病院へ行ってくれるかい」
「おれはそのまま幸子を・・・・・」
「わかりましたお兄さん」

それから数十分後、秀一郎の視界には対向車のライトを確認
秀一郎がパッシングを2回すると前方の車も2回返してきた。
”光男達だ”
2車線の路肩に停止したのは真っ白なランクルだった。
中央分離帯を乗り越えランクルの前に逆駐車する秀一郎
父親をランクルに乗せると弟夫婦はただ一言告げた。
「GooD Luck!!」
雪降る中運転席のガラスを下げ高々と拳を天に向け
エアホーンを響かせ秀一郎の4WDは走り去った。

つづく

この物語はフィクションです