深夜0時、秀一郎は幸子の住むマンション
エトワール西新宿まで車で迎えにきていた。
幸子に見合いの夜、言われた言葉に腹がたち数週間前まで
ブログに書き込まれた幸子(キャサリン)からのコメントを
すべて削除してきた秀一郎がなぜここにきて幸子と会う
気持ちになったのだろう。
弟夫妻にいった”できることをする”それを実行するために
見合い担当 松宮祥子からの
「先方様は一度、会って話をお聞きしたいとの事です」
と連絡が入ったから仕方なく来ているのか?
確かにそんな思いもあったが秀一郎当人にも幸子と
以前のように仲良くしたかった気持ちも彼自身は
気づいていなかったが心の奥底にあったのだろう。
松宮には即答で承諾の言葉を吐いた。
だが不仲の相手と会うなどそんな簡単に気持ちが
切り替えることを出来るのか?頑固な職人気質である
秀一郎にそんな切り替えは出来なくある人からの助言
が秀一郎の気持ちを変えさせたのである。
秀一郎のブログ友はキャサリンだけではなく
数人の友人がいた。中でも秀一郎と幸子
二人の間柄を知っていたのは古い付き合い
であるリラと名乗る女性ただ一人。
リラは秀一郎にきいた。
「なぜキャサリンのコメントを削除しちゃうの?」
秀一郎と幸子の間でなにかがあったとは感じたが
コメントを削除した秀一郎を非難した。
「コメント書くのだっていろいろ考えて大変なの
それをいとも簡単に削除しちゃうなんて・・・・」
電話で話したわけでもコメントとして書いた訳でもなく
ブログにはメッセージを送るという機能があり
メッセージとして秀一郎にリラは送った。
メッセージでリラに不仲になった理由を書いて送る
するとリラは、
”そんな小さな事で人を軽蔑してたら駄目だよ
キャサリンと今 決別してシュウさんは後悔しない”
”他の男と彼女が結婚して平気だというの?”
さらに幸子から会うことを望まれた時、秀一郎は迷う
だがリラは秀一郎の本心を見抜くように書いてきた。
”愛だよ、シュウさん。彼女を本当は愛してるんでしょ”
”何を迷うことがあるの?チャンスは今だけ”
ただリラにそう言われても秀一郎の心は簡単に
変えることはできない、もうひとつ秀一郎には何かが
必要だったのだ。
迷っていた時に松宮から連絡が入った。
松宮からの「先方様のご希望」、それがきっかけになり
秀一郎は結果的に考え方を変えることができた。
そして今、幸子の待つマンションまで来ている。
街灯に照らし出された秀一郎はしっかり頭をセットし
滅多に着なかったジャケットを羽織りスラックスをはく
オメカシをしてきたのである。
近寄ってきた秀一郎からブルガリの爽やかな匂いが
幸子の鼻を刺激しそれが自分に会う為だとわかると
幸子は自然と微笑んでしまう。
もはや二人の間に言葉は不必要。見つめる瞳でお互い
理解することが出来たからである。
そして誰もいない空気が澄んでいる町並みを二人を
乗せた車は走り去る。
気温が低い空気は車の排気音を響かせて!
”クァーーーーーン”
とりあえず走り出した秀一郎ではあるが目的地などない
もともと夜遊びは若い頃があまりしたことがないので
遊ぶ場所もわからない、まして今は深夜。
深夜でもいける場所で思いつく場所は2箇所。
そう大人の休憩場所”ラブホテル”
しかし。。いきなりラブホテルからはじまるデート
なんて聞いたことがないし食事もまだしていない。
もうひとつは心霊スポットめぐり!
だがこれも懐中電灯や線香、花束などを用意していない
真面目な性格の秀一郎は礼節を重んじるタイプだった。
「どこか行きたい場所ってある?」
考えても一向に思いつかないので思い切って尋ねてみる
「シュウさんと一緒ならどこでもいいわ」
もしかしたらと考えていた秀一郎、やはり思った通り
の意見を幸子は言った。
幸子も秀一郎同様に夜遊ぶのは経験値が足りなかった
母にアドバイスを受けてはみたが深夜からはじまるデート
などどこへ行けばいいのかわからない。
だがちらりと助手席の幸子を見ると頬を赤く染めてうつむい
ている。
”ああ自分と同じ事を考えてる”と理解できた
いくら女性のほうがそれを望んだとしも最初からベッドを
共にする事は秀一郎にできなかった。
彼は古風で結婚する前に寝るのは罪だと考えていた。
「いく所ないから公園で散歩でもしながら話そうか?」
「うんうん」
寒いからあまり気乗りはしなかったのだが散歩以外
思いつかなかった。
だが彼女の嬉しそうな返事を聞き一安心をする。
深夜の公園はわずかに照明があるだけで暗いし
歩いているのは自分たちだけ。
真っ暗な池には満月だけが映って幻想的である
風で木々が揺らされ音を立てるが
二人にとっては不気味な音ではなく心地良い
風と木の葉のハーモニーであった。
公園のベンチで座り見つめあいたまに会話する
上空で金色に輝く月も二人を見守るように微笑む
既に寒さも夜の闇さえも秀一郎と幸子には関係
なかった。
お互い目の前の相手しか目に入らなかったのだから
そして気がつくと周囲は明るくなり太陽は昇る。
「は、、、はっくしょん」
くしゃみをして目覚める秀一郎。
横を見ると自分の方に頭をもたれて幸子は寝ている
どうやら二人はいつのまにか寄り添って寝ていたようだ
幸子を起こして秀一郎は車に乗り込み、公園を後にした
それから17時間後、車は幸子のマンション前で停止していた
「部屋に上がってお茶でも飲んでいく?」
「寒いからそうさせて貰おうかな」
エレベーターで上がり自分の部屋を開けようとした幸子だが
鍵がかかっている筈のドアがなぜか開いている事に不審を
抱き。
「あれ~変だなぁ!鍵がかかってない」
「若年性ボケか?ははは。勘違いだって」
確かに幸子は天然ボケが入った女性である
しかし、今まで戸締りを忘れたことは一度たりともなかった
幸子はドアをゆっくり開けるとセンサーが感知して玄関先を
ライトが照らし出し靴が多数あるのを見つける。
「誰の靴?」
男性用の革靴と若い女性が好むローパンプス、そして
女性用のサンダル、黒のパンプスなど綺麗に並べてあった
から部屋の主 幸子が驚くのも無理はない。
部屋に不審者がいると用心していた幸子の心臓は高鳴った
深夜0時に訪問客がきてるなどあり得ない、そこで幸子は
以前管理人から聞かされたこのマンションにまつわる恐ろしい
都市伝説があるのを思い出した。
このマンションを建造する遠い昔、ここは墓地であり墓を移転して
この土地を造成したのだがそのとき無縁仏までは移転できず
無縁仏が眠ってるままマンションを建てた。
その呪いか13日の深夜0時になると無縁仏たちが集まってくる
集まった玄関先には多数の靴があったという。
「ねね、シュウさん今日って何日だっけ?」
「え~とたしか昨日が給料の締めだから12日だから13日か」
「ひぃいいいい」
つづく
この物語はフィクションであり実在の人物とは一切関係ありません