わたしが一人西新宿のインド料理店で食べていると同じ
テーブルに女性が座ってきた。
店内はそれほど混んでいるわけではなく他のテーブルに
座ることができるはずなのにそれでも女はそばにきた。
「ここ座ってもいいですか?」
「え、まぁ別に構いませんけど。」
女はまるで知り合いのようにじーーと私を見つめているんで
「なにか?」
女は首を横に振ったが再びわたしの食べる姿を見ていた。
「しばらくぶりですね、わたしのことわからないかしら?」
「幸子ですよ~」
「失礼ですがどこの幸子さんで?」
突然女にそんなことを言われてもわたしに思い当たる
女性などいない、まして50間近のわたしには
20代後半の女性など知り合いにいる筈がない。
「この肉体は他人のもの、わたし乗り移ってるのよ」
「40年前、あなたの近所に住んでいた幸子です。」
「覚えていないかしら?歌手をしていた時もあるわ」
そんなことを言われてもわたしはただ驚くばかり。
初対面の女に”乗り移ってる”なんて言われて薄気味悪く
思わない男はいないだろう。
しかしわたしにはただ一人思いあたる女性がいたのは確か
変な女だなぁとは思ってみたが・・・・・
「まさかあの病院で事故死した幸子さん!?」
と信じられなかったが一応そういってみると
「そうそう、その幸子なんですよ!」
と女は言ってみたが簡単に言葉を信じることはできない。
女の言うことを信じていればわたしは食べるのを中断
して女と会話をしたことだろう。
だが話半分に聞いていたので食べるのをやめることはない
わたしの記憶には小学生のころ確かに年の近い女の子
は近所に住んでいたし幸子という言霊を聞くと懐かしく
思える。
しかしその子は僅か数ヶ月で再び引っ越していったので
それほど親しい間柄ではなかった。
事故死した歌手の本名が幸子というのを知りそして
幼い頃わたしの住む町に住んでいた、・・・・・・もしやと
思ったことあったのだが。
わたしが集中して食べてるのに女は一向に注文した
料理を口に入れることはせずただわたしを見てるだけ
「食べないの?冷めるとまずくなるよ」
「気遣ってくれてるの?やさしい~~」
女そういって喜んでいたがわたしは当然のことを言っただけ
それに冷めてしまっては作った料理人が可愛そうで
別に女のことを心配したのではなかったのだ。
「信じてないんだね、まぁ初対面の女性からいきなり
そんな事を言われても信じられないのは無理もないか」
まともな事をいうので女は頭がおかしい訳ではないようだ。
わたしはナンを指で引き裂きカレーのルーにつけて
口に入れながらも耳で女の話すことを聞いていた。
「だったら久子という名前には覚えがあるでしょう」
「マヤという名前は?」
女の言葉に耳を疑ってしまった。
女が知るはずがない名前で仮に目の前の女が幸子だと
しても久子の名前を知っている筈がないのだ。
マヤとい女の名前が久子でありわたしと親しかったブログ友
毎日携帯電話で会話したわたしにとって特別な存在。
そのマヤも癌で他界し数年も歳月が過ぎていた。
「なぜその名前をわたしが知ってるか不思議でしょ」
カレーを食べていたわたしの口が止まった。
「お前誰だ?なぜその名前を知ってる・・・・・」
わたしが表情を一変させたので驚いたのか女は
開いていた口を閉じ二人の間には沈黙が流れた。
数分後、女は再び話しはじめ自分が天国で久子と合い
わたしの存在を聞いたのだと言う。
そういえば久子は入院中歌手である幸子の生歌を聞いた
とわたしに自慢したことがあった。
「チャコちゃんと天国で再開しあなたのことを聞いてるうち
にそれがわたしの幼馴染であった彼だと気がついたの
運命って皮肉なものね」
「これで信じてくれるかな?」
久子のブログは閉鎖された今それを第3者が知ることは
出来ない、わたしは信じることを余儀なくされた。
「元歌手の幸子さんであると信じるけどそれがなんで
今更おれのところに来た?理由がわからないけど」
「逢いたかった!では駄目かなぁ」
死去した人間が今更嘘を言っても何も得をすることはない
本心ではあるだろう。
しかし歳月は人の顔を忘れていくものでわたしは女の
言うことを簡単に受け入れることはできなかった。
わたし自身も幼馴染の顔を忘れていたのだから
「実はですねぇ逢いたかったのは本当なんだけどね
他にチャコちゃんから伝言も預かってきているの」
「ほう、だいたい想像つくけどそれは?」
1:ゆきちゃんになぜ告白しない!
2:また太っただろ、運動しろよ
3:わたしのブレスレッドを磨いてくれよ
4:作家の女に関わるな
5:幸せになってくれないと成仏できいじゃん
以上
と幸子は言ったが出来ることはやるだけのこと。
たとえ遺言だとしても出来ないことは出来ない
「あ、いけない。時間がすぎちゃったわ」
「じゃまたねぇ~~~バイバイ」
とわたしが言葉を返す前に幸子は消えていった。
他人の肉体だけをわたしの目の前に残して・・・・
そして肉体の主は意識を戻したのだが
「あれ!ここはどこ?あなたは誰ですか。」
「わたしこそ聞きたい!」
そして私は席をたったのだが支払いで幸子は思わぬ
プレゼントを残していてくれた。
なん幸子が注文した分までもわたしが支払う羽目に
「幸子!二度と現れるな。」
とレジで叫ぶ男が一人。
「あれ~~~わたしなんでここにいるのぉ~?」
テーブルで叫ぶ女が約1名。
この日以降インド料理店が”叫ぶ店”と言われる
ようになったのは定かではない。
この物語はフィクションです